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どたばた大騒動?

209.テイマーさん、こんにちは

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 昨日は、温泉に入った後、ルトたちに屋敷内を案内してからログアウトした。
 ルト、呆れたような疲れたような、不思議な顔してたなぁ。なんでだろう? 時間がなかったから、今度会った時に聞いてみよう。

 そして、今日。
 僕が向かったのはモンちゃんの家。

「こんにちはー、師匠! 講習受けに来たよ」

 お弟子さんがいるはずだから、モンちゃん呼びは控えてみたよ。

「……いっつも元気いっぱいだな、お前」
「それが僕の長所!」

 呆れた顔をしながらも、モンちゃんは「こっちだ」と手招きして案内してくれる。その先からは、ザワザワと声が聞こえてきた。

 道場のような場所にたくさんの人がいる。でも、それ以上に目立つのは様々なモンスターの姿だ。

「もっふもふ~!」
「語彙力を捨てるな」

 入口近くでおすわりしていた柴犬みたいなモンスターに駆け寄る。これ、抱きついて良いかな? 見るからにもふもふなんだけど。
 タマモほどじゃないけど、僕も可愛くてもふもふしたもの好きなんだよ。

 僕より二回りほど大きなモンスターをじぃっと見つめたら、『えっ、えっ?』と戸惑われた。僕と傍に座ってるテイマーらしき人に視線を交互に向けてる。

「シバちゃん、この子抱きつきたいみたいよ。伏せてあげたら?」

 ふわふわのウェーブしたボブヘアを揺らしたテイマーさんが、雰囲気そのままに緩い笑みを浮かべて柴犬っぽいモンスターの頭を撫でた。

「こんにちはー。僕はモモ。テイマー初心者だよ!」

 ビシッと手を挙げて挨拶したらテイマーさんがクスクスと笑う。

「はじめまして。私はリカエラよ。テイマーレベルは21。あなたの先輩と言ってもいいかしらね。この子は地犬アースペロのシバというの。仲良くしてくれると嬉しいわ」
「リカちゃんとシバちゃんかー。よろしくね!」

 握手しよー、と手を差し出したら、リカちゃんの目が丸くなった。でもすぐに「……さすが師匠をモンちゃん呼びする子ね」と納得した感じで頷く。僕、結構知られてる?

 優しく握手してくれるリカちゃんとは、なんか仲良くなれそうな感じ。
 シバちゃんも伏せをして抱きつきやすくしてくれた。わーい、と首元に飛びつく。予想通りのもっふもふでむちむち。触り心地良すぎでは?

「シバちゃんの好きな食べ物はなに?」
「この子はビーフジャーキーが好きよ」
「なるほどー……じゃあ、お近づきの印にこれをどうぞ!」

 おやつ用に作っていたビーフジャーキーをプレゼント。ほんとはルトにあげようと思ってたんだけど、忘れてアイテムボックスで眠ってたんだ。
 シバちゃんはくるんと丸まった尻尾を嬉しそうに振りながら、リカちゃんを見上げた。

「ありがとう。シバちゃん、食べていいわよ」
「アンッ!」

 リカちゃんの合図の後すぐに、シバちゃんがビーフジャーキーを頬張る。幸せそうで、見てる僕もニコニコしちゃう。

「モモはリカエラと仲良くなったようだな。――リカエラ、こいつはだいぶ問題児だから、先輩として面倒見てやってくれ」
「問題児の面倒を見るのはイヤですけど?」
「お前が心底もふもふモンスター好きなこと、知らないと思ってんのか」
「……わかりました。進化石一つで手を打ちましょう」
「おい、勝手に決めてんじゃねーよ」

 半眼で呟くモンちゃんに、リカちゃんは綺麗な笑みを向けた。モンちゃんが目を逸らしたから、たぶん話はまとまったんだろう。

 でもさ、僕が問題児扱いされてるのは、文句言っていい? リカちゃんともっと仲良くなれるのは嬉しいけど、面倒かけたいわけじゃないんだよ。

 たくさんのテイマーとモンスターたちの間をスタスタと歩き、最前列に向かうモンちゃんを、ジトッとした目で見送った。

「今のは私と師匠のいつも通りのやり取りで、本気であなたの面倒を見るのがイヤだと言ったわけではないのよ?」
「それはなんとなく言い方でわかったから良いよー」

 リカちゃんが少し申し訳なさそうにしていたので、僕も気分を切り替えてにこやかに答える。

「それなら良かった。なにか困ったことがあったら相談してちょうだい」

 フレンドカードを差し出される。異世界の住人NPCとフレンドになるのは久々かも。

「ありがとー。早速だけど、今日の講習はなにするの?」

 シバちゃんを挟むように座りながら尋ねた。

「今日はモンスターの特殊スキル習得についての座学よ。実践じゃないのが残念ね」
「座学かぁ。でも、すごく興味のある内容だし、楽しみ!」
「そう? それなら良かったわね」

 講習が始まるまでリカちゃんと話をする。

 リカちゃんは王都出身で、モンちゃんに弟子入りするために第三の街まで来たんだって。元々魔術学院で魔術を学んでて、サブ職は魔術士なんだとか。

 これ、魔術に関しての相談にも乗ってくれるかな?
 たまにカミラ――はじまりの街で最初のバトルに付き合ってくれた友だち――から魔術について話を聞くことはあるんだけど、感覚派らしくて説明されても理解できないことが多いんだよねぇ。

「光と闇の魔術って、どうやって習得できるのかな?」
「魔術学院で学べばいいわよ。でも、今は王都との交通が制限されているから、難しいかしらね」
「制限?」

 そんな話は初耳だ。
 きょとんとしながらリカちゃんの顔を見上げたら、「あら?」と不思議そうな顔をされた。

「知らないの? 狂化モンスターたちの脅威度が上がったから、王都へ被害を出さないよう、王都は空間的封じがされたのよ。今は許可を得た人しか立ち入れないわ」
「空間的封じって、この街の結界みたいなもの?」
「そうね。人間も侵入できないほど強固な結界よ」

 びっくり。そこまで危険視される状況になってたんだ?
 固まってる僕を見て、リカちゃんが軽く肩をすくめる。そして、内緒話をするように僕の耳に顔を近づけた。

「――狂化モンスターを使ってなにか事件を起こそうと画策している人がいるらしいの。その犯人が見つかるまでは、王都の封じは解かれないと思うわよ」
「えー……それって、僕は王都に行けないってこと?」
「私でさえ帰れないのよ。あなたも無理ね」

 体勢を戻したリカちゃんが、ふふっと笑って僕の鼻を指でツンと軽くつつく。

〈ストーリーミッション『狂化モンスター事件の黒幕を追え』が開始しました〉

 突然のアナウンスだけど、正直驚きはなかった。だって、なんとなくこうなるってわかってたもん。
 前回一人でストーリーをクリアしちゃった時に拗ねられたから、今回は絶対ルトたちを巻き込んでやるー!

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