上 下
211 / 268
もふもふいっぱい?

192.最後は恒例の

しおりを挟む
 その後も二曲歌とダンスを披露して、ライブ終演。今回も楽しかったー!

 司会をしてくれたタマモがなぜか魂が飛んだような顔をしてたけど。恍惚とした感じでもあるからちょっと怖い?

 でも僕が「どうだった……?」って聞いたら、即座に「最高でしたっ! 可愛いの最上級、至高のもふもふパラダイス、ハレルヤ!」とキリッとした顔で力強く言ってくれたから、たぶん大丈夫そう。拝むみたいなポーズは、きっと僕の気のせい。

 そんなタマモと苦笑してるアイリーンを引き連れ、屋台スペースに向かう。途中でリリとルトも合流した。

「歌って踊ったらお腹すいちゃったよ。お菓子食べよー」

 興奮状態のファンのみんなと交流しながら、屋台を眺める。

 僕の屋台でカボチャや栗、芋を使った料理を売ってる。軽食系からスイーツ系まで、幅広い種類があるよ。

 店番をするのはスラリンとショコラだ。店番と言っても、お客さんが商品を選んでお金を払うまでセルフでしてくれるから、そこにいてくれるだけでいいんだけど。客寄せです。

 屋台スペースなので、他にも屋台がある。プレイヤーで屋台をしてる人の中から、出店の希望を募って集まってもらったんだ。
 食べ物から薬・便利アイテムまで、いろいろな商品がある。でも、一番人気はやっぱりハロウィンらしい料理かな。

「おー? 三種のモンブラン、美味しそう!」

 猫獣人のプレイヤーが売ってたスイーツに目が釘付け。
 カボチャ・栗・芋を使った三種類のミニモンブランは、ハロウィンらしい飾りもあって可愛いし美味しそう。僕でも作れるだろうけど、人が作ったものって妙に惹かれるよね。

「これくださーい」
「はわわ……! どうぞ!」
「マルちゃん、落ち着いて」

 猫獣人マルが頬を赤くしながらモンブランセットを渡してくれた。あまりの慌てように、知り合いらしいアイリーンが苦笑してる。

「えっとお金は――」
「いらないです! 素晴らしいライブのお礼に……桃じゃなくてすみません!」
「いや、全然いいんだけど。というか、本当にくれるの?」
「はい、ぜひ!」

 キラキラと輝くような眼差しで頷かれた。ここまで言われたら、断る方が失礼かな。

「じゃあ、ありがたくもらうねー」
「私、このスイートポテトもらうね。あ、お金払うから」
「私もこちらの芋シェイクいただきます!」
「うーん、じゃあ、私は野菜チップスかな」
「俺はカボチャグラタンで」

 アイリーンとタマモ、リリ、ルトがそれぞれ買っていく。どれも美味しそうだね。

「モンブラン、うまうま」

 一口食べた瞬間、カボチャの甘味が口いっぱいに広がる。土台はタルトっぽくなってて、小さいけど食べごたえがあった。
 僕が作るより美味しいかも?

「マルちゃんはモモさんに美味しいスイーツを食べてもらいたいがために、パティシエに弟子入りしたんだよ」
「へ!?」

 アイリーンがマルについて教えてくれて、ぎょっとした。僕のために……?
 マルは「えへへ」と照れたように笑ってる。

「もともと、お菓子を作るのが好きだったんです。でも、リアルで作ると、完成したのを食べてもらう必要があるでしょう? 家族とか学校の友だちに食べてもらうにしても、あまり多いと『ちょっと……』って断られることあって、なかなか満足に作れなかったんですけど。ここだと好きなだけ作れるので、弟子入り楽しいです!」

 ニコニコ笑ってるマルを見て、僕もなんだか嬉しくなる。
 このゲーム、楽しみ方が人それぞれたくさんあるのがいいよねー。

「そっか。じゃあ、今後、自分のお店を出す感じ?」
「そうしたいです。ここで屋台を出したのも、その資金集めというか――」

 なるほど。それなら僕も応援したいな。美味しいスイーツを売るお店はいくらあってもいいからね。

「素材とか必要なら声かけてよ。僕、広い農地でいろいろ育ててるから」
「え、いいんですか?」
「うん。フレンド登録しよー」
「きゃー、ありがとうございます!」

 友だち増えました。
 続々とお客さんが集まってくるのを見て、バイバーイと手を振って別れる。

「……これでマルちゃんの将来安泰ね」
「もともとアイリーンさんの友だちってことで注目されてましたけどね」

 アイリーンがニヤリと笑うのを見て、タマモがクスクスと笑い声を漏らす。
 もしかして、僕はアイリーンの思惑に乗せられて、宣伝隊長になった感じ? でも、マルを応援したいのは本心だから、別にいいや。

「競合を避けるために、僕の店で売るスイーツ減らそうかなー」

 何気なく呟いた途端、一瞬周囲が静まり返った。ルトが「ゲッ」と引き攣った顔をしてる。

「そんなのダメよ!」
「モモさんのお店で買ったっていう癒やし要素をなくさないでください~っ」
「マルちゃんはマルちゃん、モモさんはモモさんなんです!」
「うさぎ可愛いスイーツを、その他のスイーツと一緒にしちゃうのはありえません!」

 いろんな声が聞こえてくるけど、ほぼ判別できなかった。でも、スイーツの販売をやめてほしくない、っていう意思は伝わってくる。

「そう? じゃあ、継続するよー。でも、商品数絞らなきゃいけないんだよね」
「それより、カウンター容量増やす感じがいいんじゃない? それくらい稼いでるよね」

 アイリーンが真剣な顔で聞いてくる。どんだけ、料理の種類を減らしてほしくないの?
 ちょっと気圧されちゃったけど、アイリーンが言うことも間違ってない。

「でも、工事入れると、少し店を閉めないといけないかも」
「それは私たちの方で周知しますから問題ないですよ」

 タマモが『任せてください』と胸を叩いた。こういうところは頼りになるんだよなぁ。

「りょ。じゃあ、詳しい予定決まったら連絡するね」
「はーい。……あ、追加でお願いしたいことがあるんですけど」
「なに?」

 無表情に近い真面目な表情だけど、タマモの目が爛々と光っている気がして、見たのをちょっと後悔した。
 すすっとルトの後ろに隠れる。

「うわっ!? なんで俺に隠れんだよ!」
「だって、なんか嫌な予感がする……」
「俺関係ねぇだろ!」
「親友なんだから、関係なくない」
「巻き込むんじゃねぇよ!」

 逃げようとするルトの背中を掴んでひっつく。
 僕は今だけ妖怪・子泣きじじい。ルトの背中から離れないぞー。

「いやいや、モモさんが嫌がることはしませんよ! ただ、魅惑のもふもふたちとの記念写真撮影会をしたい、というだけです!」

 ババンッ、と効果音がつきそうな勢いで、タマモがオギンたちがいる方を指差す。今は僕がテイムした子たちみんな、屋台の店番(看板もふもふ)してるみたい。

「……あれ? それだけ?」

 拍子抜けして、ルトを掴む手の力が弱まった。
 隙を逃さず、ルトが逃走する。アトラクションで遊びに行ったのかも。リリもクスクスと笑いながらついて行ったみたいだ。デート楽しんでねー。

「それだけです。あ、もちろん、モモさんも」
「あ、やっぱり」

 僕と写真を撮るの、もう恒例になってるよね。予想してたよ。

「――みんなー、屋台は一旦閉めて、もふもふ記念写真撮影会の時間だよー」
「きゅい?」

 スラリンが『僕も? 僕、もふもふじゃないよ?』って答えるけど、別にいいんじゃないかな。愛嬌あるし、きっと人気出るよ。
 ピアはライブ終わってすぐに『もういい~』と言って帰っていったから、喚び出さないけどね。

「みなさーん、記念撮影会しますよー。希望者は並んでください!」

 タマモが張り切って列を整理し始めるのを見ながら、スラリンたちとポーズの相談をした。
 どうせ撮られるなら、思いっきり可愛く写りたいもんね!

しおりを挟む
感想 1,067

あなたにおすすめの小説

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...