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もふもふいっぱい?

155.はじめましてでご依頼です

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 第二の街・北の森林のエリアボスを退けて、現れた街道。
 そこを駆けて森を抜け、平原に出たところで、リリとルトと横並びで歩いた。

 思ったより第三の街が遠くて、走るの疲れちゃったんだもん。時々モンスターが現れて襲ってくるし。

 二十分ほどかけて街道を進んで、ようやく第三の街の入口に着いた。

 第三の街って、どんなところなのかな? 街を囲む高い石積みの壁で、ここからじゃ中が見えないや。

 目の前には馬車一台が通る程度の大きさの門扉があって、固く閉ざされてる。その前には、全身鎧を着込んだ人が立ってた。門衛さんだろうな。

 ……すっごく視線を感じるよぉ。でも、それより僕が気になるのは第三の街のこと。
 門衛さんから視線を逸らして、ルトを見上げる。

「第三の街って、なんて名前だったっけ?」
「凝視されてんのを気にしないでいられるの、モモの才能だよな」
「気づいてはいるよ? でも、僕たちはなにも悪いことしてないから怯む必要ないでしょ。――ね?」

 最後に僕が呼びかけたのは門衛さん。話しかけられる距離まで近づいてたから。
 急に話しかけて驚かせちゃったのか、門衛さんは「え、あ、そうですね……?」と戸惑った感じで返してくる。

 声と口調から判断すると、門衛さんは若めの男性っぽい。顔が見えないから、判断材料が少ないんだよねー。

「モモが失礼しました。私たちは第二の街から来た冒険者です」

 リリがニコッと愛想よく笑って自己紹介する。でも、僕そんなに失礼なことしたかな? ……初対面で「ね?」はダメ?

「そうでしたか。こちらの街道からいらっしゃる方は久しぶりで、少し驚いていたんです。私の方こそ失礼しました。――みなさんは街にお入りになりたいんですよね?」

 尋ねられて、三人で頷き返す。
 ここで入りたくない、って答えたら異世界の住人NPCの門衛さんがどう反応するのかちょっと気になった。でも、実際にそれをしちゃったら、絶対ルトに怒られるから黙っておく。

「ここって、エリアボス――迷彩小竜カモフラミニドラゴンを倒した人だけが来るところなんですか?」
「そうですよ。普段、商人の方たちは、向こうの道を使いますから」

 門衛さんが指したのは東の方。確かに踏みしめられた道があるような気がする。

「へぇ。俺らはその道使えるんですか?」

 丁寧語になってるルトが珍しくて、まじまじと見つめたら、「なんだよ?」と小声で言われた。ふるふると首を振る。

 気にしないでー。僕は基本的にゲーム内で丁寧語を使わないから、ルトの振る舞いに驚いただけだよー。

「あちらの道は許可証を持っている方だけが使用可能です。みなさんでは難しいかと」
「あー、領主さんから許可をもらうんだっけ?」

 いつだったか聞いた情報を呟くと、門衛さんが「そうです。よくご存知ですね」と言って微笑んだ気がした。

「それはともかく。私たち、この街に入って大丈夫ですか?」
「もちろんです。身分確認が必要ですので、冒険者ギルド証を見せてください」
「はい」

 慣れた様子でギルド証を出したリリとルトに続いて、僕も差し出す。普段使うことないから、どこにあるんだっけ? って思っちゃった。見つかって良かったよ。

「……確認しました。冒険者のリリ様、ルト様、モモ様ですね。ようこそ、第三の街キーリへ。歓迎いたします」
「ありがとうございます」

 ギルド証を返した後、門衛さんが街道の脇に避けた。途端に門扉がゆっくりと開かれる。

「あ、第三の街の名前はキーリだったね!」

 門衛さんの言葉でようやく思い出して、うんうんと頷く。思い出せなくて喉に小骨が引っかかった感じだったんだよね~。

 そんな僕のことを気にせず、さっさと街中に進むリリとルトを慌てて追いかけた。第三の街が気になってるのはわかるけど、僕を置いてかないで!

「なんか不思議な感じ」

 入った途端、リリがパチパチと目を瞬かせながら首を傾げた。ルトも「だな」と言葉少なに同意してる。

 確かに、第三の街キーリはこれまでの街と雰囲気が違った。
 街全体が雲の中にあるみたいに、白い霧が立ち込めてるんだ。高い壁を挟んだ外側が、見通しの良い平原だったからこそ、街中の光景に違和感があった。

「キーリって、もしかして霧の街っていう意味かな?」

 興味深く周囲を観察しながら呟く。

「そうかもな。にしても、なんで街中だけが霧でいっぱいになってるんだ?」
「外もそうだったら、不思議じゃないんだけどね」

 足を止めて話してるルトとリリの会話を聞く。でも、二人も答えは出せないみたい。僕たちがプレイヤーの中で一番乗りだから、情報がないもんねぇ。

 霧がどんどん濃くなってる気がする。視界が悪くてどう進めばいいかわからない。
 門衛さんに聞こうと思って後ろを振り返っても、霧がいっぱいで姿が見えなくなってた。もう門扉が閉ざされてるのかも。
 後ずさりすれば、外に出られるのかな。

 うーん、と首を傾げてたら、人の気配を感じた。

「誰だ!?」

 警戒の声を上げたルトに対し、霧の中で人影が両手をひらひらと揺らすのが見える。

「ああ、警戒しないでくれ。君たち、この街に初めてきたんだろう? 今日の門衛のロイズは訪問者の対応が初めてでね。この街でのルールを説明し忘れてるんじゃないかと思って、連絡を受けて慌ててきたんだよ」

 人影が近づいてきたことで、ようやくはっきりと容姿が見えるようになった。
 鎧を着た男の人だ。頭の装備がないから顔が見える。四十代くらいかな? 門衛さんよりは年上っぽいなー。

「――私は衛兵長のガントだ。ロイズが失礼をしたね。これ、受け取ってくれるかい?」

 ガントさんがブレスレットを差し出す。
 敵意はないみたいだし、大人しく受け取ってみた。するとすぐに「着けて。装備枠は消費しないから」と言われて、ルトたちと顔を見合わせる。

 どういうことなんだろう? よくわかんないけど、今は指示に従っておけばいいのかな。

「……わあ! 急に街が見えた!」

 ブレスレットを着けた途端、霧が消えて木造の建物が並ぶ通りが見えるようになった。なんか古い和風な雰囲気がある。

「霧解除機能があるのか?」

 興味津々な様子のルトを横目に、忘れていた全鑑定スキルを使ってみる。
 ――『キーリ結界除外の証:装備すると、第三の街キーリに張られたモンスター避け結界の影響を受けなくなる』と表示された。

 街中の霧はモンスター避けの結界の影響で生じてて、このブレスレットを付けると見えなくなるらしい。

 そんなことをガントさんも教えてくれる。「本当は門衛が渡すものなんだけどね。次回からはきちんと渡すように徹底させるよ」と申し訳なさそうに言われた。
 もしかして、ガントさんに会えるのは、第三の街開放者の特権なのかな?

「それを着けていたら、街中を自由に動けるからね。なくさないようにしてくれ。再発行にはお金がかかるよ」
「はーい。ガントさんはこれをくれるためだけに来てくれたの?」

 尋ねたら、ちょっと躊躇した感じで「いや——」と首を横に振られた。
 思わずルトたちと『なんだろう?』と顔を見合わせちゃう。ルトはワクワクした表情をしてた。

「君たちは迷彩小竜カモフラミニドラゴンを倒してここまで来たんだろう?」
「ええ、そうですけど」
「それだけ実力があると見込んで、少々頼みがあるんだが……」

 これはいきなりミッション発生の予感。

「――実はこの街の周辺で、結界の影響を受けにくいモンスターが多数確認されたんだ。君たちには、そのモンスターたちをできる限り討伐してもらいたい。すでに、いつ街に侵入されても不思議じゃない状態なんだ……」

 ガントさんは厳しい表情をしてた。
 なんか、この世界がモンスターの影響で苦しんでるっていうのを、強く感じた気がする。

「それはもちろんいいですけど。この街にも冒険者はいるでしょう?」

 ルトが尋ねると、ガントさんが「もちろん」と頷いた。

「冒険者に依頼を出しているよ。対象のモンスターを討伐すると、冒険者ギルドで報酬が支払われる」
「それなら、わざわざ俺たちに声掛けしなくても良かったのでは?」

 さらにルトが問いかけたら、ガントさんの表情が少し気まずい感じになった。

「あー……噂で、異世界から来た冒険者は街を守る意識が低いらしい、と聞いてね。念の為、私からお願いをしておこうと」
「ありゃ。でも、まぁ、その噂は間違ってないかも?」

 思わず苦笑しちゃった。
 僕たちはゲームを楽しんでるから、街の事情とかほとんど考えずに、好きなことしてるのは事実だもん。レベル上げやお金を稼ぐのに効率の良いモンスターを狙うし、ギルドの依頼よりしたいことを優先する。それが普通になってる。

 そんな僕たちが、異世界の住人NPCからどう思われてるかなんて、考えるまでもないよねぇ。
 ルトたちと視線を交わして肩をすくめる。ルトが「ちょっと掲示板に情報流すべきだな」って言ってるから、これからちょっと変わっていくかもね。

「わかりました。冒険者ギルドの依頼を、よく確認するようにしますね」

 リリが微笑むのを見て、ガントさんが安堵した様子で頷いた。

「そうしてくれると助かるよ。私たちの困りごとは、基本的に冒険者ギルドに依頼として持ち込んでいるからね。ギルドの受付と話したら、依頼に関する詳しい情報も聞けるはずだよ」

 僕はゲーム初日以来、全然冒険者ギルドに行ってないし、たまには行こうかなー。情報集めの役にも立つみたいだし。

〈ミッション『第三の街キーリに忍び寄る不穏なモノ』が開始しました。ミッション詳細はメニュー『ミッション一覧』または冒険者ギルドで確認してください〉

 アナウンスが来たー。不穏なモノ、ってちょっと怖い感じがするなぁ。後で詳細を確認しとこう。

「――私からのお願いはそれだけだ。ぜひ、第三の街キーリを楽しんでくれ。今のところ、モンスターに侵入されてはいないからね」
「今のところ、ね……」

 ルトが目を細めてなにかを考えてる。それがちょっと気になったけど、手を挙げて立ち去ろうとするガントさんに「ばいばーい。ブレスレットありがとー」と挨拶してるうちに聞くのを忘れちゃった。

「よしっ、早速街探索しよっか! 和風な感じで面白そうだし」

 気分を上げて宣言すると、すかさずリリも「そうだねー。なんか温泉街みたいな雰囲気で楽しみ」と返事をしてくれた。

「……とりあえず、転移ピンを設定しておく」
「あ、僕もー」

 転移ピンを設定する前にうっかり第二の街に転移しちゃったら面倒くさいことになるもんね。ルトに促されて設定して、改めて街中を進む。
 門の近くはあまり人がいないみたいだ。市場とかどこかなー?

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