上 下
128 / 268
錬金術士だよ?

117.目標ができたよ

しおりを挟む
 影花は無事ゲットできた。思いの外近くに生えてたんだよね。でも、初心者が来るにはちょっと難しいかな、ってくらいの距離を歩いた気がする。

 やっぱり、アンデッド系の種族だと最初からハードモードじゃない? スライムでも序盤が大変そうだけど。
 心底、僕は天兎アンジュラパでよかったー! って思ったよ。

「これで目標達成だね!」
「おかげでお金になりそうなアイテムもたくさんもらえましたし。本当にありがとうございます!」

 セーフティーエリアで一休みしながらおしゃべり。僕だけだったら転移スキルで帰れるんだけど、ヤナを一人にするわけにはいかないからねぇ。空腹度が回復したら、レッツ帰還の予定。

「うん、気にしないで。最初に言ったけど、お詫びのつもりなんだし。――あ、そうだ!」

 ふと思い出して、錬金玉と錬金布を取り出す。耐衝撃系のアイテムを作れないか調べてみようっと。

「おー錬金術士ってそんな感じなんですね」
「そうだよー。ヤナは生産職はなにを選んだの?」

 レシピを流し見ながら聞いてみる。なかなか耐衝撃っていう効果があるアイテムが見つからないなぁ。

「俺は鍛冶士です。闇系の武器とか作れないかなって思って」

 なんか呪いについて熱く語り始めた。
 確かにこのゲームの中だと、良くも悪くも『思い』がアイテムに影響を及ぼすんだって、僕は知ってる。僕の錬金玉はアリスちゃんの真心が籠もって、すごく良いアイテムになったし。

 でも、呪いアイテムって、使い道が難しそうだなぁ。
 イザベラちゃんに掛けられていた呪いも、モンスターに使う分には効果的なんだろうけど。

「そっかー……あ、これ良さそう!」

 一つの錬金アイテムのレシピに目が止まった。
 黒い金属でできた王冠みたいなアクセサリー【闇の冠】。効果は『装備すると衝撃を受けにくくなる。闇魔術の効果が5%上がる。防御力+7』だって。
 ヤナにぴったりじゃない?

 必要な材料は『鉄』『宝石(種類不問)』『霊魂』らしい。……霊魂?

「――ヤナ、霊魂をアイテム化できる?」
「どういうことです?」

 不思議そうに首を傾げるヤナにレシピを説明する。でも、ヤナも霊魂がアイテム化するかはわからないらしい。

 霊魂スピリットファイアというスキルは、幽霊とかの霊魂というより、闇属性の青い炎での攻撃魔術というのが正しい。
 一番アイテム化できそうな霊魂に近いのは、ネクロマンシースキルで召喚できるやつかな、ということで試してみることになった。

「じゃあ、この錬金布の上に霊魂を召喚してみて」
「了解です」

 真剣な雰囲気で詠唱すると、闇が傍に現れる。それは錬金布に近づき、不意に青い火の玉のようになった。

「おお、ちゃんと霊魂として認識されてる! アイテム化できたってことだね!」
「すごいですね!」

 いぇーい、とハイタッチ。
 あとは鉄と宝石が必要ってことだ。あいにくアイテムボックスには入ってないから、ちょっと取ってこよう。
 ここに転移ピンを刺して――こうすると、暫くの間この場所に転移スキルで戻ってこられる――そして、ホームまで転移!

「えっ、あれ? モモさん!?」

 驚いた声が聞こえた瞬間、説明し忘れたことに気づいたけど、あっという間にホームに到着してた。

「……まぁ、大丈夫でしょ。すぐ戻るし」

 ちょっと申し訳ないなぁ、と思いながら工房に急ぎ、ストレージから鉄とルビーを取る。そしてすぐにヤナのところへ転移。

「っ、モモさん、どこに行ったのかと思いましたよ!」

 大げさすぎるほどに驚いたヤナが飛び退って、セーフティーエリアから出そうになってた。重ね重ねごめんね?

「錬金に必要な材料を取りに行ってきたんだよー」
「あー、転移スキルってやつですか。俺も早く欲しいなぁ」
「がんばったらいつかもらえるよ」

 適当に応援しながら、鉄とルビーを錬金布に置く。
 闇の冠のレシピ成功率は80%。――まぁ、なんとかなるでしょ。僕は僕の幸運値を信じてる! ちょっと、ぬいぐるみで強化しとけば良かったな、って思うんだけど。あいにくと、アリスちゃんにあげたもので最後だったんだよね。

「――錬金スタート!」

 光が渦巻く演出。
 僕はもう慣れたものだけど、初めて見たヤナは「おー、すっげー!」と興奮してた。綺麗だよね。

 ふっ、と光が消えた後に錬金布に転がるのは、ルビーがきらめく黒色の冠。ルビーは赤色の宝石なのに、時々青く揺らめいているように見えるのは、霊魂の影響かな?

「成功!」
「かっこいいですね!」
「うん。付けてみて」
「え?」

 固まるヤナと見つめ合う。
 そういえば、アイテムのレシピについて説明はしたけど、これの効果についてはなにも教えてなかったかも?

「これ、ヤナにプレゼント。耐衝撃効果のあるアイテムだよ」
「……ええ!? マジっすかっ? いいんですかっ?」

 勢いよく迫ってきた髑髏に、ひえっとのけぞっちゃう。
 慣れてきたけど、あんまり近くは嫌だよ。髑髏はやっぱり怖いんだもん。

「も、もちろん。というか、使い道をわかってなかったのに、よく霊魂をアイテム化してくれたね?」
「モモさんのお役に立てるなら、いくらでもしますよ」

 当然のように言われた。ヤナは僕へのお礼のつもりだったらしい。

「影花を一緒に探すのはお詫びだって言ったでしょ。お礼とか考えなくていいんだよ?」
「いやいや、お詫び以上のものをもらってますし。でも、これはマジで欲しいです。遠慮なくもらっていいんですね?」
「当然でしょ。ヤナのために作ったんだもん」

 嬉しそうに受け取ったヤナが、付けていたアンクレットを僕に返してから、頭の上に闇の冠を載せる。……なんか闇世界の王って感じで似合ってるよ? 怖さが増した気がするけど。

「……うわー、やばっ、俺、リッチになったみたい!」
「リッチ?」
「アンデッドを従えてる感じの強いモンスターですよ! 俺、いつかリッチになりたいんです!」
「へぇ、そうなんだ」

 よくわかんないけど、嬉しそうで良かった。

 やっぱり僕がしたことで喜んでる人を見るのって好きだなぁ。だからこそ、お店をしたり、ファンの人たちと交流する場を設けたりしてるようなものだし。

「――僕が錬金術士としてしたいことは、それかも」

 ぽつりと呟く。
 ランドさんと話してた時は、錬金術士としての方向性が全然見えなかったけど、なんだか今は、自分がしたいことがわかった気がする!

しおりを挟む
感想 1,067

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...