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商人への道?

112.ビンゴ大会だよ!

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 お腹と心が満たされたところで、ビンゴ大会の開始でーす。
 一人ずつに配ったのは、誰もが一度は目にしたことがあるだろうビンゴカード。ワクワクした様子のみんなをステージ上から眺める。

 あ、シェルさんが泣き止んでる。感動のあまりに、コンサート後からずっとポロポロと涙をこぼしてたんだよね。
 みんなから賞賛されて泣き笑いしてたシェルさんは、すごく満足そうだったから放っといてたんだけど。シェルさんにもビンゴカードを渡しとこう。

「これからビンゴゲームするよー。景品はこれ!」

 じゃーん、と指し示したら、それにあわせてルトが長テーブルに掛けていた布を取り払った。
 一番最初に目を引くのは、やっぱり羽うさぎのぬいぐるみかな。

「ぬいぐるみは中・小サイズの2パターンあるよ。その他には、錬金術で作ったアイテムとか、料理詰め合わせボックスとか――」

 僕が説明する声が、シーンと静まった店内によく響く。もっと喜んでくれると思ってたんだけど、そうでもない? ちょっとしょんぼり。

「……神はここにいた」

 不意に誰かの呟きがやけに大きく響いた。途端に、聞き分けられないほどに重なったたくさんの声がなにかを叫ぶ。

「わわっ!? え、なに、急に……」

 天を仰いでる人がいたり、涙を流して手を合わせてる人がいたり、ガッツポーズしながらくるくる回ってる人がいたり――なんかすごい興奮してる。

「こわっ。ぬいぐるみの威力すさまじい」

 ルトがドン引きした表情で、布を持ってステージからおりようとした。

「待って! 僕をこのよくわかんない状況に置いてきぼりにしないで!」
「お前のファンだろ。自分で面倒見ろ」
「そんな殺生な!」

 僕がルトの脚にヒシッと抱きつくと、ルトが「マジでやめろ!」と焦った声を上げた。なんだかたくさんの視線を感じる。

「俺はお前のファンを敵に回すつもりねぇんだよ!」
「なに言ってるの。僕とルトは親友。つまり、こんなことで僕のファンがルトを敵視するわけないじゃん」

 途端に視線が柔らかくなった気がした。
 ステージ下を見たルトが「……まぁ、それで全員が納得すんならいいや」と疲れたような顔で言う。でも、すぐに「それはそうと、離れろ」と振りほどいてくるんだから、ルトは冷たい。

「あー……ぬいぐるみは一つずつだから、二名限定の景品だぞ。己の幸運を祈れ」

 ルトの宣言の後すぐに、息を呑む音が大きく響いた。

「……なんで私は幸運値にポイント全振りしてこなかったんだ!」

 ファンの一人が頭を抱えて大げさに嘆くと、同感だと言う人たちの声が次々に上げられる。
 SPステータスポイントを幸運値に全振りしたら、まともにバトルできなくなるだろうから、やめた方がいいよ?

「あのね。このビンゴゲーム、幸運値の影響を受けないようになってるから。つまり、リアルラックが大切だよ」

 ビンゴの説明をしたら、また一瞬沈黙が広がる。

「私……生まれてから今まで、自分がツイてるなんて、感じたことない……!」

 悲しい告白やめて? ぬいぐるみをプレゼントしたくなっちゃうよ。

「リアルラック……ふふ、それは、物欲の前に敗れ去るという定めがある……。つまり、神は仰せだ。無欲の悟りを開け、と……!」

 神ってなんだろうね。変な電波受信してない?

「ぬいぐるみ欲しくない、欲しくない――ダメだ! 嘘をついても、煩悩が消えない!」

 物欲を捨てるためなのかもしれないけど、欲しくないって言われちゃうと、僕がちょっぴり悲しくなっちゃうよ。

「ここはもう振り切って祈るだけ。――わたしはぬいぐるみが欲しい!」

 突如立ち上がったかと思うと、天に拳を突き上げて宣言する女性に、たくさんの視線が集まった。一拍後に、喝采が起こる。

「わたしも欲しい!」

 そんな言葉が次々にあふれた。
 ルトが「モモは自覚なしに色んな場を阿鼻叫喚にしてるよな」と遠い目をしながら呟く。どういうこと? 危険物みたいに言わないで。

「恨みっこなしの、本気のゲームよ。――始めましょう」

 重々しく呟かれた言葉の後、僕に視線が集まる。でも、ごめん。このノリよくわかんないや。

「えっと……始めるね?」

 気圧されながらも、みんな納得したようだし問題ないかと思い、ビンゴマシンを取り出す。取っ手でガラガラ回すやつだよ。

 回す直前になにか言うべきか考えてたら、音楽が流れ始めた。ルトが自動演奏機を付けてくれたみたい。それだけで、緊張感あふれる静けさが、少し和らいだ気がする。

「――では、最初の数字はなーにかな!」

 意識的に明るい声を出して、ガラガラと回す。出た数字は1。

「1だよ~。まだ揃う人はいないだろうから、次々行くよ!」

 真剣な眼差しを受けながら、ひたすらガラガラと回し、出た数字を宣言していく。そして、ついに一人の手が震えながら挙げられた。

「そ、揃いました……!」

 人生で今までツイてると感じたことない、って言ってた子だ。良かったね!
 ステージに近づいてきた子に拍手をしたら、遅れてみんなも拍手し始める。テーブルに突っ伏して、手だけ動かしてる人もいてちょっと怖いけど、喧嘩を売る感じじゃないから大丈夫だよね。

「おめでと~。景品はどれがいいかな?」
「ぬいぐるみ中で!」

 間髪入れずに返事があった。だよね。わかってたよ。

「はい、どうぞ! たくさん可愛がってね」
「もちろんですぅ……うう、かわいい、もふもふしてるぅ……」

 泣いてる。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら席に戻る女性に、祝福の声が溢れた。みんな欲しがってたのに、優しいねぇ。だから、みんなと過ごすの好き!

「ぬいぐるみはまだ小サイズがあるよ~。ということで、次の番号いってみよー!」

 ガラガラと回す作業は続く。
 これだけ喜んでもらえるなら、用意した甲斐があったね。当たった人も外れた人も、良い思い出になったらいいな。

 ……でも、早めにぬいぐるみを商品として売り出した方がいいかも?

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