上 下
78 / 259
美味を求めて

73.イベント終幕です

しおりを挟む
 おすすめグルメを持ち寄ってくれたみんなに、なんかお礼できないかなって思って、芸を披露してみた。
 リリがピエロ衣装作ってくれてたし、初お披露目だよ。

 スキル屋さんがいないから、BGMはなかったけど、みんな手拍子をして盛り上げてくれた。
 アリスちゃんも「すごーい! モモ、かっこいい!」って褒めてくれたから、芸事スキルをもうちょっと極めてみようかな!

 ……タマモが全財産をチップとして投げようとして、みんなに止められてたのは見なかったことにする。貢ぎ癖はほどほどにね?


 そんな感じで遊んだ後は、ついにグルメ大会の山場。
 第二の街で一番大きな広場にできたイベント特設ステージの周囲に、たくさんの人が集まってる。

「レディース、アンド、ジェントルマン!」

 司会役の呼びかけとともに始まったのは、グルメ大会の順位発表・表彰式だ。

「どこがゆうしょうするかな~?」
「どこだろうねぇ。スイーツ部門は桃カフェで決まりだけど!」

 拳を握って宣言したら、アリスちゃんがりんご飴を食べながら笑った。

「モモがおうえんしてるんだもん。きっといちばんだね」
「とーぜんです! 優勝したら、僕もたくさんご褒美もらえるんだよ~」
「じゃあわたしも、ゆうしょうをおいのりしとく!」

 アリスちゃんが手を合わせてる。でも、持ってるりんご飴に前髪がついちゃいそうだよ? ベタベタになっちゃう!

「今回はたくさんのお店に参加していただき大盛りあがり。異世界からの旅人さんたちも、多くの票を投じていただきありがとうございます!」

 わー、と応える歓声。

「では、早速食事部門の順位を発表いたします!」

 そうして始まった発表では、僕たちも試食したローストポーク丼を出すお店が優勝した。美味しかったもんね。僕も票を入れたよ。
 応援ミッションは一個も達成してないから、報酬はないけど。

「よっしゃー! これで、スキルリストゲットだ!」

 観衆から喜びの声が聞こえる。推してるお店が優勝して報酬をもらえたら嬉しいよねぇ。

 ここまではほのぼのと眺めてたんだけど、ついにスイーツ部門の発表が始まって、すごく緊張してきた。

「第三位は――ナンバーワン・スイーツフルのイチゴデラックスパフェ!」
「うっそだろ……」

 発表に落胆してるのは、店主さんかな。その横の男の人は見覚えがある。僕にお店を教えてくれた人だ。……桃カフェの悪い評判を流してる人でもあるんだけど。やっぱりお店の関係者だったんだろうなぁ。苦い表情してる。

「第二位は――和み茶屋のぜんざい&抹茶セット!」

 すっごく気になるメニュー名だ。和菓子屋さんもあるんだー。僕、和菓子も好きだから、今度探して行ってみよう。

「モモ、ドキドキするね……」
「ほんと、心臓が飛び出しそうだよ……」

 思考を逸らしてるのも限界で、アリスちゃんと手を握り合って、固唾をのむ。
 第一位の発表が楽しみだけど、怖くもある。どうか、桃カフェが優勝しますように……。

 ふと、視界にパティエンヌちゃんの姿が入り込んだ。
 凛とした表情でステージをじっと見上げてる。自信とかじゃなくて、『自分がやるべきことはやりきった』っていう感じの表情。カッコいいなぁ。

「では、栄えある優勝は――」

 華やかな効果音。期待と緊張を引き伸ばすような間だ。

 きっと大丈夫。僕たちたくさん応援したもん。それに、パティエンヌちゃんが作ったピーチメルバは、本当に美味しいから。

 わかっていても、鼓動の音が聞こえるくらい緊張してる。
 司会がニヤリと笑い、口を開く姿を凝視した。

「――……桃カフェ・ピーチーズの幻桃ラールペシェを使ったピーチメルバ!」

 わぁ! と歓声が聞こえた。僕も思わず両手を上げて快哉を叫んじゃう。

 すぐさま視線を向けた先で、パティエンヌちゃんの目から涙が溢れ、こぼれ落ちていくのが見えた。

 ……良かったね。これでお客さんいっぱい来るよ。たくさんの人に、これからも美味しいスイーツを食べてもらえるはず。

 心の中でそう語りかけてたら、パティエンヌちゃんが僕の方を振り向いた。そして、輝くような笑みを浮かべる。口が大きく動いた。

「『ありがとうございます』……かな。優勝できたのは、パティエンヌちゃんのスイーツが美味しかったからだろうけどね」

 喜ばれると嬉しい。応援をがんばった甲斐があったよ。

「――パティエンヌちゃん、おめでとう!」

 大きな声で叫ぶ。
 僕の声に続くように、祝福の声が溢れた。

「よかったね、モモ」
「うん……よかった……」

 目が熱くて、視界がぼやける。なんでだろう。

「だれかのしあわせで泣けるモモは、やさしいね」
「そんなんじゃないよ……。泣いてないもん」

 アリスちゃんが頭を撫でてくれた。
 グルメ大会イベント、楽しかったなぁ。応援のためのミッションをクリアするのもやりがいあったもん。でも、これで終わりかぁ……。

「今後もこの街のグルメ大会は開催される予定です! 次回はぜひ異世界の旅人さんも料理人としてご参加くださいね! 第二の街を美味で溢れる街にしましょう!」

 司会の締めの言葉に、「おー!」と歓声が上がる。
 プレイヤーも店側として参加できるようになるんだ? それも楽しそうだね。


◇◆◇ 


 るんるんるん、と大通りを歩く。
 イベントが終わった街は、なんだか少し物寂しい気がした。でも、僕は元気いっぱい。応援してた桃カフェが優勝したし、おかげで報酬をいっぱいもらえたからね!

「報酬、すげぇ量だったんだろ?」

 隣を歩くルトに、「うん!」と頷く。
 イベント報酬はスキルリストをはじめ、生産用の素材とか食材とか、とにかくたくさんあった。ミッション全クリしたからね。

 スキルリストはなんと二つもらえて、僕は念願の【詠唱破棄】を取得したよ。あと一個はなにを入手しようか考え中。
 テイマー系のスキルが良さそうかなーって思ってるんだけど。他にも欲しいものいっぱいなんだよねぇ。

「アイテムも豪華だったけど、ホームと農地を自分のものにできたのが嬉しかったなー」

 優勝店の応援者で、ミッションを全クリした人の中から一名にだけ、ホームと農地がプレゼントされたんだ。
 僕それに当たったんだよね~。……あんまり、全クリした人がいなかったのかもしれないけど。幻桃ラールペシェ納品のミッションは難しすぎるもん。他のルートも難しいミッションがあったんだろうなー。

 母数が少なかったかもしれないとはいえ、たった一人の当選者になれたのは「幸運値の勝利!」ってガッツポーズしちゃってもいいよね?
 幸運値を上げてくれてるピアにお礼言わないと。

「ラッキーだったね。でも、本当に私たちが一部屋使っちゃっていいの?」
「うん、余ってるから。あんまり利便性はよくない場所だけど」

 ホームと農地はこれまで通りの場所を選択した。慣れた場所がいいからね。
 そして、余ってる一部屋をリリとルトに提供することにしたんだ。ログアウトに使うだけなら、二人で一部屋でも十分でしょ。

「転移スキル入手したからなんも問題ねぇよ。モモ、ありがとな」
「気にしないでー。僕も友だちと過ごすの楽しみだから。たまには一緒にフィールド行こうね!」
「お前がその気あるならな」

 僕は普段、バトルより街で過ごすの優先だもんね。だからたまにでいいんだよ。

「……あ、あれ、美味しそう! あっちのも!」

 リリとルトのホームインテリア探しの付き合いで来たはずなのに、市場の屋台に釣られちゃった。
 グルメ大会後から、今まで以上に美味しそうなものが増えた気がする。う~、食べたいよぉ。空腹度は全然減ってないんだけど。

「お前、どんだけ食い物好きなんだよ……」
「全部美味しいせいだね! すっごく食いしん坊になった気がする」
「この街は美味の街って評判になるのを目指してるらしいし、ここにいる限り、ずっと食ってばっかになるんじゃね?」
「否定できない……」

 市場に来る度になにかしら食べてるもん。
 買ったばかりのコロッケをみつめて、う~んと呻く。食べるのを我慢するのは無理かな~?

 はぐっと頬張る。サクサクの衣とほくほくじゃがいもが最高。ソースなくても美味しいよ。食べ歩きって楽しい~。

「自分でも作るのに、お店のものも好きなんだねぇ」
「味付けは店特有のものがあるからね」

 家庭の味、店の味、どちらも甲乙つけがたい美味しさです。
 重々しく頷いて言ったら、ルトに「評論家か」と呆れられた。いつか第二の街グルメ研究家を名乗れるかな?

「モモ、お店開いてもいいんじゃない? 次のグルメ大会はプレイヤーからも参加者募るって言ってたし」
「そうだね~……」

 リリに言われて考える。それも楽しいかもしれないなぁ。ホームの一階は工房になってるし、ちょっと改装してお店屋さんしてみようかな。料理と錬金術で作ったアイテムを売るところ。

「――ま、のんびり考えてみるよ」

 これからもマイペースに楽しんでいきたいな!


******

◯NEWスキル
【詠唱破棄】
 魔術を使う際に詠唱が省略される。

******
◯現時点でのステータス
モモ
種族:天兎アンジュラパ(17)
職業:魔術師(8)、錬金術士(2)
称号:【あなたと仲良し】【採集ダイスキ】【スライムキングを尻に敷く】【愛し愛される者】【初物好き】【芸の道を行く者】

◻能力値〈〉内は装備・テイムモンスによる変化値。
体力:81
魔力:95
物理攻撃力:15
魔力攻撃力:33〈+35〉
防御力:37〈+15〉
器用さ:18
精神力:16〈+12〉
素早さ:26〈+13〉
幸運値:17〈+10〉

◻スキル()内はレベル
[パッシブ]
魔力攻撃力強化、魔術詠唱速度向上、魔力自動回復、体力自動回復、決死の覚悟、自由曲芸、神級栽培、詠唱破棄

[戦闘系]
火魔術(2)
 火の玉ファイアーボール火の矢ファイアーアロー
水魔術(2)
 水の玉ウォーターボール水の槍ウォーターランス
風魔術(1)
 風の玉ウィンドボール
木魔術(3)
 木の玉ウッドボール木の罠ウッドトラップ木の鞭ウッドウィップ
土魔術(2)
 土の玉アースボール土の槍アースランス
歌唱(1)——意気高揚
飛翔フライ(3)、聴覚鋭敏、テイム(1)、召喚(3)、気配察知(4)、見切り、回避(1)、花舞、泥遊び(1)

[耐性系]
麻痺耐性(1)、笑撃耐性(1)

[回復系]
天からの祝福アンジュブレス(1)
天の祈りアンジュプレ(1)

[収集系]
採集(2)、採掘(1)、釣り(3)、全鑑定(2)

[生産系]
錬金術初級
料理(3)
 1.焼く、煮る、揚げる
 2.混ぜる、オーブン焼き、燻製
 3.炊く、冷やす、成形
調薬

[お遊び]
跳び芸、玉乗り、毛繕い
******

スキル記載漏れあったら申し訳ありません。
次話、運営回でこの章は終わりです!
しおりを挟む
感想 1,025

あなたにおすすめの小説

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

処理中です...