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美味を求めて

71.豊作だよ!

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 本日は、ついに幻桃ラールペシェの収穫日です!

「たくさん生ってる! 取り放題だ~」
「取り放題じゃねぇだろ。十個くらいだし」

 ルトに冷静にツッコまれた。本来は一個なんだから、十分たくさんでしょ? 取り放題みたいなものじゃない?

「テンション上げてこうよ~」
「俺は今、なんでここにいるのかが心底不思議だ」

 それは、リリが僕に衣装を持ってくるのに付き合ったからだと思うよ?

「モモ、ニュー衣装、似合ってるよ!」
「ありがと~」

 リリが幻桃ラールペシェよりも僕を見てにこにこ笑ってる。
 今日の衣装はリリが持ってきてくれたニューバージョンなんだ。デニムっぽい生地のオーバーオールにチェックシャツ。……こんな農家系アイドルがいた気がしなくもない?

 他にも色々と衣装を用意してくれた。
 イチオシされたのはピエロバージョン。典型的なピエロみたいな格好。……次、スキル屋さんとなにかするときに着るべきかな。

 アリスちゃんとのデートを聞きつけて作ってくれたのは、燕尾服っぽいカッチリめの衣装。それと、レシピと素材を渡されて「これで懐中時計を作ってくれたら、完璧」とのこと。

 ……不思議の国のことだね? 僕、白ウサギじゃないけど、アリスとウサギとくれば、そうなるのも正直わかる。

 というわけで、ササッと錬金術で懐中時計を作っておいた。僕は白ウサギじゃないから、遅刻して慌てることなんてしないよ。

 ――こんな感じで、僕の衣装は日々充実していってます!
 次の写真撮影会では新バージョンをお披露目できるね。ポージングも研究しなきゃ。……モデル歩きの練習も必要かな?

「って、今は衣装じゃなくて、桃!」
「採れば?」
「ルトは採らないの!?」

 え、見てるだけなの? つまらなくない?
 凝視したら、鬱陶しそうな顔で頭をポスポスと叩かれた。

「お前が育てたんだし、採るのも楽しいんだろ? 俺は別にいい」
「そう?」

 確かに、僕は果物狩りが好きだけど。だから、果物収穫バイトも度々行って、たくさん果物をもらってる。

「私はモモが楽しそうにしてるところを見てるのが好きだよ」
「ド直球に告白されてドキがムネムネします」
「逆だろ、逆」
「てへぺろ」

 パシッと頭を叩かれた。ひどい~、ちょっとふざけただけじゃん。

 気を取り直して、幻桃ラールペシェ採集開始。独り占めしちゃうもんね。
 今回は農地システムを使わず、一つ一つ収穫する。

「美味しそうな桃だ~」
「良かったな」
「このペースで実るなら、タマモちゃんたちにも十分あげられるね」
「うん! みんなでミッションクリアできるよ~」

 手に取った途端に甘い香りが漂ってきて、正直このまま食べちゃいたいけど、今は我慢。パティエンヌちゃんとかタマモとか、みんなにあげるんだから。

「――全部で十一個! いい感じ~」
「ミッションは、五個持っていくことだったな」
「そうだよ~。後で持っていってくる。残りはタマモに五個プレゼントして、他の人には貯まってからかな」

 リアル時間三日で一回収穫できるみたいだから、イベント期間内に全員に渡せるでしょ。
 もう一本、幻桃ラールペシェの木を育ててもいいかもね。

「――グルメ大会、楽しみだな~」

 ここまで桃カフェのことばっかり考えてたけど、たくさんのお店が料理で競い合うイベントってすごく楽しそうだよね。
 試食どれくらい食べられるかな~。アリスちゃんと分け合いっこしたい!

「お前はほんと、そういうの好きだよな」
「にぎやかなイベント、いいじゃん」
「たまにあるお祭りって心躍るよねぇ」
「ほら、リリもこう言ってる!」

 ルトは呆れてる感じだけど、リリを味方につけた僕の方が強いのです。……なにが強いのか、いまいち自分でもわからないけど。

「うざ」
「その一言で会話を終わらせるの、よくなーい!」

 ルトの足をポスポスと叩く。
 こんな感じで友だちと過ごすのも、楽しいよね。


◇◆◇ 


 幻桃ラールペシェをパティエンヌちゃんに持っていって喜ばれたり、タマモに渡したついでにモフられたり——。

 追加で収穫できた分を他のみんなにも持っていったけど、もれなくモフられるのは、もはやしかたないと言うべきかな。

 色々ありつつ楽しいゲーム生活を送ってる。

 イベントミッションは全部クリアしたから、今はちょっぴり暇なんだよね。まだ第三の街を目指すつもりはないし。

 そういうわけで、釣りと料理が捗ってる! あと、錬金術も!

 僕のサブジョブなんだっけ? っていうレベルで錬金術より料理のスキルの方が上達しちゃってるから、気合いを入れて取り組んでるんだ。
 今日も朝から錬金術で試行錯誤してたんだよー。

「――ふっふっふっ……ついに……僕は、やったぞ!」
「怪しい笑みだな」
「楽しそうだね~」
「その感想で片付けていいやつか……?」

 料理アイテムをもらいに来てたルトがちょっと引いてる。ごめん、テンション上がりすぎてたかも。

「見てよ、これ!」
「泥色だな……?」
「試験管に入ってるから、かろうじて薬系だってわかるけど、正直摂取したくないかも」
「ルトよりシビアな感想ありがとう、リリ! 僕、泣いちゃうよ!」

 まさかリリから攻撃されるとは思わなかった。
 でも、正直リリの感想が正しい。

 僕が作ったアイテムは、泥っぽい見た目なんだ。効果は良いんだけどなぁ。

「――これ、【体力・魔力回復薬】なのですが」
「え、超欲しい」
「くれるんでしょ? ね?」

 急に前のめりになるじゃん。
 ルト、スキル屋で魔剣術スキルを入手できたらしいし。魔力少ないから、回復手段が必要っぽいんだよね~。

 リリはもともと治癒士で、攻撃は魔術が主だから、欲しがるのは当然。防御力低めだから、体力回復も必須だしね。

「レシピできたから量産できるし、あげるよ~」
「さんきゅ」
「代わりにモモの新作衣装作るから、楽しみにしててね!」

 ランドさんに煽られて、体力回復薬と魔力回復薬の効果を併せ持った薬の製作を開始したんだけど、山あり谷あり――いろいろあったなぁ。
 単純に薬草と魔力草を素材に錬金術使って、【青汁】ができた時は「なんでやねんっ」と叫んじゃった。

 健康には良さそうだけどさぁ、求めてたのはそれじゃないんだよ……。

 結局、体力回復薬と魔力回復薬を果物と錬金して【薬の混ぜもの】を作って、それにさらに薬草と魔力草を錬金したら、「あら不思議! 【体力・魔力回復薬】の完成!」って感じになったよ。そこに辿り着くまでに、どれだけ薬草と魔力草を無駄にしたことか。自分で栽培してたから良かった……。

 効能は、それぞれを単独で使うよりも上乗せされてるから、結構便利なアイテムになったんじゃないかな。

「衣装ありがと。楽しみにしてるよ~」
「そういや、アリスと明日デートなんだよな。不思議の国ファッションで行くのか?」
「もちろん!」

 全力で答える。もらったからには、活用するよ。

 明日はついにグルメ大会なんだ。桃カフェが優勝できるか、ちょっとドキドキする。
 味っていう点で言えば、優勝できるものだと信じてるけど、投票で決まるわけだし、色んな要素で大きく変わっちゃいそうだもん。

「あ、アリスちゃんにもアリスファッションを渡しておいたから、楽しみにしててね!」
「なんて??」

 思わず耳を疑った。
 アリスちゃんにアリスファッション……つまり水色ワンピースにエプロンドレス? え、可愛いが確定されてる!

 でも、一緒に歩いてたら、完全にコスプレコンビ誕生だよね? 季節外れのハロウィンかな?

「――……僕はもうコスプレイヤーみたいなもんだし、気にしないことにする! アリスちゃん、可愛いだろうな~」
「お前の、すぐに切り替えて楽しめる感じ、結構良いところだと思うぜ」

 なぜかルトに同情されてる気がした。
 そう思うなら、事前にリリを止めてくれてても良かったんだよ?

******

◯NEWアイテム
【体力・魔力回復薬】レア度☆☆☆
 使用者の体力と魔力を一度に三十%回復できる薬。錬金術士・モモのオリジナルレシピにより製作された。

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