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美味を求めて

69.成長を待ちながら楽しみます

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 ルトと桃カフェ近くで別れ、農地へ転移。
 受け取った幻桃ラールペシェの種を早速植えてみる。

「大きく立派に育つんだぞー」

 話しかけながら種を植えたら、アナウンスが聞こえた。

〈レア品種【幻桃ラールペシェ】の発芽には【成長促進剤】が必要です〉

「こういう感じなのかー。りょうかい!」

 アイテムボックスから成長促進剤を取り出し、上部の蓋を外してから傾ける。幻桃ラールペシェの種を植えたところに注いだら、土がもぞもぞと動き始めた。

「……おお? モグラじゃないよね?」

 まさか、と思いながらも注視していると、ぴょこん、と双葉が出てきた。

「発芽、はやーい! さすが成長促進剤……!」

 驚きの効果だ。まさか植えてすぐに芽が出るなんて想像してなかった。成長促進剤って言っても、ちょっと良い肥料くらいのものかなぁって思ってたんだよ。

幻桃ラールペシェは二十四時間おきに成長促進剤を使用できます〉

 使えば使うほど、収穫が早まるってことかな。それはいいねぇ。まずは果物が実るくらい大きく育てなきゃ。

 マナさんが作ってくれた冊子によると、ゲーム内時間十二日で最初の果物が実るらしい。リアルだと三日だね。それからも成長促進剤を適宜使えば、リアル時間三日毎に一回収穫可能になるようだ。

「楽しみだなー。みんなにも渡せるくらいたくさん作らなきゃ」

 一人五個ずつだとして、最低三十個はいるね。
 なんだかんだあって、イベント開催時期も近づいてるし、間に合うといいなぁ。


◇◆◇ 


 次にログインした時には、幻桃ラールペシェはひょろっとした感じの木になっていた。

 成長促進剤を使用しまーす。
 ――おお! 伸びた! 幹が太くなった!

 成長が著しくてわかりやすいから、達成感がある。もっと大きくなるんだよー。

 幻桃ラールペシェの次は、象の花。
 マナさんに成長促進剤を渡すのと引き換えに、象の花に種化スキルを使ってもらったから、たくさん育てておくよ。幻桃ラールペシェ以外にも使えるみたいだし、あって損はないもんね!

 でも、たくさん育てすぎて、ちょっと農地が狭く感じちゃう。
 野菜の種類を減らすかなぁ。市場で買わずに済むのは便利なんだけど。料理で結構使うし。

「まぁ、ぼちぼち考えよ。まだ少しは空きがあるし。――幻桃ラールペシェくん、すくすく育つんだぞー」

 農地ですることがなくなったので、幻桃ラールペシェの木に声を掛けてから、はじまりの街に行ってみる。
 アリスちゃんいるかなー? って思って薬店を訪ねたんだけど、ランドさん曰く、アリスちゃんは今日お友だちと遊びに出かけたんだって。タイミングが合わないなぁ。

 連絡とってみたら、スケジュールがいっぱい、って言われた。なんかプレイヤーに引っ張りだこ状態らしい。
 ……みんな、はじまりの街のシークレットエリアを探索できるメリットに気づいちゃったんだな。

 他のプレイヤーの邪魔はできないし、「いつが空いてるー?」って聞いてみたら、グルメ大会の日を答えられた。
 たいていのプレイヤーが第二の街にいる日だもんね。

 それなら、アリスちゃんとグルメ大会で遊べばいいのでは? と思って、提案すると「モモとあそびたい!」と喜びが伝わってくる感じの返事があった。

「――というわけで、グルメ大会の日、お嬢さんをお預かりしますね? 僕の転移スキルに便乗できるアイテムがあるから、安全に移動できるよ!」

 ランドさんに言うと「転移に便乗アイテムねぇ……」と面白がる口調の呟きの後、「いいぞ」と許可をもらえた。

「転移で行き来できんなら、魔力草を収穫してきてくれないか? 店に魔力回復薬も置いときたいんだが、このへんじゃ採れないんだよなぁ」
「いいよー。というか、今たくさん持ってる!」

 なにせ、農地で育ててるからね。ホームの小さなお庭でも薬草と魔力草を育ててるから、自分で使うのは十分ある。

 ランドさんに説明しながら、買い取ってもらう。
 魔力草も結構高くで売れるんだなぁ。第二の街での魚売りは、そろそろ買取価格が下がってきたし、金策は多様性が必要だよね。他の金策も考えなくちゃ。

「自分でも栽培してるって、一端の農家になったもんだな。定期的に卸してもらえたらありがたいが」
「そう? じゃあ、収穫したら持ってくるね」

 販売ルートゲットだぜ?
 懐が温かくなってホクホクです。

 にこにこ笑ってたら、「そろそろ調薬、学んでみるか?」と提案された。
 そういえば、錬金術のレベル上げたら調薬を教えてくれるって言われてたんだった! もちろん「お願いしまーす!」と答える。

「錬金術士がする調薬ってのは、薬士のもんとは違うんだが……」
「錬金術で初級回復薬と初級魔力回復薬は作ったことがあるよ。どっちも品質が低いって感じだったけど」
「だろうな。普通のやり方だと、どれだけ錬金術レベルが上がっても普通品質までにしかならないはずだ」

 錬金術士は他の職業分野のアイテムの品質が下がるって聞いてたけど、そこまでなのかぁ。

 ちょっとしょんぼりしてたら、ランドさんが「普通なら、だ」と繰り返した。
 つまり、普通じゃない方法がある……?

「――お前には世話になってるからな。これをやる」

 そう言って手渡されたのは小さな紙だ。抽選券みたいな。

「【スキルチケット】……?」

 書かれてる字を読んで、首を傾げる。これ、なぁに?

「それは特定のスキルを複製して、他人に渡せる道具だ。俺の調薬スキルを複製してある」
「え!? そんなものがあるんだ?」

 裏側に【調薬】と書かれていた。

「ああ。通常、調薬スキルは薬士しか習得できないんだが、例外がこのスキルチケットだ。使ってみろ」

 言われてスキルチケットをみつめたら、アナウンスが聞こえた。

〈スキルチケット【調薬】を使用しますか?〉

「使います!」

 答えた途端、スキルチケットがふわっと光る。なんか体に力が満ちてくるような、不思議な感覚があった。

 いつの間にスキルチケットが消えていることを確認して、ステータスを見てみる。

「――あ、調薬スキルを習得してる!」
「だろ? それがあれば、錬金術士でも、品質をある程度上げられるはずだ。熟練の薬士並になるのはさすがに無理だけどな」

 さっき売ったばかりの魔力草を示されて、「スキルを使ってみろ」と言われる。
 調薬スキルは、調薬用の鍋と素材があれば使えるみたいだ。

 魔力草をランドさんから借りた鍋に入れて「調薬開始!」と言ってみる。鍋の中にぐるぐると渦ができた。
 暫くして完成したのは【魔力回復薬の素】だ。

「なに、これ?」
「それを錬金術で使って、完成させるんだ」
「あ、錬金術の素材ってことか」

 下ごしらえみたいなものかな。
 錬金布に鍋ごと載せて、錬金玉を触って検索したら、ちゃんと魔力回復薬の表示があった。そのまま錬金スタート。

「――できた! すごい、品質が普通になってる!」
「まだ調薬も、錬金術もレベルが高くないからそんなもんだな」

 鍋の中に魔力回復薬が入った試験管が作られてた。いつもより品質が良いよ。ちょっと手間が増えるけど、薬の効果を考えたら、全然許容範囲。この薬なら、誰かにあげても大丈夫だろうし。

「レシピは色々あるから、自分で探してみるといい」
「魔力草と薬草を組み合わせたり?」
「さぁな? 上手くいくかどうかはわからんが、やってみるといいんじゃないか?」

 ニヤリと笑うランドさんは、答えを教えてくれるつもりはないらしい。
 薬一個で体力も魔力も回復できたら便利だろうなーって思ってたんだけど、そう簡単には作れなそうだね。

「そんなに言われると、やる気になっちゃうー」
「ふははっ、いいじゃねぇか! すげぇ錬金術士で薬士を目指してみろ」

 ランドさんに煽られた。がんばってすごいもの作って、驚かせちゃうぞ。


******

◯NEWスキル
【調薬】
 薬を作るスキル。薬士なら簡単に取得できる。

******
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