もふもふで始めるのんびり寄り道生活 ~便利なチートフル活用でVRMMOの世界を冒険します!

ゆるり

文字の大きさ
上 下
73 / 340
美味を求めて

68.幸せってこんな味

しおりを挟む
 ルトと一緒に桃カフェに行って、パティエンヌちゃんに幻桃ラールペシェを渡した。

「こ、これが……あの、幻桃ラールペシェ……!」

 宝石を持っているような慎重な手つきで幻桃ラールペシェあらため、パティエンヌちゃんが「ほぅ……」と感嘆のこもった息をこぼす。
 満足してもらえたみたいだし、がんばった甲斐があったなぁ。

「それでピーチメルバを作ってくれる? あ、種は欲しいな。農地で育てて、幻桃ラールペシェを安定供給できるようにするからねー」
「っ、本当にしてくれるんですね……! ありがとうございます! 心をこめて作ってまいります。少々お待ち下さい」

 目に涙が滲んでたけど、顔は喜びで輝いてる。パティエンヌちゃんが幻桃ラールペシェで作るピーチメルバ、楽しみだなー。

「イベントミッションはどれくらい達成してるんだ?」

 厨房に下がったパティエンヌちゃんを見送ってたら、ルトに聞かれた。
 ミッションかー……すごいことになってるんだよね!

「お客さんを連れてくっていうミッションが三回カンストしてる」
「は?」

 イベントミッションでお客さん十人を桃カフェに連れて行く、っていうのがあったんだけど、ここで写真撮影会したら、それがカウントされてたみたいなんだ。僕が連れて行ったって言っていいのかわかんないけど。

 クリア×3、っていう表記と一緒に、39/40人って書かれてて、あと一人連れてきたら四回目のカンストができそう。
 リリを連れて来ようかな! アリスちゃんとも来れるかもしれないけど。

 他にも、ミッションはちょこちょことチェックして達成してるから、実は幻桃ラールペシェを五個納品できたら、一応全クリアになるんだよね。

「――なんっつーか、まぁ、楽しんでてよかったよ」

 僕の話を聞いたルトは、なぜだか呆れた顔だった。

「楽しいよー。あとは幻桃ラールペシェを作って……優勝させるだけだね」

 握りこぶしを作る。
 ここまで来たんだから、絶対優勝させなきゃ。桃カフェのアピールに、ビラ配りでもする?

 今の店内は、ちらほらとプレイヤーの姿があって、ほどよく席が埋まってる。視線を感じる度に手を振ったら、嬉しそうに手を振り返されるから、僕のファンなのかな?

 でも異世界の住人NPCの姿は少ない。やっぱ、桃カフェの危機を救うには、異世界の住人NPCの間で評判にならないとダメなんだろうなぁ。

「お前にはファン集団がいるから、なんとかなるだろ」
「そうかなー? 油断は禁物だと思うよ」

 最後まで気は抜きません。

「ふーん。……あ、そういや、イベントの報酬情報が更新されてたな。スキルリストで結構強いスキルを入手できるとかで、攻略組もイベントに参加しだしたみたいだぞ」
「えっ、確認してなかったよ」

 運営から届いていたお知らせを開いてみたら、確かにイベント報酬の詳細が出てた。

 一番良い報酬がスキルリストっていうやつで、リストに載ってるスキルから一つ選んで習得できるらしい。

 その他にも報酬は色々とあって、イベント後にミッション達成率と応援した店舗の順位に応じて配られるみたい。

 ミッション全クリで、かつ応援した店舗が優勝すると、ホームと農地の所有権をもらえる可能性もあるっぽい。これは、一名限定のクジ当選者への報酬なんだって。

「――スキルリストに詠唱破棄がある!」
「それと交換すんのはもったいなくね?」

 スキルリスト例に燦然と輝く文字にテンション上がったけど、ルトはなんだか冷めてる。

 確かにバトルでめちゃくちゃ効果的なスキルってわけじゃない。でも、僕はずっと欲しかったんだよ? スキル屋で交換できるとはいえ、いらないスキル集めるのも結構大変なんだよなぁ。

「んー……もらってから、考える」

 もう桃カフェが優勝するつもりで考えちゃってるんだけど、まだ結果はわからないよね。特に攻略組も本格的にイベントに参加し始めたとなると、結構影響力ありそうだし。

「お待たせしました。幻桃ラールペシェのピーチメルバです!」

 パティエンヌちゃんがやって来た。僕とルトの前におしゃれなスイーツが置かれる。

「……匂いからして、もう美味しい」
「食ってないのにか。……でも、俺もわかる」

 二人して凝視してしまった。
 スライスされた幻桃ラールペシェがとろりと蜜を纏って輝き、ラズベリーソースの赤色と映える白い果肉が芳醇な甘い香りを放っている。

「モモさんのおかげで、満足できる一品に仕上げることができました。ぜひご賞味ください」

 パティエンヌちゃんの真摯な声。そこには溢れんばかりの感謝の思いがこもっていた。きっと、その思いをいっぱいこめて、作ってくれたんだろう。これは、味わって食べなくちゃ。

「うん。いただきます!」

 手を合わせてからフォークを手に取る。
 幻桃ラールペシェをバニラアイスと一緒にラズベリーソースを絡めてぱくり。口の中に広がるのは、幸せの味だった。

「――美味しい……美味しいよ! 今まで食べたことないくらい!」
「うま……なにこれ、マジで、常識超えてる……」

 ルトが無心で食べ続けてる。全力で「だよね!」と言いたくなった。これを美味しいと言わない人なんていないよ。
 前に食べたピーチメルバも美味しかったけど、これは優にその味を超えていた。なんかもう、芸術品と表現したくなっちゃう。

「現実でも、こんな美味しいのは食べれないよ」
「そうだな。この世界だからこそ、の味わいかもしれねぇ」

 ルトがしみじみと呟く。
 一口ずつ、ゆっくり味わって食べる。なくなってしまうのが悲しくて、でも手は止まらない。ずっと食べていたい気分だ。

「……美味しかった……」

 最後の一口を味わい、じっとお皿をみつめる。幸せな時間って、どうしてこんなに早く過ぎ去ってしまうんだろう。

「楽しんでいただけて嬉しいです」

 他のお客さんの対応をしてたパティエンヌちゃんが近づいてきて、ふわりと微笑む。初めて会った時より、明るい笑顔のように見えた。

「――幻桃ラールペシェのピーチメルバを作ることができて、パティシエとして自信を取り戻せた気がします。正直このままお店を続けていてもいいのかと不安になっていたのですが……この味を、もっとたくさんの人に召し上がっていただきたいと思うようになりました」

 パティンヌちゃんが、目尻に滲んだ涙を拭う。目に希望の光が輝いてて、強い意志を感じる。なんかすごくカッコいい。

「僕もたくさんの人に、これを食べて幸せな気分になってもらいたいなぁ。そのためにも、幻桃ラールペシェ作り、がんばるね!」
「はい、よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げたあと、パティエンヌちゃんが小さな包みを差し出してくる。中身は幻桃ラールペシェの種だった。

 美味しいピーチメルバを食べて、元気いっぱい。幻桃ラールペシェ作りがんばるぞー!

しおりを挟む
感想 1,383

あなたにおすすめの小説

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する

Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

処理中です...