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美味を求めて

66.念願のスキル!

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 市場まで移動。
 スキル屋さんを探して歩いてたら、暇そうに笛を吹いてるお兄さんをみつけた。物悲しい旋律だ。夕暮れ時だから雰囲気にあってる感じはする。

 じぃっと見ていて思い出した。この人、スキル屋さんだ。前と印象が違うし、掲げてる看板も『演奏小屋:チップください』に変わってるけど。

 というか、看板に『チップください』って書くのはアリなの?

「スキル屋さん?」
「……おや、いつぞやの冒険者さん。スキルは集まりましたか?」
「やっぱりスキル屋さんなんだ。スキルは集めてきたけど……今は営業してないの?」

 見間違いじゃなかったみたい。それにしても、どうして演奏小屋をしてるんだろう?
 スキル屋さんの前に置かれた箱の中には、コインがいくつか入ってた。……少ない。

「スキル屋の営業は、基本的に朝と昼なんですよ。ですが、希望がありましたら対応しますよ」

 スキル屋さんは「よいしょ……」と言いながら、置いていたカバンから冊子を取り出す。スキル名が載ったカタログだ。

「へぇ、夕方と夜は演奏小屋?」
「小遣い稼ぎですね。……スキル交換の商売は、あまり儲けがないので」
「そもそもどう稼げるのか不思議だったよ」

 スキルを交換して、お金は生まれない。商売としては成り立ってないんじゃないかな?

「私、生まれた時から特殊なスキルを持っていまして。それが【スキル交換】というものなんですが」
「あ、だからスキル屋さんをできるんだ」
「ええ。このスキルを持っている人は、ほぼスキル屋として商売してますね。スキルからスキルに交換できるだけじゃなく、スキルからお金、あるいはステータスに交換できるんですよ」

 なるほど。スキル屋さんの商売方法がなんとなく分かった気がする。たぶん、交換に使うスキルのいくつかは、手数料としてスキル屋さんがお金に変えて利益にしてるんだ。

「そっかぁ……演奏小屋は儲かるの?」
「儲かってるように見えます?」

 なんか悲愴な表情を向けられた。申し訳ない。

「お客さん、立ち止まってなかったもんね」
「みなさんお忙しいですから。酔っ払いが増えると、ちょっとお金を投げてくれる人もいるんですけど」

 それを狙って夜営業なの? なんか大変そう……。
 笛を眺めて首を傾げる。

「もっと明るい曲は吹けないの?」
「できないことはないですけど、意味あります?」

 それより、スキル交換は? と言いたげなスキル屋さんに、チップが入った箱を軽く叩いて見せる。

「……僕が協力して、チップをたくさん稼げたら、交換に必要なスキル数、まけてくれない?」
「えー? チップを貰えるなら、そりゃ、ありがたいですけど……。あ、お金をご自身で支払ってスキルを買おうとされるのは、スキル屋法に反してるのでできませんよ?」

 僕がチップを払ってスキルの対価にするのはダメらしい。でも、他の人から広くチップを集められるなら良さそうな雰囲気だ。

「僕が払うんじゃないよ! それで、まけてくれるの?」
「うーん、チップの金額によっては、多少まけることもできますけど?」
「具体的に、どれくらい?」
「……一万リョウ稼げたら、スキル数十で一つに交換のところを、九で一つに、とか?」
「必要スキル数十二だったら?」
「……十一にまけることもできますかねぇ」

 スキル屋さんは「なにをするつもりです?」と目で聞いてきた。
 それに対して、僕は胸を張って答える。

「僕の曲芸と、スキル屋さんの演奏を合わせてみようよ!」
「えー?」
「スキル、交換に使う前に活かしてみたかったし」

 あまり乗り気じゃなさそうなスキル屋さんを促して、演奏をしてもらう。
 僕が用意するのは大玉と輪っか。

 市場を道行く人が、なんだろうって感じで立ち止まっていった。

「今から大道芸をしまーす。楽しかった人は、ぜひチップをくださいね!」

 アピールしてから開始。
 曲に合わせて、大玉に飛び乗って、バランスをとる。わざと「おっとっと?」とよろめいてみたり、ジャンプをしてみたり、飛翔フライで宙返りしてみたり。

 ざわざわ、としてた人たちが「おお、すごい!」「きゃー、可愛い!」とか歓声を上げ始めるから、なんだかいい気分。

 輪っかも設置して、ジャンプしてくぐったり、飛翔フライでアクロバット飛行を試したり。

 その頃には、次々にチップが投げられる感じになっていた。

「――以上でーす! ありがとうございました!」

 大玉から跳び下りて、両手を上げた着地ポーズから一礼。「楽しかったぞー」とか「次いつやるの!?」とかの言葉に手を振って答えて、スキル屋さんに向き合う。

 ……なんか、すごく感動した顔してない?

「チップ、どんな感じかな?」
「あ……なんと、三万リョウを超えてます……!」
「おお! たくさん稼げたねー」

 ちょっぴり恥ずかしかったけど、がんばった甲斐があったよ。

「いえ、お金よりも大切なのは、こうして観衆に感動を与えられたこと……! 私の演奏がその一助になれたことが、感無量です!」
「よ、良かったね?」

 想像以上に、スキル屋さんの心に刺さったみたいだ。いつもほぼ素通りされてたんだったら、そうなるのもしかたないのかな。

「ありがとうございます! お礼に、スキル交換手数料を最大限まけますよ!」
「それは本当に嬉しい! 僕、【神級栽培】スキルが欲しいんだけど」
「必要スキル数十二のものですね――」

 カタログを開いたスキル屋さんが「交換に使うスキル名を教えてください。十個でいいですよ」と言うので、つらつらと教えた。

 スキル【自由曲芸】と【泥遊び】を除いた十個を交換に使うことにした。【自由曲芸】はバトルの時に結構恩恵があったし、【泥遊び】も使えそうだったから。

 僕が言った後には、なぜだかスキル屋さんが衝撃を受けた感じで固まる。

「……あれほど素晴らしい感動を与えられるスキルを、手放すのですか!?」
「だって、【神級栽培】スキルが欲しいんだもん」

 そこまで言うほど?
 首を傾げてる僕の前で、スキル屋さんは震えながら、なんだかブツブツと呟いてる。心の葛藤が声に出ちゃってるよー。

「――分かりました! さらに二つまけましょう! ですから、【跳び芸】と【玉乗り】スキルはご返却します!」
「えっ!?」
「ですが、それには条件があります。――また、一緒に、観衆の前で披露してください」

 すごく真剣な表情だった。たくさんの観衆に囲まれてチップをもらえたのが、そんなに嬉しかったのかぁ。

 正直、まけてくれるなら別のスキルが良いな、と思わなくもないんだけど、スキル屋さんの熱意に負けちゃった。

「分かったよ。また大道芸、一緒にやろうね!」
「ありがとうございます! ――では、八つのスキルを【神級栽培】に交換いたします」

 キラキラと輝いた表情が、一転して真剣さを帯びた。
 スキル屋さんの右手に八つの光を放つ玉がある。左手はスキルカタログに添えられていて、「*☆?%$*#*」と聞き取れない呪文を詠唱していた。

 八つの光玉が次第に混ざり合って、大きな一つになっていく。

「――両手を」
「はーい」

 差し出した両手の上で、一つの光玉が強く輝いた。そして、それが幻だったかのように消えていく。

「……これ、どうなったの?」
「ステータスをご確認ください」

 言われて見てみると、たくさんあったスキルが消えて、【神級栽培】という表示が現れていた。無事交換できたらしい。

「おお! すごいね!」
「どうぞ今後ともご贔屓に。大道芸披露のお誘い、いつでもいいですからね。絶対お願いしますよ?」
「うん。約束は守るよ。またね!」

 目的のスキルを入手できて嬉しい。
 今後も大道芸をするなら、もうちょっとレパートリーを増やそうかなって気分にもなってる。いろんな楽しみ方があって、やっぱりこのゲームわくわくするね~。


******

◯NEWスキル
【神級栽培】
 農地での収穫量や品種改良率を上げる。レア品種の栽培成功率が百%になる。栽培スキルの中で最上位に達している。パッシブスキル。

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