上 下
70 / 268
美味を求めて

65.良い調子だね

しおりを挟む
 第二の街まで転移スキルで戻って、西の岩山エリアを行く。頭には【親分猿オヤビンキの証】を付けた。

 ……みんなに笑われたけど、これが一番子分猿ヘンチモンキを避けるのに効果的なんだよ! 無駄なバトルをしなくて済むんだよ!

 運営さんには、至急このアイテムを不可視化できるようお願いしたい。

「私たちにかかれば、このエリアは楽勝だね」
「レナは一人でも楽勝やろ」
「そういうユリさんも、お強いですよね~」

 道中は前衛三人のバトルを見守ることが多くて、ほぼ戦ってない。でも、笑撃耐性スキルは役に立ったよ。あと【花舞】も! ……今までこのスキルを忘れてたとか、そんなことはないんだよ?

 花吹雪で攻撃するっていう雅な光景に相反して、めちゃくちゃ強いスキルだった。暗闇のデバフも効果的。さすが、エリアボス初討伐報酬!

 このスキルの入手方法を聞かれても、「な~いしょ!」って誤魔化しちゃったけど。それで追及をやめてくれるから、みんな優しい。


 そんな感じで、サクサクと辿り着いたエリアボス地点。小象タイニーエレフは僕たちを見て、ゆっくりと後退してる。
 一度倒されるとそういう反応をするのがマストらしいけど、ちょっぴり傷つくなぁ。僕、怖くないよ?

「ゾウさん、相変わらずおっきいね~」
「動物園で見るより大きい気がします……」
「それは、遠近法が理由じゃないかしら?」

 動物園のゾウって、あんまり間近で見ることないもんね。
 頷いてから、全員の顔を順番にみつめる。

「僕は飛んで、頭の上の花を狙えばいいんだよね?」
「私たちはゾウの撹乱ですね」

 タマモが言って、みんなも頷いた。

〈エリアボス小象タイニーエレフと再戦しますか?〉

「しないでーす」

 答えてから、小象タイニーエレフに近づく。タマモが言ってた通り、小象タイニーエレフは鼻を振って追い払おうとしてきた。

「んじゃ、散開!」

 レナの合図で、五人が散らばっていく。
 僕はそれを見ながら、小象タイニーエレフの隙を窺った。上手いこと、五人の動きに翻弄されてるみたいだ。

 僕に注意がなくなったのを感じて、そっと小象タイニーエレフの横手に回る。
 小象タイニーエレフは壁を背にして立ってるから、完全に背後から狙うには、岩山を登らなきゃいけないんだよね。

 飛翔フライを繰り返して、岩山の途中――小象タイニーエレフの背後に到着した。

「大事なお花なんだろうけど、くれたら嬉しいなぁ」

 ちょっと申し訳なさを感じながら、小象タイニーエレフの頭へと飛ぶ。
 そこには小さな鉢があって、たんぽぽのような花が咲いていた。ほのかに光ってるのは、採集ポイントの印だ。

「――やっぱり、採集できるみた、っうお!?」

 急に小象タイニーエレフの頭が激しく揺れた。
 咄嗟に耳の付け根に掴まって、振り落とされるのを回避! ふあー、ドキドキしたー。

「モモ、急いで! 注意がそっちに向かってる!」
「りょうかーい!」

 レナに答えて、飛翔フライを発動。これで振り落とそうとしてきても、ほとんど問題なしだよ。
 そして、花にタッチ。すぐさま採集スキルが発動した。手の上に黄色いお花が現れる。

――――――
【象の花】レア度☆☆☆
 小象タイニーエレフが育てている花。朝日と共に開花し、日が沈むと萎む。作物の成長を促進させる効果がある。
――――――

「――ゲットしたよ!」
「お、やったね」
「これでミッション完クリやな」

 小象タイニーエレフから飛びおりてみんなのところへ。そそくさとエリアボス地点から離れる。

「ぱおーん……」
「うわっ、悲しげに鳴かれると、いけないことした気分になる……」

 後ろから聞こえてきた声に、ちょっぴりテンションが下がった。

「たぶん、次の人と戦う時には咲いてますよ?」
「わたくしたちが再入手するには、日を改めないと駄目かもしれませんわね」

 メアリの言葉に納得。朝咲いて、夜萎むって説明があったし、採集したら朝再生してる気がするもんね。

「そっか。じゃあ、ゾウさん、またお花育てるのがんばってね!」

 必要だったら、また採集させてください。って言うのは、ひどいかな?

「あっ、私、もうそろそろログアウトしないと。街帰ろう!」

 レナが慌て始める。空は少しずつ暗くなってきていた。
 夜のバトルフィールドは、現れるモンスターの種類や強さが変わるらしいので、さっさと帰るのが吉だね。

「じゃあ、転移!」

 一瞬で視界が変わる。
 早く幻桃ラールペシェ育てたいな~。


◇◆◇ 


 街に帰ってきたら、みんなとはお別れ。
 幻桃ラールペシェをたくさん採集できたらプレゼントするって約束したよ。

 そしてやって来たのは一軒のお家。

「こんこんこん、マーナーさーん!」

 住んでる場所を教えてもらってたんだ。
 玄関扉をノック――もふもふの手じゃ音が出なかったから、声で言ってみた――後しばらくして、マナさんが顔を出す。

「いらっしゃい。目的は幻桃ラールペシェの栽培法だよね」
「うん! 教えてー」

 お願いしたら、ポンッと冊子を渡された。

「これがまとめたやつ。象の花の入手場所はわかってないんだけど――」
「採ってきた!」

 じゃーん、と見せたら、驚いた顔をされた。

「……行動が早い。それ、色んな作物に使えるらしいから、育てられたら売ってよ」
「え、これも育てられるんだ?」

 象の花は切り花だ。根っこはついてないし、種もない。

「そう。作物にスキル【種化】を使うと、種が採れるんだ」
「へぇ、でも、僕はそんなスキル持ってないよ?」
「私が使えるから、してあげるよ」
「やった! お願いしまーす」

 マナさん、有能!
 たぶんスキル屋で交換できそうなスキルだなぁ。これも欲しいかも。……いらないスキル集めがんばらなきゃ。

 芸事系スキルばかりが得られた日以降、空き時間に色々やってみて、追加で【転がる】【泥遊び】【穴掘り】【指振り】【喜びの舞】【草結び】っていうスキルを入手したんだ。

 スキル【転がる】は、転がって敵にぶつかると、物理攻撃力に+1した威力でダメージを与えられるんだって。僕はあんまり使わないだろうな。
 これは、ベッドの上でごろんごろんと転がってたら覚えた。

 スキル【泥遊び】は、半径十メートルを五分間泥地に変えるっていう効果。敵の行動阻害効果があるらしいけど、これ使用者にも効くんだよね……。
 いらないスキルに分類するかは悩ましいところだけど、ほぼ使わないかな?

 このスキルは、畑で水やり後の場所の土を捏ねて、泥団子を作ってたら覚えた。

 スキル【穴掘り】は、その延長で覚えたんだ。穴掘りをするとより深く、速く掘れる気がするってだけの効果。バトル中に使うと、穴を掘って地中に隠れることもできるみたいだけど……そもそもソロだと穴掘ってる暇がないよね。

 スキル【指振り】は、指を振るとランダムでバフ・デバフが生じるらしい。これ、一見すると便利なスキルっぽいんだけど、掛ける対象が使用者を含めてランダムっていうのがダメなんだ。
 敵にバフあげて、自分にデバフ掛けちゃったらどうするの……。

 このスキルは、「どーちーらーにーしーよーおーかーな!」って食べる料理を決めてた時に覚えた。効果がランダムなの、当然かも。

 スキル【喜びの舞】は、自分で作った桃クレープが美味しすぎて、「うっまーい!」ってくるくる回ってたら覚えた。効果は気分上昇。気分いいから回ってるんだよ?

 スキル【草結び】は、農業ギルドの近くの花屋さんに置いてあった雑草(花)をもらって、花冠を編んでた時にもらった。敵に使うと、1%の確率で転ばせるんだって。確率低すぎない?

 ……編んだ花冠はどうなったかって? 僕の不器用さを忘れてもらっちゃ困るね。当然、鑑定したら【ゴミ】扱いになったよ! ……ひどい。

 まぁ、これで十二個のスキルが集まったので、【神級栽培】スキルと交換できる! 【自由曲芸】スキルはバトルで結構恩恵を感じたから、交換に使うか悩んでるんだけど。

 詠唱破棄スキルとか、他にも色々と欲しいスキルがあるから、いらないスキル集めは継続してがんばっていきます。

「モモ? 種できたよ」
「ありがとー」

 マナさんに象の花の種をもらった。全部で十粒ある。たくさん育てられるね。

――――――
【象の花の種】レア度☆☆☆
 種化スキルを使って作られた種。花が咲くまでに一日以上かかる。朝に咲き、夜には萎むが、植えたままならば、翌朝に再び咲く。
――――――

 これ、普通に植えてても種にならないやつだ。やっぱり種化スキルも必要だなぁ。

「これで【成長促進剤】を作って、【上級栽培】以上のスキルを使えば、幻桃ラールペシェを育てられるはずだよ。幻桃ラールペシェの種は、食べたり、料理に使ったりした後に手に入るらしいよ。育てるのがんばってね」
「うん、協力ありがとう! 幻桃ラールペシェを採れたら、マナさんにもプレゼントするね!」
「それは楽しみだね」

 にこっと笑ったマナさんとお別れ。
 早速スキルの交換をして、農地で作業するぞー!


******

◯NEWアイテム
【象の花】レア度☆☆☆
 小象タイニーエレフが育てている花。朝日と共に開花し、日が沈むと萎む。作物の成長を促進させる効果がある。

【象の花の種】レア度☆☆☆
 種化スキルを使って作られた種。花が咲くまでに一日以上かかる。朝に咲き、夜には萎むが、植えたままならば、翌朝に再び咲く。

◯NEWスキル
【転がる】
 転がって敵にぶつかると、物理攻撃力に+1した威力でダメージを与える。

【泥遊び】
 半径十メートルを五分間泥地に変える。対象域内での素早さが下がる。

【穴掘り】
 穴掘りをするとより深く、速く掘れる気がする。バトル中に使うと、穴を掘って地中に隠れることも可能。

【指振り】
 指を振るとランダムでバフ・デバフが生じる。スキルを掛ける対象は、使用者を含めてランダム。

【喜びの舞】
 気分が上昇する。

【草結び】
 敵に使うと、1%の確率で転ばせる。

******
しおりを挟む
感想 1,067

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...