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美味を求めて

60.ハーレム……じゃないよ

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 本日晴天なり。
 ホームの窓から外を眺め、ぐいっと背伸びをする。

「――絶好の、カフェ日和ですな!」

 カフェに天気は関係ない?
 あるよ! 外が明るいと、カフェで過ごすテンションが違うもん。

 まぁ、今のところ、この世界で天気が悪くなったことないんだけどね。

「まずは毛繕い~」

 スキルを使って身だしなみを整え、街歩き用の服に着替える。
 気合いが入ってるのは、今日が桃カフェでの写真撮影の日だから。可愛く写りたいよね!

「……あ、でも、裸ん坊の方が人気あったりする?」

 タマモを初め、桃カフェに集まるみんなは『もふもふ好き、いわゆるモフラー』っていうタイプばっかりらしい。
 それなら、全身でもふもふを示せる裸ん坊の方が好ましいかもしれない。

「行ってから考えよ」

 脱ぎ着するのは簡単だし。悩むのが面倒くさくなっちゃった。
 空腹度は半分くらい減ってる。桃カフェで食べるだろうから、このまま行ってもいいんだけど――。

「……時間あるし、料理しよう!」

 着たばかりだったけど、料理用の服にチェンジ。シェフっぽくて、テンション上がる~。

「な~につくろ、なにつくろっかな~♪」

 るんるん、と歌いながらアイテムボックスから食材を取り出す。
 農地で採れた野菜と果物です! 前回はいらないスキル入手を時間いっぱいがんばったから、全然料理できてなかったんだ。

「――野菜と果物のサラダ!」

 一品目をちゃちゃっと作り終える。
 トマトとパプリカ、りんご、オレンジで彩り鮮やかなサラダは美味しそう。掛けているのは柚子を使った和風ドレッシングだよ。

 作り終えた料理を食料ボックスにしまって、次の料理に取り掛かる。

「――野菜と魚介類のアヒージョ!」

 ……ニンニクが良い匂いで、お腹が空いた気がします。
 多めに作ったから、試食しよう。

「うっま~い! えび、ぷりっぷり!」

 添えているパンをオイルに浸して食べると、幸せな気分になる。

「――はっ……待って、ニンニク臭はダメじゃない!?」

 これからたくさんの人に会うのに、ニンニク臭をぷんぷんさせてるのは、僕のイメージを損なう。
 くんくん、と口臭チェック――。

「問題なさそう……?」

 現実と違って、影響は長引かない模様です。助かったー。
 安心したので料理を再開。

「グラタンとドリア、かんせ~い!」

 チーズが焼ける良い匂いがした。これも試食したいけど、我慢。食べ過ぎちゃいそうだから。

「乳製品も自分で作りたいなぁ。乳牛とかどこにいるんだろう? 味はクセがないから、牛系だと思うんだけど」

 ヤギ乳はクセが強いって聞いたことがある。
 街で買ったチーズやミルクなどの乳製品は、どれも食べ慣れた味がするから、街のどこかで酪農してると思うんだ。

 野生のモンスターの可能性もあるけど……バトル中に乳搾りはハードすぎるし、ありえるのはドロップアイテムかな?

「お次は――野菜スティック!」

 シンプルすぎる? 野菜が美味しいから問題ないでしょ。

「もっと見栄えがするものも必要かなー? んー……」

 考えた末に、ちょっと手の込んだものを作ることにした。
 小麦粉を卵や乳製品、スムージー状にしたニンジンと混ぜて、型に入れて焼く!

「じゃじゃーん、ニンジンパウンドケーキ!」

 うさぎらしくていいのでは? タマモとか、喜んでくれそう。
 僕が今作ってるのは、集まってくれたみんなにあげるプレゼントなんだよ。

 ニンジンを使ったお菓子を量産しながら、るんるんと鼻歌を歌う。楽しい写真撮影会になるといいな~。


◇◆◇ 


 待ち合わせ場所は桃カフェ。
 タマモが僕のファンにおすすめしてくれたみたいで、普段からにぎわいが戻ってるらしいけど、今日は貸し切りです。

 ……グルメ大会で優勝しなくても、閉店危機はなくなったんじゃないかなって思うけど、異世界の住人NPCに広めないといけないのかな。プレイヤーは流動的だもんね。

「――おお?」

 桃カフェの窓から中を覗く。
 お客さんでいっぱいだー。これ全部、僕のファンの人? ……なんだか急に緊張してきたぞ。

 窓に映る自分の姿を見て、身だしなみの最終確認。毛並みは乱れてないけど、また毛繕いスキルを使っちゃう。ふわふわもふもふだよー。

 ふと、店内にいる人と目が合った。口元を両手で押さえて、僕の方をガン見してる。
 ――この窓、鏡みたいになってるけど、店内からは僕が丸見えじゃん!

「恥ずかしぃ……」

 悶えてたら、カランと音が聞こえた。

「モモさん! おしゃれした格好で、可愛らしくて眼福ですけど、そろそろ中にお入りになってください。みなさんお待ちかねですよ」

 タマモがにこにこと笑いながら促してくる。まだ羞恥心を消化できてないんだけど、待たせるのもダメだよね。

「……はい」

 開き直って、ぴょんっと店内に入ると、「きゃー」という黄色い歓声が上がる。……悲鳴じゃないってことでいいよね?

「おぉ……女の子ばっかり! 良い匂いがする空間になってるね!」
「良い匂いの元はスイーツですけどね」

 見た目の華やかさはスイーツに並ぶと思う。

 集まった人たちの種族はいろいろだけど、獣人族が多いのかな。獣人族は種類が多いから面白い感じになってる。
 犬系、猫系がオーソドックスみたいだけど、リスやタヌキっぽい尻尾の人もいて興味深い。

 タマモに席まで案内されて腰を落ち着けたら、視線をめちゃくちゃ感じた。

「――本日はビュッフェ形式にしてもらいました。食べたいものがあったら、近くの人にお声がけくださいね」

 そう言うと、タマモが期待に満ちた目を向けてくる。

「……そこのケーキを食べたいかな?」

 なんとなく望みが伝わってきたので、僕が食べたことがないケーキを指さす。タマモは嬉々とした感じで取りに行ってくれた。
 奉仕心が強すぎじゃない? わっさわっさ尻尾を振ってるから、喜んでるんだろうけど。

「みんなはピーチメルバを食べるの?」

 お隣の子に話しかけてみる。
 みんなのお皿にはピーチメルバが載ってるんだ。

「はわわっ……は、い! モモさんのおすすめだと聞いて、最初はこれを食べたいと、みなさん希望したらしいです……」

 なんか慌てさせてしまった。そして、僕の影響力が想像以上なことにびっくりする。
 まぁ、美味しいから、損はないか。

「そうなんだー。あ、名前は?」
「ミレイです。お話しするのは、初めまして……」

 はにかむように微笑む女の子は、ちょっと見覚えがある。

 前に屋台に並んでた時に視線を向けてきたから、手を振って愛嬌を振りまいたんだ。結果、なぜか奢ってもらうことになってたから記憶に強く残ってる。僕が買おうとしたら、前払いされてたんだ。
 バーじゃなくても「あちらのお客様に」ってことが起こるんだって初めて知ったよ。

 僕のファンだったんだねー。

「ちょっと前にご飯奢ってくれたよね? ありがとー。あそこのバーガー美味しかったよね」
「覚えてくれてたんですね……! 嬉しいです」
「なんかお礼をしようと思ってたんだけど――」

 作ってきた料理を渡そうかな、って思ってたら、そっと手が伸びてきた。

「でしたら、宜しければ握手を……」
「それでいいの?」

 伸ばされた手に、ぽふっとタッチしたら優しく控えめな感じに握られた。

「ふぁ……ふわふわ、もふもふ……」

 うっとりしてる。自慢の毛なので、喜んでもらえてなによりです。

「モモさん、持ってきましたよ! あーん、ってします?」
「しま……せんっ」

 タマモの誘惑に負けそうだったけど、踏ん張って打ち勝った。
 一度お願いしちゃったら、みんなからされる予感がひしひしとしてたから。さすがにそれは、ねぇ。僕は赤ん坊じゃないんだよ。

 ケーキは桃がたくさん載ってるショートケーキ。中にも桃が挟まれてる。美味しそー。

「では皆さん、いただきましょう。写真撮影は落ち着いてからにしますね!」
「はい! いただきます!」

 一番に声を上げたら、クスクスと笑い声が店内に満ちた。早く食べたいっていう思いが溢れちゃってたかな。
 みんなも口々に「いただきます」と言って食べ始めたから問題なし!

「うまうま……」

 ケーキは、さっぱりと甘さ控えめなクリームとふわふわスポンジが、しっとりとした桃の甘さとベストマッチ。やっぱりここのスイーツ、どれも美味しいなぁ。

 視線を感じながらもケーキに意識を奪われてたら、対面に座った人が「挨拶してもよろしいかしら?」と声を掛けてくる。
 同じテーブルに、五人の女の子が座ってるんだ。僕の隣はタマモとミレイ。対面の三人は初めて会う人たち。

「わたくし、メアリと申しますの。見ての通り種族は人間で、職業は治癒士、裁縫士ですわ」
「私はレナだよ。オオカミ族で、職業は剣士、鍛冶士。だけど、わりとタンク方面に育ててるから、盾も使う」
「ウチはユリ。タヌキ族で、職業は剣士、薬士や。小さめの剣を使ってる。言うたら斥候やな。いずれ罠解除とかも鍛えよ、思ってるんよ」

 おぉぅ、いきなり自己紹介三連発だった。ちょっと気圧されちゃった。でも、名前は覚えたよ。

「僕はモモ。魔術士で錬金術士だよー。種族は天兎アンジュラパっていうらしい」
「そうなんや。野生の天兎アンジュラパにも会ってみたいわー」

 ユリがニコニコと笑って言う。僕も会ってみたい。仲間だと思ってもらえるかな?

「あ、私はエルフで、職業は魔術士、裁縫士です……」

 ミレイも自己紹介してくれたけど、職業を教え合うのってそんなに重要なの? 教えてくれたからには覚えておくけど。

 僕が首を傾げてたら、タマモが口を開く。

「モモさん、よろしければ、このメンバーで桃探しに行きませんか?」
「えっ!?」

 桃探し? それって幻桃ラールペシェのことだよね。つまり、南の密林をパーティー組んで一緒に攻略してくれるってこと?

「――それは、すっごく嬉しい!」

 わーい、と手を上げて喜んだら、微笑ましそうに見つめられた。タマモとミレイは「はわわっ」となってるけど。

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