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美味を求めて

57.南の密林に初挑戦

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 第二の街南門にやって来た。ここはマナさんの農地が近くにあるんだけど、今はいないみたい。挨拶したかったんだけどなー。

「装備オッケー、アイテムボックスの中身は整理した! 怖いものなし!」

 アイテムボックスには体力回復薬と魔力回復薬、食料ボックスを入れてる。食料ボックス内には、これまで作ってきた料理【桃スムージー】【イチゴアイスバー】【マンゴープリン】【梨ジュース】【ぶどうゼリー】がいっぱい。

 甘いものばっかりなのは、空腹度が減少しにくくなる効果を重視しての結果。しょっぱい系は【スイカの漬物】が少しだけ。

 そして、なんといっても、僕の今の衣装は魔術士バージョンだ。テンション上がる!

「行くぞー!」

 周囲に誰もいないのをいいことに、一人で気合いの掛け声を上げてたら、農地から異世界の住人NPCが見てた。
 ……微笑ましそうな顔してるけど、ちょっと恥ずかしい。

 そそくさと南門に進む。

〈これより先、南の密林エリアです。門を出ますか?〉

 こんな問いかけされるんだ?
 閉じた門扉の前で聞こえてきたアナウンスにびっくりする。門衛さんいないなぁって思ってたんだけど、このシステムで自動制御してるってことかな?

「出るよー」
〈門扉が十秒間開きます。外側からの開閉には要請後十秒かかりますので、ご注意ください〉

 ゆっくりと門扉が開いていく。
 街に帰ってくる時は、駆け込みできないってことだろうな。モンスターに追われた状態で開けるな、ってことなのかも。

「――おおっ!」

 門扉が開いた先は、なんだか『森!』という感じだった。木の密度が濃い。そのせいで薄暗くなってて、視界が悪いって言われてることに納得する。

「うわー……足元も根っこがいっぱい……」

 うねうねとヘビのように根っこが地面を這っている。ここを歩くのは大変そうだし、バトルならなおさらだ。
 僕は飛翔フライで進むから、あんまり影響ないけど。

「びゅんびゅーん」

 木の上に飛んで、枝に着地しながら進む。他の種族じゃ、なかなかできない攻略法だよねー。

「――あ、第一モンスター発見!」

 バサッと音を立ててカラフルな鳥が樹上に飛び出してきた。これは絶対虹鳥ニジバードでしょ!

――――――
虹鳥ニジバード
 風属性モンスター。優雅に飛びながら羽を矢のように放って攻撃する。鋭いクチバシでの攻撃も特徴。得意属性【水】苦手属性【土】
――――――

「やっぱり。カラフルで綺麗だねー」
「キュルルルッ」
「あ、声はちょっと耳に痛い……」

 慌てず騒がず土魔術を唱える。

「ドッカンズシビシッ――【土の玉アースボール】!」

 早く詠唱破棄スキルがほしいです……。
 勝手に詠唱された言葉にテンションを下げながらも、虹鳥ニジバードを攻撃する。でも、放った土色の玉はあっさりと躱された。

「ええっ!? 素早さが高いタイプかぁ……」
「キュルッ!」

 次の詠唱を始めた時、虹鳥ニジバードからたくさんの羽が飛んでくる。まさしく矢のような勢いだ。

「ひえっ!? 怖っ、やーめーてー!」

 飛翔フライで飛んだり、枝に着地して方向転換したりして、なんとか躱す。これ、素早さが高くなかったら、結構ダメージ負っちゃってたやつだ。

 飛ぶ能力は虹鳥ニジバードの方が高いから、逃げるのも難しい。羽を避けながら、ガンガン攻撃するしかなさそうだ。

「そんなに羽を飛ばしたら、ハゲちゃうぞー!」
「キュルルッ!」
「うわっ、クチバシ攻撃、怖いっ! ドリルみたいじゃん! 怒ったの?」

 余計なことを言っちゃったみたい。
 飛ばした羽に紛れるように、虹鳥ニジバード自体がすごい勢いで飛んできたから、ほぼ墜落する勢いで躱した。ちょっと掠っちゃっただけで、ダメージ負ってるよぉ。

「魔術が当たらないー! 僕も一気にたくさん放てたら当てられるのに……!」

 レベル1の魔術は、虹鳥ニジバードと対峙するには力不足みたいだ。地道なレベリングの必要性を痛感した。

「もう土魔術にこだわらないよっ。とりあえず、当たればいい!」

 範囲攻撃火の矢ファイアーアローを放つ。それでようやく一発当てられた。あまり効果は高くないけど、ダメージを積み上げていけばいいんだよね。

 逃げて、攻撃して、躱して、隠れて。空中と樹上を縦横無尽に飛んで駆けて、ようやく虹鳥ニジバードが光になって弾けた。

虹鳥ニジバードを倒しました。経験値とアイテム【虹色の羽】【虹鳥ニジバードの肉】【鋭いクチバシ】を入手しました〉

「……ようやく、終わった……」

 肩で息をしながら、木の枝に腰掛ける。ちょっと休憩しよう。

 一体のモンスターにこんなに時間がかかるとは思わなかった。埴輪人形ハニワーレムとかの防御力高めのモンスターと違って、虹鳥ニジバードはとにかく攻撃を当てるのが難しかったなぁ。

「土魔術、範囲攻撃あるかなー。それとも素早さを上げるべき? 悩ましい……」

 うぅむ……と悩んでいたら、どこかからシュルシュルッと微かな音が聞こえてきた。これはもしや――?

「もう次のモンスターか! しかも、ヘビ! 可愛くマスコット化してても、怖いからね!」

 腰掛けてる木の枝にのぼってきたのは、人間くらいの大きさのヘビ。可愛いつぶらな目をしてるけど、牙の鋭さは見逃せないよ。

――――――
大食蛇イータスニー
 木属性モンスター。鋭い牙を持ち、噛みつく攻撃を繰り出す。毒の追加ダメージを与える。絞めつけ攻撃は行動阻害効果を持つ。得意属性【土】苦手属性【火】
――――――

「ヘビに絞めつけられるのヤダー!」

 叫んで火魔術を繰り出す。火の矢ファイアーアローを食らえ!

「シャーッ!」
「お、効果はバツグンだ!」

 のたうち回る大食蛇イータスニーから離れて、再び火の矢ファイアーアロー虹鳥ニジバードより戦いやすいかもしれない。

「――というか、虹鳥ニジバードが強すぎた?」

 攻撃を躱しては魔術を放つ、という行動を繰り返して、無事倒せた。敵が飛ばないっていうだけで、倒しやすいよね。僕がほぼ一方的に攻撃できた感じがする。

 空を行くと虹鳥ニジバードとまた会うかもしれないから、地上を行くのがいいのかな?

 地面におりて、飛翔フライで低空飛行しながら進む。大食蛇イータスニーとか色々、モンスターが出てくるけど、虹鳥ニジバードほど倒しにくくはない。
 やっぱり地上を行くのが正解なんだね。

「うわっ、沼地ってここかー……」

 ドワッジさんが言ってた、南の密林の沼地エリアに到着した。泥で汚れたくないなぁ。実際に汚れが付くわけじゃないけど、気分的に?

「ここは飛んで越えようかな」

 着地点を探して、距離を測っていけると判断する。

「よっし、飛翔フライ……っ!」
「ゲロッ!」

 カエルが沼地から飛び出してきてびっくりした。思わず垂直に飛び上がって、近くの木の枝に着地する。

「あー……鳴蛙バークフロッグかー……」

 お肉屋さんで見たモンスターだ。お肉は唐揚げにして食べたよ。淡白な感じだったけど、鶏肉とはちょっと違った風味があって、美味しかった。

「倒そう」

 食材ゲットするぞー!
 というわけで、風魔術で攻撃。風魔術のレベルも上げたいから、ちょうどいいね。

「ゲロロッ!」
「うるさっ!?」

 脳みそが揺さぶられるような衝撃を感じた。そういえば、こいつ衝撃波で攻撃してくるって鑑定結果に出てたや……。

「耳栓作っておけば良かったぁ!」

 半泣きで攻撃を続ける。錬金術で耳栓っていうレシピがあったんだよ。つい後回しにしちゃって、作り忘れてたけど。

 衝撃波で受けるダメージを体力自動回復スキルと天からの祝福アンジュブレスで回復しながら、なんとか鳴蛙バークフロッグを倒した。

「……沼地、避けよう」

 虹鳥ニジバードの次に倒すのが大変だったので、遠回りすることを決めた。鳴蛙バークフロッグの声は、当分聞きたくない!

 沼地から離れて進む。予想していた以上に、結構攻略できてる気がする。適度なところで転移スキルを使って帰還すれば、死に戻りはしないで済みそうかなー。

 ――ぁ……っ、こ、の……!

「ん?」

 なんか聞こえた。人の声っぽいけど、他のプレイヤーが近くにいるのかな。
 ちょっと気になったので、声の方に向かってみる。

「——っ、もう、しつこいですねっ!」
「おおっ! カッコいいー!」

 木々の合間から、大食蛇イータスニーに向かって掌底打ちが決まった光景が見えた。その動きで翻る朱色の袖が綺麗だ。ふわふわな尻尾が興奮を示すようにバッと広がってる。

「え、モモさん?!」
「タマモ、こんにちはー」

 タマモは大食蛇イータスニーを倒して、その姿が消えるのを確認する前に僕を振り返った。目が真ん丸になってる。

「あぁ……はしたないところを見られてしまいました……」
「カッコよかったよ?」

 袖で顔を覆って嘆いてるタマモに首を傾げる。体術士らしい戦いっぷりだったと思うんだけどな?


******

◯NEWモンスター
虹鳥ニジバード
 風属性モンスター。優雅に飛びながら羽を矢のように放って攻撃する。鋭いクチバシでの攻撃も特徴。得意属性【水】苦手属性【土】

大食蛇イータスニー
 木属性モンスター。鋭い牙を持ち、噛みつく攻撃を繰り出す。毒の追加ダメージを与える。絞めつけ攻撃は行動阻害効果を持つ。得意属性【土】苦手属性【火】

鳴蛙バークフロッグ
 水属性モンスター。大声で鳴き、脳を揺さぶるような衝撃波で攻撃する。得意属性【火】苦手属性【風】

◯NEWアイテム
【虹色の羽】レア度☆
 七色に光り輝く羽。生産用素材になる。

虹鳥ニジバードの肉】レア度☆
 料理の素材になる。

【鋭いクチバシ】レア度☆☆
 尖った鈍色のクチバシ。生産用素材になる。

******
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