55 / 268
美味を求めて
51.桃いっぱいで幸せ
しおりを挟む
本日もログインです。
ホームの部屋は、インテリアを増やした結果、生活感が出てきて過ごしやすくなった。やっと馴染んだな~。
「今日は街探索を楽しもう!」
第二の街に着いてから、ほぼ農作業しかしてない。おかげで作物は充実してきたし、それが楽しかったけどさ。
今植えている作物は、ニンジンとかの野菜各種に果樹、薬草、魔力草などなど。収穫が楽しみ。
バトルフィールドで種や苗が手に入るらしいって噂をルトから聞いたので、探しに行きたい気持ちもあるんだけど、まずは街を楽しみたい。
「桃っ、桃~、桃カフェだ~よ~」
歌いながら街を進む。
前にフルーオさんに教えてもらった桃カフェに行きたいのだ。確か『桃カフェ・ピーチーズ』っていう名前。
桃をたっぷり楽しめそうな予感がする。
「お、ウサっ子、桃スイーツ食いたいのか?」
「僕に言ってる?」
「アンタしかウサギはいないだろ」
声を掛けられたので足を止め、ハハッと笑う男の人を眺める。たぶん顔見知りじゃない。なんで声かけられたんだろ?
「桃スイーツは食べたいけど、それがなに?」
「いや、俺のダチがやってる店が、桃フェア中なんだよ。美味いから教えてやろうと思ってな」
「おお! そうなんだ。ありがとう。なんていうお店?」
「『ナンバーワン・スイーツフル』だ」
地図を渡された。
自分から一番って言っちゃうタイプのお店かぁ。スイーツが美味しいならいいけど。
「王国一のチェーン店だぞ」
「チェーン店なんかい!」
思わずズッコケた。てっきりこの街に根ざした有名なお店なんだと思ったよ。チェーン店が悪いとは言わないけどさ。ちょっぴり気分が下がる。
「――とりあえず行ってみるよ。教えてくれてありがと」
「おう。くれぐれも『桃カフェ・ピーチーズ』ってとこには行くなよ。あそこ、先代が亡くなってから、味が落ちたらしいからな!」
「え?」
男から去り際にもたらされた情報に、きょとんと目を丸くする。
フルーオさんはおすすめって言ってたけど、実は違うの? 先代って人がいつ亡くなったか知らないけど、昔からの付き合いがあって薦めてただけなのかな。
「……ま、どっちも行けばいいか」
桃ならいくらでも食べられるもんね~。
てくてく歩いて進む。見えてきたのは『ナンバーワン・スイーツフル』って書かれた看板だ。大通りに面した店なだけあって、繁盛してるみたい。
桃のイラストが描かれたのぼりがあって、テンション上がってきた。
扉を開けるとすぐに、店員に「お一人様ですか?」と聞かれる。なんかファミレスっぽいな。
「一人だよ」
「ではこちらのお席へどうぞ」
案内されたのはカウンター席。テーブル席はほとんど埋まってたし、別にいいんだけど、椅子の高さ的に微妙に落ち着けない感じがする。
桃フェアの内容は、パフェとパンケーキ、アイスだった。たくさん桃がのってるし、美味しそうな写真だ。
「ご注文はお決まりですか?」
「桃のパフェを一つ」
注文してしばらく待つ。
到着した桃パフェは、やっぱりファミレスとかでよく見る感じ。クリームを覆い隠すように並んでる桃を食べると、甘さをよく感じられて美味しい。バニラアイスと桃のシャーベット、木苺のアイスも冷たくてさっぱりする。
「……底はコーンフレークがいっぱい」
コーンフレークは嫌いじゃないけど、多すぎるとちょっぴり損した気分になるよね。上のアイスとかクリームとかと食べ進める分量調整が難しい。
「あ、一番下は桃のピューレだ」
テンション上がった。これが一番桃の味が濃くて美味しいかも。
「――……わざわざ呼び止めて教えるほどかな?」
食べ終えて首を傾げる。
美味しいのは間違いないけど、それは桃自体が美味しいから。スイーツとしての工夫はあまり感じない。
パフェってそんなもんだよ、って言われたらそれまでだけど。
「次行くか~」
待ってるお客さんもいるみたいだし、さっさとお金を払って退店。
「桃カフェ、味が落ちたらしいね~」
「ペシェリーさんが亡くなったからね。娘さんが後を継いだって聞いたけど」
「娘さんも王都でパティシエしてたんじゃないの?」
「でも、王国一のパティシエだったペシェリーさんの後だと、劣った感じがしてもしかたないんじゃない?」
お客さんの会話をなんとなく聞いてしまう。
桃カフェ、元は王国一のパティシエさんがしてたのか。それは食べてみたかったなぁ。
そんなことを考えながら、大通りから逸れて進む。桃カフェは奥まったところにあるみたいなんだ。
「あ、ここか」
レトロ感のある店構え。看板にはお洒落な感じで『桃カフェ・ピーチーズ』って書かれてる。
扉を開けたら、カランッと軽やかな音がした。いいねー、エモいってやつだよ。
「っ、いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
「うん」
「では、こちらへ。……別の椅子をお持ちしますね!」
店員の女の子がニコッと笑う。
ここはテーブル席ばかりで、お客さんは一組しかいなかった。老年のご夫婦が紅茶と一緒にケーキを食べてる。
なんか穏やかな雰囲気で居心地が良い。
「こちらをお使いください」
テーブル席に用意してもらったのは、子ども用の高めの椅子。これならゆったり座っても、テーブルに手が届く。気配り上手だなぁ。
「ありがとう」
ぴょんと飛び乗って、メニューを眺める。革表紙のしっかりした作りのメニュー表は、それだけでなんだかテンションが上がった。大人になった気分?
「――おすすめはある?」
桃カフェ、という店名だけあって、桃を使ったメニューがたくさんあった。
スイーツだけじゃなくて、サラダとか軽食とか、こんな感じで桃を使えるのかって驚いちゃう。桃ってパスタにも使えるんだ? スープも美味しそうだなぁ。
「軽食でしたらサンドウィッチセットがおすすめです。ミックスサンドと桃のフルーツサンド、ドリンク付きになってます。スイーツでしたら、桃カフェのスペシャリテがおすすめです。ピーチメルバとピーチカヌレ、シュークリームが載ったプレートになっています」
スペシャリテというからには、この店の代表メニューってことだよね。
「じゃあ、桃カフェのスペシャリテを一つ」
「はい。少々お待ちください」
ニコッと笑った女の子が厨房に去っていく。
「パティエンヌちゃんは、ペシェリーが亡くなって大変なのに、笑顔で健気だねぇ」
「随分と悪評も立てられてるっていうのに。なんであんな良い子が苦労しなきゃいけないんだか」
「あの一番みたいな名前の店は、あくどいことをするもんだよ……」
老夫婦が女の子の後ろ姿を見て目を細めてる。昔なじみのお客さんなのかな。
ただの店員さんだと思ってた女の子が、このお店を切り盛りしてるっぽいことを言ってて、ちょっと驚いた。
パティエンヌちゃんかー。見た目はまだ十代って感じ。王都でパティシエをしてたらしいから、もうちょっと年上かもしれないけど。カフェラテみたいな髪色で、ほんわかした印象だ。
それにしても、悪評って……あれかな。「先代が亡くなって味が落ちた」ってやつ?
わざわざ呼び止めてきた男の人もそんなこと言ってた。というか、あの人が積極的に悪評を広めてるんじゃないかな?
食べてみなきゃ、実際にその評価がどうなのかはわからないけど。
「お待たせしました。桃カフェのスペシャリテです」
「おお! 美味しそう!」
届いたのは、真っ白なお皿に三つのスイーツが載ったものだった。
ピーチメルバは、甘く煮た桃にバニラアイスが添えられて、ラズベリーソースが掛かってる。甘い桃の香りが、もう美味しい感じがする。
ピーチカヌレは、見た目は普通のカヌレに生クリームが添えられたもの。中に桃が入ってるのかな?
シュークリームは、シュー生地の中に、生クリームとカスタード、生の桃、ジャムが入ってるみたい。これも美味しそう!
「まずはピーチメルバ!」
桃とアイスをラズベリーソースに絡めてパクリと食べる。
「――うっまーい!」
びっくりした。想像の百倍美味しい。バニラアイスは濃厚だけど、桃の味を邪魔しなくて。桃は甘く煮てあるけど、しっかりと桃らしい味が残ってて。ラズベリーソースは甘酸っぱくて、味を引き締めてくれる。
最高のスイーツだね! これまで食べた桃スイーツで一番美味しいかもしれない。
「ふふっ、喜んでもらえてよかったです」
パティエンヌちゃんがにこにこと微笑んだ。
「すっごく美味しいよ! こんな美味しいの作れるなんて、すごいねー」
「……父が残してくれたレシピがありますから。でも――」
「うまうま」
美味しすぎて止まらない。あっという間になくなっちゃうのが寂しいよ。
まぁ、スイーツはあと二つ残ってるんだけど。
カヌレは予想通り中に桃が入ってて、しっとりもちっとした感じだった。ラム酒はほどよい風味で、桃の甘さを引き立てる。ピーチメルバとは違う桃を使ってるのかな? 飽きがこないな~。
シュークリームは見た目よりクリームがさっぱりしてて、桃とジャムがシュー生地とよく合う! ペロッと食べちゃった。
「――美味しかった!」
これに悪評が立つって、どう考えても嫌がらせじゃない?
僕はナンバーワン・スイーツフルのパフェより好きだな~。
「そう言っていただけることが、パティシエにとって一番の喜びです」
ふわりと微笑むパティエンヌちゃんに握手を求める。
「一流のパティシエさん、美味しいスイーツをありがとう。特に、このピーチメルバ、大好きになったよ」
「ありがとうございます。私、パティエンヌと申します。ピーチメルバは亡き父が残してくれたレシピをアレンジしたものなんですよ。本当は幻桃という桃で作るのですが、生産されなくなってしまって……」
パティエンヌちゃんは、ちょっと落ち込んだ感じだった。幻桃かぁ。それで作ったら、もっと美味しくなるのかな?
「その幻桃って、どこで採れるの?」
「南の密林に果樹があると、聞いたことはありますが」
きょとんとするパティエンヌちゃんに、うんうんと頷く。
南の密林、行ってみてもいいかもしれない。
「幻桃で作ったピーチメルバは、もっと美味しい?」
「……それは、もう! 本当に美味しいんですよ! 父が作ってくれたピーチメルバを食べると、幸せいっぱいで、天国にいるような心地がしたんです。あれを作れたら、グルメ大会で優勝できるかも。そうしたら、このお店だって……」
キラキラと目を輝かせたと思ったら、しょんぼりと肩を落とす。パティエンヌちゃん、なんかお困りですね? 悪評立てられてて、困ってないはずがないけど。
「グルメ大会?」
「はい。この街の一大イベントですよ。食事部門、スイーツ部門に分かれて、一番美味しいグルメを決めるんです」
「へぇ。それで優勝したら、どうなるの?」
「知名度アップ、お客さんいっぱい。そうなったら、お店をやめなくてすむかも……あっ!」
ハッとした感じで口を押さえてる。
なるほど。このお店、閉店の危機にある感じか。お客さん少ないもんね。
う~ん、と悩んだけど、もう心はほとんど決まってた。
難しいことはわかんないけど、僕は幻桃で作ったピーチメルバを食べてみたい。だから幻桃を探しに行こう!
ホームの部屋は、インテリアを増やした結果、生活感が出てきて過ごしやすくなった。やっと馴染んだな~。
「今日は街探索を楽しもう!」
第二の街に着いてから、ほぼ農作業しかしてない。おかげで作物は充実してきたし、それが楽しかったけどさ。
今植えている作物は、ニンジンとかの野菜各種に果樹、薬草、魔力草などなど。収穫が楽しみ。
バトルフィールドで種や苗が手に入るらしいって噂をルトから聞いたので、探しに行きたい気持ちもあるんだけど、まずは街を楽しみたい。
「桃っ、桃~、桃カフェだ~よ~」
歌いながら街を進む。
前にフルーオさんに教えてもらった桃カフェに行きたいのだ。確か『桃カフェ・ピーチーズ』っていう名前。
桃をたっぷり楽しめそうな予感がする。
「お、ウサっ子、桃スイーツ食いたいのか?」
「僕に言ってる?」
「アンタしかウサギはいないだろ」
声を掛けられたので足を止め、ハハッと笑う男の人を眺める。たぶん顔見知りじゃない。なんで声かけられたんだろ?
「桃スイーツは食べたいけど、それがなに?」
「いや、俺のダチがやってる店が、桃フェア中なんだよ。美味いから教えてやろうと思ってな」
「おお! そうなんだ。ありがとう。なんていうお店?」
「『ナンバーワン・スイーツフル』だ」
地図を渡された。
自分から一番って言っちゃうタイプのお店かぁ。スイーツが美味しいならいいけど。
「王国一のチェーン店だぞ」
「チェーン店なんかい!」
思わずズッコケた。てっきりこの街に根ざした有名なお店なんだと思ったよ。チェーン店が悪いとは言わないけどさ。ちょっぴり気分が下がる。
「――とりあえず行ってみるよ。教えてくれてありがと」
「おう。くれぐれも『桃カフェ・ピーチーズ』ってとこには行くなよ。あそこ、先代が亡くなってから、味が落ちたらしいからな!」
「え?」
男から去り際にもたらされた情報に、きょとんと目を丸くする。
フルーオさんはおすすめって言ってたけど、実は違うの? 先代って人がいつ亡くなったか知らないけど、昔からの付き合いがあって薦めてただけなのかな。
「……ま、どっちも行けばいいか」
桃ならいくらでも食べられるもんね~。
てくてく歩いて進む。見えてきたのは『ナンバーワン・スイーツフル』って書かれた看板だ。大通りに面した店なだけあって、繁盛してるみたい。
桃のイラストが描かれたのぼりがあって、テンション上がってきた。
扉を開けるとすぐに、店員に「お一人様ですか?」と聞かれる。なんかファミレスっぽいな。
「一人だよ」
「ではこちらのお席へどうぞ」
案内されたのはカウンター席。テーブル席はほとんど埋まってたし、別にいいんだけど、椅子の高さ的に微妙に落ち着けない感じがする。
桃フェアの内容は、パフェとパンケーキ、アイスだった。たくさん桃がのってるし、美味しそうな写真だ。
「ご注文はお決まりですか?」
「桃のパフェを一つ」
注文してしばらく待つ。
到着した桃パフェは、やっぱりファミレスとかでよく見る感じ。クリームを覆い隠すように並んでる桃を食べると、甘さをよく感じられて美味しい。バニラアイスと桃のシャーベット、木苺のアイスも冷たくてさっぱりする。
「……底はコーンフレークがいっぱい」
コーンフレークは嫌いじゃないけど、多すぎるとちょっぴり損した気分になるよね。上のアイスとかクリームとかと食べ進める分量調整が難しい。
「あ、一番下は桃のピューレだ」
テンション上がった。これが一番桃の味が濃くて美味しいかも。
「――……わざわざ呼び止めて教えるほどかな?」
食べ終えて首を傾げる。
美味しいのは間違いないけど、それは桃自体が美味しいから。スイーツとしての工夫はあまり感じない。
パフェってそんなもんだよ、って言われたらそれまでだけど。
「次行くか~」
待ってるお客さんもいるみたいだし、さっさとお金を払って退店。
「桃カフェ、味が落ちたらしいね~」
「ペシェリーさんが亡くなったからね。娘さんが後を継いだって聞いたけど」
「娘さんも王都でパティシエしてたんじゃないの?」
「でも、王国一のパティシエだったペシェリーさんの後だと、劣った感じがしてもしかたないんじゃない?」
お客さんの会話をなんとなく聞いてしまう。
桃カフェ、元は王国一のパティシエさんがしてたのか。それは食べてみたかったなぁ。
そんなことを考えながら、大通りから逸れて進む。桃カフェは奥まったところにあるみたいなんだ。
「あ、ここか」
レトロ感のある店構え。看板にはお洒落な感じで『桃カフェ・ピーチーズ』って書かれてる。
扉を開けたら、カランッと軽やかな音がした。いいねー、エモいってやつだよ。
「っ、いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
「うん」
「では、こちらへ。……別の椅子をお持ちしますね!」
店員の女の子がニコッと笑う。
ここはテーブル席ばかりで、お客さんは一組しかいなかった。老年のご夫婦が紅茶と一緒にケーキを食べてる。
なんか穏やかな雰囲気で居心地が良い。
「こちらをお使いください」
テーブル席に用意してもらったのは、子ども用の高めの椅子。これならゆったり座っても、テーブルに手が届く。気配り上手だなぁ。
「ありがとう」
ぴょんと飛び乗って、メニューを眺める。革表紙のしっかりした作りのメニュー表は、それだけでなんだかテンションが上がった。大人になった気分?
「――おすすめはある?」
桃カフェ、という店名だけあって、桃を使ったメニューがたくさんあった。
スイーツだけじゃなくて、サラダとか軽食とか、こんな感じで桃を使えるのかって驚いちゃう。桃ってパスタにも使えるんだ? スープも美味しそうだなぁ。
「軽食でしたらサンドウィッチセットがおすすめです。ミックスサンドと桃のフルーツサンド、ドリンク付きになってます。スイーツでしたら、桃カフェのスペシャリテがおすすめです。ピーチメルバとピーチカヌレ、シュークリームが載ったプレートになっています」
スペシャリテというからには、この店の代表メニューってことだよね。
「じゃあ、桃カフェのスペシャリテを一つ」
「はい。少々お待ちください」
ニコッと笑った女の子が厨房に去っていく。
「パティエンヌちゃんは、ペシェリーが亡くなって大変なのに、笑顔で健気だねぇ」
「随分と悪評も立てられてるっていうのに。なんであんな良い子が苦労しなきゃいけないんだか」
「あの一番みたいな名前の店は、あくどいことをするもんだよ……」
老夫婦が女の子の後ろ姿を見て目を細めてる。昔なじみのお客さんなのかな。
ただの店員さんだと思ってた女の子が、このお店を切り盛りしてるっぽいことを言ってて、ちょっと驚いた。
パティエンヌちゃんかー。見た目はまだ十代って感じ。王都でパティシエをしてたらしいから、もうちょっと年上かもしれないけど。カフェラテみたいな髪色で、ほんわかした印象だ。
それにしても、悪評って……あれかな。「先代が亡くなって味が落ちた」ってやつ?
わざわざ呼び止めてきた男の人もそんなこと言ってた。というか、あの人が積極的に悪評を広めてるんじゃないかな?
食べてみなきゃ、実際にその評価がどうなのかはわからないけど。
「お待たせしました。桃カフェのスペシャリテです」
「おお! 美味しそう!」
届いたのは、真っ白なお皿に三つのスイーツが載ったものだった。
ピーチメルバは、甘く煮た桃にバニラアイスが添えられて、ラズベリーソースが掛かってる。甘い桃の香りが、もう美味しい感じがする。
ピーチカヌレは、見た目は普通のカヌレに生クリームが添えられたもの。中に桃が入ってるのかな?
シュークリームは、シュー生地の中に、生クリームとカスタード、生の桃、ジャムが入ってるみたい。これも美味しそう!
「まずはピーチメルバ!」
桃とアイスをラズベリーソースに絡めてパクリと食べる。
「――うっまーい!」
びっくりした。想像の百倍美味しい。バニラアイスは濃厚だけど、桃の味を邪魔しなくて。桃は甘く煮てあるけど、しっかりと桃らしい味が残ってて。ラズベリーソースは甘酸っぱくて、味を引き締めてくれる。
最高のスイーツだね! これまで食べた桃スイーツで一番美味しいかもしれない。
「ふふっ、喜んでもらえてよかったです」
パティエンヌちゃんがにこにこと微笑んだ。
「すっごく美味しいよ! こんな美味しいの作れるなんて、すごいねー」
「……父が残してくれたレシピがありますから。でも――」
「うまうま」
美味しすぎて止まらない。あっという間になくなっちゃうのが寂しいよ。
まぁ、スイーツはあと二つ残ってるんだけど。
カヌレは予想通り中に桃が入ってて、しっとりもちっとした感じだった。ラム酒はほどよい風味で、桃の甘さを引き立てる。ピーチメルバとは違う桃を使ってるのかな? 飽きがこないな~。
シュークリームは見た目よりクリームがさっぱりしてて、桃とジャムがシュー生地とよく合う! ペロッと食べちゃった。
「――美味しかった!」
これに悪評が立つって、どう考えても嫌がらせじゃない?
僕はナンバーワン・スイーツフルのパフェより好きだな~。
「そう言っていただけることが、パティシエにとって一番の喜びです」
ふわりと微笑むパティエンヌちゃんに握手を求める。
「一流のパティシエさん、美味しいスイーツをありがとう。特に、このピーチメルバ、大好きになったよ」
「ありがとうございます。私、パティエンヌと申します。ピーチメルバは亡き父が残してくれたレシピをアレンジしたものなんですよ。本当は幻桃という桃で作るのですが、生産されなくなってしまって……」
パティエンヌちゃんは、ちょっと落ち込んだ感じだった。幻桃かぁ。それで作ったら、もっと美味しくなるのかな?
「その幻桃って、どこで採れるの?」
「南の密林に果樹があると、聞いたことはありますが」
きょとんとするパティエンヌちゃんに、うんうんと頷く。
南の密林、行ってみてもいいかもしれない。
「幻桃で作ったピーチメルバは、もっと美味しい?」
「……それは、もう! 本当に美味しいんですよ! 父が作ってくれたピーチメルバを食べると、幸せいっぱいで、天国にいるような心地がしたんです。あれを作れたら、グルメ大会で優勝できるかも。そうしたら、このお店だって……」
キラキラと目を輝かせたと思ったら、しょんぼりと肩を落とす。パティエンヌちゃん、なんかお困りですね? 悪評立てられてて、困ってないはずがないけど。
「グルメ大会?」
「はい。この街の一大イベントですよ。食事部門、スイーツ部門に分かれて、一番美味しいグルメを決めるんです」
「へぇ。それで優勝したら、どうなるの?」
「知名度アップ、お客さんいっぱい。そうなったら、お店をやめなくてすむかも……あっ!」
ハッとした感じで口を押さえてる。
なるほど。このお店、閉店の危機にある感じか。お客さん少ないもんね。
う~ん、と悩んだけど、もう心はほとんど決まってた。
難しいことはわかんないけど、僕は幻桃で作ったピーチメルバを食べてみたい。だから幻桃を探しに行こう!
1,573
お気に入りに追加
3,076
あなたにおすすめの小説
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します
青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。
キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。
結界が消えた王国はいかに?
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる