上 下
12 / 154
はじまりの街

12.成長特典はうまうま

しおりを挟む
 アナウンスはまだ終わってなかった。

〈種族レベルが上がったため、種族固有スキル【天からの祝福アンジュブレス】を獲得しました〉

 ほえ? 種族固有スキルってなに?

〈戦闘中の行動により、スキル【決死の覚悟】【見切り】を獲得しました〉

 次々くる! それだけ草原狼プレアリーウルフが強敵だったってこと? 確かに僕は一体倒すだけで精いっぱいだったけど。
 初心者の最初の難関なのかも。僕はカミラにほぼおんぶに抱っこだったもんな。

〈火魔術がレベル2になりました。火の矢ファイアーアローを覚えました〉

 使える魔術が増えた! でも、火魔術だけ? 確かにわかりやすく効果が見えて強そうに感じるから、跳兎ジャンプラビ狩りでも多用してたもんなぁ。

飛翔フライがレベル2になりました。滞空可能時間が十五秒になります〉

 じ、地味な変化……。ありがたいけどね。効果がきれそうになる度に、一回着地してかけ直すの大変だし。

 アナウンスはこれで終わったみたい。
 内容を確認したいけど、ここは草原狼プレアリーウルフのテリトリーなんだよなぁ。いつ襲ってくるかわかんないとこでは落ち着いてられない……。

「モモ。戦闘指南は終わりでいい?」
「うん、ありがとう。すごく助かりました」

 ペコリ、と頭を下げる。
 本当にお世話になりました。できたらこれからも仲良くしてほしいなー?

 ちょっと窺う感じでカミラを見る。苦笑された。

「聞きたいことがあったら声をかけて。しばらくはあの街を拠点にしてる」

 フレンドにはなれないみたい。まだ交流が足りないのかなー。残念だけど、今後の楽しみにしよ。

「わかったよ。また会えるの楽しみにしてる」

 そう答えたところで、目の前がグワッと歪む感覚がした。

〈チュートリアルを終了します。冒険者ギルドに転移します〉



 気づいたら冒険者ギルドの中。たくさんの人がいてうるさい。カミラは……いないな。
 しょんぼり。もっとちゃんとお別れしたかった。

「終わりが唐突すぎる……」

 ぽつん、と突っ立っていたら、誰かに蹴られた。痛くないけど、衝撃で前に転がっちゃう。

「あ? 今、なんか……?」
「こんにゃろー! 蹴りやがったなー!」

 首を傾げて歩き去っていくプレイヤーの後ろ姿に向かって叫ぶ。その声すら周囲の音にかき消されちゃったみたいだけど。

 ……ここ、フィールドより危険。
 そろそろ宿探しに行くかー。ステータス確認したらログアウトして休憩しよ。

 混雑した中をなんとか潜り抜け、冒険者ギルドの外に出る。ここも人が多いから即退散。

 みんなパーティー募集を張り切ってるみたいだなー。僕もいつかはパーティーを組みたいけど、今は自分の能力把握が優先だよね。


 一人でトテトテ歩く。
 マップにあった宿を探してるんだ。これ、アリスちゃんがくれた地図に載ってたやつだから、穴場なんじゃないかなー。普通の宿はもうほとんど埋まってそうだもん。

「あった! 可愛い宿だなー」

 大通りから外れたとこにあった宿は、屋根の形とかが丸っこくて可愛らしい。
 中で受付にいたのは、十代の女の子っぽい。高いところで結んだポニーテールが、溌剌とした印象でいいね。

「こんにちはー」
「え、もしかして旅人さん?」
「さっき冒険者になったよ」
「まさかここに来るなんてびっくり。人じゃないお客様なんて迎えたことないんだけど」

 まじまじとみつめられる。驚くのは無理もない。モンスターの見た目だし。ここ、基本的にはプレイヤーが入れないエリアみたいだし。

「誰に聞いてきたの?」
「薬屋さんとこのアリスちゃん」
「ああ、そうなんだ!」

 ちょっと表情が緩んだっぽい。知り合いかな?

「——あたし、ジルよ。母がここの女将をしてるの。今日はたまたま店番になったのよ。アリスは従姉妹なの」
「そうなんだ! 言われてみたら似てるかも……? 僕はモモだよ。部屋は空いてる?」
「ええ。部屋の大きさは……一番狭いとこにする?」
「お安い?」
「街一番の安さよ」

 こっちから要求しなくても提案してくれるとは、良心的! 僕のサイズだったら、大きな部屋は無駄だもんね。

「おいくらですか?」
「一泊食事なしで百リョウよ。長く滞在する時は事前にまとめてお金を払ってね。事情があれば後払いもオッケーよ」
「はーい。とりあえず、一泊」

 百リョウを渡す。代わりにカギをもらった。

「部屋は二階に上がって一番奥よ」
「ありがとー」

 そのまま階段に向かおうと思ったけど、ジルの目がキラキラしてることに気づいて立ち止まった。どうしたのかな?

「あの……失礼を承知で聞くんだけど……撫でてもいい?」
「あ、なるほど」

 ジルはもふもふ好き、いわゆるモフラーでしたか。僕、魅力的なもふもふだもんね!

「ダメならそう言って!」
「ううん、いいよー」

 答えた途端、ジルは「きゃー」と歓声を上げて僕に抱きついてきた。

 あの……撫でるんじゃなかった? これ、セクハラにならない? どっちがどっちを、っていうのはあえて言わぬ!

 ジルが心ゆくまでもふもふされて、解放されました。部屋で休むぞ……!


 ちょっぴりヘトヘトな感じで部屋に到着。確かに狭い。小さめのベッドとテーブルで部屋がいっぱいになってる。でも僕にはちょうどいいね。

「よいしょ、と」

 ベッドに乗ってゴロゴロ。なかなか良い寝心地です。このままログアウト——の前にステータスを確認しないと。

「ステータスかもーん」

 言わなくてもいいんだけど、気分です。

——————
モモ
種族:天兎アンジュラパ(7)
職業:魔術師(3)、錬金術士(1)

【ステータス】
体力:27
魔力:47
物理攻撃力:10
魔力攻撃力:14
防御力:30
器用さ:13
精神力:14
素早さ:15
幸運値:17

SP:6

〈スキル〉
◯オート系
魔力攻撃力強化、魔術詠唱速度向上、魔力自動回復、体力自動回復、気配察知、決死の覚悟〈NEW〉

◯戦闘系
火魔術(2)、水魔術(1)、風魔術(1)、木魔術(1)、土魔術(1)、飛翔フライ(1)、聴覚鋭敏、テイム(1)、召喚(1)、見切り〈NEW〉

◯回復系
天からの祝福アンジュブレス(1)〈NEW〉

◯収集系
採集(2)、採掘(1)、釣り(1)、全鑑定(1)

◯生産系
錬金術基礎
——————

 まずは新しいスキルの確認をする。
 新しいのは【天からの祝福アンジュブレス】と【決死の覚悟】と【見切り】だね。

 えっとー……ヘルプ見たら、種族固有スキルっていうのは、種族レベルが上がることで覚えられるスキルだって書いてあった。種族毎に決まってるんだね。
 僕はレベル6か7で覚えたってことだ。

天からの祝福アンジュブレス】の効果は——【パーティーメンバー全員の体力を微回復する。この効果は五分間続く】だって。

 ……めちゃくちゃ良いスキルだよね!?
 パーティーメンバーいないのが悲しいけど、いつか誰かと組んだ時には、絶対役に立つはず。僕一人でも使えるしね。

 なんかルンルンしちゃうなー。
 天兎アンジュラパって、ほんと良い種族!

「次は、と——」

 スキル【決死の覚悟】ってなんぞや? オートスキルらしいけど。

 説明文には【即死攻撃を受けても体力が1残る】と書いてあった。
 ……即死攻撃なんてあるんだ?! 怖いね。体力が1残ったところでどうにかなるもの? でも、あって損はないか。

 それにしても、なんでこのスキルをもらえたんだろう。
 んー……あれかな?

草原狼プレアリーウルフの攻撃を受けるために向き合ったから?」

 というかそれしかないよね。
 どうしようもなくて覚悟決めたけど、スキルもらえてお得だったな。

「最後は【見切り】」

 説明にあったのは——【攻撃を見切って回避しやすくなる】だった。

「地味にありがたい! これから回避とか鍛えようと思ってたもんなー」

 嬉しい。体術も含めてがんばってみようかな。


******

◯NEWシステム
【種族固有スキル】
 種族レベルが上がることで覚えられるスキル。種族毎に覚えられるスキルが異なる。

◯NEWスキル
天からの祝福アンジュブレス
 パーティーメンバー全員の体力を微回復する。この効果は五分間続く。

【決死の覚悟】
 即死攻撃を受けても体力が1残る。

【見切り】
 攻撃を見切って回避しやすくなる。

◯スキル変化
【火魔術】レベル2
 火の矢ファイアーアローを使える。火でできた矢が相手に降り注ぐ範囲攻撃。同時に三体を攻撃できる。

飛翔フライ】レベル2
 空を飛べる。滞空可能時間は十五秒。

◯NEW異世界の住人NPC
【宿屋の看板娘ジル】
 はじまりの街の宿屋の看板娘。溌剌とした印象の健康的な美少女。もふもふ好き。薬屋の娘アリスと従姉妹。

******
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル
ファンタジー
子爵家の令嬢であるクロエは、仕える身である伯爵家の令嬢、マリーに頭が上がらない日々が続いていた。加えて、母が亡くなって以来、父からの暴言や暴力もエスカレートするばかり。 「ゴミ、屑」と罵られることが当たり前となっていた。 そんな、クロエに社交界の場で、禁忌を犯したマリー。 そして、クロエは完全に吹っ切れた。 「私は、屑でゴミですから、居なくなったところで問題ありませんよね?」 これで自由になれる。やりたいことが実は沢山ありましたの。だから、私、とっても幸せです。 「仕事ですか?ご自慢の精神論で頑張って下さいませ」

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...