上 下
8 / 268
はじまりの街

8.君も友だち!

しおりを挟む
 カミラに抗議したらちゃんと納得してもらえた。ということで、チュートリアルを本格的に開始。

 敵であるモンスターはシステム的に用意されてないらしく、自分で探さなきゃいけないみたい。索敵も含めて、バトル指南ってことだね。

「どこにいるかなー?」
「街の近くはスライムと跳兎ジャンプラビが多い。あっちの木があるエリアまで行くと、草原狼プレアリーウルフが出てくる」
「なるほど。じゃあ近場で探そ」

 周りをきょろきょろ。意外といないもんだね。もっとどんどん現れるもんだと思ってた。

「……スライムはすぐに出てくるはず」

 カミラがちょっと戸惑ってる。ここまでモンスターが現れないのは異例らしい。

 どうしてかな? スライムといえば、異世界との狭間でちょっぴり仲良くなったけど。もしかして、僕がモンスターに分類される種族だから、とかありえる?

「んー……この草、気になる」

 警戒しながら歩いてたら、足元にトゲトゲした葉っぱがあった。なんか密集してる。

「それ、薬草。街の近くは採り尽くされてることが多い。ラッキー」
「そうなんだ! じゃあ採集しとこう」

 もしかして、チュートリアルが独立した空間で行われてることと関係ある? プレイヤーが一人もいないから、冒険者ギルドと同じ感じでここも隔離されてるっぽいんだよね。

 ま、ラッキーだし、ありがたく採集しちゃお。
 これ、プチッと採っていいのかな?

「あ……スキルってこんな感じか……」

 薬草に触ったら、勝手に切れた。手の中にはわさっとした草の束。薬草とったどー!

 掲げてみたら、カミラに不思議そうに見られた。楽しんでるだけなのでスルーしてください。

 そそくさとアイテムボックスにしまう。薬草の束(普通品質)✕1って表記がいいね。枠いっぱいまで集めたい。

「普通品質。採集レベル2だと、この品質か……」
「アイテムの品質は最低・低・普通・高・最高まである。普通品質はGランク冒険者なら良い方」
「へぇ、解説ありがとう」

 つまり、ランドさんは最低品質を回避したくてスキルくれようとしたのか。下から三番目は十分でしょ。

 プチプチと薬草採集をしながらモンスターを探す。なんで出てこないんだろ?

〈採集を百回行いました。称号【採集ダイスキ】が贈られます〉

「あ、なんか来た」

 ステータスを確認。
 称号【採集ダイスキ】の効果は、採集した際にアイテムの品質が上がるってものらしい。いいね!

 というか、僕もう採集を百回もしてるの? アイテムボックスの一枠が埋まってない——と思ったら、二枠に分かれてた。低品質と普通品質で、枠が違うんだね。
 称号の効果があると高品質が採れるのかな。それとも普通品質の割合が増えるのか? 要検証だ。

「暇……」
「それはごめん」

 カミラが遠くをみつめてる。
 なんでモンスターが現れないんだろうね? 探してないだろって言われたら否定できないや。つい、薬草探しに熱中しちゃって。薬草がお金に見えるんだもん。

 いや、そろそろちゃんとチュートリアルこなしたい。集中して探そう。

「——ん?」

 気合いを入れ直したところで、背の高い草の陰になにかが見えた。ぷるぷるしてる物体。見覚えあるよ! でも、なんか色が違う?
 前に見たのは青だったけど、こいつは緑。草に紛れてるから、飛び出してこないと探しにくい。

「スライム発見!」
「やっとバトル」

 カミラがそう言うけど、これ、バトルになる雰囲気かな?

 スライムは僕を見て『やっほー』って感じで体を震わせてる。

 どうもどうも。もしかして、異世界との狭間で会ったスライムさんのお知り合いです? あ、違うの。会ったことはないんだ。——あれ、王様だったの!?

 衝撃的な事実を知ってしまった……。例として用意されただけだと思ってたあのスライム、王様だったらしい。
 スライム様って呼ぶべき? 僕、クッション代わりにお尻に敷いちゃったんだけど。

「なにしてる?」
「へっ、あ、スライムとお話を……」
「敵なのに?」
「敵なのかな?」

 カミラが目を丸くしてる。ここまで表情崩してるのは初めて見た。そりゃ、野生のスライムと仲良くしてたら驚くよね。

〈スライムから情報を得たことにより、称号【スライムキングを尻に敷く】が贈られます〉

 ふぁ!? なんかもらっても微妙な称号が来ちゃった……。尻に敷くって、なんでそんな称号用意してんだよ。

 ステータスを確認しまーす。
 なになに——称号の効果は【スライムとの親密度が上がりやすくなる】か。すでに仲良くなってた気がするけどね?

「スライムくん、お名前あるの?」

 ぷるぷる。ないってさ。なんで声もないのに理解できるんだろうね。僕もモンスターだからなんだろうな。

「じゃあ君のこと【スラリン】って呼ぶね!」

 スライムくん——スラリンがぴょんと跳ねた。喜んでくれて嬉しい。ネーミングセンスないとか否定されなくて良かった。
 カミラが「えっ……」と呟いてるのは、モンスターに名前を付ける行為に対してだと思いたい。

 ——シャラン!

「スラリンが光った!?」

 急に緑っぽい光を放ったスラリンにびっくり。光が消えても、特に変化はない気がするけど……。

〈野生のモンスターと友情を育みました。スライム【スラリン】からモンスターカードが贈られます〉

 モンスターカードってなんぞや?
 ヘルプ参照——これ、フレンドカードのモンスター版みたいだね。フレンド欄にモンスター用のタブができてる。登録されたモンスターはバトル時に召喚可能らしい。パーティーメンバー、ゲットした感じ?

 フレンド第三号はモンスターかぁ……。そろそろプレイヤーともフレンド登録したいよ。すごく脇道を突き進んでる気がする。

〈〈ワールドミッション『モンスターをテイム』が、プレイヤーにより達成されました。これより転職可能な職業に【テイマー】が追加されます〉〉

 えっ!? これワールドアナウンスってヤツ? プレイヤー全員に通知されてるんだよね?
 初めて聞いたよ……。これ、僕がきっかけになってるっぽい。

 モンスターとフレンド登録すると、テイム認定になるのか。バトルに召喚できるなら、テイマーっていうより召喚士っぽいけど。

〈このワールドで初めてモンスターをテイムした報酬に、スキル【テイム】【召喚】と、アイテム【モンスター空間(草原)】が贈られます〉

 アイテム?
 確認したら、アイテムボックスの中に、草原のジオラマ模型みたいなのがあった。

 説明文に【テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない】って書いてある。

 ふへー。なるほど。
 それにしても、職業ってまだ変更できないんじゃない?

 ヘルプを確認したら、転職機能が解放されないと、テイマーになるのはやっぱり無理みたい。随分と先取りしてワールドミッションをクリアしちゃったのかも。

 テイマーじゃなくても、モンスターを召喚できるの? って思ったら、召喚スキルの説明にちゃんと書いてあった。

 テイマーじゃない場合、召喚スキルがレベル1だと、モンスターがバトルに参加できる時間が五分で、再召喚が可能になるまで一時間かかるんだって。
 テイマーは無制限みたいだから、随分と違うね。

 テイマーになると、街でもモンスターを連れ歩けるようになるみたい。テイマーが増えたら、僕も街で目立たなくなるかな?

「スラリン、モンスター空間に入る?」

 アイテムボックスから取り出したジオラマ(両手で抱えるサイズ)を見せたら、スラリンが嬉しそうに体を震わせた。
 そして白い光を放って消えていく。

「えっ……あ、ジオラマの中にちっちゃいスライムがいる!」

 芸が細かいことに、モンスター空間内で動いてるモンスターの姿を観察できるらしい。インテリアにも良さそうだね。

「……よくわからないけど、おめでとう?」
「ありがとう!」

 カミラが不可解そうにしてる。でも、お祝いしてくれるってことは、異世界の住人NPC的にもテイマーは受け入れられるってことだよな。

「バトルはできなかったけど」
「そうじゃん! 今回の目的は初バトルなのに……」

 忘れてた。
 またモンスター探さないと。でも、スラリンと仲良くなったから、スライム倒すのは気が引けるなー。
 ……いつになったらチュートリアル終わらせられるんだろう。


******

◯NEWアイテム
【薬草の束】レア度☆
 草原や森など、様々なフィールドで採集できる。回復薬の材料になる他、そのまま食べても体力を1だけ回復できる。

【モンスター空間(草原)】レア度☆☆☆
 テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない

◯NEW称号
【採集ダイスキ】
 スキル【採集】を使って採集を百回行うと与えられる称号。採集した際にアイテムの品質が少し上がる。

【スライムキングを尻に敷く】
 異世界との狭間でスライムキングを踏んづけた者が、その真実を知ることで与えられる称号。スライムとの親密度が上がりやすくなる。王様を尻に敷いた君はスライムから尊敬されてるよ!

◯NEWフレンド
【スラリン】
 東の草原で出会ったスライム。緑色の体で、草に紛れることができる。

◯NEWスキル
【テイム】
 モンスターを一定の確率でテイムできる。自分のレベル以上の相手には効きにくい。テイムしたモンスターはフレンド欄モンスタータブに記載され、召喚可能になる。

【召喚】
 テイムしたモンスターを召喚できる。モンスターがいる場所との距離に従って、詠唱時間が変わる。召喚すると、パーティー枠を一つ使用する。レベル1では、一回のバトルに一体召喚できる。
 テイマーはモンスターの召喚可能時間に制限なし。モンスターが負けた場合は、一時間モンスターのステータスが半減する。
 テイマーでない場合は、召喚可能時間・再召喚可能になるまでの時間に制限がある。レベル1では、召喚可能時間五分、再召喚可能になるまで一時間。

◯NEWシステム
【テイマー】
 転職可能な職業。
 モンスターをテイムし、召喚する。バトルフィールド以外でも連れ歩くことが可能。
 テイムしたモンスターのスキル・ステータスを選択し育成することができる。

******
しおりを挟む
感想 1,067

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...