上 下
3 / 154
はじまりの街

3.異世界観光気分です

しおりを挟む
飛翔フライ、だと……!?」

 ものすごく惹かれる響き。
 背中でピコピコと動く羽を意識した。

「──それは、もしかして、空を飛べるってこと?」

〈はい。レベル1での滞空時間は十秒です〉

「少なっ!」

 ズッコケた。
 大した距離移動できないじゃん。そりゃ、飛べないよりはいいけどさ。

〈助走なしで飛べるんですよ? 高く上がりすぎると、途中で墜落することになりますが〉

「怖っ!?」

 そっか……十秒過ぎたら否応なく落ちることになるんだ。地面におりるタイミングも考えないといけないから、ちょっと使い道難しいな……。

〈最初の内は、身長の低さをカバーするのに利用するのがいいかと思います〉

「身長? ……あ、そういうことね」

 僕の今の姿、めちゃくちゃ身長低いもんな。人間仕様の環境だと、生活しにくいのかも。ジャンプより飛べた方が楽だろうし。

 でも、もっといい感じのスキルなのかと期待してたのにー。

〈滞空時間はレベルが上がるにつれて長くなります〉

「普段から使って鍛えたら、いい感じになるってこと? 街から街に飛ぶのも夢じゃない?」

〈それは……〉

 すごい困らせちゃった。
 さすがに長過ぎるか。でも、滞空時間が延びるってのは期待持てるね。

「教えてくれてありがと。実際に使って、良い利用法探してみるよ」

〈はい。──それではステータス操作に移ってもよろしいですか?〉

「お願いしまーす」

 答えた途端、ブワンッと半透明の青いプレートが現れた。僕のステータスが表示されてる。

──────
〈ステータス〉
体力:19
魔力:31
物理攻撃力:8
魔力攻撃力:13
防御力:30
器用さ:9
精神力:14
素早さ:10
幸運値:17
──────

〈ギフトポイントを1P使用することで、ステータスを一つ上げられます〉

「残ってるのは4Pだから……」

 弱いところを補強すべきか、それとも強いところをさらに強化すべきか──。

 ……うーん、なんか一桁のステータスあるのが、見た目気持ち悪いから、そっちに割り振ろうかな。あと、普段の攻撃をより高めとこう。

「物理攻撃力に2P、魔力攻撃力に1P、器用さに1P使って」

〈使用しました。ステータスはこちらになります〉

──────
名前:モモ
種族:天兎アンジュラパ
職業:魔術士、錬金術士

〈ステータス〉
体力:19
魔力:31
物理攻撃力:10(2up)
魔力攻撃力:14(1up)
防御力:30
器用さ:10(1up)
精神力:14
素早さ:10
幸運値:17
──────

 うん、いい感じ!
 ゲーム始めてみないと実際の感じはわかんないけど、十分やってけるんじゃないかな。

「これでオッケー」

〈ギフトポイントが0になりました。ギフト授与を終了します〉

 ふわっと体が浮き上がるような心地がした。

「えっ!? なんか、浮いてる?」

 気のせいじゃなかった。ほんとに地面が遠くなってる気がする。真っ白だからわかりにくいけど、ゆっくり上昇してるような。

〈異世界との狭間に滞在できる時間が0になりました。異世界の国イノカンへの転送を開始します〉

「急に!? すごい問答無用だね? もうちょっと色々説明してくれてもいいんじゃ──!」

 叫んでる最中に、一瞬意識が途切れるような感じがした。
 くるりと目の前が回るような感覚。



「──ふわっ!?」

 ざわざわと雑踏の音が押し寄せてくる。鼻をくすぐるのは海と食べ物のにおい。足の下には硬い石の感触。
 柔らかな風を感じて、パチリと瞬きをした。

 すごい。本当に現実世界みたいな感じがする。ちょっとした海外旅行? 街の雰囲気がヨーロッパっぽいから目新しくて楽しい。

「ここが異世界の国イノカンかな? 説明もなく送り込むのはひどいー」

 たぶん港街。
 僕はちょうど船からおりてきた感じに、桟橋で突っ立っていた。

 目の前の看板には【ようこそ。ここはイノカン国の街サク。通称、はじまりの街です】と書かれてる。

「……自分ではじまりの街って言っちゃうんだ」

 ゲームではあるあるだけどね。
 周囲には、僕と同じようにゲームを始めたばかりと思しき人の姿がたくさんあった。

「人間多め? でも、エルフとか獣人とかもそれなりにいるなー。獣人ってすごい種類多いんだ……」

 みんな目や髪の色を弄ってるみたいでカラフル。それ以上に目立つのが、猫系・犬系・うさぎ系などの耳や尻尾がある人たち。

 獣人を選んだら、種類を自由に決められたんだろうね。僕は強制的にうさぎだけど! 人の姿ですらないけど!

 気に入ってるから文句はないよ。ただ注目を浴びるのはなぁ……。

「あれ、モンスターじゃねぇのか」
「プレイヤー表示されてる?」
「え、まんま動物っぽい種族って、あったんだ?」

 ……きゃー、そんなに僕を見ないでー。

 そそくさと街へと歩く。身長低いから、動いてたらあんまり視線を集めないって学べた。みんな足元は見過ごしがちだよね。

 てくてく。僕、ちゃんと二足歩行できるんだよ!

 ……動物みたいに走る方が楽なのかもしれないけど、人としての意識があると、なんかしにくい。
 プレイヤーだってバレてるのに「あいつ四つん這いで笑」みたいに言われたら嫌だもん。

 視界の端にあるマップの表示を意識したら、街の地図が出てきた。

 道なりに行ったら、冒険者ギルドっていうのがあるらしい。プレイヤーが最初に作れる唯一の身分が、冒険者なんだよ。身分証作ったら、街の外にも行けるっぽい。
 ヘルプもあわせて読んで、事前勉強は完璧!

「つまり、まずは冒険者ギルドに行って、冒険者登録する必要があるんだ。……遠いな」

 周りの人たちがサクサク歩いてく。でも、僕の速度は遅い。だって、体が小さくて一歩で進める距離が短いんだもん。

「ここは、スキルを試してみるべき?」

 周囲をちらちら見て、注目を浴びてないのを確認してから、スキルを選択。使うのはもちろん──。

「……飛翔フライ!」

 ふわっと浮く。背中の羽がはばたくみたいに動いてるけど、絶対それで浮力は生まれてないと思う。だって、羽小さいから。

 なんか念力っぽい感じ? 魔力は消費されてないか、もしかしたら自動回復で賄えるくらいしか消費してないのかも。低燃費なのは良いことです。

 移動するのは、進行方向を意識するだけでいいみたい。すぐに慣れたよ。歩くよりラクでいいねー。でも──。

「ふぎゃっ!」

 落ちました。ズシンッて、お尻から。痛くないけど、精神的に地味なダメージをくらってる!

 さすがの防御力の高さで、実際の体力は減ってないけどね。落ちるって怖いよ。

 滞空時間十秒ってのが、思ってた以上にシビアです。慣れるまで時間かかりそうだな。使わないと上達しないし、ちょっと気合い入れようか!

「よっしゃ、もういっちょ、飛翔フライ!」

 ふよーっと飛んでいく。最初よりスムーズな気がする。

 人並みの上を飛んで、時々屋根や看板で休憩することにした。注目浴びないし、定期的に休めば落ちないし、良いこと尽くしだよ。

「おー、綺麗な街だなー」

 落ち着いて景色を見られるようになった。
 地面を歩いてたら、たくさんの人でほとんど街が見えなかったけど、上から見るとすごい素敵。映画の中みたい。

 オレンジ色の石で作られた街並みと、青い海のコントラストがいい。
 建物には花も飾られてたから香りを楽しんでみたり、時々二階の住人と目が合って驚かれたり、すべてがワクワクする!

「飛べるってサイコー!」

 たった十秒か、なんて思ってたの、ほんとに謝りたい。飛べるだけで最高の景色を楽しめるんだって、初めて知った。
 スイッと空を泳ぐ感じも気持ちいいしね!


******

現時点でのステータス ()内はレベル

名前:モモ
種族:天兎アンジュラパ(1)
職業:魔術士(1)、錬金術士(1)

〈ステータス〉
体力:19
魔力:31
物理攻撃力:10
魔力攻撃力:14
防御力:30
器用さ:10
精神力:14
素早さ:10
幸運値:17

〈スキル〉
◯オート系
 魔力攻撃力強化、魔術詠唱速度向上、魔力自動回復、体力自動回復

◯戦闘系
 火魔術(1)、水魔術(1)、風魔術(1)、木魔術(1)、土魔術(1)、飛翔フライ(1)

◯収集系
 採集(1)、採掘(1)、釣り(1)、全鑑定(1)

◯生産系
 錬金術基礎

******

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCプレイヤーキャラクターだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

処理中です...