上 下
1 / 195
はじまりの街

1.キャラ作成するよ

しおりを挟む
 ゲームをセットしてスタート。目の前に広がるのは真っ白な空間だった。

 軽く体を動かしてみても違和感が一切ない。ここはVRMMO──脳内で接続したゲーム世界のはずなのに、まるで実際に肉体があるみたいに感じられる。

 技術の発展ってすごいんだなぁ。どういう仕組みなのかまったくわからないや。
 楽しめるなら、どうだっていいんだけど。

〈ようこそ。ここは異世界との狭間です〉

 不意に声が響く。なんかさらにワクワクしてきた。

 ようやくゲームを始められるんだ。発売が予告されてからずっと、僕はサービスが開始される日を待ってた。異世界を旅するってどんな感じなんだろう。

〈あなたはこれから異世界の国イノカンに旅立つことになります。その国は現在数多のモンスターによって侵略されており、緊急救助要請が出されているのです。あなたの使命は、多くの旅人プレイヤーと共にモンスターから国を救うことです〉

 なるほど。ありがちな設定だけど、わかりやすいね。

 でも、戦うのはあんまり自信ないなぁ。これが初めてのVRMMOだし。
 確か、運動能力とかはある程度ゲーム世界にも反映されるんだよね? ゲーム補正もあるとはいえ、僕は運動が苦手なんだよ。

〈我々はあなたに、使命とは別に、異世界を楽しんでいただきたいとも思っています〉

 あ、なんか僕の思いに答えたような言葉だ。声に出してないけど、もしかして伝わってる?

 ……この世界自体が脳内で繋がってるんだから、考えを読み取られるくらい普通なのかも。

 というか、我々って、ゲーム運営側ってことでいいんだよね?
 ちょっとそのへんの設定の作り込みが甘くないかな。それとも説明が雑なだけ? ゲームをする上で支障がないなら別にいいけどさ。

〈まずはあなたのお名前を教えてください〉

「これって本名じゃなくて、ゲームでの名前ってことだよね?」

〈はい、その通りです〉

「普通に答えてくれるんだ……」

 会話がきちんと成り立ってる!
 AIの技術が生まれてから結構時間が経ってるけど、まだ日本語で違和感なく会話するのって難しいらしいんだよ。

 このゲームは、そういうAI技術に力を入れてるっぽい。前評判通りだから、今後も期待しちゃうな。

「んー、じゃあ【モモ】で。僕、桃が大好きなんだ」

〈桃美味しいですよね。——旅人プレイヤー名【モモ】で登録いたしました〉

 なんかすっごい普通に言われたけど、このAIさんは桃を食べたことあるの? もしかして中身人間とか?

〈それでは、これより異世界を旅する上で必要なギフトの授与を行います。種族・職業・ステータス・スキルを選択していただきますが、それぞれにギフトポイントを消費します。使えるギフトポイントは全部で100です〉

 ほうほう……このギフトポイントをどう使うかが重要ってことだね。
 100かー。多い感じがするけど、実はすぐなくなっちゃうのかな?

〈まずは種族の選択を行います。選べる種族は五種類です。平均的な姿を表示します〉

 不意に目の前に人の姿が現れた。それぞれプラカードを首からさげてる。なんか気が抜けちゃう格好だ。

 プラカードには【人間(20P)】【獣人(50P)】【エルフ(50P)】【ドワーフ(50P)】【希少種(25P)】と書かれてる。

〈人間は異世界で最も多い種族です。平均的な能力値を持っています〉

 くるりと人間が回る。
 どこからどう見ても、現実世界で見る人の姿と変わらない。

 見た目は楽しめないけど、平均的な能力値なら初心者でもゲームをやりやすいのかな。尖った性能って、使いこなすのに工夫がいりそうだし。

〈消費するギフトポイントがプラカードに表示されています。人間を選択するには20P必要です〉

 ……そんなことだろうと思ってたよー。
 ってことは、エルフとか獣人とかドワーフを選んだら、ギフトポイントの半分を消費しちゃうってこと?

 ひえー! そんだけ性能いいのかもしれないけど、ちょっともったいない気がするなぁ。

 というわけで、高ポイント種族を選ぶ意欲が減ったので説明を聞き流して、最後の種族に注目。

 ちなみに、獣人は物理攻撃の能力が高くて、エルフは魔術攻撃の能力が高いらしい。ドワーフは防御力高めで、生産能力も高いんだって。

〈最後は希少種です〉

 ぽよん、とゲーム好きなら誰もが知ってるような姿が一歩前に出てくる。

 これ、絶対スライムでしょ? モンスター側じゃなくて、プレイヤー側がなれるものなの?

 決してスライムになりたいとは思ってないけど。希少種って表現が気になる。

〈希少種を選択するとガチャを一回引くことができます〉

「急にすごいゲーム感出してくるじゃん……」

 ちょっと困惑。
 種族選択を博打って、リスキーすぎない? 面白いけど、初っ端からゲームに躓く可能性あるよね?

〈八割の確率でスライムが選択されます〉

「ガチャ率崩壊してない? それ、ほぼスライムってことじゃん!」

〈スライムは人間の半分の初期能力値です〉

「激弱っ!?」

 ツッコミを入れずにいられなかった。
 希少種っていうんだから、ちょっとは強いのかなって期待しちゃったんだよ。見事に裏切られたけど。

「……スライムに利点はないの?」

〈固有スキル【分解・吸収】を取得可能です〉

「それって強い?」

〈相手の防御力が自身の攻撃力より高い場合、効果を示しません〉

「……ダメじゃん!」

 人間の半分しかない能力値が通用する相手がどれだけいるんだよ。レベル上げて能力値を高めれば通用するとはいえ、それまでは地獄だろ。

「え、希少種を選ぶ利点なくない?」

〈二割以下の確率で本当の希少種が当たります〉

「本当のとか言っちゃってる。やっぱ、スライムは雑魚なんだ……」

 なんかここまで言われるとスライムが可哀想になってきた。心なしか例として示されたスライムくん(さん?)がしょんぼりしてる気がする。……かわいい。

「どういうのが当たるの?」

〈当たってからのお楽しみです。人間に近い姿をしている種族はほぼいませんので、その点はご注意ください〉

 つまり、希少種はどれもモンスターっぽい見た目ってことだね。

 ゲーム中は常に頭上でプレイヤー名が表示されるとはいえ、フィールド内で敵に間違われる可能性があるかも?
 このゲーム、PvP要素ないからダメージは受けないけど、ちょっとしたトラブルは起きかねないよね。

「でも、おもしろそう……」

 じっとスライムを見つめる。なんか目をキラキラさせてる気がした。僕が乗り気になってるのが嬉しいのかな。

〈え……リスキーですよ……?〉

「なんで運営そっち側がドン引きしてんの? ひどくない?」

 AIのくせに感情豊かだな。そんなに言われると、希少種選びたくなっちゃうじゃん!

〈モモ様は天邪鬼……学習しました〉

「変なこと覚えなくていいからぁ!」

 っていうか、やっぱり思考読んでるな、こいつ。

〈申し遅れましたが、私はナビゲーターの【ナビ】です。よろしくお願いいたします〉

「こいつ扱いが嫌だったんだね。了解、ナビ。よろしく」

 安直な名前だなぁ。
 言葉にしなかったこの感想も、きっとナビには伝わってるんだろうけど、気にしなーい。

〈種族はお決まりになりましたか?〉

「うーん……人間か希少種で悩んでたけど、やっぱおもしろみをとって、希少種ガチャでお願いします!」

 にこにこ。ゲームは楽しいのがいいよね。弱くても、街でのんびり過ごしたり、ちょっとずつ強くなれるようがんばったりするのもいいと思うし。

〈……はい〉

 すっごくなにか言いたげだけどスルー。選ぶのは僕なんだから、文句は言わせない!

〈ではガチャを行うため、25Pを消費します。引き直すためには、再度25Pを消費することになります。目の前の魔方陣に入ってください〉

 白い空間に五芒星を内包した円が現れた。これぞ魔方陣って感じでオーソドックスだ。戸惑わなくていいけど、もっとオリジナリティ出してみたら?

「良いのが来ますようにー」

 スライムでもいいよ。でも、もっと楽しそうなのがあればそれがいいな。

 魔方陣に入った瞬間、体からなにかがこぼれ落ちていくような感じがした。
 なんだろう? って思った瞬間に、魔方陣が白い光を放つ。

 咄嗟に目を瞑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@電子書籍化『王子に婚約破棄された』
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。 召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。 美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。 そして美少女を懐柔しようとするが……

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

召喚聖女の返礼

柴 (柴犬から変更しました)
ファンタジー
結婚式の十日前に異世界に聖女として召喚されてしまった。 帰してくれと訴えても、その術がないと言われてしまう。 それならば自分で帰る方法を見つけてやる。そう思って聖女として動くことにしたけれど……。 ※ハッピーエンドではありません 小説家になろうさまにも投稿しています

何でも欲しがる妹が、私が愛している人を奪うと言い出しました。でもその方を愛しているのは、私ではなく怖い侯爵令嬢様ですよ?

柚木ゆず
ファンタジー
「ふ~ん。レナエルはオーガスティン様を愛していて、しかもわたくし達に内緒で交際をしていましたのね」  姉レナエルのものを何でも欲しがる、ニーザリア子爵家の次女ザラ。彼女はレナエルのとある寝言を聞いたことによりそう確信し、今まで興味がなかったテデファリゼ侯爵家の嫡男オーガスティンに好意を抱くようになりました。 「ふふ。貴方が好きな人は、もらいますわ」  そのためザラは自身を溺愛する両親に頼み、レナエルを自室に軟禁した上でアプローチを始めるのですが――。そういった事実はなく、それは大きな勘違いでした。  オーガスティンを愛しているのは姉レナエルではなく、恐ろしい性質を持った侯爵令嬢マリーで――。 ※全体で見た場合恋愛シーンよりもその他のシーンが多いため、2月11日に恋愛ジャンルからファンタジージャンルへの変更を行わせていただきました(内容に変更はございません)。

処理中です...