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19.王妃と企み
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静かにピアの現状を語ったマリアに、王妃は深く何かを考える面持ちで目を伏せた。
現在、社交界を席巻している噂は、ロナルドとピアを完全に悪者にしたものである。ロナルドに関してはマリアも擁護できないけれど、ピアについてはまずモスト男爵の方を咎めるべきだと思っていた。
でも、モスト男爵に対する批判はさほど表に出ていない。彼が積極的にピアを悪者に仕立て上げ、己を被害者のように振る舞っているからだ。なんとも面の皮が厚いものである。
「――モスト男爵が、ねぇ。私、あまり話した記憶もないから、どういう方かは分からないけれど、あなたの話通りなら酷い話ね」
「そうですね。やはり当主の権力が大きく、令嬢の立場ではなかなか逆らえないのが悲しいことです。社交界での発言力もなく、弁明の場所もございませんもの……」
悲しげに目を伏せると、王妃も同調するように何度か頷いた。
「その令嬢、貴族籍を抜けることを望んでいるのでしょう? 貴族家長法が改正されたことを、あなたは知っているはずだけれど」
何故マリアがその手続きを教えてやらないのかと言いたげな王妃に、マリアは小さな声で答える。この部屋に控えているメイドたちは、王妃に忠実な者ばかりとはいえ、マリアの推測でしかない話は、あまり広く伝えるべきものではない。
「……その、貴族籍に関する申請を処理する部署には、モスト男爵の次男がいらっしゃるのですわ」
「まぁ……それは知らなかったわ……」
王妃の眉が顰められる。マリアがもたらした情報から、ピアが申請を出したところで秘密裏に闇に葬られる可能性があることを悟ったのだ。
「私の婚約者のロイズを通して話を持ち込んでも構わないと思いましたけれど、他部署でもありますし、あまり確実性はないと思いまして……。それに、今回のことは法改正を周知するのに役に立つのではないかと思いまして、殿下にお話したかったのですわ」
「周知に役立つ? どういうことかしら」
王妃の目が期待で輝いた。マリアの言葉に、自分の活動への利点を見出だしたのだろう。相変わらず女性の地位向上に意欲的な方である。なんとも頼もしい。だから好きだ。
「ピア様は今話題沸騰中の方ですわ。その方が、貴族家長法の改正法を用いて、自由を勝ち得たと評判になればどうなると思われますか? きっと、数多の貴族家当主方も抑えられないくらい、情報は勢いよく広がりますわ。そのような噂に関しては、女性の方が敏感ですもの」
「まあ! それは素晴らしい考えよ。ピア嬢の件をプロパガンダにするということね!」
王妃の理解を得られて、マリアも顔には出さずに喜んだ。
ピアを手助けしたいという気持ちは本当だ。でも、それだけで手を出せるほど、貴族籍から抜けるのは簡単なことではない。
でも、貴族女性全体を助けるためという大義名分の名の下に、王妃の助力を得られたなら全く問題ないのだ。
「ピア様に申請の準備をさせておきますわ」
「では、私は、ピア嬢に関する調査と貴族籍管理部門の動向を監視させておくわ。社交界に噂を広める手筈も整えておかなくちゃ」
意気揚々とした王妃の姿は、本当に頼もしかった。マリアにとっては、失礼かもしれないが同志ような存在である。
現在、社交界を席巻している噂は、ロナルドとピアを完全に悪者にしたものである。ロナルドに関してはマリアも擁護できないけれど、ピアについてはまずモスト男爵の方を咎めるべきだと思っていた。
でも、モスト男爵に対する批判はさほど表に出ていない。彼が積極的にピアを悪者に仕立て上げ、己を被害者のように振る舞っているからだ。なんとも面の皮が厚いものである。
「――モスト男爵が、ねぇ。私、あまり話した記憶もないから、どういう方かは分からないけれど、あなたの話通りなら酷い話ね」
「そうですね。やはり当主の権力が大きく、令嬢の立場ではなかなか逆らえないのが悲しいことです。社交界での発言力もなく、弁明の場所もございませんもの……」
悲しげに目を伏せると、王妃も同調するように何度か頷いた。
「その令嬢、貴族籍を抜けることを望んでいるのでしょう? 貴族家長法が改正されたことを、あなたは知っているはずだけれど」
何故マリアがその手続きを教えてやらないのかと言いたげな王妃に、マリアは小さな声で答える。この部屋に控えているメイドたちは、王妃に忠実な者ばかりとはいえ、マリアの推測でしかない話は、あまり広く伝えるべきものではない。
「……その、貴族籍に関する申請を処理する部署には、モスト男爵の次男がいらっしゃるのですわ」
「まぁ……それは知らなかったわ……」
王妃の眉が顰められる。マリアがもたらした情報から、ピアが申請を出したところで秘密裏に闇に葬られる可能性があることを悟ったのだ。
「私の婚約者のロイズを通して話を持ち込んでも構わないと思いましたけれど、他部署でもありますし、あまり確実性はないと思いまして……。それに、今回のことは法改正を周知するのに役に立つのではないかと思いまして、殿下にお話したかったのですわ」
「周知に役立つ? どういうことかしら」
王妃の目が期待で輝いた。マリアの言葉に、自分の活動への利点を見出だしたのだろう。相変わらず女性の地位向上に意欲的な方である。なんとも頼もしい。だから好きだ。
「ピア様は今話題沸騰中の方ですわ。その方が、貴族家長法の改正法を用いて、自由を勝ち得たと評判になればどうなると思われますか? きっと、数多の貴族家当主方も抑えられないくらい、情報は勢いよく広がりますわ。そのような噂に関しては、女性の方が敏感ですもの」
「まあ! それは素晴らしい考えよ。ピア嬢の件をプロパガンダにするということね!」
王妃の理解を得られて、マリアも顔には出さずに喜んだ。
ピアを手助けしたいという気持ちは本当だ。でも、それだけで手を出せるほど、貴族籍から抜けるのは簡単なことではない。
でも、貴族女性全体を助けるためという大義名分の名の下に、王妃の助力を得られたなら全く問題ないのだ。
「ピア様に申請の準備をさせておきますわ」
「では、私は、ピア嬢に関する調査と貴族籍管理部門の動向を監視させておくわ。社交界に噂を広める手筈も整えておかなくちゃ」
意気揚々とした王妃の姿は、本当に頼もしかった。マリアにとっては、失礼かもしれないが同志ような存在である。
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