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17.女性を守る

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 マリアの提案に、結局ピアは涙目で「よろしくお願いいたしますっ……!」と、深々と頭を下げた。
 その判断に、ルリのピアを安心させるような口添えが一助となったのは間違いない。けれど、ピアは自身の意思で、この先の未来を決断したのだ。
 あとはマリアがその決意を無駄にしないように後押しするだけ。

「――それで、マリアはどうするつもりなんだい? 僕が知り合いの貴族に協力を願おうか?」
「あら、ロイズも手を貸してくださるの?」

 マリアが経営するカフェへとデートの場所を変えたところで、ロイズが首を傾げる。その提案にマリアは微笑んだ。マリア自身で動くつもりとはいえ、ロイズが協力してくれようとしているのは嬉しい。

「君が望むならいくらでも。だけど、あまりその必要はなさそうだね?」
「そうね。この話に協力してくれそうな方がいるの」
「へぇ?」

 片眉を上げるロイズに微笑みかける。紅茶を一口飲んでから、マリアは話し始めた。

「そもそも、ピアさんが望んでいるのに平民になれない理由は、貴族家長法によるものよね」
「ああ。貴族家長、つまり当主の意思が、貴族家内では優先されるという法だね。ピア嬢の貴族籍をなくすには、モスト男爵がそれを認め、申請する必要がある」

 貴族としての基礎知識であるため、ロイズがスラスラと問題点を語った。それに頷きながら、マリアはクッキーに手を伸ばす。百合の花をかたどったものだ。
 百合は高潔な女性を意味するのと同時に、現王妃の紋章に描かれている花でもある。それ故、貴族・平民問わず、女性の間で好まれている意匠だ。

「でも、数年前にその法律は少し改正されたのを知っている?」
「改正? 貴族家長法が……?」

 ロイズが何も思い至らない様子なので、マリアは思わず苦笑した。これが一般的な貴族の反応だとは分かっている。この情報はあまり浸透していないのだ。

「王妃殿下が推進した改正法よ。家長の判断がその下にある親族を著しく傷つけるものであった場合、当人の申請でもって、家長の籍から抜けることができる、というもの」
「それは、知らなかった……」

 呆然とするロイズにマリアは肩をすくめる。
 現王妃は、女性の地位向上のために様々な活動をしている。国王もそれを支援していた。貴族家長法の改正はその活動の一つである。なかなか浸透しないことが残念でならない。

「貴族当主方の反発があって、なかなか浸透していないから仕方ないわ。それでも、これは法律としてちゃんと効力を持っているの」
「それはそうなんだろうけど……それはどういう場合を想定して改正された法なんだい?」
「基本的には、家庭内暴力や虐待を受けている夫人や子に、当主との離縁を許すための法ね。それまでの法だと、いくら夫人や子が被害を訴え、それが認められていようと、離縁させるのは難しかったから」
「ああ……そういうことか。なるほど、それは必要な改正だ。でも、上手く機能しているとは言えないな」

 マリアの説明に、ロイズが難しそうに顔を顰める。ロイズの言葉は王妃が嘆いている問題点でもあった。つまり、折角改正したのに、その情報が弱い立場の者に届いておらず、使用する者がいないということ。

「だからこそ、今回のことは、王妃殿下が助力してくださる可能性が高いわ」
「……は? まさか、マリア、王妃殿下にピア嬢の話を持ち込む気かい!?」

 珍しく仰天するロイズに、マリアは静かに微笑んだ。そのまさか、である。

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