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16.少女と対話

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 親の意思に流されているような、精神的に弱いところはあるけれど、ピアは決して悪人ではない。ごく普通の女の子なのだ。温かい家族と過ごしたいと願い、平民になることを望んでいる。
 それが分かったことで、マリアも一つ決意を固めた。そもそもピアの境遇を憐れんでいたのだ。少しばかり手を貸しても構わないだろう。

 マリアは立ち上がり、ピアの元へ近づいた。ロイズが何も言わずにエスコートしてくれる。

「――こんにちは、ピアさん」
「っ……どちら様、でしょうか……?」

 マリアが目の前に立ったことで、戸惑いの表情を浮かべるピア。マリアはルリに目配せして頷いた。

「私が仕えている主人のマリア・リディクト様です。ロナルド様がどう出るか分からなかったので、ピアさんの安全のために、勝手ながら、お嬢様にご協力をお願いしておりました」
「えっ……まさか、あのマリア様!? っ、この度は、私などのためにご迷惑をお掛けしまして――」
「そう卑屈にならないでちょうだい」

 慌てて立ち上がり頭を下げるピアの肩を軽く叩く。躊躇いがちに顔を上げたピアに、マリアは優しく見えるよう微笑みかけた。

「――ロナルド様が、あなたに暴力を振るうような方でなくて良かったわ」
「……はい。それは、正直、私も安心しました」

 マリアの笑みに背を押されたのか、ピアがぎこちなく微笑みながら頷く。マリアの会話したいという意思を汲んでくれたらしい。
 正面から見たピアは、ロナルドが惚れるのが納得できるほど美しい少女だった。ピンクブロンドのウェーブした髪に、晴れ渡った空のような蒼い瞳。見れば見るほどお人形さんみたいな印象だ。

「なるほど……」

 今後の様々な計画が頭を巡った。そして、一つ最適解を見出だす。
 マリアがその考えに頷くと、ピアは理解していないため、困惑したように眉尻を下げた。その様さえ愛らしいのだから素晴らしい。

「――ルリからもあなたのお話を聞かせていただいておりましたけれど、ピアさんは平民になることを望んでらっしゃるのね?」
「……はい。貴族籍を捨てるのは難しいと分かってはいます。父は、私に利用価値がある限り、手放そうとはしないでしょうから。それでもっ、私はもう貴族でいたくない……! 祖父母の元で暮らしたいのです。彼らもそれを望んでくれています」

 決意の籠った眼差しだった。父親に流されて生きてきた少女とは思えない力強さに思える。おそらく、困難にぶつかったことで、弱いままの少女ではいられないと悟ったのだろう。

 マリアは、そのような強い意思を持つ女性が好きだ。逆境にあっても、なんとか乗り越えようと奮闘する姿は素晴らしい。
 だからこそ、心からピアを応援したいと思った。

「分かりましたわ。――私、あなたのように、自分の力で、自分の生きたいように進もうとする女性が好きよ。あなたの望みのために、少し手を貸してもいいかしら」
「えっ……」

 思いがけない提案だったのか、ピアが目を丸くして固まった。

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