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13.もう一人の令嬢
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家に帰ってきたマリアは、ロナルドの今後を考えながら緑茶を飲んでいた。帰りがけにユアナにもらった茶葉のもので香り高い。
「……緑茶が更に広まるなら、和菓子を作ってみるのも面白そうね」
ロナルドではなく、商売のことを呟いてしまう。マリアの中では、もうロナルドについての話題は楽しいゴシップではないのだ。ユアナが解き放たれたことで、決着がついた感じがするから。
「――あら、でも、ピアさんはどうなさるのかしら」
ふと思い出して、マリアはルリを呼んだ。
「ピア嬢ですか? おそらく、モスト男爵は旨味のなくなったロナルド様との縁切りを願われるでしょうが……。男爵の地位でそれを言い出すのが難しいようなら、ピア嬢ごと切り捨てということになるかもしれませんね」
「まあ、そんな! でも、モスト男爵が考えそうなことではあるわね……」
ルリの予想に納得できてしまい、マリアは顔を顰める。
ロナルドはリスト侯爵家の後継ぎではない。メルシャン伯爵家への婿入りの話がなくなった以上、新たに婿入り先を探すか、王城への出仕か、領地内での仕事をする必要があるだろう。
でも、ユアナとの婚約が解消になった経緯を考えても、婿入り先は見つからないだろう。プライドが高そうに見えたので、出仕や領内での仕事に納得するようにも思えない。
侯爵家がこれ以上の恥さらしを許すとは思えないので、領内での軟禁状態になる可能性が高いだろう。
そうなれば、ゴシップの相手とされたピアは、それに巻き込まれるかもしれない。ピアを冷遇しているというモスト男爵が、彼女を守るとも思えない。侯爵家への謝罪代わりにピアは差し出されるのだ。
「うぅん……それは、なんだか嫌ね……」
本意でないことなのに、わりを食うのがピアになるとは。
「手を差し伸べますか?」
「でも、私に何ができると――」
ルリの言葉に頭を悩ませた結果、マリアは一つ自分ができることを思いついた。でも、それはマリアにとっても賭けのようなもの。
「ピアさんのために、私が動くのが正しいことかしら……」
マリアは全ての人に救いを差し出せるなんて自惚れていない。商売が好調で、貴族社交界での評判は良いようだけれど、十六歳の少女でしかないのだ。できること、できないこと。その区別はきちんとしておかないと、マリアまで害を被る可能性がある。
マリアの下には数多の部下と領民がいて、マリアの失敗は彼らの負債となり得るのだ。あまり無謀なことはできない。
ユアナのことに関しては、マリアにとってリスクがないことだっただけ。それに、マリア自身、ユアナの家や領を思う気持ちに共感していたし、ユアナの控えめで淑やかな性格を気に入っていたから、手を出すことに躊躇いはなかった。
ピアに関しては、面と向かって話したこともないし、不安要素が大きい。
「ひとまず、ピア嬢にお会いになられてみては? 気になっているのでしたら、後悔のないようにされた方がよろしいかと」
穏やかな笑みで放たれた忠言。それを真摯に受け止めて、マリアは頷いた。その言葉がマリアのことを思って放たれたものだというのはよく分かっていた。
「……そうね。ルリ、手筈を整えてちょうだい」
「かしこまりました」
「……緑茶が更に広まるなら、和菓子を作ってみるのも面白そうね」
ロナルドではなく、商売のことを呟いてしまう。マリアの中では、もうロナルドについての話題は楽しいゴシップではないのだ。ユアナが解き放たれたことで、決着がついた感じがするから。
「――あら、でも、ピアさんはどうなさるのかしら」
ふと思い出して、マリアはルリを呼んだ。
「ピア嬢ですか? おそらく、モスト男爵は旨味のなくなったロナルド様との縁切りを願われるでしょうが……。男爵の地位でそれを言い出すのが難しいようなら、ピア嬢ごと切り捨てということになるかもしれませんね」
「まあ、そんな! でも、モスト男爵が考えそうなことではあるわね……」
ルリの予想に納得できてしまい、マリアは顔を顰める。
ロナルドはリスト侯爵家の後継ぎではない。メルシャン伯爵家への婿入りの話がなくなった以上、新たに婿入り先を探すか、王城への出仕か、領地内での仕事をする必要があるだろう。
でも、ユアナとの婚約が解消になった経緯を考えても、婿入り先は見つからないだろう。プライドが高そうに見えたので、出仕や領内での仕事に納得するようにも思えない。
侯爵家がこれ以上の恥さらしを許すとは思えないので、領内での軟禁状態になる可能性が高いだろう。
そうなれば、ゴシップの相手とされたピアは、それに巻き込まれるかもしれない。ピアを冷遇しているというモスト男爵が、彼女を守るとも思えない。侯爵家への謝罪代わりにピアは差し出されるのだ。
「うぅん……それは、なんだか嫌ね……」
本意でないことなのに、わりを食うのがピアになるとは。
「手を差し伸べますか?」
「でも、私に何ができると――」
ルリの言葉に頭を悩ませた結果、マリアは一つ自分ができることを思いついた。でも、それはマリアにとっても賭けのようなもの。
「ピアさんのために、私が動くのが正しいことかしら……」
マリアは全ての人に救いを差し出せるなんて自惚れていない。商売が好調で、貴族社交界での評判は良いようだけれど、十六歳の少女でしかないのだ。できること、できないこと。その区別はきちんとしておかないと、マリアまで害を被る可能性がある。
マリアの下には数多の部下と領民がいて、マリアの失敗は彼らの負債となり得るのだ。あまり無謀なことはできない。
ユアナのことに関しては、マリアにとってリスクがないことだっただけ。それに、マリア自身、ユアナの家や領を思う気持ちに共感していたし、ユアナの控えめで淑やかな性格を気に入っていたから、手を出すことに躊躇いはなかった。
ピアに関しては、面と向かって話したこともないし、不安要素が大きい。
「ひとまず、ピア嬢にお会いになられてみては? 気になっているのでしたら、後悔のないようにされた方がよろしいかと」
穏やかな笑みで放たれた忠言。それを真摯に受け止めて、マリアは頷いた。その言葉がマリアのことを思って放たれたものだというのはよく分かっていた。
「……そうね。ルリ、手筈を整えてちょうだい」
「かしこまりました」
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