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12.怒る男
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幸せそうなユアナを見れたのは嬉しい。
一方で、ロナルドの方がどうなっているかと言うと――。
「おかしいじゃないか! 俺はずっとユアナの婚約者だったんだぞ! それをこんな一方的に婚約解消だなんて、リスト侯爵家を馬鹿にしているのか!?」
ユアナとの交友を深めて、立ち去ろうと馬車までやって来たマリアとロイズは、憐れな様子で喚くロナルドの姿を目撃することになった。
まだバレていないからと、ロイズの腕を引いて柱の陰に身を隠す。ロイズは「やれやれ、またゴシップ好きの血が騒いだのかな?」と呟きながらも従ってくれた。
「馬鹿になどしておりませんよ。婚約解消はリスト侯爵閣下との話し合いの末に決まったことでございますれば」
それはそうだ、とマリアは思わず頷いた。婚約破棄ではないのだ。リスト侯爵も納得の上の婚約解消だろう。
納得せざるを得なくなったのは、ロナルドのやらかしのせいであるのは間違いない。リスト侯爵はロナルドを叱っていないのだろうか。婚約者を子爵家の次男にとられたと、ロナルドは既に社交界の笑い者になっているはずだけれど。
「っ! ……執事じゃ話にならん! メルシャン伯爵と会わせろ!」
「お館様はただいま留守にしております。アポイントメントをお取りになった上でお越しいただきますよう、お願い申し上げます」
「このっ……! ユアナだ! ユアナを出せ!」
「ユアナ様は現在お客様を接待中でございます。アポイントメントをお取りになった上でお越しいただきますよう、お願い申し上げます」
一つ返事をする執事に、ロナルドのこめかみに青筋が浮かぶ。
「血管が切れて倒れたりしないかしら。それでメルシャン伯爵家に責を擦り付けられたら、私が弁護して差し上げるけれど」
「ふはっ……マリアは友達思いだね」
「ユアナ様は良い方だもの」
婚約者の問題から解き放たれて生き生きとしたユアナは、マリアの目から見ても魅力的な女性だった。友人として末長い付き合いをしたいというのは本心だ。
「接待って、誰だ!? 俺より優先されるというのか!?」
「リディクト伯爵家のマリア様でございます」
「なっ……!?」
怒鳴るロナルドの勢いが止まった。マリアの名前は、ロナルドにも有効だったらしい。
辞去を伝えてここにいる以上、マリアは既に接待を受けてはいないけれど、名前を使われていることに否やはない。ここでリカルドの名前が出されるより、平穏にロナルドを退けられるのは確かだろうから。
マリアの存在に気づいていて、申し訳なさそうに目礼した執事に微笑み頷いてやる。
「……なぜ、マリア嬢がメルシャン家に」
「先日、お茶会にお越しになられた際に、メルシャン伯爵家の緑茶について、マリア様とのお取引が決まりまして。その際に、ユアナ様と個人的に仲良くなられたようです」
「ユアナと……マリア嬢が……」
何故か愕然とした面持ちなのだけれど、そんなにマリアがユアナと友人付き合いをすることがおかしなことだろうか。
首を傾げるマリアの耳元に息がかかる。くすぐったい。
「きっと、逃した魚の大きさに気づいたんだよ。マリアはあまり社交界での交友関係が広くないからね。仲良くなりたいと思っている人は数知れないけど。その栄誉をユアナ嬢が勝ち取ったとなれば、婚約者であった時なら自慢に思えるものだったんだろう」
「まあ……私、そこまで凄い存在だと思われているの? 忙しくて貴族のお友達をなかなか作れないだけなのだけれど」
自分の名前が独り歩きしているようで気に入らない。不満さを籠めて呟くと、ロイズがフッと笑った。
「それが希少価値を生んで、ユアナ嬢の名誉回復に役立っているんだから、今は受け入れておきなよ」
「……あなたがそう言うなら、そういうことにしておくわ」
ロイズの息が耳にかかるのが気になって、話の内容がどうでもいいことに思えてきた。咄嗟に柱の陰に引き込んだけれど、ロイズと密着することになったのは失敗だった。
頬が熱くなった気がして、マリアはなんとか意識を他に逸らそうとする。ロイズが愉快そうに微笑んだ息遣いが、やけに大きく聞こえた。
一方で、ロナルドの方がどうなっているかと言うと――。
「おかしいじゃないか! 俺はずっとユアナの婚約者だったんだぞ! それをこんな一方的に婚約解消だなんて、リスト侯爵家を馬鹿にしているのか!?」
ユアナとの交友を深めて、立ち去ろうと馬車までやって来たマリアとロイズは、憐れな様子で喚くロナルドの姿を目撃することになった。
まだバレていないからと、ロイズの腕を引いて柱の陰に身を隠す。ロイズは「やれやれ、またゴシップ好きの血が騒いだのかな?」と呟きながらも従ってくれた。
「馬鹿になどしておりませんよ。婚約解消はリスト侯爵閣下との話し合いの末に決まったことでございますれば」
それはそうだ、とマリアは思わず頷いた。婚約破棄ではないのだ。リスト侯爵も納得の上の婚約解消だろう。
納得せざるを得なくなったのは、ロナルドのやらかしのせいであるのは間違いない。リスト侯爵はロナルドを叱っていないのだろうか。婚約者を子爵家の次男にとられたと、ロナルドは既に社交界の笑い者になっているはずだけれど。
「っ! ……執事じゃ話にならん! メルシャン伯爵と会わせろ!」
「お館様はただいま留守にしております。アポイントメントをお取りになった上でお越しいただきますよう、お願い申し上げます」
「このっ……! ユアナだ! ユアナを出せ!」
「ユアナ様は現在お客様を接待中でございます。アポイントメントをお取りになった上でお越しいただきますよう、お願い申し上げます」
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「ふはっ……マリアは友達思いだね」
「ユアナ様は良い方だもの」
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「接待って、誰だ!? 俺より優先されるというのか!?」
「リディクト伯爵家のマリア様でございます」
「なっ……!?」
怒鳴るロナルドの勢いが止まった。マリアの名前は、ロナルドにも有効だったらしい。
辞去を伝えてここにいる以上、マリアは既に接待を受けてはいないけれど、名前を使われていることに否やはない。ここでリカルドの名前が出されるより、平穏にロナルドを退けられるのは確かだろうから。
マリアの存在に気づいていて、申し訳なさそうに目礼した執事に微笑み頷いてやる。
「……なぜ、マリア嬢がメルシャン家に」
「先日、お茶会にお越しになられた際に、メルシャン伯爵家の緑茶について、マリア様とのお取引が決まりまして。その際に、ユアナ様と個人的に仲良くなられたようです」
「ユアナと……マリア嬢が……」
何故か愕然とした面持ちなのだけれど、そんなにマリアがユアナと友人付き合いをすることがおかしなことだろうか。
首を傾げるマリアの耳元に息がかかる。くすぐったい。
「きっと、逃した魚の大きさに気づいたんだよ。マリアはあまり社交界での交友関係が広くないからね。仲良くなりたいと思っている人は数知れないけど。その栄誉をユアナ嬢が勝ち取ったとなれば、婚約者であった時なら自慢に思えるものだったんだろう」
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