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10.結婚の条件
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お茶会を辞したマリアは精力的に動いた。今すべきことは、ユアナの婚約者候補となる男性との話し合いだ。
「――は? マリア様、もう一度言っていただいても?」
「だから! あなた、ユアナ・メルシャン伯爵令嬢とお見合いをする気はないかしら?」
ポカンと口を開けるリカルド・ベイカー。マリアがユアナの婚約者にと考えている男性だ。
リカルドはベイカー子爵家の次男。現在二十五歳。既に長男には後継ぎも生まれているし、家から解放されて自由に生きられる立場である。それ故、大好きな商売事に精を出し、一つの商会の長でありながらも、自分の足で国内を西へ東へ動き回っている人物でもあった。
商売関連に伝がほしいメルシャン伯爵家にとっては、リカルドと縁を繋ぐというのは非常に利点が大きい。
「えぇと……? ユアナ様というと、今話題のゴシップの渦中にある方ですね?」
「ええ、そうよ。でも、悪いのはロナルドの方であって、ユアナ様に悪いところはひとつもないのよ」
「俺としては、婚約者を御せなかったというところが、既に悪いところな気もしますがね……」
「あら、酷いことを言うわね。貴族社会が男性優位なことは知っているでしょう。しかも相手は自分より爵位が上の侯爵家よ。婚約者といえども、そうそう苦言を呈することのできる相手ではないわ。それこそ、婚約解消覚悟でないと」
「はあ……そういうものですか。なにせ、俺の前には規格外なお方がいるもんで、そういうことはよく分からないんですよね……」
疲れたようなため息をつくリカルド。その顔を眺めながら、マリアは何度か頷いた。
特別美男というわけではないが、商売人なため清潔感があるし、身綺麗にしている。元が子爵家の出であるから、伯爵家に婿入りしても問題ない。能力的にもメルシャン伯爵家に利点がある。
「あなたにも利点がある話よ?」
「……利点、ですか」
目を眇めるリカルドに、にこりと微笑みかける。何故か嫌そうに顔を顰められた。
「メルシャン伯爵家の幻の茶葉。素晴らしい出来だったわぁ」
「……幻の、茶葉……」
「ええ。あまり他の茶葉の販売が上手くいっていないから、作付けを増やすことはできていないらしいけれど。商売が上手くいくようになったら、増やすつもりらしいわ。きっと貴族たちが取り合いをするようになるわね」
「……取り合いにさせる、の間違いでは?」
「あら、私が何か企んでいるみたいな言い方は嫌だわ」
「事実でしょうよ。流行の仕掛人め……」
苦々しそうに呟くリカルドにほくそ笑む。リカルド唯一の欠点は、素晴らしい商品に目がないことだ。一度これはいいと思ったものは、自分の手で扱わないと気が済まない。商売人としては優秀だけれど、部下や周りの人々は振り回されっぱなしである。
暫く何事かを考えていたリカルドが、ため息をついて顔を上げた。その強い眼差しに、マリアは少し目を見開く。
「――商売やらなんやらで優秀なマリア様も、まだお若い貴族女性ですね」
「……どういう、意味かしら?」
思わず眉を顰めると、リカルドが小さく首を傾げて強気な笑みを見せた。
「結婚というのは、利点で決めるものではないんですよ。もちろん、貴族同士の間で、政略結婚が一般的であることは知っていますが。……俺は既に貴族の立場からある程度離れた身です。商売人としての利益は重視しますが、結婚という点において、愛のないことをするつもりはないんですよ」
あまりにももっともな言い分に、マリアは負けを悟って黙り込んだ。
「――は? マリア様、もう一度言っていただいても?」
「だから! あなた、ユアナ・メルシャン伯爵令嬢とお見合いをする気はないかしら?」
ポカンと口を開けるリカルド・ベイカー。マリアがユアナの婚約者にと考えている男性だ。
リカルドはベイカー子爵家の次男。現在二十五歳。既に長男には後継ぎも生まれているし、家から解放されて自由に生きられる立場である。それ故、大好きな商売事に精を出し、一つの商会の長でありながらも、自分の足で国内を西へ東へ動き回っている人物でもあった。
商売関連に伝がほしいメルシャン伯爵家にとっては、リカルドと縁を繋ぐというのは非常に利点が大きい。
「えぇと……? ユアナ様というと、今話題のゴシップの渦中にある方ですね?」
「ええ、そうよ。でも、悪いのはロナルドの方であって、ユアナ様に悪いところはひとつもないのよ」
「俺としては、婚約者を御せなかったというところが、既に悪いところな気もしますがね……」
「あら、酷いことを言うわね。貴族社会が男性優位なことは知っているでしょう。しかも相手は自分より爵位が上の侯爵家よ。婚約者といえども、そうそう苦言を呈することのできる相手ではないわ。それこそ、婚約解消覚悟でないと」
「はあ……そういうものですか。なにせ、俺の前には規格外なお方がいるもんで、そういうことはよく分からないんですよね……」
疲れたようなため息をつくリカルド。その顔を眺めながら、マリアは何度か頷いた。
特別美男というわけではないが、商売人なため清潔感があるし、身綺麗にしている。元が子爵家の出であるから、伯爵家に婿入りしても問題ない。能力的にもメルシャン伯爵家に利点がある。
「あなたにも利点がある話よ?」
「……利点、ですか」
目を眇めるリカルドに、にこりと微笑みかける。何故か嫌そうに顔を顰められた。
「メルシャン伯爵家の幻の茶葉。素晴らしい出来だったわぁ」
「……幻の、茶葉……」
「ええ。あまり他の茶葉の販売が上手くいっていないから、作付けを増やすことはできていないらしいけれど。商売が上手くいくようになったら、増やすつもりらしいわ。きっと貴族たちが取り合いをするようになるわね」
「……取り合いにさせる、の間違いでは?」
「あら、私が何か企んでいるみたいな言い方は嫌だわ」
「事実でしょうよ。流行の仕掛人め……」
苦々しそうに呟くリカルドにほくそ笑む。リカルド唯一の欠点は、素晴らしい商品に目がないことだ。一度これはいいと思ったものは、自分の手で扱わないと気が済まない。商売人としては優秀だけれど、部下や周りの人々は振り回されっぱなしである。
暫く何事かを考えていたリカルドが、ため息をついて顔を上げた。その強い眼差しに、マリアは少し目を見開く。
「――商売やらなんやらで優秀なマリア様も、まだお若い貴族女性ですね」
「……どういう、意味かしら?」
思わず眉を顰めると、リカルドが小さく首を傾げて強気な笑みを見せた。
「結婚というのは、利点で決めるものではないんですよ。もちろん、貴族同士の間で、政略結婚が一般的であることは知っていますが。……俺は既に貴族の立場からある程度離れた身です。商売人としての利益は重視しますが、結婚という点において、愛のないことをするつもりはないんですよ」
あまりにももっともな言い分に、マリアは負けを悟って黙り込んだ。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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