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9.提案
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「――ユアナ様は、どうなさるおつもりですの?」
思わず踏み込んで問い掛けた。横からロイズが咎める視線を送ってくることには気づいていたけれど、もう我慢できなかったのだ。
「私は……もう、婚約を続けるつもりはありませんの。父も同じ考えですわ。ですが、これから新たな婚約者を探すとなると、なかなか良い方が見つからないのではないかと……」
「その問題がありましたわね……」
不安そうなユアナの言葉に納得する。メルシャン伯爵家の子どもはユアナ一人。ロナルドではないとしても、婿を迎えねばならないのは変わりない。
既に結婚適齢期になっているユアナの年齢に相応しく、それでいて人格的にも優れている貴族男性なんて、そう簡単に見つかるものではない。そんな優良物件は、早々にどこかの令嬢の婚約者になるものだから。
ユアナと同じくらいの年齢で婚約者がいない男性なんて、どこかしらに欠点があると言っているようなものである。
そこまで考えて、マリアは不意に一人の男性を思い出した。マリアの仕事仲間で、少し変わり者ではあるけれど、人格的に悪い人というわけではない。……全面的に薦められるかと問われると、少し困ってしまう程度の男性だ。
それに、マリアの仕事仲間なだけあって、商売上手なところは、メルシャン伯爵家にとっても大きな利点ではないだろうか。なにせ、メルシャン伯爵家は現在、商売下手なせいで手当たり次第に販路開拓に勤しんでいる状態だから。
「――ユアナ様は、婚約者にどのような条件がございますの?」
「条件、ですか……?」
明るい道が見えた気がして、思わず身を乗り出し尋ねる。隣でロイズがため息をついた。マリアが積極的に問題に関わろうとしていることを察したのだ。
でも、止めようとしてこないところを見るに、ロイズもユアナの境遇には同情しているのだろう。ロナルドに良い感情を持っていないようだから、その腹いせもあるのかもしれないけれど。
「お相手の家の爵位ですとか、性格ですとか、見た目ですとか……色々ございますでしょう?」
「……この歳で婚約を解消する身で、高望みするつもりはありませんわ。爵位は気にしませんし、性格は横暴な方でなければ。見た目も不潔でなければ構いませんけれど。……マリア様は、一体何をお考えですの?」
困惑しながらも素直に答えてくれるユアナは本当に良い人だ。ロナルドの所業に、自信を喪失しているところはいただけないけれど。
貴族女性にあまり権利が保証されていないとはいえ、そこで意気消沈してしまうのはナンセンスだ。マリアが女性貴族として商売から領地運営までこなして、それが認められているように、決して努力は裏切らない。
ユアナも、ゴシップで傷ついている中でも、家のためにとお茶会の主人を全うするくらいだ。家への愛情とやる気はあるのだろう。それならば、その誇りを汚すように、投げやりになるのは良くない。
自信を回復して務めを果たせるようになるためにも、ユアナに適した婚約者が必要だろう。
「私、素敵な殿方を知っていますわ。ユアナ様は、その方にお会いする気はありますかしら?」
「は……?」
戸惑うユアナに、マリアはにこりと微笑みかけた。
思わず踏み込んで問い掛けた。横からロイズが咎める視線を送ってくることには気づいていたけれど、もう我慢できなかったのだ。
「私は……もう、婚約を続けるつもりはありませんの。父も同じ考えですわ。ですが、これから新たな婚約者を探すとなると、なかなか良い方が見つからないのではないかと……」
「その問題がありましたわね……」
不安そうなユアナの言葉に納得する。メルシャン伯爵家の子どもはユアナ一人。ロナルドではないとしても、婿を迎えねばならないのは変わりない。
既に結婚適齢期になっているユアナの年齢に相応しく、それでいて人格的にも優れている貴族男性なんて、そう簡単に見つかるものではない。そんな優良物件は、早々にどこかの令嬢の婚約者になるものだから。
ユアナと同じくらいの年齢で婚約者がいない男性なんて、どこかしらに欠点があると言っているようなものである。
そこまで考えて、マリアは不意に一人の男性を思い出した。マリアの仕事仲間で、少し変わり者ではあるけれど、人格的に悪い人というわけではない。……全面的に薦められるかと問われると、少し困ってしまう程度の男性だ。
それに、マリアの仕事仲間なだけあって、商売上手なところは、メルシャン伯爵家にとっても大きな利点ではないだろうか。なにせ、メルシャン伯爵家は現在、商売下手なせいで手当たり次第に販路開拓に勤しんでいる状態だから。
「――ユアナ様は、婚約者にどのような条件がございますの?」
「条件、ですか……?」
明るい道が見えた気がして、思わず身を乗り出し尋ねる。隣でロイズがため息をついた。マリアが積極的に問題に関わろうとしていることを察したのだ。
でも、止めようとしてこないところを見るに、ロイズもユアナの境遇には同情しているのだろう。ロナルドに良い感情を持っていないようだから、その腹いせもあるのかもしれないけれど。
「お相手の家の爵位ですとか、性格ですとか、見た目ですとか……色々ございますでしょう?」
「……この歳で婚約を解消する身で、高望みするつもりはありませんわ。爵位は気にしませんし、性格は横暴な方でなければ。見た目も不潔でなければ構いませんけれど。……マリア様は、一体何をお考えですの?」
困惑しながらも素直に答えてくれるユアナは本当に良い人だ。ロナルドの所業に、自信を喪失しているところはいただけないけれど。
貴族女性にあまり権利が保証されていないとはいえ、そこで意気消沈してしまうのはナンセンスだ。マリアが女性貴族として商売から領地運営までこなして、それが認められているように、決して努力は裏切らない。
ユアナも、ゴシップで傷ついている中でも、家のためにとお茶会の主人を全うするくらいだ。家への愛情とやる気はあるのだろう。それならば、その誇りを汚すように、投げやりになるのは良くない。
自信を回復して務めを果たせるようになるためにも、ユアナに適した婚約者が必要だろう。
「私、素敵な殿方を知っていますわ。ユアナ様は、その方にお会いする気はありますかしら?」
「は……?」
戸惑うユアナに、マリアはにこりと微笑みかけた。
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