6 / 21
6.馬車道中
しおりを挟む
ユアナからの招待状を受け取って一週間後。マリアは馬車に揺られていた。
この馬車は、スプリングを改良し、一級品のクッションをつけた、マリア自慢のものだ。従来品よりも遥かに震動を感じない作りになっている。貴族向けの販売は好調なので、そろそろ商人向けにも販路を広げたいところ。
なんて、徒然に考えていたら、向かいに座るロイズから楽しそうな視線を受けた。マリアは小さく首を傾げる。
「何か面白いことでもあった?」
「いや、君が楽しそうでいいな、と思っただけだよ。また、新しい商売のことを考えていたのかな?」
「新しくはないわね。ただ、そろそろこの馬車の販路を広げようと思っていただけよ」
「それは良いことだ。この馬車は、本当に画期的なものだよ。これが流通すれば、皆もっと移動が楽になる」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
褒め言葉を素直に受け取り微笑む。
ロイズは子爵家の子息として、現在王城で働いている。各地のインフラ整備などの仕事をしているらしい。それ故か、移動手段の改善が、国内の流通に及ぼす影響の大きさを熟知しているのだ。
「――それにしても、よく急に予定が空けられたわね?」
「普段真面目に出仕しているからね。婚約者に付き合って、時々休むことくらいは許容されるさ」
「あなたが怒られないならいいのだけれど」
ロイズは軽く笑うが、一週間で休みをもぎ取れるのは凄いことだ。それだけロイズの意思を尊重してくれる職場なのだろう。
「怒られないさ。それに、今回のお茶会の招待は、あのメルシャン伯爵家なんだろう? 君が何かやらかさないか、心配だからね」
「……もう。私だって、ちゃんと貴族令嬢の仮面を被れるわ」
拗ねて顔を背けると、ロイズが軽やかに笑い声を上げた。マリアのそれが、ただのフリだと分かっているのだ。気安い仲故のじゃれあいともいう。
現在、マリアはロイズと共にメルシャン伯爵家のお茶会に向かっている。マリアが今注目しているゴシップの当事者に会いたいがために、忙しいスケジュールを調整して出席することにしたのだ。ロイズはその付き添いである。
「ロナルド殿とピア嬢のこと、だいぶ噂になっているようだからね。僕もこの話の帰結がどうなるかは多少気になる」
「あら! ロイズもゴシップ好きになったのね!」
「ははっ、ゴシップ好きというより、ただの仕事の延長だよ。今度、メルシャン伯爵家の領地の近くのインフラ整備を行うことになるからね。あまり騒ぎが拡大して、計画が頓挫することになったら嫌なんだよ。君とデートする時間がなくなってしまう」
「……私とのデートより、重要なことがあると思うけれど」
仕事熱心なのか、それとも色惚けしているのか、ロイズがよく分からないことを言う。マリアは苦笑してその話を聞き流した。ロイズの仕事について、マリアが何かを言うのはあまり良くないだろう。
「愛しい君との付き合い以上に、僕にとって大事なものなんてないさ」
「……口が上手いのね」
既に婚約者なのに、口説くようなことを言うロイズ。マリアは恥ずかしさと同時に嬉しさを感じて、頬を染めて呟いた。
この馬車は、スプリングを改良し、一級品のクッションをつけた、マリア自慢のものだ。従来品よりも遥かに震動を感じない作りになっている。貴族向けの販売は好調なので、そろそろ商人向けにも販路を広げたいところ。
なんて、徒然に考えていたら、向かいに座るロイズから楽しそうな視線を受けた。マリアは小さく首を傾げる。
「何か面白いことでもあった?」
「いや、君が楽しそうでいいな、と思っただけだよ。また、新しい商売のことを考えていたのかな?」
「新しくはないわね。ただ、そろそろこの馬車の販路を広げようと思っていただけよ」
「それは良いことだ。この馬車は、本当に画期的なものだよ。これが流通すれば、皆もっと移動が楽になる」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
褒め言葉を素直に受け取り微笑む。
ロイズは子爵家の子息として、現在王城で働いている。各地のインフラ整備などの仕事をしているらしい。それ故か、移動手段の改善が、国内の流通に及ぼす影響の大きさを熟知しているのだ。
「――それにしても、よく急に予定が空けられたわね?」
「普段真面目に出仕しているからね。婚約者に付き合って、時々休むことくらいは許容されるさ」
「あなたが怒られないならいいのだけれど」
ロイズは軽く笑うが、一週間で休みをもぎ取れるのは凄いことだ。それだけロイズの意思を尊重してくれる職場なのだろう。
「怒られないさ。それに、今回のお茶会の招待は、あのメルシャン伯爵家なんだろう? 君が何かやらかさないか、心配だからね」
「……もう。私だって、ちゃんと貴族令嬢の仮面を被れるわ」
拗ねて顔を背けると、ロイズが軽やかに笑い声を上げた。マリアのそれが、ただのフリだと分かっているのだ。気安い仲故のじゃれあいともいう。
現在、マリアはロイズと共にメルシャン伯爵家のお茶会に向かっている。マリアが今注目しているゴシップの当事者に会いたいがために、忙しいスケジュールを調整して出席することにしたのだ。ロイズはその付き添いである。
「ロナルド殿とピア嬢のこと、だいぶ噂になっているようだからね。僕もこの話の帰結がどうなるかは多少気になる」
「あら! ロイズもゴシップ好きになったのね!」
「ははっ、ゴシップ好きというより、ただの仕事の延長だよ。今度、メルシャン伯爵家の領地の近くのインフラ整備を行うことになるからね。あまり騒ぎが拡大して、計画が頓挫することになったら嫌なんだよ。君とデートする時間がなくなってしまう」
「……私とのデートより、重要なことがあると思うけれど」
仕事熱心なのか、それとも色惚けしているのか、ロイズがよく分からないことを言う。マリアは苦笑してその話を聞き流した。ロイズの仕事について、マリアが何かを言うのはあまり良くないだろう。
「愛しい君との付き合い以上に、僕にとって大事なものなんてないさ」
「……口が上手いのね」
既に婚約者なのに、口説くようなことを言うロイズ。マリアは恥ずかしさと同時に嬉しさを感じて、頬を染めて呟いた。
38
お気に入りに追加
340
あなたにおすすめの小説

お母さんはヒロイン
鳥類
ファンタジー
「ドアマット系が幸せになるのがいいんじゃない」
娘はそう言う。まぁ確かに苦労は報われるべきだわね。
母さんもそう思うわ。
ただねー、自分がその立場だと…
口の悪いヒロイン(?)が好きです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。


婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが
ふじよし
恋愛
パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。
隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。
けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。
※現在、小説家になろうにも掲載中です

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

【完結】みそっかす転生王女の婚活
佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。
兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に)
もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは――
※小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる