ゴシップ好き伯爵令嬢の記録帳 ~公衆の場での下衆な企みはご注意くださいませ~

ゆるり

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5.招待状

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 考え込むマリアの耳にノックの音が聞こえる。

「お嬢様、お茶会の招待状が届いております」
「あら、ありがとう。どなたからかしら?」

 入ってきた執事クランツから受け取った封筒に記された名前。それを見た途端、マリアは目を見開いた。

「――ユアナ・メルシャン伯爵令嬢からじゃない!」

 噂をすれば影がさす、とはよく言ったものだ。
 思わず声を大きくしたマリアを、クランツが不思議そうに見つめていた。それに気づき、マリアはコホンと咳払いをして、動揺を誤魔化す。
 ユアナに関することを調べているなんて、ルリのような直属の部下にしか知らせていないのだ。貴族令嬢がゴシップに嬉々として関わるなんて、あまり外聞のいい話ではないし、自分の趣味は公にしていない。

「クランツ、ありがとう。返事は後で渡すわ」
「かしこまりました。他にご用がないようでしたら、失礼いたします」

 頷いて、クランツを下げ、早速招待状を確認する。

「――あぁ、新茶の時期だから、販促会なのね」

 中身を見れば、ユアナがマリアをお茶会に招待した理由は明確だった。
 メルシャン伯爵家は、領地に広大なお茶畑を持っている。国内有数の緑茶葉生産地だ。だが、販路の開拓が上手くいっていないらしく、他の領地に顧客をとられて、あまり良い商売ができているとは言えない。
 それ故、新茶の季節になると、顧客になり得る貴族を招待して、頻繁にお茶会を開いているのだ。ひとえに、顧客を得るためだ。

「昨年も招待状が来ていたような……?」
「来ておりましたよ。ですが、その頃は、お嬢様は新たな菓子店のオープンの準備に忙しく、欠席をされたはずです。メルシャン伯爵家はたいそう残念がって、その後も何度か招待状が送られてきましたが、やはり都合が悪く――」
「一度も参加したことがない、というわけね」

 ルリが教えてくれたことに、マリアは決まり悪く感じて苦笑した。

 マリアには毎日のようにお茶会や面会の連絡がくる。でも、そのほとんどを受け入れることはない。もちろん上の身分の方には、できる限り会うけれど。
 彼らがマリアに会いたがるのは、マリアが数多の商売をしていて、貴族社交界の流行を生み出す存在だと目されているからだ。マリアと仲良くなることで、旨味を得たいということだろう。

 メルシャン伯爵家も、おそらく同じ目的だ。マリアはカフェなどの飲食店や菓子店の経営をしているし、そこでメルシャン伯爵家の緑茶葉を使うようになれば、一気にブランド化できる。
 それでなくとも、メルシャン伯爵家のお茶会にマリアが参加したというだけで、メルシャン伯爵家に注目が集まって、販路開拓に弾みがつく可能性が高い。

「――普通の貴族令嬢なのに、皆様、私に期待しすぎではないかしら?」
「ご謙遜が過ぎますよ、お嬢様」

 ルリがおかしそうに笑う。マリアの言葉は冗談だと受け止められたようだ。全く冗談のつもりはなかったのだけれど。


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