5 / 21
5.招待状
しおりを挟む
考え込むマリアの耳にノックの音が聞こえる。
「お嬢様、お茶会の招待状が届いております」
「あら、ありがとう。どなたからかしら?」
入ってきた執事クランツから受け取った封筒に記された名前。それを見た途端、マリアは目を見開いた。
「――ユアナ・メルシャン伯爵令嬢からじゃない!」
噂をすれば影がさす、とはよく言ったものだ。
思わず声を大きくしたマリアを、クランツが不思議そうに見つめていた。それに気づき、マリアはコホンと咳払いをして、動揺を誤魔化す。
ユアナに関することを調べているなんて、ルリのような直属の部下にしか知らせていないのだ。貴族令嬢がゴシップに嬉々として関わるなんて、あまり外聞のいい話ではないし、自分の趣味は公にしていない。
「クランツ、ありがとう。返事は後で渡すわ」
「かしこまりました。他にご用がないようでしたら、失礼いたします」
頷いて、クランツを下げ、早速招待状を確認する。
「――あぁ、新茶の時期だから、販促会なのね」
中身を見れば、ユアナがマリアをお茶会に招待した理由は明確だった。
メルシャン伯爵家は、領地に広大なお茶畑を持っている。国内有数の緑茶葉生産地だ。だが、販路の開拓が上手くいっていないらしく、他の領地に顧客をとられて、あまり良い商売ができているとは言えない。
それ故、新茶の季節になると、顧客になり得る貴族を招待して、頻繁にお茶会を開いているのだ。ひとえに、顧客を得るためだ。
「昨年も招待状が来ていたような……?」
「来ておりましたよ。ですが、その頃は、お嬢様は新たな菓子店のオープンの準備に忙しく、欠席をされたはずです。メルシャン伯爵家はたいそう残念がって、その後も何度か招待状が送られてきましたが、やはり都合が悪く――」
「一度も参加したことがない、というわけね」
ルリが教えてくれたことに、マリアは決まり悪く感じて苦笑した。
マリアには毎日のようにお茶会や面会の連絡がくる。でも、そのほとんどを受け入れることはない。もちろん上の身分の方には、できる限り会うけれど。
彼らがマリアに会いたがるのは、マリアが数多の商売をしていて、貴族社交界の流行を生み出す存在だと目されているからだ。マリアと仲良くなることで、旨味を得たいということだろう。
メルシャン伯爵家も、おそらく同じ目的だ。マリアはカフェなどの飲食店や菓子店の経営をしているし、そこでメルシャン伯爵家の緑茶葉を使うようになれば、一気にブランド化できる。
それでなくとも、メルシャン伯爵家のお茶会にマリアが参加したというだけで、メルシャン伯爵家に注目が集まって、販路開拓に弾みがつく可能性が高い。
「――普通の貴族令嬢なのに、皆様、私に期待しすぎではないかしら?」
「ご謙遜が過ぎますよ、お嬢様」
ルリがおかしそうに笑う。マリアの言葉は冗談だと受け止められたようだ。全く冗談のつもりはなかったのだけれど。
「お嬢様、お茶会の招待状が届いております」
「あら、ありがとう。どなたからかしら?」
入ってきた執事クランツから受け取った封筒に記された名前。それを見た途端、マリアは目を見開いた。
「――ユアナ・メルシャン伯爵令嬢からじゃない!」
噂をすれば影がさす、とはよく言ったものだ。
思わず声を大きくしたマリアを、クランツが不思議そうに見つめていた。それに気づき、マリアはコホンと咳払いをして、動揺を誤魔化す。
ユアナに関することを調べているなんて、ルリのような直属の部下にしか知らせていないのだ。貴族令嬢がゴシップに嬉々として関わるなんて、あまり外聞のいい話ではないし、自分の趣味は公にしていない。
「クランツ、ありがとう。返事は後で渡すわ」
「かしこまりました。他にご用がないようでしたら、失礼いたします」
頷いて、クランツを下げ、早速招待状を確認する。
「――あぁ、新茶の時期だから、販促会なのね」
中身を見れば、ユアナがマリアをお茶会に招待した理由は明確だった。
メルシャン伯爵家は、領地に広大なお茶畑を持っている。国内有数の緑茶葉生産地だ。だが、販路の開拓が上手くいっていないらしく、他の領地に顧客をとられて、あまり良い商売ができているとは言えない。
それ故、新茶の季節になると、顧客になり得る貴族を招待して、頻繁にお茶会を開いているのだ。ひとえに、顧客を得るためだ。
「昨年も招待状が来ていたような……?」
「来ておりましたよ。ですが、その頃は、お嬢様は新たな菓子店のオープンの準備に忙しく、欠席をされたはずです。メルシャン伯爵家はたいそう残念がって、その後も何度か招待状が送られてきましたが、やはり都合が悪く――」
「一度も参加したことがない、というわけね」
ルリが教えてくれたことに、マリアは決まり悪く感じて苦笑した。
マリアには毎日のようにお茶会や面会の連絡がくる。でも、そのほとんどを受け入れることはない。もちろん上の身分の方には、できる限り会うけれど。
彼らがマリアに会いたがるのは、マリアが数多の商売をしていて、貴族社交界の流行を生み出す存在だと目されているからだ。マリアと仲良くなることで、旨味を得たいということだろう。
メルシャン伯爵家も、おそらく同じ目的だ。マリアはカフェなどの飲食店や菓子店の経営をしているし、そこでメルシャン伯爵家の緑茶葉を使うようになれば、一気にブランド化できる。
それでなくとも、メルシャン伯爵家のお茶会にマリアが参加したというだけで、メルシャン伯爵家に注目が集まって、販路開拓に弾みがつく可能性が高い。
「――普通の貴族令嬢なのに、皆様、私に期待しすぎではないかしら?」
「ご謙遜が過ぎますよ、お嬢様」
ルリがおかしそうに笑う。マリアの言葉は冗談だと受け止められたようだ。全く冗談のつもりはなかったのだけれど。
36
お気に入りに追加
340
あなたにおすすめの小説

お母さんはヒロイン
鳥類
ファンタジー
「ドアマット系が幸せになるのがいいんじゃない」
娘はそう言う。まぁ確かに苦労は報われるべきだわね。
母さんもそう思うわ。
ただねー、自分がその立場だと…
口の悪いヒロイン(?)が好きです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる