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3.企み
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マリアがロイズと生チョコレートを楽しんでいると、近くのベンチにもう一組のカップルが腰掛けた。
「――ロナルド様、計画はどうなっていますの?」
「問題なく進んでいるよ、ピア」
聞こえてきた声に、凝視しそうになるのを必死に堪える。マリアのゴシップセンサーが働いたのだ。気配を殺して耳をそばだてる。
ロイズが「おやおや……」と言いたげに片眉を上げた。でも、黙って紅茶を飲みながら見守るだけで、マリアの邪魔をしないのだから優しい。
「――ユアナの奴、まさか俺と結婚した暁には、家を乗っ取られて離れに押しやられるとは、思ってもいないだろうな。もちろん、屋敷の女主人になるのは、君、ピアだよ」
「あなたって、本当にひどい人ですね……」
悦に入ったような笑い声を漏らすロナルドに、ピアは詰るような言葉をかけた。
その声は冗談めかしているが、本心であるように聞こえて、マリアは小さく首を傾げる。マリアが知るような物語の悪者とは、少々雰囲気が違うようだ。
ロナルドとユアナ。この名前の婚約者と言えば、ロナルド・リスト侯爵令息とユアナ・メルシャン伯爵令嬢だろう。確か、ユアナはメルシャン伯爵家の一人娘で、侯爵家三男のロナルドが婿入りする予定だったはず。
ピアという名前は記憶にないから、男爵家か平民の少女だろう。身綺麗でそれなりの質の服を着ているから、男爵家の可能性が高いか。後で調べてみよう。
「――でも、本当に、そんなに上手くいくのでしょうか……」
「上手くいくに決まっているだろう。俺は優秀なんだ。ユアナなんて箱入りの女が、俺に逆らえるはずがない」
「そう……」
「ピア。だから、そんな憂いた顔をする必要はないんだよ。俺に任せておけ」
「えぇ……そうですね」
どうやら抱き合っているようだ。公衆の場ではしたない。思わず眉を寄せてため息を零してしまう。
「……僕らも抱き合ってみる?」
「嫌よ、恥ずかしい。……あなた、そんな冗談を言うタイプだったかしら?」
「いや。彼らを見ていると、少し羨ましくなってね。なにせ、二人きりでいるというのに、マリアはよそのことが気になって仕方ないみたいだから。君が楽しそうにしているのは可愛くて好きだけど……あまり僕を放っておかないで」
甘い声の囁きに、カッと頬に熱が上る。きっと真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて、扇子を広げて隠した。
ロイズが密やかに笑い声を立てるのを聞いて、じとりと睨む。優しげな好青年の顔をして、ロイズは時々マリアに意地悪なのだ。
前世を通して、男性に免疫があまりないのが憎い。揶揄われていると分かっているのに過剰に反応してしまうから。それもこれも……ロイズがマリアにとって魅力的な男性なのが悪いのだ。
「……揶揄っているのね、意地悪な人。お詫びに、今度の夜会用のドレス選びに付き合ってくれないかしら?」
「もちろん、構わないよ。君の視線を独占できるなら」
「あら、私の視線が向くのは、美しいドレスたちよ」
「残念。じゃあ、僕の好みで君を飾りたてよう」
「ロイズのセンス? それは面白そうね」
ロナルドとピアが立ち去ったのを確認して、ロイズの腕に手を掛ける。元々、この後はマリアが経営している服飾店に行く予定だったのだ。
ロナルドたちの今後は気になるから調査させるつもりだけれど、まずは婚約者との時間を楽しもう。
「――ロナルド様、計画はどうなっていますの?」
「問題なく進んでいるよ、ピア」
聞こえてきた声に、凝視しそうになるのを必死に堪える。マリアのゴシップセンサーが働いたのだ。気配を殺して耳をそばだてる。
ロイズが「おやおや……」と言いたげに片眉を上げた。でも、黙って紅茶を飲みながら見守るだけで、マリアの邪魔をしないのだから優しい。
「――ユアナの奴、まさか俺と結婚した暁には、家を乗っ取られて離れに押しやられるとは、思ってもいないだろうな。もちろん、屋敷の女主人になるのは、君、ピアだよ」
「あなたって、本当にひどい人ですね……」
悦に入ったような笑い声を漏らすロナルドに、ピアは詰るような言葉をかけた。
その声は冗談めかしているが、本心であるように聞こえて、マリアは小さく首を傾げる。マリアが知るような物語の悪者とは、少々雰囲気が違うようだ。
ロナルドとユアナ。この名前の婚約者と言えば、ロナルド・リスト侯爵令息とユアナ・メルシャン伯爵令嬢だろう。確か、ユアナはメルシャン伯爵家の一人娘で、侯爵家三男のロナルドが婿入りする予定だったはず。
ピアという名前は記憶にないから、男爵家か平民の少女だろう。身綺麗でそれなりの質の服を着ているから、男爵家の可能性が高いか。後で調べてみよう。
「――でも、本当に、そんなに上手くいくのでしょうか……」
「上手くいくに決まっているだろう。俺は優秀なんだ。ユアナなんて箱入りの女が、俺に逆らえるはずがない」
「そう……」
「ピア。だから、そんな憂いた顔をする必要はないんだよ。俺に任せておけ」
「えぇ……そうですね」
どうやら抱き合っているようだ。公衆の場ではしたない。思わず眉を寄せてため息を零してしまう。
「……僕らも抱き合ってみる?」
「嫌よ、恥ずかしい。……あなた、そんな冗談を言うタイプだったかしら?」
「いや。彼らを見ていると、少し羨ましくなってね。なにせ、二人きりでいるというのに、マリアはよそのことが気になって仕方ないみたいだから。君が楽しそうにしているのは可愛くて好きだけど……あまり僕を放っておかないで」
甘い声の囁きに、カッと頬に熱が上る。きっと真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて、扇子を広げて隠した。
ロイズが密やかに笑い声を立てるのを聞いて、じとりと睨む。優しげな好青年の顔をして、ロイズは時々マリアに意地悪なのだ。
前世を通して、男性に免疫があまりないのが憎い。揶揄われていると分かっているのに過剰に反応してしまうから。それもこれも……ロイズがマリアにとって魅力的な男性なのが悪いのだ。
「……揶揄っているのね、意地悪な人。お詫びに、今度の夜会用のドレス選びに付き合ってくれないかしら?」
「もちろん、構わないよ。君の視線を独占できるなら」
「あら、私の視線が向くのは、美しいドレスたちよ」
「残念。じゃあ、僕の好みで君を飾りたてよう」
「ロイズのセンス? それは面白そうね」
ロナルドとピアが立ち去ったのを確認して、ロイズの腕に手を掛ける。元々、この後はマリアが経営している服飾店に行く予定だったのだ。
ロナルドたちの今後は気になるから調査させるつもりだけれど、まずは婚約者との時間を楽しもう。
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