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1.マリアの記録帳
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『私の名前はマリア・リディクト。現在十六歳。リディクト伯爵家の長女にして後継ぎよ。妹はいても、男子が生まれなかったのだから、私が後継ぎでも仕方ないのよね。
淡い金髪に翠の瞳。特別不細工ではないけれど、特筆するほどの美人ではないわ。婚約者のロイズは「可愛い」と言ってくれるから、それで十分なのよ。
そんな、見た目に特徴のない私が、唯一他の人と違うのは』
「――私が、転生者だということ……」
呟きながら、記録帳に走らせていたペンを止める。顔を上げると、窓の外に美しい庭園が広がっていた。
ここはリディクト伯爵家の王都にある邸宅だ。裕福な家だから、王都の邸宅は相応に大きい。こんな大きさが必要なのかと思うけれど、貴族には見栄も必要だから仕方ないのだろう。
再び視線を記録帳に落として、続きを書き綴る。これはマリアの人生の記録であり、備忘録だ。誰に見せるつもりもないけれど、それ故に嘘偽りなく書くつもり。
『私の前世は日本人。地球という惑星の日本という島国で生まれた普通の女の子だったわ。ここでいう普通というのは、世間一般から外れたところのない、つまり特徴がないってことね。
私の前世の記憶は高校生までしかない。その後若くして死んでしまったのか、それともただ記憶がないだけなのかは分からないけれど。まあ、普通に幸せだったと思うわ。あら、また普通って言葉を使って……。口癖なのかもしれないわね。
そんな私の前世での趣味は、ネット小説を読むことだったの。特に悪役令嬢が逆境を乗り越えて活躍する話が好きだったわ。私自身があまり強い意思を持って生きられない性格だったから、自分らしく生きるということに憧れていたのかしら。
まあ、とにかく。そんな女の子が、前世の記憶を持ったまま、ネット小説の中みたいな世界に転生したらどうなると思う? 悪役令嬢が活躍しそうな世界よ? それは、もちろん――』
一度ペンを止めて目を細める。口の端がきゅっと上がった。心の底から愉快さが込み上げてくる。
「ゴシップを楽しむに決まっているわよね! どんな悪役令嬢がいるかしら。逆転劇を見物したいけれど、どうしたらいいかしらねぇ」
ワクワクと心を躍らせながら、記録帳の続きを書く。書き終えたところでインクが乾くのを待ち、パタリと閉じた。今はこれ以上書くことが思いつかない。
「あぁ、現実で物語のようなことを楽しみたいわ……」
願うように呟きながら、その機会を待つ。貴族の社交界には様々なゴシップが溢れているから、それで多少は退屈が紛れてはいるけれど、やはりもっと刺激的な展開が欲しい。もちろん、自分が主人公になるのではなく、外から眺めたいだけ。
マリアの趣味はゴシップ収集。貴族社交界で巻き起こる男女のアレコレを、眺めて楽しんでいるだけの普通の少女だ。
淡い金髪に翠の瞳。特別不細工ではないけれど、特筆するほどの美人ではないわ。婚約者のロイズは「可愛い」と言ってくれるから、それで十分なのよ。
そんな、見た目に特徴のない私が、唯一他の人と違うのは』
「――私が、転生者だということ……」
呟きながら、記録帳に走らせていたペンを止める。顔を上げると、窓の外に美しい庭園が広がっていた。
ここはリディクト伯爵家の王都にある邸宅だ。裕福な家だから、王都の邸宅は相応に大きい。こんな大きさが必要なのかと思うけれど、貴族には見栄も必要だから仕方ないのだろう。
再び視線を記録帳に落として、続きを書き綴る。これはマリアの人生の記録であり、備忘録だ。誰に見せるつもりもないけれど、それ故に嘘偽りなく書くつもり。
『私の前世は日本人。地球という惑星の日本という島国で生まれた普通の女の子だったわ。ここでいう普通というのは、世間一般から外れたところのない、つまり特徴がないってことね。
私の前世の記憶は高校生までしかない。その後若くして死んでしまったのか、それともただ記憶がないだけなのかは分からないけれど。まあ、普通に幸せだったと思うわ。あら、また普通って言葉を使って……。口癖なのかもしれないわね。
そんな私の前世での趣味は、ネット小説を読むことだったの。特に悪役令嬢が逆境を乗り越えて活躍する話が好きだったわ。私自身があまり強い意思を持って生きられない性格だったから、自分らしく生きるということに憧れていたのかしら。
まあ、とにかく。そんな女の子が、前世の記憶を持ったまま、ネット小説の中みたいな世界に転生したらどうなると思う? 悪役令嬢が活躍しそうな世界よ? それは、もちろん――』
一度ペンを止めて目を細める。口の端がきゅっと上がった。心の底から愉快さが込み上げてくる。
「ゴシップを楽しむに決まっているわよね! どんな悪役令嬢がいるかしら。逆転劇を見物したいけれど、どうしたらいいかしらねぇ」
ワクワクと心を躍らせながら、記録帳の続きを書く。書き終えたところでインクが乾くのを待ち、パタリと閉じた。今はこれ以上書くことが思いつかない。
「あぁ、現実で物語のようなことを楽しみたいわ……」
願うように呟きながら、その機会を待つ。貴族の社交界には様々なゴシップが溢れているから、それで多少は退屈が紛れてはいるけれど、やはりもっと刺激的な展開が欲しい。もちろん、自分が主人公になるのではなく、外から眺めたいだけ。
マリアの趣味はゴシップ収集。貴族社交界で巻き起こる男女のアレコレを、眺めて楽しんでいるだけの普通の少女だ。
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