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親の心、子知らず
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「チャールズ様! こちらのクッキーも召し上がって? とても美味しいのよ!」
「ふふ。クッキーもいいけど、僕はそろそろ君の甘い唇がほしいな……」
「「「「ぎゃあああああっ!!」」」」
貴族御用達のカフェの個室にて、複数の女性が天に召されていた。精神的に。
もうお分かりだろう。またクローネがやらかしているのだ。
クローネはゆるくパーマのかかった金髪のウィッグをかぶり、“チャールズ様”としてご令嬢たちとデート中であった。
乙女小説同好会の仲間たちは、クローネの男装を心から歓迎した。あのキャラもこのキャラもと要望がひっきりなしに伝えられ、クローネは求められるままにズルズルと男装を続けていたのだ。
そして、みんなでカフェや公園などに出かけて、二次元との疑似デートを楽しんでいた。
こんなことが許されているのは、ひとえに今が卒業前だから。
普段は厳格な貴族の当主たちも、子供の最後のお遊びに目をつむっているのである。
下手におかしな男と関係を持たれるよりはいいと、彼女らのお遊びはおおむね好意的な目で見られていた。
クローネは必然的に、毎日のようにキャラを変えたコスプレで家を出入りすることになる。
そう。噂のフラン家を訪れる美青年たちというのは、コスプレしたクローネのことだったのだ。
※ ※ ※
「……とまあ、そんな事情があってだな」
ポンドが語り終わると、安心した様子でテンゲが大きくため息をついた。
「そ、そうか。クローネちゃん本人だったのか。ああ、良かった。とうとうレアルが見捨てられたかと思った…!」
「それはない。クローネはなんだかんだ言って、レアルくんのことを好いているよ」
「ううっ! 本当に息子にはもったいないいい子だ!! クローネちゃんは我が家が全力を挙げて幸せにするぞ!!」
グッと拳を握ってテンゲが誓う。レアルよりもテンゲの方がよほど婚約者っぽい発言をしていることに、ポンドは苦笑した。
「そう言ってもらえるのはありがたいが…うちのディルハムのやつが、どうもレアルくんの邪魔をしているらしくてな。勝手にクローネへの接近禁止令を出したりして……」
「それは仕方ないことだ。クローネちゃんを大事にしているディルハムくんが怒るのは当然のこと」
「いや。ヤツはただ面白がってレアルくんをからかっているだけだ。次期当主だというのに、どうもヤツは性格がひねくれていてな…」
「おやおや。父上、こんなところで息子の悪口ですか? 傷つきますねぇ」
「ディッ!? ディルハム!! ぶ、無礼だぞ、いきなり…!」
横から急に口を突っ込まれたポンドは、挨拶もなくやってきたディルハムを叱責した。
「そう言われましても…ノックをしたのに返事がなかったので、心配になり入室したのです」
しれっと悪びれずに言うディルハム。ノックの音なんてしたか? いや、足音すらしなかったような…というポンドとテンゲのひそひそ話を気にすることもなく、ディルハムはソファーに腰を下ろした。
「…おい。何を勝手に座っている」
「私の話をしていたではないですか。ちょうどいいから混ぜてくださいよ」
「ちょうどいいってお前な」
「まあまあ、いいじゃないか。久しぶりだね、ディルハムくん」
「お久しぶりです。テンゲ様」
そのまま和気あいあいと話すディルハムとテンゲを、ポンドは不貞腐れた様子で見守る。
ディルハムはクローネと違い、感情を爆発させることなどしない。その性格は“腹黒”そのもの。ひねくれているせいか、どうも自分が好意を持つ人間に対して余計なちょっかいをかけたがる傾向にある。
「クローネと足して2で割ったらちょうどいいのに……」
それはポンドがずっと口癖にしていることだった。
「ふふ。クッキーもいいけど、僕はそろそろ君の甘い唇がほしいな……」
「「「「ぎゃあああああっ!!」」」」
貴族御用達のカフェの個室にて、複数の女性が天に召されていた。精神的に。
もうお分かりだろう。またクローネがやらかしているのだ。
クローネはゆるくパーマのかかった金髪のウィッグをかぶり、“チャールズ様”としてご令嬢たちとデート中であった。
乙女小説同好会の仲間たちは、クローネの男装を心から歓迎した。あのキャラもこのキャラもと要望がひっきりなしに伝えられ、クローネは求められるままにズルズルと男装を続けていたのだ。
そして、みんなでカフェや公園などに出かけて、二次元との疑似デートを楽しんでいた。
こんなことが許されているのは、ひとえに今が卒業前だから。
普段は厳格な貴族の当主たちも、子供の最後のお遊びに目をつむっているのである。
下手におかしな男と関係を持たれるよりはいいと、彼女らのお遊びはおおむね好意的な目で見られていた。
クローネは必然的に、毎日のようにキャラを変えたコスプレで家を出入りすることになる。
そう。噂のフラン家を訪れる美青年たちというのは、コスプレしたクローネのことだったのだ。
※ ※ ※
「……とまあ、そんな事情があってだな」
ポンドが語り終わると、安心した様子でテンゲが大きくため息をついた。
「そ、そうか。クローネちゃん本人だったのか。ああ、良かった。とうとうレアルが見捨てられたかと思った…!」
「それはない。クローネはなんだかんだ言って、レアルくんのことを好いているよ」
「ううっ! 本当に息子にはもったいないいい子だ!! クローネちゃんは我が家が全力を挙げて幸せにするぞ!!」
グッと拳を握ってテンゲが誓う。レアルよりもテンゲの方がよほど婚約者っぽい発言をしていることに、ポンドは苦笑した。
「そう言ってもらえるのはありがたいが…うちのディルハムのやつが、どうもレアルくんの邪魔をしているらしくてな。勝手にクローネへの接近禁止令を出したりして……」
「それは仕方ないことだ。クローネちゃんを大事にしているディルハムくんが怒るのは当然のこと」
「いや。ヤツはただ面白がってレアルくんをからかっているだけだ。次期当主だというのに、どうもヤツは性格がひねくれていてな…」
「おやおや。父上、こんなところで息子の悪口ですか? 傷つきますねぇ」
「ディッ!? ディルハム!! ぶ、無礼だぞ、いきなり…!」
横から急に口を突っ込まれたポンドは、挨拶もなくやってきたディルハムを叱責した。
「そう言われましても…ノックをしたのに返事がなかったので、心配になり入室したのです」
しれっと悪びれずに言うディルハム。ノックの音なんてしたか? いや、足音すらしなかったような…というポンドとテンゲのひそひそ話を気にすることもなく、ディルハムはソファーに腰を下ろした。
「…おい。何を勝手に座っている」
「私の話をしていたではないですか。ちょうどいいから混ぜてくださいよ」
「ちょうどいいってお前な」
「まあまあ、いいじゃないか。久しぶりだね、ディルハムくん」
「お久しぶりです。テンゲ様」
そのまま和気あいあいと話すディルハムとテンゲを、ポンドは不貞腐れた様子で見守る。
ディルハムはクローネと違い、感情を爆発させることなどしない。その性格は“腹黒”そのもの。ひねくれているせいか、どうも自分が好意を持つ人間に対して余計なちょっかいをかけたがる傾向にある。
「クローネと足して2で割ったらちょうどいいのに……」
それはポンドがずっと口癖にしていることだった。
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