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彼の昔話
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クローネとレアルの出会いは三年前にさかのぼる。
レアルは貴族には珍しく一人っ子だったので、伯爵家の跡取りとして嫁をもらわなくてはならなかった。
ところがだ。
思ったことを正直に口にしてしまうレアルは、お見合いをしては相手を不快にさせてばかり。先方から断りの連絡が入るたびに両親はため息をつき、だんだんと諦めの境地に達した。
「……レアル。嫁がこなくても大丈夫だ。いざとなったら養子を取るという手もある」
父からついにそんなことを言われた14歳のレアル少年は、ヤケになってついに女の子と親しくなることを放棄したのだった。
(どうしてみんな本当のことを言うと怒るんだろう? 香水が強すぎて臭いと言ったら泣き出すし、化粧が濃すぎて顔が白く見えると言ったら紅茶をかけられるし……。僕は親切心で指摘しているのに、なんで受け入れてもらえないんだろう……)
男相手なら、汗臭いぞと言っても笑って流してくれるし、寝癖がひどいぞと指摘すれば感謝してもらえた。女の子たちにも、改善すればもっと魅力的になると思ってアドバイスをしたのにとレアルは彼女たちの態度を理不尽に感じていた。
そんなある日。父親が目をキラキラさせてレアルに告げた。
「喜べ、レアル! 婚約の打診が来たぞ!」
正直、何をそんなに喜んでいるのかレアルには分からなかった。どうせまた断られるに決まっている。
「なんとな、相手はあのフラン家のご令嬢だ! 騎士の家系で彼女自身も鍛錬をしていると聞く。これまでのご令嬢とは違ってお前を受け入れてくれるかもしれん!」
父はそう言うが、レアルはたいして期待はしなかった。女の子は何を言っても泣くか怒って自分を拒絶するかのどちらかだと思っていた。しかし。
ついうっかり、ドレスが子供っぽく見えると言ってしまった時は。
「このドレスが子供っぽいですってぇ!? そんなわけっ…は、なくも、ないかもしれないけどっ…。確かにちょっとデザインは甘いけどっ……。……着替えてくる」
流行の化粧だと知らず、頬に光るホコリがついていると言ってしまった時は。
「これはこういうお化粧なの! 流行りなの! もうっ! ……でも、心配してくれて、ありがと」
クローネは、レアルの言うことに怒りはしても、彼を拒絶することはなかった。
さらには、彼が周りの人間を怒らせてしまうことについて、親身にアドバイスをしてくれた。
「嘘はつかなくてもいいけど、本当のことだからってストレートに言っちゃだめよ。口に出す前に、相手がどう思うか考えてみて? 香水が強すぎて臭いなんて言われたら傷つくわよ。だって、お見合いであなたに会うためのオシャレとして付けてきたわけでしょ? 自分が香りに敏感だから、次に会う時はもう少し弱い香りにしてほしいって言えばいいじゃない。それでもって、そうしたらもっと君に近づけるのに、とか言えば立派な口説き文句になるってもんよ」
その言葉に、レアルは衝撃を受けた。言い方ひとつでそこまで印象が変わるのかと。
それからレアルは少しずつ慎重に言葉を選ぶようになった。だからといってこれまでの悪癖がすぐに治るわけもなく、失言することも多かったが、以前よりも人を怒らせることは減った。
(クローネは、僕の天使だ)
レアルの中でクローネはかけがえのない存在になっていったのだった。
レアルは貴族には珍しく一人っ子だったので、伯爵家の跡取りとして嫁をもらわなくてはならなかった。
ところがだ。
思ったことを正直に口にしてしまうレアルは、お見合いをしては相手を不快にさせてばかり。先方から断りの連絡が入るたびに両親はため息をつき、だんだんと諦めの境地に達した。
「……レアル。嫁がこなくても大丈夫だ。いざとなったら養子を取るという手もある」
父からついにそんなことを言われた14歳のレアル少年は、ヤケになってついに女の子と親しくなることを放棄したのだった。
(どうしてみんな本当のことを言うと怒るんだろう? 香水が強すぎて臭いと言ったら泣き出すし、化粧が濃すぎて顔が白く見えると言ったら紅茶をかけられるし……。僕は親切心で指摘しているのに、なんで受け入れてもらえないんだろう……)
男相手なら、汗臭いぞと言っても笑って流してくれるし、寝癖がひどいぞと指摘すれば感謝してもらえた。女の子たちにも、改善すればもっと魅力的になると思ってアドバイスをしたのにとレアルは彼女たちの態度を理不尽に感じていた。
そんなある日。父親が目をキラキラさせてレアルに告げた。
「喜べ、レアル! 婚約の打診が来たぞ!」
正直、何をそんなに喜んでいるのかレアルには分からなかった。どうせまた断られるに決まっている。
「なんとな、相手はあのフラン家のご令嬢だ! 騎士の家系で彼女自身も鍛錬をしていると聞く。これまでのご令嬢とは違ってお前を受け入れてくれるかもしれん!」
父はそう言うが、レアルはたいして期待はしなかった。女の子は何を言っても泣くか怒って自分を拒絶するかのどちらかだと思っていた。しかし。
ついうっかり、ドレスが子供っぽく見えると言ってしまった時は。
「このドレスが子供っぽいですってぇ!? そんなわけっ…は、なくも、ないかもしれないけどっ…。確かにちょっとデザインは甘いけどっ……。……着替えてくる」
流行の化粧だと知らず、頬に光るホコリがついていると言ってしまった時は。
「これはこういうお化粧なの! 流行りなの! もうっ! ……でも、心配してくれて、ありがと」
クローネは、レアルの言うことに怒りはしても、彼を拒絶することはなかった。
さらには、彼が周りの人間を怒らせてしまうことについて、親身にアドバイスをしてくれた。
「嘘はつかなくてもいいけど、本当のことだからってストレートに言っちゃだめよ。口に出す前に、相手がどう思うか考えてみて? 香水が強すぎて臭いなんて言われたら傷つくわよ。だって、お見合いであなたに会うためのオシャレとして付けてきたわけでしょ? 自分が香りに敏感だから、次に会う時はもう少し弱い香りにしてほしいって言えばいいじゃない。それでもって、そうしたらもっと君に近づけるのに、とか言えば立派な口説き文句になるってもんよ」
その言葉に、レアルは衝撃を受けた。言い方ひとつでそこまで印象が変わるのかと。
それからレアルは少しずつ慎重に言葉を選ぶようになった。だからといってこれまでの悪癖がすぐに治るわけもなく、失言することも多かったが、以前よりも人を怒らせることは減った。
(クローネは、僕の天使だ)
レアルの中でクローネはかけがえのない存在になっていったのだった。
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