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29 胸にきらめくあなたの言葉
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「…たぶん、あの事件で私もテルルもタンタル様も傷ついて…関係性が拗れちゃったのかな。幼い頃って、やっぱり黒歴史を作っちゃうものだよね…わっ!?」
目の前に、キセノの胸板がある。え? え?
身動きが取れな…って、だ、抱き締められてる!?
「…セレンは、怒る機会も泣く機会も失くしたんだな。テルル嬢が報復してタンタルを傷つけちまったから、感情を押し込めることしかできなかったんだろ? ……しんどかったな……」
「っ!!」
キセノは……どうして私のこと、こんなに分かってくれるんだろう。
キセノの言うように、私はあの時、泣くことも怒ることもできなかった。でも、私がしんどかったのはそれだけじゃなくて…。
「あの後ね…テルルがタンタル様だけじゃなく、あの場にいた他の子たちからも怖がられるようになったの。タンタル様も傷ついた上に評判が下がって…。二人が辛い目に合ってるのを見て、それが…私のせいだって思っちゃって……」
「セレンのせいなんかじゃない」
ギュッと更に力を込めて抱き締められた。
ああ…キセノの体温が温かいな。
「…うん。今は私、そんなこと考えてないよ。あれは誰が悪かったわけでもなくて…まぁタンタル様はちょっとだけ口を滑らせたけど、きっと運が悪かっただけなんだと思う」
「セレン……」
「私、可愛くなくても人生前向きに生きるって、ずっとそう考えてきたんだけどね。よく考えたら、おかしいなって気付いたの。私が可愛くないって、どうして自分でそう決めつけてるんだろうって。……私、思った以上にタンタル様の言葉を真に受けてたみたい。“可愛くない女”とか“冴えない女”とか言われて、いつの間にか自分がそうだと思っちゃったのね。でも…違うって気付けた。……キセノの言葉で」
「……俺の?」
「キセノはずっと私に“可愛い”って言い続けてくれた。…キセノは覚えてないだろうけど、一昨年の星夜祭の前日ね。タンタル様に絡まれた後、初めて言ってもらったの。私、それがすごく…すごく嬉しくて……」
私は大きく息を吸い込むと、キセノから体を離した。姿勢を正して、じっとキセノを見つめる。
「私…あの時から、キセノのことが……!」
「わあああああ!! ちょっ!! ストップ! ストップ~!!」
「もがっ!?」
は!? く、口を塞がれた!? 何で!? 今一番いいとこなんだけど!!
告白を止められてむ~む~抗議する私に、キセノがごめん!と謝ってきた。
「い、いきなり止めて悪い! でも、それだけは先に俺に言わせてくれっ!」
…真っ赤な顔でそんなことを言ってくるので、私が何を言おうとしているのかは分かっているみたいだ。そして、私だって分かってる。
お互い星夜祭に誘おうとしていたのがバレた時点で、私の気持ちもキセノの気持ちもお互いにバレバレだった。
後は、どう伝えるかだったのに!!
「ぷはっ! ずるいわよ、キセノ! こういうのは先に言った者勝ちでしょ!? 途中で遮るなんて反則…」
「セレンが好きだ!! この世の誰よりも愛してる!!」
「うわあぁぁぁぁ!? 先を越されたあぁぁぁ!!」
ひ、卑怯にも程があると思いますけど! ものすごく嬉しいけど、でもでも!
「私が先に言いたかったのに~~っ!! わぷっ!?」
「ごめんな、セレン…。だけど、どうしても、絶対これだけは俺が先に言いたかったんだ」
も、もう! 抱き締めれば私が大人しくなると思ったら大間違いなんですからね!
私が予定していた告白のシチュエーションとは少しズレてしまったけど…胸は温かいものでいっぱいになっていた。
目の前に、キセノの胸板がある。え? え?
身動きが取れな…って、だ、抱き締められてる!?
「…セレンは、怒る機会も泣く機会も失くしたんだな。テルル嬢が報復してタンタルを傷つけちまったから、感情を押し込めることしかできなかったんだろ? ……しんどかったな……」
「っ!!」
キセノは……どうして私のこと、こんなに分かってくれるんだろう。
キセノの言うように、私はあの時、泣くことも怒ることもできなかった。でも、私がしんどかったのはそれだけじゃなくて…。
「あの後ね…テルルがタンタル様だけじゃなく、あの場にいた他の子たちからも怖がられるようになったの。タンタル様も傷ついた上に評判が下がって…。二人が辛い目に合ってるのを見て、それが…私のせいだって思っちゃって……」
「セレンのせいなんかじゃない」
ギュッと更に力を込めて抱き締められた。
ああ…キセノの体温が温かいな。
「…うん。今は私、そんなこと考えてないよ。あれは誰が悪かったわけでもなくて…まぁタンタル様はちょっとだけ口を滑らせたけど、きっと運が悪かっただけなんだと思う」
「セレン……」
「私、可愛くなくても人生前向きに生きるって、ずっとそう考えてきたんだけどね。よく考えたら、おかしいなって気付いたの。私が可愛くないって、どうして自分でそう決めつけてるんだろうって。……私、思った以上にタンタル様の言葉を真に受けてたみたい。“可愛くない女”とか“冴えない女”とか言われて、いつの間にか自分がそうだと思っちゃったのね。でも…違うって気付けた。……キセノの言葉で」
「……俺の?」
「キセノはずっと私に“可愛い”って言い続けてくれた。…キセノは覚えてないだろうけど、一昨年の星夜祭の前日ね。タンタル様に絡まれた後、初めて言ってもらったの。私、それがすごく…すごく嬉しくて……」
私は大きく息を吸い込むと、キセノから体を離した。姿勢を正して、じっとキセノを見つめる。
「私…あの時から、キセノのことが……!」
「わあああああ!! ちょっ!! ストップ! ストップ~!!」
「もがっ!?」
は!? く、口を塞がれた!? 何で!? 今一番いいとこなんだけど!!
告白を止められてむ~む~抗議する私に、キセノがごめん!と謝ってきた。
「い、いきなり止めて悪い! でも、それだけは先に俺に言わせてくれっ!」
…真っ赤な顔でそんなことを言ってくるので、私が何を言おうとしているのかは分かっているみたいだ。そして、私だって分かってる。
お互い星夜祭に誘おうとしていたのがバレた時点で、私の気持ちもキセノの気持ちもお互いにバレバレだった。
後は、どう伝えるかだったのに!!
「ぷはっ! ずるいわよ、キセノ! こういうのは先に言った者勝ちでしょ!? 途中で遮るなんて反則…」
「セレンが好きだ!! この世の誰よりも愛してる!!」
「うわあぁぁぁぁ!? 先を越されたあぁぁぁ!!」
ひ、卑怯にも程があると思いますけど! ものすごく嬉しいけど、でもでも!
「私が先に言いたかったのに~~っ!! わぷっ!?」
「ごめんな、セレン…。だけど、どうしても、絶対これだけは俺が先に言いたかったんだ」
も、もう! 抱き締めれば私が大人しくなると思ったら大間違いなんですからね!
私が予定していた告白のシチュエーションとは少しズレてしまったけど…胸は温かいものでいっぱいになっていた。
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