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男装女子の恋
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リィンたちの作戦は着々と進行していた。
学園内では、少しずつヘイゼルとアレックスの性別を知る人間が増えている。
ヘイゼルはともかく、アレックスに関しては目端の利く貴族には薄々正体がバレていた。
まず、名前は本名だし、リィンと親族であることも隠していない。きちんと調べればアレックスについては隣国の公爵令息だということはすぐに分かるのだ。
ただ、あまりにも女装が板につき過ぎていたので、指摘できる人間がいなかったというだけで。
そんなわけで今現在、アレックスとヘイゼルには友達になりたいという同性からの誘いがひっきりなしにきていた。
本日、アレックスはカミラやシンディーの恋人たちとサッカー観戦に行くと言っていたので、カルナッタ邸では大規模な女子会を催し中だった。
「ヘイゼルさん、次はこっちのドレスを着てみませんこと?」
「元のお顔立ちがよろしいから、何を着ても似合いますわ~っ!」
「あ、あの、ありがとう、ございます」
カミラやシンディー以外にも、今日はたくさんの女友達がリィン宅に詰めかけていた。
みんなヘイゼルに夢中なのだ。
まず、男装女子というものは女子受けが良い。それだけでも萌える存在なのだが、輪をかけて萌えるのがオリバーとの恋模様だ。
オリバーがヘイゼルに必死にアプローチしていることも、彼女たちの心の琴線を揺さぶりまくった。
男装女子と隣国王子のじれじれの恋。そんなの、応援したくなるに決まっている。
・・・というわけで、今現在ヘイゼル人気は最高潮に達していたのだった。
★ ★ ★
「なぁ。最近、ヘイゼルが異常にモテていないか?」
「ん!? んんぅんっ!?」
学園内王族専用サロンにて、ハワードの質問に答えを窮しているイアン。
ダラダラと汗をかきつつ、どうにか答えを探そうと視線をさまよわせる。
「あ、あ~・・・ほら! アレだ! 最近、オリバー様とよく一緒にいるだろ!? だからじゃないかな!」
「・・・しかし、オリバー殿がいない時にも、やたら女性に囲まれているように見えるが・・・」
「お、オリバー様についていろいろ聞かれてるんじゃないか!?」
「・・・なるほど」
少し不審を感じつつも納得したハワードにほっと息をつくイアン。
(ああ! 罪悪感が半端ない! 早くプチざまぁとやらが終わらないものか・・・! ハワードにだって情状酌量の余地があるはずなのに・・・!)
主を欺くたびに罪悪感を刺激される忠義者のイアンは、今日もまたこっそりと胃薬を流し込むのだった。
★ ★ ★
王宮庭園では色とりどりの花が咲き乱れていた。ところがそんな花々の美しさを観賞する余裕など全くないヘイゼルが、ギクシャクした足取りで庭園を歩いている。
「・・・ヘイゼル。そんなに緊張する必要はないぞ?」
隣を歩くオリバーが優しく声をかけるが、ヘイゼルは困ったように眉を寄せた。
「わ、分かっているんですが、どうしても落ち着かなくて・・・・・・」
なぜ二人が連れ立って王宮を訪れているのか。それは、王妃からヘイゼルへお茶会の招待状が届いたからだ。
ヘイゼルが性別を明かす決意をしてから、王妃にはオリバー経由でこれまでの事情が説明された。すると王妃は自分のやらかした黒歴史にたいそう身もだえ、直接ヘイゼルに謝りたいとお茶会を開くと言い出したのだ。
「謝罪をしなければならないのは、性別を騙していた私の方なのに・・・」
ヘイゼルがため息をつくと、オリバーが彼女の手を優しく握った。
「罪悪感など持つ必要はない。君は家族を守るための手段を選んだだけだ。それはむしろ誇らしいことじゃないか?」
「・・・オリバー様・・・・・・」
ヘイゼルを見つめるオリバーの瞳は、どこまでも澄んでいて。
ヘイゼルは目をそらすことができない。
(ああ・・・私は、彼に守られている・・・・・・)
ヘイゼルが王族の敵とならないように、根回ししながら奔走してくれて。
ヘイゼルに全力で愛を告げながら、彼女の心に寄り添ってくれて。
オリバーが自分をどれほど大切に思ってくれているのか、自覚してしまったヘイゼルは―――
(もう、こんなの、好きになるしかないじゃないか!)
・・・完全に、恋に落ちてしまったのだった。
学園内では、少しずつヘイゼルとアレックスの性別を知る人間が増えている。
ヘイゼルはともかく、アレックスに関しては目端の利く貴族には薄々正体がバレていた。
まず、名前は本名だし、リィンと親族であることも隠していない。きちんと調べればアレックスについては隣国の公爵令息だということはすぐに分かるのだ。
ただ、あまりにも女装が板につき過ぎていたので、指摘できる人間がいなかったというだけで。
そんなわけで今現在、アレックスとヘイゼルには友達になりたいという同性からの誘いがひっきりなしにきていた。
本日、アレックスはカミラやシンディーの恋人たちとサッカー観戦に行くと言っていたので、カルナッタ邸では大規模な女子会を催し中だった。
「ヘイゼルさん、次はこっちのドレスを着てみませんこと?」
「元のお顔立ちがよろしいから、何を着ても似合いますわ~っ!」
「あ、あの、ありがとう、ございます」
カミラやシンディー以外にも、今日はたくさんの女友達がリィン宅に詰めかけていた。
みんなヘイゼルに夢中なのだ。
まず、男装女子というものは女子受けが良い。それだけでも萌える存在なのだが、輪をかけて萌えるのがオリバーとの恋模様だ。
オリバーがヘイゼルに必死にアプローチしていることも、彼女たちの心の琴線を揺さぶりまくった。
男装女子と隣国王子のじれじれの恋。そんなの、応援したくなるに決まっている。
・・・というわけで、今現在ヘイゼル人気は最高潮に達していたのだった。
★ ★ ★
「なぁ。最近、ヘイゼルが異常にモテていないか?」
「ん!? んんぅんっ!?」
学園内王族専用サロンにて、ハワードの質問に答えを窮しているイアン。
ダラダラと汗をかきつつ、どうにか答えを探そうと視線をさまよわせる。
「あ、あ~・・・ほら! アレだ! 最近、オリバー様とよく一緒にいるだろ!? だからじゃないかな!」
「・・・しかし、オリバー殿がいない時にも、やたら女性に囲まれているように見えるが・・・」
「お、オリバー様についていろいろ聞かれてるんじゃないか!?」
「・・・なるほど」
少し不審を感じつつも納得したハワードにほっと息をつくイアン。
(ああ! 罪悪感が半端ない! 早くプチざまぁとやらが終わらないものか・・・! ハワードにだって情状酌量の余地があるはずなのに・・・!)
主を欺くたびに罪悪感を刺激される忠義者のイアンは、今日もまたこっそりと胃薬を流し込むのだった。
★ ★ ★
王宮庭園では色とりどりの花が咲き乱れていた。ところがそんな花々の美しさを観賞する余裕など全くないヘイゼルが、ギクシャクした足取りで庭園を歩いている。
「・・・ヘイゼル。そんなに緊張する必要はないぞ?」
隣を歩くオリバーが優しく声をかけるが、ヘイゼルは困ったように眉を寄せた。
「わ、分かっているんですが、どうしても落ち着かなくて・・・・・・」
なぜ二人が連れ立って王宮を訪れているのか。それは、王妃からヘイゼルへお茶会の招待状が届いたからだ。
ヘイゼルが性別を明かす決意をしてから、王妃にはオリバー経由でこれまでの事情が説明された。すると王妃は自分のやらかした黒歴史にたいそう身もだえ、直接ヘイゼルに謝りたいとお茶会を開くと言い出したのだ。
「謝罪をしなければならないのは、性別を騙していた私の方なのに・・・」
ヘイゼルがため息をつくと、オリバーが彼女の手を優しく握った。
「罪悪感など持つ必要はない。君は家族を守るための手段を選んだだけだ。それはむしろ誇らしいことじゃないか?」
「・・・オリバー様・・・・・・」
ヘイゼルを見つめるオリバーの瞳は、どこまでも澄んでいて。
ヘイゼルは目をそらすことができない。
(ああ・・・私は、彼に守られている・・・・・・)
ヘイゼルが王族の敵とならないように、根回ししながら奔走してくれて。
ヘイゼルに全力で愛を告げながら、彼女の心に寄り添ってくれて。
オリバーが自分をどれほど大切に思ってくれているのか、自覚してしまったヘイゼルは―――
(もう、こんなの、好きになるしかないじゃないか!)
・・・完全に、恋に落ちてしまったのだった。
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