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異世界踊り子見習いの聞き語2 律儀なコドコド ~魔輝石探索譚異聞~
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リビエラ姉さんを口説き落とし家族を説得し、リビエラ姉さんの下へ踊り子見習いに入ってからもう年の半分も過ぎた。
「姉さんの踊りはアタシが惚れ込んだだけのあって各地で大盛況だよ!」
ウィアが興行で滞在する街に兄さんが立ち寄った時も、会うと自分の事の様に自慢げに姉さんの踊りのことを伝えた。
しかし、自身の踊りの上達は中々苦難の道である。
一座の公演では魔石の魔力導き出しての効果はあまり使わない。
だけど、踊る姉さんからは音楽と踊りに伴い幻影が浮かぶ。
それは皆が皆同じ景色を見るのではなく、個人で違うようだった。
「振りだけ真似るんじゃなくて、思いを乗せるんだよ…それに反応して、衣装の魔石が語ってくれるんだ」
稽古の時、リビエラ姉さんに何度も言われる言葉。
魔力として明確に使うわけでは無いが、衣装の魔石から流れる力がみなに各々の情景をみせるのだそうだ。
ウィアには分かるようで分からない。
稽古が終わって雑用に入っても、ウィアにしては気分が沈む。井戸の周りにある木陰で野菜の皮むきながら姉さんの踊りを思い出し、自分に何が足りないのか考え込む。
「…」
考えても…謎だった。
ふと騒がしい音がする方向を見ると、リビエラ姉さんの長男でもうすぐ9歳のニウカが荒れている。
「何でオレばっかり…クソッ!」
最近お年頃のせいかチョット生意気な上に態度も行動も悪い。
小屋の裏にある勝手口から出てきたと思ったら、井戸の周りに洗うために置いといた鍋に蹴りを入れている。だが、予想以上に凹んでしまい慌てている姿は何だか微笑ましい。
ウィアの気分もちょっと慰められる。
今回の街ではリビエラの踊りを1の月程の間、街の酒場で上演する。
一座が寝泊まりする適当な大きさの宿が無かったので、街外れに建っていた小屋の様なボロ屋を借りて皆で過ごすことになった。
だから、炊事の手伝いもシッカリ回ってくるが、実家の宿の手伝いをしていた頃のようでウィアは少し楽しかった。
踊りの稽古も楽しいけれど、上手くいかないと行き詰まる。そんな時に料理の下準備は、良い気分転換になるのだ。
ニウカがリビエラ姉さんと言い争っていた理由…。
井戸周りで作業していたウィアが耳をそばだてずとも、勝手口内側での言い合いは会話内容がダダ漏れだった。
それは、ニウカより少し年上のウィアと同じぐらいの年代の子共達と砂漠の砦跡へ冒険に行こうとして、リビエラ姉さんにガッツリ止められた事から起こったようだ。
それで、ふてくされて当たり散らしている。
砂漠砦の跡は、10年以上前に隣国に攻め滅ぼされて消えた街。
ほぼ何も残ってないのだが、魔力が何かやたら強い場所があるらしく、魔物が集まりやすい。ただ、魔石が落ちている事も多く、近所の子供達が隠れて冒険遊びをすることが出来る地点なのだ。
リビエラ姉さんにしては珍しく頭ごなしに止めていた。
そのため余計に腹が立ったらしい。
「折角、仲良くなれたのにドーセまた移動しちゃうし…」
ブツブツ呟くニウカだった。
一緒に冒険に出ることも大事だったが、行動を共にしない事で仲間である彼らの信頼失うのではないかと言う不安がニウカの心を占めていた。
不安を打ち消すためか、作業をしていたウィアの横に無意識に来て座っている。
ウィアは夕食で使う野菜の皮むきをしている手を止めて、ニウカを見る。
遠くを見つめる瞳には、諦めと不満と寂しさが見える。
何だかどっかで味わった様なその気分をぶち壊したくて、ウィアは自然に話始めていた。
「実家の宿に来る客で諸国を巡る商人のおいちゃんに聞いた話なんだけど、コドコドって魔物がサルトゥスの森の中にいるんだって。その魔物は魔物なんだけどトテモ滑らかで、しなやかで綺麗で調教できるし、凄く高い値がつくから子供の内に捕まえて売りに出されることが多いんだって」
おいちゃんは、ウィアが宿で両親の手伝いをしている頃に良く来ては色々な話を聞かせてくれた年かさの商人だった。その、おいちゃん自身が体験したという話だ。
「コドコドは飼い主に忠実で護衛がわりになるからって、おいちゃんも港町で市が立っている時に、他の商人から手に入れて飼い始めたんだって」
横のニウカを見ると遠くに視線をやり、聞いてないように見えるが耳が此方を気にしてるのがわかる。
ウィアは正面だけを見て続ける。
「おいちゃんが泊まってるときにその子を見せてもらったけど、スッゴくデッカくてフワフワで最高だった。最初は腕ぐらいの大きさだったらしいけど、今は一人分の宿代が必要な位の大きさなんだよ。あ~もう一度触らせてもらいたいなぁ~」
ウィアが身ぶり手振りを付けてその大きさやモフモフ感を語り始めた。話が横道に反れてしまった…するとニウカが呟いた。
「…それで、どうしたってんだよ…」
聞いていたようだ。
ウィアはシメシメと思いながら続ける。
「それでね、ある時、樹海経由でサルトゥスの辺境の街に魔石を仕入れに行かなきゃならない時があったんだって。危ないけど取引相手が凄く急いでるみたいで、世話になった人だったらしくて、おいちゃん結局一人でコドコドのチャンだけ連れて出発したんだって」
「チャン?」
「うん。そのコドコドの名前らしいんだけど変わってるよね!」
ウィアも食い付いた所だったのでがニウカの着目点が何か嬉しい。
「危ないなら転移陣使えば良いじゃないか!」
良く耳にすることのある転移陣と言う単語だが、実際に陣がどんなものかさえ二人とも知らなかった。
「あれってスッゴーく凄く高いんだって!宿に5年ぐらい泊まれるよって値段らしい」
詳細情報があり、そこもどうやらウィアも同じく注目したようだ。
「ソレでね、その辺境の街まで樹海の端からでも3の月以上かかるんだって」
「まぁ、ここいら近隣の街だって1の月以上かかる街もザラだからな」
流石、旅一座の子。長男だけあって一番旅慣れているし、詳しい。
「詳しいね!アタシはまだ街の位置関係さえ覚えられないや…姉さんに、それも絶対覚えろって言われてるんだけどね」
ちょっとリビエラ姉さんに諸々どやされた時の事を思い出し凹む。
「今度、教えてやる…」
すかさず手助けを申し出てくれるが、態度はぶっきらぼうだ…。
「ありがとう!」
素直に有り難かったので礼を言うと俯きそっぽを向いてしまったので、話の続きを進める。
「それでね、樹海を旅していたら凄い大きな魔物化した危険な熊に遭遇したんだって!」
「えっ、だって一緒に居たのだって魔物なんだろ?そいつが戦ってやっつけてくれるんじゃね?それがダメでも戦わせてる間に逃げるとか色々出来るだろ?」
「アタシも問題ないと思ったんだ~!だけど、知らなかったんだけど、魔物と魔物化した魔物は違うんだって」
ヤッパリ、ニウカの食い付く所はウィアと一緒だった。
「魔物は普通の獣と同じように親子で存在して代々繋がって行くんだけど、魔物化した奴は大概そいつだけで続いていかないんだって。それに、魔物化したのはとっても狂暴なんだって」
ニウカの知らない情報を知っていたことにちょっと得意気なウィアであった。
ウィアのそんな雰囲気を感じてチョット悔しそうなニウカだった。
「それでね、まず魔物にあったら基本は逃げるんだけど…」
「そんなの当たり前だろ!」
さっきの悔しさをニウカが吐き出すが、ウィアは気にせず続ける。
「その時はもう逃げられない距離だったんだって。だからおいちゃんはチョット諦めたんだって」
「諦めちまうのかよ!」
「だって、その角付きの熊って4メル…丁度その井戸からここまでの距離ぐらい、一階しか無い建物なら簡単に壊されちゃいそうな大きさだよ!」
実際に想像してみたのかニウカもチョット納得した。
「でも、チャンが魔物熊の前に立ちはだかっておいちゃんの事を、守ろうとしてくれたんだって」
「そんなにでっかい魔物熊じゃソイツが居ても無理だろ?」
「おいちゃんもそう思ってチャンに逃げろって言ったんだって」
「えっ? でもコドコドだって魔物なんだよな?」
ニウカはチョットその対応を謎に思った。
「おいちゃんにとっては旅仲間と言うか子供も同然でとっても可愛がってたよ。宿の部屋にチャン用の服とかも用意してあった!凄く可愛かったよ!!」
「??」
世の中には魔物に服を着せる不思議な人もいるのだとニウカは学習した。
「それで、チャン共々殺られてしまうのかと覚悟を決めていたら、何処からともなくチャンと同じコドコドが3匹現れたんだって」
ウィアはニウカの方を向いて話始めた。
「コドコドが全部で4匹。それでもまだ魔物熊の大きさには叶わないのでは…と思われたけど必死に戦うコドコド達を面倒に思ったのか魔物熊は諦めて立ち去って行ったんだって」
「魔物熊が居なくなったら今度はソイツらに襲われんじゃね?」
ニウカは素直に疑問を口にした。
「うん。おいちゃんもそう思ったらしいんだ。でも集まってきたコドコドはチャンに尻尾を絡める挨拶をすると来た方向に戻って行ってしまったんだって…」
「そいつら何しに来たんだ?」
「本当に助けに来たらしいよ」
魔物の行いに納得がいかないニウカは何とか謎が解けないかと手掛かりを探す。
「そう言う習性なんじゃ無いのか?」
ウィアはまた嬉しくなってしまう。
「そうだよね! アタシもそう思って聞いたら、おいちゃんも調べたんだって。現地の人に聞いたり、本を探したり研究する人に聞いたり…でも皆、コドコドは子育て時期に親子で居るぐらいで群れを作ることは無いって言われたんだって。兄弟ですら不意に出会ったら殺し合いの喧嘩をするらしいよ!」
魔物はおっかない…と再度認識するニウカ。
おいちゃんの謎解きは続いていた様でウィアは話を続けた。
「おいちゃんも、それでも兄弟かもって…思ってチャンを買った港町に行ったとき丁度チャンを買った商人に会えたから忘れてるかもしれないけど一応聞いてみたんだって」
ウィアの方へ向けた瞳が真剣に結果を聞く。
「その商人は凄く状態が良かったチャン達3兄弟の事を覚えていて…」
「兄弟?!」
「そう! 兄弟は一緒に捕まって同じように売られていたんだって! …だから森に居たのは兄弟では無かったらしいの。コドコドは一度に2~3匹しか子供は産まないんだって」
ニウカの頭の中の謎が深まる。
「でもね、その商人がコドコドに結構詳しくて教えてくれたんだって」
謎解決の手掛かりが来た。
「コドコドは子供が小さいうちは雌と子供との2~3世帯で短期間過ごすこともあるんだって。その時一緒に過ごしたコドコドは兄弟のように過ごすらしいんだけど、一緒に居るときの挨拶が兄弟と一緒で尻尾を絡める挨拶をするらしいんだ…」
「でも大人になったら兄弟だって殺し合いの喧嘩するんだろ?」
「うん、謎だよね~。未だにおいちゃんも気になって色々調べているらしいよ」
「…所でこの話、落ちは無いのか?」
「ない!」
ウィアは悪びれず言う。
「…やっぱりお前、歌だけにしとけ…」
聞き捨てならないことを言うニウカだった…しかも何度も言う。ウィアは何くそと思った。
ウィアの落ちの無い話でも、見たことの無い世界のお話はささくれだっていたニウカの心を見事落ち着かせていた。
そして、素になった心はわだかまりとなっていた心の絡まりを表に導き出す。
「ウィアはこんな旅ばっかの暮らしに出て寂しくないのかよ…」
「リビエラ姉さんやアンタ達が要るし、自分で付いてくるって望んだんだよ! アタシにはリビエラ姉さんみたいに踊るって言う夢がある!」
「その夢、なかなか叶いそうに無いけどな~」
憎まれ口を叩いてくる。
折角、気分をまぎらわせてやったのに可愛くない。
「…寂しくないようにオレがズット側に居てやるよ…」
小さく小さくニウカが呟いた言葉はウィアには聞こえなかった。
「そう言えば、コドコドは魔物だけど自分の子供をしっかり育てる愛情深い意思ある魔物なんだってよ!」
「魔物って所はリビエラにそっくりだな!」
凹み傷ついた顔は消え、リビエラ似の意思ある瞳がそこにあった。
「誰が魔物だってぇ?」
背後の扉から出てきた最強魔物がウィアとニウカの首根っこを捕まえようとするが、捕まったのはウィアだけだった。
ニウカの走り去りながらの高笑いと叫びが響く。
「母さん! おっかないけど愛してるぜ~」
強気のキメ顔で振り向き走って行く。
更にもう一度振り返り、今度は照れた顔と小さめの声で叫ぶ。
「ウィアもついでに…ズット一緒に居てやるぞ…」
今度は振り返らず走り去った。
リビエラがウィアに向かい伝える。
「アレは本当に一生付いて行きそうだけど、頼めると良いんだがね…」
意味深な瞳でウィアを眺める。
だが、ウィアの目にはその手前に構える難攻不落の砦の様なリビエラしか目に入らない。
『リビエラ姉さんは姉さんであって、母さんにするのは厳しいかと…』
心の中を見透かしたようなリビエラから拳固が落ちるウィアであった。
ガツンと食らわせて声を掛けるリビエラ。
「さぁ、さぼりは御仕舞いだ! ちゃっちゃと片付けるよ」
仕事に向けて気合いを入れ動き始める。
夕暮れ時、此からが勝負の時間だ!!
「姉さんの踊りはアタシが惚れ込んだだけのあって各地で大盛況だよ!」
ウィアが興行で滞在する街に兄さんが立ち寄った時も、会うと自分の事の様に自慢げに姉さんの踊りのことを伝えた。
しかし、自身の踊りの上達は中々苦難の道である。
一座の公演では魔石の魔力導き出しての効果はあまり使わない。
だけど、踊る姉さんからは音楽と踊りに伴い幻影が浮かぶ。
それは皆が皆同じ景色を見るのではなく、個人で違うようだった。
「振りだけ真似るんじゃなくて、思いを乗せるんだよ…それに反応して、衣装の魔石が語ってくれるんだ」
稽古の時、リビエラ姉さんに何度も言われる言葉。
魔力として明確に使うわけでは無いが、衣装の魔石から流れる力がみなに各々の情景をみせるのだそうだ。
ウィアには分かるようで分からない。
稽古が終わって雑用に入っても、ウィアにしては気分が沈む。井戸の周りにある木陰で野菜の皮むきながら姉さんの踊りを思い出し、自分に何が足りないのか考え込む。
「…」
考えても…謎だった。
ふと騒がしい音がする方向を見ると、リビエラ姉さんの長男でもうすぐ9歳のニウカが荒れている。
「何でオレばっかり…クソッ!」
最近お年頃のせいかチョット生意気な上に態度も行動も悪い。
小屋の裏にある勝手口から出てきたと思ったら、井戸の周りに洗うために置いといた鍋に蹴りを入れている。だが、予想以上に凹んでしまい慌てている姿は何だか微笑ましい。
ウィアの気分もちょっと慰められる。
今回の街ではリビエラの踊りを1の月程の間、街の酒場で上演する。
一座が寝泊まりする適当な大きさの宿が無かったので、街外れに建っていた小屋の様なボロ屋を借りて皆で過ごすことになった。
だから、炊事の手伝いもシッカリ回ってくるが、実家の宿の手伝いをしていた頃のようでウィアは少し楽しかった。
踊りの稽古も楽しいけれど、上手くいかないと行き詰まる。そんな時に料理の下準備は、良い気分転換になるのだ。
ニウカがリビエラ姉さんと言い争っていた理由…。
井戸周りで作業していたウィアが耳をそばだてずとも、勝手口内側での言い合いは会話内容がダダ漏れだった。
それは、ニウカより少し年上のウィアと同じぐらいの年代の子共達と砂漠の砦跡へ冒険に行こうとして、リビエラ姉さんにガッツリ止められた事から起こったようだ。
それで、ふてくされて当たり散らしている。
砂漠砦の跡は、10年以上前に隣国に攻め滅ぼされて消えた街。
ほぼ何も残ってないのだが、魔力が何かやたら強い場所があるらしく、魔物が集まりやすい。ただ、魔石が落ちている事も多く、近所の子供達が隠れて冒険遊びをすることが出来る地点なのだ。
リビエラ姉さんにしては珍しく頭ごなしに止めていた。
そのため余計に腹が立ったらしい。
「折角、仲良くなれたのにドーセまた移動しちゃうし…」
ブツブツ呟くニウカだった。
一緒に冒険に出ることも大事だったが、行動を共にしない事で仲間である彼らの信頼失うのではないかと言う不安がニウカの心を占めていた。
不安を打ち消すためか、作業をしていたウィアの横に無意識に来て座っている。
ウィアは夕食で使う野菜の皮むきをしている手を止めて、ニウカを見る。
遠くを見つめる瞳には、諦めと不満と寂しさが見える。
何だかどっかで味わった様なその気分をぶち壊したくて、ウィアは自然に話始めていた。
「実家の宿に来る客で諸国を巡る商人のおいちゃんに聞いた話なんだけど、コドコドって魔物がサルトゥスの森の中にいるんだって。その魔物は魔物なんだけどトテモ滑らかで、しなやかで綺麗で調教できるし、凄く高い値がつくから子供の内に捕まえて売りに出されることが多いんだって」
おいちゃんは、ウィアが宿で両親の手伝いをしている頃に良く来ては色々な話を聞かせてくれた年かさの商人だった。その、おいちゃん自身が体験したという話だ。
「コドコドは飼い主に忠実で護衛がわりになるからって、おいちゃんも港町で市が立っている時に、他の商人から手に入れて飼い始めたんだって」
横のニウカを見ると遠くに視線をやり、聞いてないように見えるが耳が此方を気にしてるのがわかる。
ウィアは正面だけを見て続ける。
「おいちゃんが泊まってるときにその子を見せてもらったけど、スッゴくデッカくてフワフワで最高だった。最初は腕ぐらいの大きさだったらしいけど、今は一人分の宿代が必要な位の大きさなんだよ。あ~もう一度触らせてもらいたいなぁ~」
ウィアが身ぶり手振りを付けてその大きさやモフモフ感を語り始めた。話が横道に反れてしまった…するとニウカが呟いた。
「…それで、どうしたってんだよ…」
聞いていたようだ。
ウィアはシメシメと思いながら続ける。
「それでね、ある時、樹海経由でサルトゥスの辺境の街に魔石を仕入れに行かなきゃならない時があったんだって。危ないけど取引相手が凄く急いでるみたいで、世話になった人だったらしくて、おいちゃん結局一人でコドコドのチャンだけ連れて出発したんだって」
「チャン?」
「うん。そのコドコドの名前らしいんだけど変わってるよね!」
ウィアも食い付いた所だったのでがニウカの着目点が何か嬉しい。
「危ないなら転移陣使えば良いじゃないか!」
良く耳にすることのある転移陣と言う単語だが、実際に陣がどんなものかさえ二人とも知らなかった。
「あれってスッゴーく凄く高いんだって!宿に5年ぐらい泊まれるよって値段らしい」
詳細情報があり、そこもどうやらウィアも同じく注目したようだ。
「ソレでね、その辺境の街まで樹海の端からでも3の月以上かかるんだって」
「まぁ、ここいら近隣の街だって1の月以上かかる街もザラだからな」
流石、旅一座の子。長男だけあって一番旅慣れているし、詳しい。
「詳しいね!アタシはまだ街の位置関係さえ覚えられないや…姉さんに、それも絶対覚えろって言われてるんだけどね」
ちょっとリビエラ姉さんに諸々どやされた時の事を思い出し凹む。
「今度、教えてやる…」
すかさず手助けを申し出てくれるが、態度はぶっきらぼうだ…。
「ありがとう!」
素直に有り難かったので礼を言うと俯きそっぽを向いてしまったので、話の続きを進める。
「それでね、樹海を旅していたら凄い大きな魔物化した危険な熊に遭遇したんだって!」
「えっ、だって一緒に居たのだって魔物なんだろ?そいつが戦ってやっつけてくれるんじゃね?それがダメでも戦わせてる間に逃げるとか色々出来るだろ?」
「アタシも問題ないと思ったんだ~!だけど、知らなかったんだけど、魔物と魔物化した魔物は違うんだって」
ヤッパリ、ニウカの食い付く所はウィアと一緒だった。
「魔物は普通の獣と同じように親子で存在して代々繋がって行くんだけど、魔物化した奴は大概そいつだけで続いていかないんだって。それに、魔物化したのはとっても狂暴なんだって」
ニウカの知らない情報を知っていたことにちょっと得意気なウィアであった。
ウィアのそんな雰囲気を感じてチョット悔しそうなニウカだった。
「それでね、まず魔物にあったら基本は逃げるんだけど…」
「そんなの当たり前だろ!」
さっきの悔しさをニウカが吐き出すが、ウィアは気にせず続ける。
「その時はもう逃げられない距離だったんだって。だからおいちゃんはチョット諦めたんだって」
「諦めちまうのかよ!」
「だって、その角付きの熊って4メル…丁度その井戸からここまでの距離ぐらい、一階しか無い建物なら簡単に壊されちゃいそうな大きさだよ!」
実際に想像してみたのかニウカもチョット納得した。
「でも、チャンが魔物熊の前に立ちはだかっておいちゃんの事を、守ろうとしてくれたんだって」
「そんなにでっかい魔物熊じゃソイツが居ても無理だろ?」
「おいちゃんもそう思ってチャンに逃げろって言ったんだって」
「えっ? でもコドコドだって魔物なんだよな?」
ニウカはチョットその対応を謎に思った。
「おいちゃんにとっては旅仲間と言うか子供も同然でとっても可愛がってたよ。宿の部屋にチャン用の服とかも用意してあった!凄く可愛かったよ!!」
「??」
世の中には魔物に服を着せる不思議な人もいるのだとニウカは学習した。
「それで、チャン共々殺られてしまうのかと覚悟を決めていたら、何処からともなくチャンと同じコドコドが3匹現れたんだって」
ウィアはニウカの方を向いて話始めた。
「コドコドが全部で4匹。それでもまだ魔物熊の大きさには叶わないのでは…と思われたけど必死に戦うコドコド達を面倒に思ったのか魔物熊は諦めて立ち去って行ったんだって」
「魔物熊が居なくなったら今度はソイツらに襲われんじゃね?」
ニウカは素直に疑問を口にした。
「うん。おいちゃんもそう思ったらしいんだ。でも集まってきたコドコドはチャンに尻尾を絡める挨拶をすると来た方向に戻って行ってしまったんだって…」
「そいつら何しに来たんだ?」
「本当に助けに来たらしいよ」
魔物の行いに納得がいかないニウカは何とか謎が解けないかと手掛かりを探す。
「そう言う習性なんじゃ無いのか?」
ウィアはまた嬉しくなってしまう。
「そうだよね! アタシもそう思って聞いたら、おいちゃんも調べたんだって。現地の人に聞いたり、本を探したり研究する人に聞いたり…でも皆、コドコドは子育て時期に親子で居るぐらいで群れを作ることは無いって言われたんだって。兄弟ですら不意に出会ったら殺し合いの喧嘩をするらしいよ!」
魔物はおっかない…と再度認識するニウカ。
おいちゃんの謎解きは続いていた様でウィアは話を続けた。
「おいちゃんも、それでも兄弟かもって…思ってチャンを買った港町に行ったとき丁度チャンを買った商人に会えたから忘れてるかもしれないけど一応聞いてみたんだって」
ウィアの方へ向けた瞳が真剣に結果を聞く。
「その商人は凄く状態が良かったチャン達3兄弟の事を覚えていて…」
「兄弟?!」
「そう! 兄弟は一緒に捕まって同じように売られていたんだって! …だから森に居たのは兄弟では無かったらしいの。コドコドは一度に2~3匹しか子供は産まないんだって」
ニウカの頭の中の謎が深まる。
「でもね、その商人がコドコドに結構詳しくて教えてくれたんだって」
謎解決の手掛かりが来た。
「コドコドは子供が小さいうちは雌と子供との2~3世帯で短期間過ごすこともあるんだって。その時一緒に過ごしたコドコドは兄弟のように過ごすらしいんだけど、一緒に居るときの挨拶が兄弟と一緒で尻尾を絡める挨拶をするらしいんだ…」
「でも大人になったら兄弟だって殺し合いの喧嘩するんだろ?」
「うん、謎だよね~。未だにおいちゃんも気になって色々調べているらしいよ」
「…所でこの話、落ちは無いのか?」
「ない!」
ウィアは悪びれず言う。
「…やっぱりお前、歌だけにしとけ…」
聞き捨てならないことを言うニウカだった…しかも何度も言う。ウィアは何くそと思った。
ウィアの落ちの無い話でも、見たことの無い世界のお話はささくれだっていたニウカの心を見事落ち着かせていた。
そして、素になった心はわだかまりとなっていた心の絡まりを表に導き出す。
「ウィアはこんな旅ばっかの暮らしに出て寂しくないのかよ…」
「リビエラ姉さんやアンタ達が要るし、自分で付いてくるって望んだんだよ! アタシにはリビエラ姉さんみたいに踊るって言う夢がある!」
「その夢、なかなか叶いそうに無いけどな~」
憎まれ口を叩いてくる。
折角、気分をまぎらわせてやったのに可愛くない。
「…寂しくないようにオレがズット側に居てやるよ…」
小さく小さくニウカが呟いた言葉はウィアには聞こえなかった。
「そう言えば、コドコドは魔物だけど自分の子供をしっかり育てる愛情深い意思ある魔物なんだってよ!」
「魔物って所はリビエラにそっくりだな!」
凹み傷ついた顔は消え、リビエラ似の意思ある瞳がそこにあった。
「誰が魔物だってぇ?」
背後の扉から出てきた最強魔物がウィアとニウカの首根っこを捕まえようとするが、捕まったのはウィアだけだった。
ニウカの走り去りながらの高笑いと叫びが響く。
「母さん! おっかないけど愛してるぜ~」
強気のキメ顔で振り向き走って行く。
更にもう一度振り返り、今度は照れた顔と小さめの声で叫ぶ。
「ウィアもついでに…ズット一緒に居てやるぞ…」
今度は振り返らず走り去った。
リビエラがウィアに向かい伝える。
「アレは本当に一生付いて行きそうだけど、頼めると良いんだがね…」
意味深な瞳でウィアを眺める。
だが、ウィアの目にはその手前に構える難攻不落の砦の様なリビエラしか目に入らない。
『リビエラ姉さんは姉さんであって、母さんにするのは厳しいかと…』
心の中を見透かしたようなリビエラから拳固が落ちるウィアであった。
ガツンと食らわせて声を掛けるリビエラ。
「さぁ、さぼりは御仕舞いだ! ちゃっちゃと片付けるよ」
仕事に向けて気合いを入れ動き始める。
夕暮れ時、此からが勝負の時間だ!!
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
聖女なんかじゃありません保育士です
盛平
ファンタジー
保育士の篠原もみじは突然落とし穴に落ちて異世界へ。そこにはモフモフの狼になれる可愛い兄妹、セネカとヒミカがいた。もみじはどうやら異世界でお鍋やしょう油を取り出せる能力を持っているらしい ( お料理にしか使えない )。そんなもみじは、行方不明になった兄妹のお母さんを探すために街に行く事にした。街についたもののお母さんの手がかりがつかめず途方に暮れていると、突然イケメン兵士にかしずかれた。「探しました、聖女よ」聞けばこの国の王さまが自分の病気を治させるため聖女を召喚させたらしい。もみじは声を大にして叫びたかった。「私はお医者さんでも聖女でもありません、保育士です!」色々あるけど元気になるために美味しいご飯を作ります。
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