魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

おまけ4 フレイリアルの小さな悩み 1

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賢者の塔・中央塔…通称・青の塔。
其の最上階22層にある青の間、幾重にも築き上げられた結界に守られる空間。

塔と大賢者が回路で繋がりし頃…程ではなくとも、下層階より段違いに濃い魔力で満たされている。下位の賢者…実力能わざる者には立ち入ることさえ許さぬ、残酷な程に人を選別する…力有る者だけが訪い叶う神聖な領域。
其の厳格な場に選別された相応しき客を久々に迎え、一瞬の華やぎ持ち過ごした後…訪れた閑寂なひと時。

『何でかな…』

もやもやとした思い抱え目指すモノがあった。

賑わいと静けさの狭間で重厚な魔力際立ち…一層荘厳で粛たる場と化した青の間を、日常が突き破る。
フレイリアルによって、気遣い無き大胆な音を伴い…力一杯…扉が開け放たれた。
青の間は大賢者に与えられる場であり…今現在はフレイリアルのもの。
しかし大賢者の執務室と呼べる青の間には、実質的に管理するモノが常駐する。

プラーデラの懐かしき者達を歓待する隙間時間、フレイリアルが再び此の場に戻って来た理由。
フレイリアルの内…意識下に潜れば存在する、最も近く…永遠に共に在る助言者コンシリアトゥールリーシェライルに会うべく青の間に戻る。

リーシェライルはフレイリアルに内在するモノであり、内から呼び出し話しかける事は可能。
だが…基本的に中身の無き人形であるグレイシャムへ宿り、青の間に常駐し元大賢者としてフレイリアルの職務を代行する。
幼い頃からの癖でもあり、フレイリアルは此の場へリーシェライルを求め訪れた。

いつもの様に青の間へズカズカと踏み入り、リーシェライル入るグレイシャムの器が座る長椅子へと一直線に向かう。
そして其のままの勢いでポスリッ…と横並び座り、声を掛ける。

「ねぇ、リーシェ…」

リーシェライルは書類に落としていた視線を上げ、完全にフレイリアルに意識を向ける。
そして器として使うグレイシャムの典麗な美しき金の面を輝かせ、何時もの様に心から愛おしそうに見つめながら答える。

「…んっ? 何だいフレイ?」

「あのね…」

自分から声を掛けてみたものの…何処か躊躇い含むフレイリアル。
言葉続かぬ状態で若干俯く。
そして下ろしていた足を椅子の上に持ち上げ、今度はリーシェライルに背を向け…膝抱え込み丸くなる。

「……?」

優しく問いかけるような瞳を向け、リーシェライルは無言で見守り…フレイリアルの言葉を待つ。
すると…背を向けた状態のフレイリアルが、勢い良く…仮の器であるグレイシャムに入るリーシェライルにトスリっと寄りかかり…背もたれにしてくる。
そして、其の勢いと共に止めた言葉の先を紡ぐ。

「私って…大賢者を引き継いだのは確かなんだよね?」

「賢者の石を取り込んだ時点で、そう言うことになるかな…」

どういった意図での質問か訝しみつつ、リーシェライルは優しく柔らかく答える。

「じゃあ、私は何でっ…!」

勢いのままに飛び出しそうになった言葉を飲み込み、フレイリアルにしては冷静に…慎重に…ゆっくりと…疑問をぶつける。

「大賢者…になったのならば、ヤッパリ…少しぐらい…ほんの気持ち程度でも…私だって歳をとっても良いんじゃないのかなぁ…」

突拍子もない…と表現される事の多いフレイリアルの言動、脈絡なく話題を振られるのは…ままある事。相変わらずとはいえ意表突く言動に、少しだけリーシェライルの目の開きが大きくなる。
何故なら…以前ほぼ同じ問い掛けを発したフレイリアルに、リーシェライルが明確な答えを示し…十分納得していたはずだったから…。
しかも其れから随分と経ち…今更感半端ないと言うのに、わざわざ持ち出した事への驚き。

フレイリアルの助言者であるリーシェライルは、本来は内なるモノであり…他の器を介在させずとも常に意識下では繋がり…共有する。
個としての存在を維持し…思考分けること心掛けても、根源同じくする繋がる存在。
もっとも…フレイリアルを見守り続けてきたリーシェライルにとって、フレイリアルの思い悟ることなど朝飯前。意識の共有など無い頃より、事細かに把握してきた。
だからこそ、此の質問は予想外。
リーシェライルは一旦受け入れ、質問の要旨を確認する。

「…前に…大賢者になる時に外見の年齢が上昇するのは、足りない魔力を生命力で補っているから…って話したよね」

「だけど、変だよ!」

何か以前と違う部分で引っ掛かりを感じたようであり、其の内容に食って掛かる。

「何がだい?」

「だってニュールが枯れたおじさんになっちゃった…年取っちゃった理由が、生命力奪われたから…って説明はスッゴク納得出来たんだけどね…」

散々お世話になってきたニュールについて…なのだが、相変わらず気付きもせず失礼な表現で語る。もっとも…リーシェライルは気付きつつも気にせず、楽しそうに耳を傾けていた。
フレイリアル自身は不満不服で一杯一杯であり、不貞腐れ顔でリーシェライルに引き続き思いをぶつける。

「でもね…良く考えたらリーシェは子供だったのに大人になったんだよね? ソレって力奪われて年取った…と言うより、成長したって言うんじゃない?」

「確かに単純に生命力の変換…って言葉で片付けてしまうと、納得いかないかもしれないね」

異議を唱えるフレイリアルに向け、リーシェライルは丁寧に説明を加えていく。

「生命力そのものを奪う…と単純に表現してしまったけど、事象の連続を凝縮して抜き取り…変転していく力を動力源として活用する感じ…かな」

自身に眠る過去の記録を検討しながら、リーシェライルは考察する。

「だから…老いる…と言うより、本来なら活動しながら積み重ねられていくべき年齢が一気に加算される…のだと思う」

「???」

「うーん…僕自身も明確な理論を組み立て検証した訳ではないのだけど、存在していたであろう時空を奪う…直接肉体から絞り取るんじゃなくて…存在したであろう権利を奪う…と言うか…抜き取る…と言うか…」

「?????」

フレイリアルの頭に浮かぶ疑問符が増えていく。

「じゃあヤッパリ成長…したんだよね…」

「そう言えなくもない…かな。ただし、フレイの場合は…」

少し申し訳なさそうな表情浮かべながらも、リーシェライルはフレイリアルの持つ…淡い期待を打ち砕く。

「…無尽蔵に力を保有する場所と繋がった存在…巫女であったから、大賢者へ変化するための力は…全て其れで賄えたんだと思う…」

其の確固たる結論で…往生際の悪い駄々をこねるが如き問い質しは収まったのだが、フレイリアルは露骨な不満顔示す。

「でも…だって…やっぱり…ずるいよっ」

小さな呟きにも心の葛藤が駄々漏れだ。
フレイリアルは、自身が納得するまで諦めず追及する…比較的しつこい性質を持つ。
だが1度決着がつき納得すれば、一切の執着が消える。
つまり…何らかの切っ掛けがない限り、得心した事は綺麗サッパリ忘れてしまう事が多く…心残りは持ち越さぬ。
だからこそ…再度浮上した問いには原因がある…と、リーシェライルは見当つけた。

「前に十分納得してたと思うけど、今度は何が切っ掛けで気になったんだい?」

リーシェライルが…反則級の美麗さ溢れる金の器に、優しく受容する笑み浮かべ問い掛ける。
以前の…儚げな麗しさ持つ白銀と灰簾魔石の色合い持つリーシェライルとは別の雰囲気であるのだが、甲乙つけがたい美しさ。
そして…容姿変われど、フレイリアルへの慈愛が瞳の内に溢れていた。

「……」

リーシェライルの寛大で温かく甘い懐柔の誘いにもなびかず、何故か…何に対してかは分からぬが…フレイリアルの面に浮かぶ…落胆とも不満とも言えぬ臍曲がりぎみの表情が消えない。
リーシェライルの問いに答えず、途中から口をつぐんでしまった。

フレイリアルの中で今更感否めないない不毛な問いが再燃した主な元凶、其れは久々に顔を合わせたミーティである。
そして…若干ブルグドレフも加担しているのかもしれない。


青の間での旅仲間との再開。

「やっと会えて凄っく嬉しいよ!! ミーティもモーイも元気そうで良かったよぉ、それに凄っく大人っぽくなったよねぇ! 此の前2人ともプラーデラで成年の儀式も受けたんでしょ? おめでとうぅ!!」

息も継がず、挨拶と…問い掛けと…祝辞と…一気に述べるフレイリアル。
今回は懐かしい旅仲間3人によるエリミア訪問。
ミーティとモーイが初の国外任務…2人での樹海の集落訪問…を任され、お役目完遂前から約束されていた…御褒美休暇である。
ニュールがエリミアを訪れた主目的は…フレイリアルとの守護者契約解除ではあるのだが、成年を迎えたとはいえ…若干危なっかしい2人の引率者として役目も兼ねているようだ。

其々の経緯はあれど、かつての旅仲間がエリミアを訪れた事で久々の再会が叶った。
ひとしきり…懐かしい顔ぶれで、お互いの無事を喜び合う。

国王であるが故に内密での来訪になったニュール、公式な対応は不要な癖に…とても忙しそう。
保護者勢は再開の喜びジックリと味わう間もなく、軽い挨拶述べただけで顔突き合わせ…話し合いを始めた。
守護者契約解除の手順確認…余計な手出しを考えていそうな者達の確認…現状における近隣諸国への対応…などなど、直接話し合うべき盛り沢山な内容が溢れる。

騒がしきフレイリアル達は、ブルグドレフと言うお目付け役と共に追い出される事となったのだ。
勿論…取り残された御気楽なモノ達は一切気にせず、別室に集い…旧交温めるべくのんびり語り合う。

ニュールとは大賢者や守護者の繋がりを用い…良く会話交わしていたフレイリアルだが、ミーティやモーイとは本当に久々。
其の分、気分も高揚する。
和やかな空気広がり…接待役として参加する新顔のブルグドレフをも、心温まる親しい者達の中へと自然と取り込む。
全ての者を許容し包み込む…寛容な空間。
場を移し…保護者不在で気軽さ増し、一層気兼ねない楽しさ溢れていた。
気分盛り上がるフレイリアルが、捲し立てる様にミーティとモーイに話し掛け…騒がしくも懐かしい…和気藹々とした空気が広がっていく。

「ホント懐かしいね!」

「1の年以上…だからな…」

エリミアにやって来た目の前の2人…ミーティとモーイ。
此の1の年の間に成年を迎え、完全な大人として一人前の役目担い始めていた。
容姿も十分に成長し、子どもから若者へと羽化した姿が…実に輝かしい。
他人事ながらフレイリアルはワクワクした気分が止まらず観察しまくる

「モーイ…何かとっても綺麗になったよね…見とれちゃうぐらいだよ。それにミーティも…うーん…チョット変わった?」

フレイリアルが持つ漠然とした感覚を言葉にすると、2人の顔が何故か明後日の方へ向く。
モーイの頬は、ほんのり色付いている様だ。
更に感じたまま、フレイリアルが畳み掛ける様に口にする。

「それにっそれにっ、2人ともトッテモ幸せそうだよ?! 何か良い事あった?」

「えっ? ヤッパ分かっちゃう?? 滲み出ちゃってるかぁ」

フレイリアルの指摘に…ちょっと浮かれた感じで答えるミーティ、其の隣のモーイも冷静さ装ってはいるが、隠しきれず…若干口元緩む。
恥ずかしそうに視線逸らす表情は、先程より更に赤らんでいた。
一見するとモーイは…凍てつく季節の冷ややかな美しき容貌と雰囲気纏うのだが、今は温かな季節になりかけた空気感持ち…氷溶け煌めき始めた水面の如く淡く輝く。
芽吹く季節…ひととき手に入れた長閑さの中、熱で溶け出した氷が周囲を巻き込む事も…あるのかもしれない。
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