魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

おまけ3 フレイリアルが目指す場所 5

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「ここから少し沼地の様な場所になりますので、鎧小駝鳥アマドロマイオスには向きません。私の砂蜥蜴サンドリザードに2人乗りでも宜しいですか?」

「此方こそ宜しいのでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ」

「お仕事のお邪魔をして申し訳ありませんが、宜しくお願いします」

「いえ、お気になさらずに。こちらにご一緒にどうぞ…」

そう声をかけてから第6王女を自分の砂蜥蜴の前に乗せ、安全確保の為に後ろから腕を回す。
予想以上に華奢な身体にそぐわない目を引く膨らみ…抱き締めたくなる衝動。ブルグドレフは自分が惑わされる質では無いと思っていたが、明らかに逆上せているのを自覚する。無意識に回した腕に力を入れ、引き寄せようとしてしまう。

その瞬間…時々感じていた冷んやりとした感触が首に纏い付き、冷たい指で締め付けられるように息が詰まっていく。
思わず回していた腕を離し、自分の首を確認すると締め付けがおさまった。

「…すみません。以前痛めた手が少し痛むので、安全には気を付けますので御自身でしっかりと砂蜥蜴に捕まっていて下さい」

ブルグドレフがそう告げると冷んやりとした感覚も消えた。
草生い茂る湿地帯を抜けると瓦礫の山の様な場所に細い道が出来ている場所に辿り着く。

「この岩山の間を抜けた先が目的地なので、此処からは歩いて行きましょう」

ブルグドレフの言葉に従い、砂蜥蜴を降り後に付いて行く。
一緒に来た従者は砂蜥蜴の所に留まるようブルグドレフから指示を受け、未だにフレイリアルを胡散臭そうに睨みながら主人を心配しつつ言葉に従う。不安定な道のりなのでブルグドレフはフレイリアルの手を取るが、先程よりはましなチクチクと刺すような痛みが再び手に現れる。
明らかに行動と痛みの関連性があると思われる状況、訝しみ警戒するが判断は保留する。

暫く歩き進むと、瓦礫の中に唯一残っている残骸の様な建物と、その中心に簡易な屋根と柱だけでできた周囲の瓦礫を利用したような四阿があった。その下には、魔法陣が剝き出しで描かれていた。
外部に曝された状態だが、魔法陣が築く防御結界に厳重に守られてはいる。漏れ出る魔力の流れが、明らかに機構深部へ繋がる為の…重要な扉となる魔法陣であることを示していた。
ブルグドレフはフレイリアルの手を離すと足早に其の陣ある場所に移動し、上に立ち告げる。

「ここからの陣は人数制限があるので、この先に進まれるのでしたら申し訳ありませんがご自身でお願い致します」

そして起動力となる魔石を陣の上に置くと、魔法陣が輝きブルグドレフは一瞬で消え去った。

「怖がられちゃったのかな…」

フレイリアルが残念そうに小さく呟く。
今までと違う態度で転移を強行し、フレイリアルを置いて1人で行ってしまった。何故だか其の事に対しフレイリアルの方が罪悪感を感じる。

『恐怖とは…劣るが故に募るもの。それよりもフレイの事を試そうとした行動の方が問題だな…』

リーシェライルは過去に幾度となく浮かべた美しくも酷薄な強者の笑みを、フレイリアルの意識下で描き出す。
そして怒りで空間の温度下げる。

「警戒心持たれちゃったのかもよ…リーシェ、少し意地悪してたよね!」

『ふふっ、僕のフレイにちょっかいを出す不届き者に掛ける情けはないからね』

悪びれずシラッと答え、今度は爽やかで鮮やかな微笑みで彩られるリーシェライルの姿が見えた。

「協力者が居た方が良いって…2人で話して出した結果でしょ?」

『それでも気に食わなければ、今の僕は我慢はしないよ…』

そう言うと、不敵な悪い笑みに切り替えるリーシェライルを感じた。フレイリアルは溜息をつきつつも苦笑いし、ブルグドレフが向かった場所へと続く。

水の機構管理する場所は、瓦礫の山が築かれている地下にある。
全体に掛けられた防御結界陣の隙間を縫って直接入り込むことも可能だが、四阿に敷かれた魔法陣から向かうのが安全そうだった。然程複雑な魔法陣でも無かったので、解析し鍵を作り出し一瞬で追いつく。

「ここは魔力活性集約点ホットスポットにもなる場所のようですね…」

フレイリアルはその場に辿り着くと、目の前に立っていたブルグドレフに声を掛ける。
魔法陣の先にある地下空間は境界門の地下同様、少し広めの空間にある台の上に陣が描かれていた。地下に張り巡らされた水の機構に繋がり動かす陣だ。
ブルグドレフは分かってはいたが、呆気なく同じ空間に辿り着かれ声を掛けられ…半分諦めたような気分になる。そして自身が子供じみた行動を取っていたことに恥じ入った。

「ちゃんと説明もせず立ち去ってしまい申し訳ありません…」

ブルグドレフは自分が比較的冷静な質であり、羨望や怨望での高ぶりや恋情や劣情による昂ぶりなどとは縁遠いと思っていた。それなのに此の数時間で色々な感情が刺激される。
自分自身の行動に踊らされているかのような複雑な表情浮かべるブルグドレフを見て、フレイリアルは溜息をつき小さく謝る。

「ごめんなさい…私の体質で…感情が刺激されているかもしれません。ですから、お気になさらずにいて下さい」

巫女の性質は弱まりはしても、完全に抜けたわけではない。…良くも悪くも、通常より大きく人の感情を揺さぶる特性は残っているようだ。
フレイリアルは縮まったブルグドレフとの距離感を元へ戻し、遣るべきことを実行する。

「リーシェ、ここは魔力の集約の拠点に出来そうだよね」

『魔力活性集約点だし、簡単に拠点に移行できそうだね。だけど末端の陣の組替えが終了してないから、少し陣を合理的に改変して効率だけ良くしておいて、後日全て終了してから切り替えかな…』

「終点登録しておけば簡単に来られるか…取り合えず今日は、さっきと同じ様な感じで魔力を集めるよ…」

リーシェライルの案に対し自分が出来ることをフレイリアルは告げる。

『了解。今度は境界壁より少し深い場所へ繋げて連動させるから、魔力集めた後に紐を高いところから下ろしていく様に細長い流れを作って地下へ向けて注いでみて。それと敷く陣の構造は僕が組み上げるから、今度はフレイが実際に最初から空間魔石動かし描いてみよう』

「えっ、もう実践?」

『遣ってみるのが一番の修練だよ。もちろん補助はするから』

「わかった…」

少し厳しめの師匠であるリーシェライルが顔を出す、そうして一通り打ち合わせを終えた。
1人呟いている様に見えるであろうフレイリアルの姿を、言葉失い見守るブルグドレフに向かい告げる。

「感じてはいるとは思いますが、大事変の後…機構の根本が壊れていたり、塔との繋がりが薄くなっているために魔力の供給が減っています。先程の境界門の管理所の陣と同様、効率の良い魔法陣へと組み替えますのでご容赦下さい」

有無を言わさず行動する。
大切な陣を守る防御結界陣も有って無いような感じで扱いつつ、水の機構に繋がる陣へ直接手を置き解析する。
ブルグドレフは何処か苦しそうな表情で無言で見守っていた。

『解析は済んだね…では、始めよう』

先程の境界壁と同じように水の機構に繋がる魔法陣の解析を終え、意識の中に響くリーシェライルの美麗な声に促され魔力を周囲から集め始めるフレイリアル。
今回も相当量の魔力を周囲から集め、往古の魔法陣の上に集約する。集まり輝く魔力は編み上げられ縄状になり、陣の中心へ繋がり砂時計の砂の様に地中深くへ注がれ続ける。

『流れが出来たら、そっちは放っておいて大丈夫だよ。一緒に魔法陣を描こう』

陣を築き上げるための補助として、制御するための魔力をリーシェライルが注ぎ込む。それは現実世界の感覚としてフワリと背後からフレイリアルの両の手を取るような感じで温かさが伝わってきた。
空中に存在する魔力とともに集まった空間魔石を1か所に凝集させた後、フレイリアルはリーシェライルが意識下で示した魔法陣の設計図を頭の中に精密に広げる。

「門の所の陣より緻密で大きいんだね…」

『門のは刷新するための改造だったけど、これは往古のモノから完全に切り離して新たな魔力汲み出す機構を作り上げる感じだからね。こう言うのを各都市に作って往古の機構の道筋で各地の水場や門や壁に繋げる予定なんだよね?』

「うん、そんな感じにしたいと思っていた」

既に実行直前の秒読み段階に入っているのに、遣ろうとしているフレイリアル自身は漠然とした展望のみで行動している。

『ふぅ…ふふふっ、変わらないね。確かにやってみなきゃ、分からないからね…』

溜息と一緒に笑いが漏れるリーシェライル。

『そう言う所は依然より拍車がかかってる感じよだね…ニュールの影響かな…』

離れて間に過ごした時へと、思いが向かう。
フレイリアルの意識下、今度は鋭さ持つが艶やかな花咲くような笑みをリーシェライルが浮かべる。

『フレイが出会った者たちに、いつか会えるのが楽しみだな…』

「うん…楽しい出会いがいっぱい有ったんだよ。今度はリーシェと一緒に会いに行けるね」

フレイリアルも準備段階の魔力操作しながら、遠い土地に思い馳せる。

『やっぱり早く片付けないとね…機構の末端が全て出来上がれば感知して、自動で組み変わるようにするよ』

そして思い出したように、どこか少しつむじが曲がった…怒りを孕む雰囲気を醸し出すリーシェライル。

『この国は…真実を理解できぬような愚かな頭しか持たぬ者達が多くいる。君が傷つけられるのは許せないからね…』

そして魔法陣築くために内より導き出した魔力を腕のようにして、リーシェライルはフレイリアルを背後から抱きしめる。

「…リーシェ?」

大賢者として賢者の石ごと、其処に含まれるリーシェライルを含む大賢者達の記憶をフレイリアルは内包した。それは助言者コンシリアトゥールを代表とした大賢者達の記憶が、新しい大賢者を受け入れる儀式でもあった。

内在するリーシェライルの過去の私事をフレイリアルが探ることはなかったし、リーシェライルも決してフレイリアルの記憶の詳細を見ることはなかった。
それでもリーシェライルが助言者として大賢者となったフレイリアルの内に在る事で、見つけてしまったものがある。
今までエリミアの者達から受けた、冷淡で不躾な言葉や態度が作り出した鋭い刃で出来た…心の傷跡。
それは細かい棘となって、予想以上に多く深く食い込んでいた。

『…君が願うなら、全てから切り離し守ってあげるよ』

その労りに気付き、フレイリアルは包むように広がるリーシェライルの魔力の腕に寄り掛かる。

「大丈夫だよ。まだもう少しこのまま過ごしたいかな…リーシェや他の仲間にも会いたいから。一緒にいてくれる?」

『フレイが望むままに…僕はいつでも、いつまでも君と共にあるのだから』

何処までも甘く優しく包み込み…本当のそこに存在するかの様に、フレイリアルの背後でリーシェライルは微笑むような温かい灰簾魔石色の魔力を広げるのだった。
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