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第五章 ヴェステ王国編

おまけ3 フレイリアルの目指す場所 1

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「第6王女フレイリアル様より、賢者の石が発する膨大な魔力を感知出来る…と各賢者の塔長より確認が取れました」

王が直接調査申しつけた、国王付き賢者でもある側近より報告が御前に届けられた。

「では、姿形の変容はあまり無いようだがフレイリアルに大賢者の継承がなされた…と言う話は、間違いないと言うことだな。それは、リーシェライルが賢者の石の中に入滅したため…と言うのも事実なのだな」

「御意に」

報告をフレイリアルから直接受けた日より10の日程費やし調べ…得た答えだった。


フレイリアルは賢者の石を自身の中に取り込んだ翌々日、助言者コンシリアトゥールとなったリーシェライルの導きにて1度だけエリミアの国王への謁見を大賢者の名にて申し入れ…報告を行った。
指定された刻限…リーシェライルが以前登録した謁見の間にある終点に向け、フレイリアルが転移陣築き直接赴く。
跪き頭を低くし礼をとるが、その現れ方と現れた者に対し…大賢者の謁見の申し入れで集まった重鎮達にざわめきが広がった。完全に転移陣の青い輝きが消えた後、喧騒収まらぬ中でフレイリアルは挨拶の口上を述べる。

「この度は陛下への拝謁賜り…」

「何故に貴女様が此処に在るのですか!」

王の横に侍る内務司る大臣をもこなす側近が、甲高い鋭い声でいきなり挨拶を遮り、頭ごなしに問い質してきた。

「…3つの事柄を伝えに参りました。1つ目は大賢者リーシェライルが賢者の石に還り、其を私が内包しました」

フレイリアルは遮られた挨拶はそのままに、一気に伝えるべき1つ目の内容を告げる。その恐るべき重大な内容は其処に居る者達に驚愕の表情を作り出し、更なるざわめきを生み出した。
騒然とした状況下、王が片手を上げ沈黙を導く。
そして徐に口を開く。

「…何故に其の方なのだ」

「私が彼の者と魂の繋がり持つため…と、彼の者と私の選択によるものです」

王の問いに淡々と答えるフレイリアル。
この国の者達に自身が巫覡…巫女であったことや、この危機を収めたのが自分自身であることをフレイリアルは一切告げるつもりがない。

リーシェライルと意識下で語らい、今後は自分を犠牲にするような無茶はしない…とフレイリアルは約束させられた。
かろうじて、世界の安定が今後の自身の活動にも必要な事である…と納得してもらえた。その為、まずエリミアの都市状況落ち着かせるために此の地に一時的に留まる選択をする。

『本当は、見棄てて直ぐに此の地を旅立つべきだと思うけど…フレイの心残りが無いよう、望む通りにしてごらん』

「ありがとう、リーシェ」

『いざとなったら僕が何とでもするから…』

変わらず綺麗な笑みを浮かべる内なる存在としてあるリーシェライルは、灰簾魔石色の瞳に少し怖い企みを持つ色合いを乗せ、表に嬉々とした魔力を導きだす。
フレイリアルは其れが何を意味するのか、しっかりと心に留める。
フレイリアルもリーシェライルも、青の間には思い入れあっても此の国や土地、親族と言う繋がりに欠片の未練も無い。
それは此の地が有っても無くても良い…と言うことだ。目的が果たされたら此の地を離れるのは、決定事項であった。

最初は厄介な王国への対応も、リーシェライルが表層に出てあたる事を申し出てくれた。しかし、けじめをつけるためにフレイリアルは自身で伝えることを望み、念入りにリーシェライルから指導を受け今に至る。

「にわかには信じがたい」

その国王の言葉に、フレイリアルはリーシェライルを彷彿とさせる冷然とした態度に出る。

「信じる信じないは別として、事実と今後の予想される状況だけ伝えさせて頂きます」

「聞くだけは聞こう」

まじろぎもせず伝えきり、冷静に事務的に対応するフレイリアル。今までに無いものを感じ、王も耳を傾ける気になったようだ。

「2つ目は、各種ある往古の機構内部が、復旧出来ない物理的な力で破壊されている所があります」

大事変後、王都の破壊状況を見て国王達も予測はある程度つけていた様だ。その事についてフレイリアルが見る限り、雰囲気的には王も側近達もあまり動じてはいなかった。
リーシェライルが動かした、エリミアに往古より隠されて存在していた攻撃司る機構による大魔力による襲撃…それを他空間に繋がる異質な結界を使い、エリミアの王都をフレイリアルが守った。
その後、上空に浮かぶ大元の魔力塊も彼方へ送り、続く予定だった攻撃を防いだ。

しかし、無限意識下集合記録が動かした大地創造魔法エザフォスマギエンによる攻撃の名残…と言える大地の歪みから都市を守ることは出来なかった。
ただ幸いにも、エリミアの都市は往古の遺物を利用した建造物が多く、被害は最小限で済んではいた。

「3つ目は、大賢者と塔の繋がりは切れているため、気候変動や水の機構管理及び境界の管理は今まで通りにはいかないでしょう。各部署や都市、其々に対策を考え対応して下さい。此方でも出来るだけの対応はします」

皆が騒然としているうちに退室の挨拶をし、その場からフレイリアルは掻き消えた。室内には告げられた内容と、大賢者とフレイリアルへの疑いと罵りの様な呟きを含むざわめきが広がっていた。


王命による調べは、フレイリアルがもたらした話が事実であると言うことを明らかにした。フレイリアルの存在そのものに否定的なエリミア王国中枢を構成する諸氏も、その事については渋々とは言え真実であると受け入れざるを得なかった。
そして、明らかにリーシェライルがこの世界に形を留めていないと確信できた時、王自身に転換点が訪れる。

大方の者が苦虫噛み潰した様な表情となっていたが、無気力無関心の権化のようなエリミアの王の瞳にだけ変化がもたらされた。
今までに無い生気宿る輝きのある表情…賢明だった頃の王の面差しが窺える。

「…では、今までの策に1つ加えるのだ」

既に破壊された都市に構築されていた往古の機構…特に、水の機構の滞りは賢者の派遣依頼を出し応急処置は行っていた。
境界門や境界壁の危険個所や王城壁にも城より警備の人手を送った。
そう言った現状への対策とは異なる、今後を見据えた内容の指示が王から出されたのだ。

「各国に通達を出し、第6王女のへの婚姻の申し込みは全て丁重に断れ。そして国内にて適切な婚姻相手を下位継承権持ちの王族…レクスを名乗る者から、相応の者が存在しないならば継承順位20位までの権限なしフエルより選べ。婚姻後に空く継承権4位の場所には、話を受諾した者を入れてやるがよい。速やかに…尚且つ内密に」

以前の活力取り戻した王が、空虚だった年月を取り戻すように自身の考えで前向きに動き始める。
新たなる大賢者をこの地に縛り付けるために…。
王妃が賢者の塔での治療を受けるほど心遠い者になったのと引き換えに、王の心が此の地に戻って来たかの様だった。

今、エリミアで継承権を持つ者はフレイリアルまでが王妃と王の子である。以下、王の妾腹の王女3人と王子1人が続き、2人いる王の弟のうち、長弟子息2人がレクスを名乗っていた。その内、妾腹の王女が婚姻で抜けた為、王の末妹の子である継承順位13位であったブルグドレフが継承権10位を手に入れた。

本来なら王の末弟子息エシェリキアと王の長妹子女モモハルムアが入るだろう場所である。
しかし、反逆に近い行いで継承権剥奪の処分を受けたエシェリキアは勿論のこと、モモハルムアも選定を受ける呼び出し時に国内に不在であり所在もハッキリしなかったため、繰り上げでブルグドレフが継承権を手にする事になったのだ。

ブルグドレフは欲深くはないが、野心が全く無いわけでもない。そして、細く長く生き延びるための警戒心も持っていた。
尤も…野心持つ理由が、 "面白い物事に関わる権利を得るため" …であるというのは誰も見当つけることの出来ない理由であろう。

『甘い言葉には罠が潜む可能性がある』

それはブルグドレフが、此の話を最初に聞かされた印象だった。
この婚姻を引き受けるのが継承順位20位までの数字を持つ者ならば、第6王女が国内での婚姻により継承権を失う時…自動的にその空いた場所へ移行すると言う美味しい条件。
警戒心強き男でも有ったが、ブルグドレフは機を見るに敏でもあった。
王命による内示を受け、速やかに返答返す。

「レクスの名を慎んでお受け致します…そして第6王女との婚姻も承知致しました」

継承権10位への移行話とは明確に分け、婚姻は別件…更に上の継承権得るための些末な条件付きの案件として話を受けた。

『僥倖…とも呼べる絶好の機会が手に入るのなら、砂蜥蜴サンドリザードと婚姻しても割に合おう。それよりマシな条件…好機潰す愚か者にはなりたくないな…。だが元々手に入る立場とは切り離し慎重に対処せねば…』

一瞬で計算し、心の中で考え巡らす。

ブルグドレフは、一般的エリミアの者ほど樹海への忌避感は無かった。
それは王都にて樹海側境界門を管理する任を一族が任されているためである。幼少より境界門付近の屋敷で過ごし、父親と共に度々境界門外へ出ることも多かった。樹海の民との交流持ち違和感なく接して来たので、第6王女の色合いに関する噂についても然程気にならなかった。
継承権11位だったエシェリキアがフレイリアルに憤る姿や排斥するための有志集める姿を、年代違うブルグドレフも時々目にしていた。排斥思想持つ者を広く募るエシェリキアの一派に、勧誘受ける事も有った。

『時勢に流され所在を失っては元も子もない…危ういものには近付かないのが得策』

そう心の中で呟き、無暗にいきり立つ者達を静観してきた。


ブルグドレフの実家は、王都の境界壁と境界門を管理するために王都に在籍する一族だった。常に上位フエルを排出する、有望王族の血筋ではある。
最近は年齢的に相応の婚姻相手を得て、現在の地位を盤石にするように願う周囲から様々な圧力を受けていた。
それは "自由に楽しく" …が信条のブルグドレフにとって、耐え難い…と感じる程に時間を奪い生活を侵害する。
そんな状況もあり、一連の決断を後押しした。

『1つの面倒退けて他の鬱陶しさ背負い込む…といった感じか。だが好機を得たこと…と、面白い立場を得られることで、利点の方が若干多い。これぐらいの利点を得る程度で過ごせば、目立たず…息長く過ごせるかな…』

自分を犠牲にしなくても済む程度の成果にブルグドレフは満足するのだった。
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