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第五章 ヴェステ王国編

35.新たな約束が動き始める

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ニュールは周りを見回し黄の塔・地下機構の制御盤前から、知らぬうちに何もない白に近い淡黄色の魔力溢れる空間に移動していたことに気付く。
そして、目の前のモノにも…。

「お前は…」

「前に君の中で会ったよね」

其所にはインゼルで自身の表層の意識から沈んだ時に接触したモノの気配があった。

「無限意識下集合記録…の持つ人格」

「うん、天からの使者…とか、神様…とか、悪魔…とも呼ばれることがあるかな」

この前は認識できなかった説明部分も今回は聞こえるが、相変わらず理解しにくい。

「今、上の領域で巫女達と僕と同一のモノが約束の見直しをしているのだけど、君ともこの世界の範囲の中で約束の見直しをしたいと思うんだ」

「世界に及ぶ約束なら、他の大賢者も必要だろう…」

冷静に答えるニュール。

「皆、其々の前に希望を問うモノが訪れていると思うよ。そして約束を…取引をしているんだ。これは先程言ったように個別で聞かせてもらってるよ」

顔の表情は曖昧なのに微笑んでいるのが分かる。

「君の希望が巫女達の希望と一緒だったから特に興味はあったけどね…」

話を聞きながら、この者の雰囲気がニュロに似ていると思った。だが、持つ色合いは金色の光のような感じがした。
すると色合い違うニュロの姿形になっていることに気付き驚く。

「!!!」

「ニュール、子供じゃないんだから遊ばないで…僕の姿形は君のイメージに引っ張られているだけだから…解るでしょ?」

そして大きな溜息をつかれてしまう。
確かに言われた通り何故か解ったのだが、考えてしまい…軽く叱責を受ける。

「まず最初に、別な場所からの干渉を完全に断つことは出来ない。彼方との繋がり絶つこと…それはこの世界…生命と空間と時の終焉をもたらす」

その者はそのまま説明を続ける。

「だけど、巫女や君が希望した事に近い約束は、君が世界の代表を務めてくれるなら…存在の理で出来なかった契約をこの世界の理のなかで出来るよ」 

ニッコリとする笑顔が怪しくて思わず構えてしまう…誘惑する魔物の笑み。
                    
「上の領域でも一番目に望まれた希望の様だけど、管理出来る者が居ないから却下されたんだ…この領域でも君が一番に望む事だし叶えてあげたいなって…無限意識下集合記録の干渉の排除をさ」

酷薄な芯から溢れる愉悦の笑みを浮かべそのモノは其所に居た。

「僕たちの影響を極力防いだ世界…って言うのも興味深いと思ってね。閉じられた世界では何が起こるのだろう」

目を輝かせ興じるものは、決して善なるモノでは無かった。


願いは同時に時間空間入り乱れる中で絶対的なモノの手の上に乗る。


「何、この気持ち悪い空間は?」

思わずフレイリアルは思ったままを呟く。

「本当に君達は容赦なく正直な人達だね…先客も全く同じことを言っていたよ」

案内したモノが苦笑しながら言う。
今存在する場は、上も下もなく有るのか無いのかさえ分からない、今か昔かも感じ取れない、時間が過ぎているのかさえ分からない場。自分の中の時間軸さえ揺らぎそうだった。
この不確かな時空の中に既にリオラリオも存在した。
案内者に導かれる前にリオラリオが、こちらにユルリと歩き遣ってきた。

「フレイ、1の月ぶり位かしら…ごきげんよう」

「ごきげんよう、リオラ…リオ…様…??」

其所には3歳ぐらいの幼い子供がいた。

「この空間は魔力でのごまかしが効かないの…だからこんな姿でご免なさいね。今回の天空からの攻撃を防ぐのに、闇石も結局使っちゃったからここまで進んでしまったのよ」

前回見た子供姿より、遥かに幼い姿で優雅に微笑む。

「じゃあ、君たちで好きなだけ話し合って、この先の選択をしてみてね、先程の個人の選択ももう一度確認するから変更が有るなら申し出てね」

机や椅子、お茶やお茶菓子までいつの間にか用意されていた。

「まったく笑っちゃうような空間よね…ここの空間は1秒たりとも現実に反映されて無いんですって…何か失礼しちゃうわよね」

そう言いながら普通にお茶やお菓子を頂いているリオラリオ。

「それに嫌になるぐらい美味しいのよ!」

子供姿故にお菓子を食べる姿がとても似合う。
少しここに来てから時が経っているのか、余裕もあるようだった。

「ここは何なんですか?」

「無限意識下集合記録を管理する領域…大賢者の記憶の記録を管理する情報礎石みたいな役割持つ場所」

「???」

「そうよね…何百年経過した私にだって理解しがたい場所なのだから…」

「………」

フレイリアルは言葉の返しようもなかった。

「うーん、平たく言えば神の領域…みたいな?」

「神…神様って、あの願いが叶ったらお金を払った方が良いと言う?」

「ぶふっ!! 貴女そんな罰当たりな…出来高払い制みたいな…うふふっ、誰がそんな酷い教え方したの?」

「ニュール??」

フレイリアルは何かもう少し違う感じで教えられた気がしたが…覚えていない。
初めてエリミアを出てサルトゥスへ向かう道すがらのたわいの無い会話。
ほんの少し前の事だったのに随分昔の気がする。
そんな風にフレイリアルが感慨に耽っている横で、リオラリオは笑い転げて暫く止まらなかった。

「やっぱり貴女の守護者にはお会いしたかったわぁ…ここに来る前に」

そして真面目な顔に戻る。

「本当の神様は違うと思うけど、ここに居る神様気取りの超越者はおおよそそんな感じだけどね…与えたら与えられる…目には目を…って感じね」

少しフレイリアルの聞いたことの無い表現が入っていた。

「好きなだけ話しても時間が尽きないんだから、今までの疲れでも癒しましょう!」

「リオラリオ様は心配はしないの?」

フレイリアルにとっての素朴な疑問だった。

「私達がここに来た時点で、あの世界の事象は安定したはずよ。転換点を無事通過した…って感じかしらね。それに、私はあの世界が続いてくれるならそれで十分…と言う感じなの、細かい執着は作らないようのしてきたから…」

「???」

「私が目指す場所に辿り着くための手段として居た場所だから…世界に愛着は有るけれど個人で執着を持つ者はないの…」

「何かこの空間の人に似ているのですね…」

嫌味でも何でもなく、思ったままをフレイリアルは口にした。

「まぁ、違う世界…と言う意味では一緒かもね。でも私は今の世界と似た場所…に居たのよ。そして世界の外へ出ることが目的だから…」

「違う世界? 世界の外?」

フレイリアルに至極まっとうな疑問が浮かぶ。
リオラリオの目的。

「私はリュウを追いかけるためだけに、今の世界で生きてきたの…」

「リュウ?」

「えぇ、アルバシェルの助言者になった者で私の唯一の同郷の者…そして時が離れようと、空間が離れようと絶対に失いたくない人」

そう言いながら強い思い宿る瞳で、遠い場所にいる相手を求めるように見晴かす。
そして願い求める理由を教えてくれた。

リオラリオが自分がリオだと気付いたのは、リュウに出会ったから。
リュマーノもリュウだと気付いたのはリオと出会ってから。

それは300の年以上昔の話。

リオは神殿の転移陣無き場所に突如出現した者だと言われた。
神々の技術で作られたかと思う様な衣を纏い、神殿に降臨した天からの使者として扱われ10の年程そこで過ごしていた…記憶無く、神殿に現れた時点では、この地での基本的な事さえ理解していなかった。
身振り手振りで名前のみ 「…アリオリオ…リオアリオ…」 と答えるので、呼びやすいリオラリオと名付けられた。
年月が経過しても姿形の変化が全くなく、魔石の内包も無いのに時を操る魔力扱い、話せば先を…未来を語る者。畏敬の念抱かれ…巫女の称号与えられ、王家の養女に願われ名を連ねることになった。
そして、その場所でリュマーノと再会する。

再開してからは2人で帰ることを…世界を飛び越える事を話し合った。

「アルバシェルは、私とリュウが探し育てた資質ある王家の子供。暗緑色の賢者の石を取り込ませるため…生きた賢者の石を作るための贄として用意した子供よ…」

予想外の事を告げられた

「あの日、私達が帰るために…アルバシェルに賢者の石を取り込ませ、それを引きはがしゲート…扉を作ろうと思ったの」

苦しそうな表情を浮かべながらも淡々と語るリオラリオ。
そして乾いた笑顔を浮かべて述べる。

「目的のためなら手段を選ばない…って言ったでしょ。私たちは思い出してしまった…それ故に自分の場所へ戻りたかったの。此処へ来てしまった理由なんてどうでもよいから帰りたいそれだけだったの…」

そして寂し気な表情になる。

「こんなに長くなるとは…離れてしまうとも思わなかったけどね。離れて気づいたの…私は帰りたい以上に、リュウと一緒に居たかったのだと…リュウは何度もこの世界でも良いから共に…と言ってくれたけど私は諦められなかったの…」

その後、リュマーノは結局アルバシェルを助けるため、賢者の石の取り込み時に助言者コンシリアトゥールとなってしまったが、一部だけ残し…領域を渡ってしまった。
リオラリオはアルバシェルに触れその状態を確認した。
でもリュウがアルバシェルの中に留まれば、2度と願いは叶えられなくなる…その場から抜けられなくなるため仕様がない事であった。

「実行する前に、2人で約束したのよ…どんな形であっても戻ろうって…。もし、また離れてしまったとしても先で必ず待っているから…と」

だからリオラリオは諦めなかった。

「私は置いてかれてしまった…でも諦める気は無かった! だから私は全ての可能性を調べあげ、あの人へ至る道を探してここまで来たの」

リオラリオはリュマーノの元へ赴くため、先見をするために魔力を注ぎ続けた。そして100年経った頃未来への道筋が見えたので干渉した。

「過去に未来を見て干渉したのは3回…皆エリミアの者達。初めはエリミアの前の大賢者へ…。次は貴女のお母様へ。そして今、貴女へ…」

リオラリオから予想外の告解を受ける。

「貴女のお母様には一番酷い干渉をしてしまった…。私の悲願のために貴女を得るため…滅びの予言を与えたの…貴女と塔が世界に干渉し滅ぼす…と」

そして軽やかな笑顔をフレイリアルに向け問う。

「実際半分は合っていたでしょ?」

微妙に同意し難い問いかけだが、リオラリオはそれに答える間もなく先を続ける。

「最初貴女のお母様は予言を信じなかったわ。だけど私が予言した貴女を見て愕然としたでしょうね…それで貴方が処分されたなら、この領域へ繋がる扉の認証ごと私が取り込むつもりだったのよ。だけどあなたのお母様は、周りを破壊する事…塔を破壊する事を選び貴女を取ったの。そしてあなたと大賢者との繋がりを断ち、必死に外に出そうとした…」

フレイリアルは母にも母なりの思いが最初はあった事を再度伝えられた。
だが、それを知った上で、やはりリーシェにした事を許すことは出来なかった。

「まぁ、結構お母様は浅はかな行動を重ねてくれて、微妙に計画を潰されそうで苛立ったけどね…」

リオラリオは辛辣に告げ笑む。

「それでも、貴方には申し訳ないと思っているの…ごめんなさい」

自分の希望叶えるために人を巻き込む姿は自分にも見られるものであり、何も言えなかった。

「皆、必死なんですよね…」

許すとも受け入れるとも言い難かったが、フレイリアルには言葉にした以上の感慨は湧かなかった。

「貴女の願いも変わらないの?」

「えぇ、リーシェに自由を贈りたいの…」

力強く答える。

「では世界に…存在に願うことは一緒かしら?」

「たぶん…」

「これ以上弄ばれるのは御免こうむりたいものね…」

「えぇ、自分達の進む道を邪魔されたくないです」

2人の心が決まると共に、先ほどの案内したモノが現れた。

「彼方からの干渉…無限意識下集合記録からの干渉の無い世界へ進む道…を希望するんだね」

「「はいっ」」

「干渉の薄い世界にする事は可能だけど、完全な排除…閉じた世界にしてしまうと世界が消えちゃうよ」

何とも中途半端な答えだった。

「それに君らは、どっちも願いを果たしたら存在しなくなっちゃう人間だろ? だから、その願いは聞き入れられない」

「「???」」

予想外に脚下されてしまった。

「その代わり下の領域でも同じような希望があったから、出来るだけこの領域同様の処理をしてあげることにしたんだ…管理者を選び出してね。希望には代償が必要だから…」

やはり代償は必須のようだった。

「君らの願いはこの世界の安寧と、この世界の独自性…干渉抵抗性の上昇…で良いかな? それが有れば、完全に排除出来なくても不用意に僕らが世界に関わることは出来なくなるし、君らが多少理へ意見通す力を持てる…って感じかな…」

何とか納得できる…と思われる回答が返ってきた。
そして更にこの…今いる領域のモノ…無限意識下集合記録が望むことを説明してくれた。

「僕らが必要とするのは代謝や変化…面白さ…なんだ。退屈…動きがないと腐っちゃうからね…まぁ腐る分には発酵したりするなどの動きがあるから良いのだけど、活動の無い世界は収束してしまうから力が消失してしまい困るんだ…これは、君らの世界も含む話だと思うよ」

そして最終的な確認に入る。

「じゃあ、後は個人の願いだけど、先ほどの願い通りでよいのかな?」

「「えぇ、お願いします」」

「他に質問などは無いかな? 有意義で面白かったから受け付けるよ」

「下の領域…大賢者達の中で、管理者を引き受けた者の先は?」

「基本的にはこの約束が変わるまで続くだろう…でも選択は全て自分自身が決めることだからね」

そう答えると全ての存在が薄くなっていく。

「さぁ、時を刻む世界へ戻るよ…君らには2日あげよう。その間に切っ掛けとなる言葉を唱えてね、 "我願う解放オプターレ・アナ・キアダーレ" だよ。あと戻る場所は希望の場所にしてあげるから思い描いてね」

そして全てが消えた。
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