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第五章 ヴェステ王国編

33. 揺れ動く足元

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エリミアの中で唯一懐かしい…と心から思える場所で、懐かしい美しい顔が心配そうに灰簾魔石色の瞳潤ませ覗き込む。
目を開けた瞬間そこにある顔と景色に安心と幸せを感じるフレイリアル。

「リーシェ…」

優しく抱きしめてくれる腕を感じる。

『温かい』

荒地に出て空に浮かぶ大魔力に対応し…その後、意識失い帰れない所に歩き出してしまいそうな気がした。死んでしまうのとは違う何処かへ。
呼び止められたような気がして振り向いた時、再度声が聞こえた。

『まだ選択してないよ…』

声の出所を探すがはっきりしない…だが、その声はいつもの内から語り掛ける者だった。

『選んでから進まないと駄目だよ。選ぶのが君の役目だから、果たしてね…』

「役目?」

質問への答えも無かったし、声もそこで終わった。
そして、微睡む様な時から目覚めた。
意識はっきりするまでの時間、ひたすらフレイリアルを抱きしめ続けるリーシェライル。悲しみ不安押し殺すような声で語り掛ける。

「君が居なくなってしまうかも…と思ったとき、僕の世界全てが凍ったんだ…」

感情のままに思いを語るリーシェライル。
今までにないその姿にフレイリアルは驚く。

「僕が閉ざそうとした未来だけど、未来を歩まぬ君を想像した時…僕は耐えられなかった」

抱きしめながら震えるリーシェライルをフレイリアルが抱き締め返す。

「心配させて御免ね…でも、もう大丈夫だから」

「大丈夫じゃない!!」

今まで出した事のない大声を出すリーシェライルに更に驚く。

「君は魔力を取り出し過ぎてしまったんだよ…」

「…そっか、リーシェには回路が見えるんだもんね」

フレイリアルもそれが何を意味するか理解していた。
荒れ地で他国の状態確認した後、それは接触し声を掛けてきた。
内なる声からの警告を受けたのだ。

『君がやろうとしている事は自殺行為。遣らなければ世界が壊れるが、遣れば君が滅びるよ』

その声はこのまま進んだ先の状況描き出した内容をフレイリアルの脳裏に直接再現し…理解を促す。
遣ろうとしている事を実行した結果…彼方との繋がり開き、この世界から消滅し混沌に飲み込まれるであろう自分を見せられた。
多分遣ってしまえば確実にそうなるのだろう。
それでも決断した。

「…遣るよ。リーシェには待っていて…と言ってしまったけれどね…」

心残りを1つだけ口にし、返した答えの通りに実行した。
今更ながらにフレイリアルは実感する。

『自分が居なくても、大切な人のいる失いたくない世界…と思ったけど、自分もその中に一緒に居たかったんだな』

フレイリアルの目から自然と涙が流れる…後悔は無いが、悔いは残る。
そして何より、リーシェライルとの別れを悲しみたくなかったし、悲しませたくなかった。

運命の計らいか悪戯か必然か、取り敢えず戻って来る事が出来た。それによって約束を破らず済んだ事に感謝する。

「アルバシェルと僕とで君の中に魔力を注ぎ、魔力だけで構成された結晶を体内魔石の代わりに置いた。そして、繋げて流れを制御しているのが今の状態なんだよ…」

リーシェライルの苦しそうな…悔しそうな表情が消えない。

「だけど、その結晶は魔石と違って本来結晶じゃあない物を結晶化しているので、そう長くは保てない…」

伝えたリーシェライルの方が聞いているフレイリアルより苦しそうだった。

「うん…十分に理解しているから大丈夫だよ。ここに戻ってこうして居られるのだって、2人のお陰だってこと分かってるよ…ごめんね…ありがとう」

何時もの笑顔で微笑む。

「それとね、フレイ…今、大地を動かす陣が動いているんだ…大地創造魔法陣エザフォスマギエンが…そして、このまま放っておいたら僕が動かしてしまった機構以上の魔力で、世界を破滅させるだろう」

「そんな! なんで…」

それは聞いてなかったとばかりにリーシェライルに詰め寄り問いただす。フレイリアルは自分が収めた破滅への道筋以外のものに憤りと悲しみを与えられる。

「エリミアから…大地の深部に根差した陣から動かされている。でも、この陣は大賢者全員の同意がないと本来は動かせないモノなんだ…」

「じゃあ何故」

「たぶん…世界に干渉するものが動き始めている」

「何?」

「指標による揺らぎを判断し動く存在…判断する意志。色々な者の中に潜み、情報を集めるモノ。…多分、僕の中にも居たんだと思う」

「えっ?」

フレイリアルの疑問にリーシェライルが答えた。

リーシェライルの中にいた助言者コンシリアトゥールであるレイナルが、グレイシャムの中に移り動いてた。おそらく…無限意識下集合記録の持つ駒として存在していたのだろう事を、奥底での繋がりから感じ取れたのだ。
そして、橄欖魔石と柘榴魔石が天輝と地輝を帯び魔輝石化した物で作られた大地創造魔法陣が起動した。

今、正に大地を無理やり動かし反動を生み破壊しようとしている最中、駒が進み制限が解除されたかの様に全ての計画がリーシェライルに流れ込んできた。
傾いた世界の抹消…世界の遣り直し、今存在しているモノを無視した事象の再構築を行う…と。

「折角取り戻したのに…」

フレイリアルが小さく呟く。
自身の未来を提供して救った先にあるのが、踏み潰される瞬間の砂の城の様だと思った。
徒労に終わりそうな努力に、フレイリアルの瞳が虚ろになる。

「まだ救う可能性はあるんだ…そしてフレイ自身を救う方法も…」

「???」

「僕はもう悲しみを溜め込まないし、君を含む世界を救うことに戸惑わないよ…」

そう言ってリーシェライルは美麗だが柔らかく温かみのある微笑みを浮かべ、ずっと腕の中に収めていたフレイリアルを更に大切そうに抱きしめた。
そして告げる。

「僕も君も赴き選ばねばならない…もう一度自分のために」

「選ぶ?」

それは何処かから聞こえた言葉でもあった。
リーシェライルが自身の中から導き知った、 "遣るべき事" の説明をしてくれる。

「此れからフレイは上の領域…次元座標へ赴き、選択をするんだ。自分が望む先を求めて良いんだよ…時の巫女も居るだろう」

そして自分の赴く領域も確認するように呟く。

「僕は認証者の1人となって、他の大賢者と共に大地創造魔法陣を止めるよ。フレイと僕は途中からは別の道を行くけど、終わったらこの部屋に戻ろうね…約束だよ」

流麗な笑みを浮かべ、リーシェライルは気軽な事を行うかのように先を約束する。
そして18層の転移陣より地下へ向かう。


天空から降り注ぐ魔力攻撃の3撃目を防ぎ切った。
そして上空の輝く魔力の塊が消えた瞬間、プラーデラの王宮広場では皆口々に 「ニュールニエ光神皇陛下万歳!」 「プラーデラ王国万歳!」などと叫び、歓声があがり皆の歓喜の思いが溢れていた。
だがその中で1人苦い顔をするニュール。

「ニュール、凄いなぁ。あの攻撃を防ぎきるって本当に神様みたいな力持ってるよな」

手放しで称賛し声を掛けてくるミーティに反応しないニュール。

「…そんなに光神皇陛下とか呼ばれるの嫌だったか?」

あまりに妙な顔をしているので、少し心配そうに尋ねてくる。

「…いや、そう言うのではなく…まだ終わってないんだ」

「えっ?? まだ攻撃が来るのか?」

ミーティが呈する疑問に同調するように、いつの間にかピオやミーティもニュールの周囲に控え窺うようにニュールを見つめる。

「足元の陣が…大地創造魔法陣が軌道している…時が来ると捻じれた力が地上に伝わり全てを破壊するだろう。オレは塔に行き…接続しなければならない…」

「?!」

「最善は尽くしてみる。だから今暫くこの場所に全員留まらせろ…ただ、今対峙しようとしている存在を神と呼ぶのなら、そいつは無慈悲だから出来るだけ自分の力で先を手繰り寄せる努力をしろ」

そう言い残しニュールは転移陣にて移動する。
黄の塔へ向かい淡黄の間の地点登録した陣へと直接辿り着く。

「避けてきた過程を自らこの場で行うことになるとはな…」

1人黄水晶魔石の魔力の中で佇み、時が少ない事を実感し覚悟をして実行する。
塔に据え付けてある魔輝石化した魔物魔石の場所へ向かい手を触れる。
そして切っ掛けとなる言葉を重々しく呟く。

解放キアダーレ接続コンジャクション

白の塔で散々逃げてきた塔との接続。
失敗する事なく進むのは確信していた。

何故なら、この塔に辿り着いた瞬間に自分の場所であることが分かった…。
その場所を取り戻すように魔力が巡り循環し、訪れる安心感。共に此の塔に対する義務感も生まれる。様々な感覚が駆け巡り、繋がり、この塔の周囲全てが自分の掌の上にあるかの様な感覚を得る。

そして魔力少ないプラーデラの国土に、波紋広がるように魔力が拡散していく。
その膨大な力を一部集約して、王都の下に巡る往古の機構を呼び覚ますべく導く。
そして黄の塔から流れ巡る魔力で防御結界陣を築き、大地からの破壊の力を軽減すべく守りの力とする。

そして領域全てを自身が導き出した力で満たすと他の領域との接触が復活し、六塔のうち五塔に繋がり持つ大賢者が入っていることが分かる。
生物として大地に繋がるため望む望まぬを乗り越えて各々が賢者の石を抱き繋がり、冥府とも思えるような場へ降り行く大賢者達。
赤の塔だけ大賢者の気配が無い。

『やはり欠けがあるまま臨まねばならないのか…』

他からも同様の思い流れてくるが、そのまま実行することに皆同意しているのが分かった。
地下、円環の広間へ赴く。
ニュールは塔の中、全て手に取るように把握できるようになり、迷わず望む場所へ向かっていた。
塔に大賢者が繋がることで塔自身も魔力高め、生き物の様に自己修復し始める。失っていた魔力の輝きが戻り、地下も一瞬にして別の場所のようになっていた。
転移陣から降りると、その薄暗い空間の足下に淡い夕暮れの陽光の色が広がり、ニュールの瞳と同じ色が空間を照らす。

塔つき大賢者の認証で全ての結界陣を通過し、下層へ繋がる陣に乗り基幹部となる地下へ赴く。
そして辿り着くべき小部屋にある操作制御盤に手を置くと自然と回路が接続される。
だが大地創造魔法陣への接続は拒否された。

「くそっ、やはり全塔揃わないと無理か…」

接続しているが故に、刻々と進む魔法陣の進行状況が把握できる。思わず苛立ち、盤に繋がっている手を引き剥がし叩きつけたい様な気分になった。
その時突然、鍵が解除された。

「???」

訳が分からぬが進む。
赤の塔に繋がる者が現れたのは分かったが、大賢者では無い事も分かった。
だが、しっかりと大地に根差し魔法陣へ繋がっている。
今遣るべき事は大地創造魔法陣を止めること、疑問は後回しにする。小さな歪みは出来てしまっているが、今なら壊滅的な状態引き起こすような動きからは救われる。
繋がる者達の意志が統一され、全員が切っ掛けとなる言葉を操作盤へ送り込む。

解放キアダーレ解除サイファ

大地創造魔法陣の動きが止まった。
其所には其々孤独ではあるが、同列に並び繋がる戦う仲間の居る温かい空間が繋がっていた。
だが一瞬にして遮断される。

「選択の時は個人で受けてもらうよ」

そこで告げてきたのは、ニュールが自身の意識下に入ってしまった時出てきた訳の分からぬ話をしたモノだった。
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