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第五章 ヴェステ王国編
26.凍る心動かす
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モモハルムアがニュールに会って第一声で言われた言葉は、たった一言である。
「帰れ」
ヴェステで国王に捕まり、フレイリアルが転位で逃し送り届けてくれたプラーデラ。
だが、会えることを切に望んだ者は冷ややかに…歓迎することなくモモハルムアを拒否した。
その冷えた体温持たぬ様な瞳はモモハルムアを映すことなく本人が望むことだけに専念し、必要な時以外は常にいる周りの者さえ見ることが無かった。
厳しく冷たい部分も持つが、全てを飲み込み包み込んでくれるおおらかな心広い温かさ持つニュールはそこには存在しなかった。
興味持つことを楽しむ姿などは見かけたし、余裕もあった。だが、決して隙見せることなく獣や魔物の様に警戒し、簡単に近寄らせない姿があった。
今まで見たことのないニュールだが、ニュールの本質含む行動であるのも理解できた。
そしてモーイの瞳は人形特有の硝子目玉をしていた。
ゆっくりと近づき手を伸ばす。
全く反応が無い。
涙しながらモーイを抱きしめると、抱きしめ返してくれる。その暖かな感触は以前と変わらないのに、その行動は反射でしかないと言われる。
2人とも氷の世界に入ってしまい出て来られなくなってしまったようだった。
「びっくりしちゃうよな…」
ミーティがモモハルムアに朗らかに声を掛けてくる。
「オレやモーイが下手を打っちまって…だからニュールがあんな感じになっちまってスマンな!」
言葉は軽いが、心からの謝罪と後悔の気持ちが入ってるのが表情から分かった。
ニュールとモーイの変化同様驚いたのが、ニュールが王を名乗っていたことだ。
本人が名乗りたがったのでない事は明白である。
それでも側近のように横に付く2人とプラーデラの先を憂える大臣達が、本気でニュールを王として担ぎ上げ、その存在を敬い指示を仰ぎ従い動いているのも分かった。
ニュールも肝心なことだけはしっかり決定して指示する、正しく国王と言えるような働きぶりをしていた。
「責任感強いのは前と変わらないよな。人には気楽に逃げちまえ…って簡単に言う癖に、自分は絶対に逃げないんだよな…何かズルイよなっ」
モモハルムアにも、ミーティの言う "ズルイ" と言いたくなる気持ちが分かった。
対等を目指し努力するのに気持ちの上でも全くかなわない口惜しさ。
魔物の冷ややかさ持つのに受け入れる寛容さ。
その中でミーティは、来るもの拒まず去る者追わず…の対応をされたのに、モモハルムアは其れさえ許して貰えなかった。
『私の能力が至らないから…』
モモハルムアは自分自身の不甲斐なさに、更なる悔しさ募らせる。
旧来の仲間だけでなく、ニュールの周りに増えていた面々も拒まれなかった者達だと思うと、余計に悲しく悔しい気持ちが増す。
新しく増えた者たちは、エリミアの頃から散々皆して苦しめられた影の《14》で《五》で隠者Ⅸだったピオと言う者。そして、ヴェステ軍の一翼を担っていた赤の将軍ディアスティス・アーキアだった。
強敵とも言えた2人だが、何故かニュールに忠誠近い付き従う。
そして現在プラーデラ王ニュールニア・バタル・ヴェスティアと名乗っている。
正式な戴冠している訳ではないが執務も行い、前国王討たれてからも国は正常に統治されているようである。
反旗翻さぬ大臣たちは、望み進んで仕えているようであった。其所にはモモハルムアの知らないニュールとその新たな仲間の新しい世界が繰り広げられている。
それでもモモハルムアには、ニュールが全てを背負い込んで望まぬ道を進んでいるように見えた。
会えば帰れと言われるがニュールは其れを行動に移すことはなく、モモハルムアが滞在することは許容してくれる。
だが近付くことは許してもらえなかった。
そして言葉でも示された。
「オレに構うな」
ほんの少し近付いただけで言われた言葉。
『短い言葉でもお慕いする方からの言葉は重いですわ…』
心に刺さった言葉を受け止めつつモモハルムアは宣言する。
「帰れと言われ、構うなと言われても、貴方の瞳に含まれる寂しさと虚無感消えるまで私は退きません」
その力強さが魔物なニュールをも折れさせ、強制退去と言う手段を取られずにいる。此処に居るための許可を、実質取り付けているようなものだ。
ニュールはそれ以上の言葉は残さず、その場を後にする。
横に付き見守っていたディアスティスが意味深に微笑み、モモハルムアからよく見える場所でニュールに絡み付き、濃厚な口付けを交わす。
少し離れた…とは言えニュールを見送りながらその一部始終を見ているのに、全く動じないモモハルムアに感心するディアスティス。
「お嬢さんは熱いな! 全く揺らぐ様子がないぞ」
そう言い、後ろのモモハルムアを再度確認すると更に激しく口付け、寝所に誘う様に体に手を這わせ色っぽく煽る姿を見せつける。
『…ぅのあっ!』
それを見て揺らいでいるのは、ディアスティスと共にニュールに付き従っていたミーティだった。
真っ赤になり逆上せ固まっている。
「動じないか…それならばいっそ、あのお嬢さんを寝所にでも連れてって、其処でお前が我とが熱く情熱的に絡む姿でも見てもらうか? 我は吝かではないぞ」
「遠慮する」
無感情に一刀両断で答えるニュールにディアスティスはため息を付き、一旦離れ諦めたようにみえた。
「相変わらずお前はつれないなぁ」
そして飛び切り艶っぽい表情を浮かべると、今度はニュールを全身で捕まえ本気で攻め落とすような濃密で官能的な口付けを捧げる。
その時足元にピオが現れ跪く。
「お楽しみの所申し訳ありませんが、我が君にご報告です」
「ちっ、無粋な奴め」
ディアスティスが思い切りピオに不快感表すが、ニュールは構わず問う。
「何だ?」
「白の将軍の精鋭10名とその手の者が、城内へ転移陣魔石使い入り込んだようです」
「ほぅ、それは面白い。奴の下は意外と面白い者が多いからな…」
ピオの報告にディアスティスが舌舐めずりし反応する。戦闘狂の血が騒ぐ様だ。
「では私とディアスティス様で対処致します。一応、盾としてソレは置いておきます」
「いや、連れて行け。勉強させろ」
「…致し方ありません。では、ソレはこちらの盾として使用します」
ピオは溜息をつきながらもミーティを連れていく。
先ほどまで繰り広げられていた光景に熱く昂ぶり固まっていたミーティは又しても聞いていなかった…事態飲み込めぬまま、いつもの様にピオにひきずられて去って行く。
ニュールは遣り残した塔の資料の確認をするために用意した部屋へ向かう。
その途中の道、叫びをあげ襲い掛かる者が居た。
「我が王を弑し奉りし外道め!」
其処には前国王の周囲に居た…シシアトクスに未来を捧げた近衛達が居た。
「あの様な、理不尽な弑逆による王権の移譲なぞ我々は認めぬ」
憤る思いを熱く語る近衛達。
「認めなくとも、調べが終わり次第去る。その後は好きにしろ」
ニュールはシラッと答える。
「ふざけた事を言うな! 我が国そのものを貶める様な行為、断じて許さん!!」
そして不明となっていた大臣達2名も姿を現し、ニュールを導き入れた場所の足元に隠蔽掛け隠してあった捕縛陣を起動させる。
それは未知の陣だった。
「その陣はシシアトクス様が研究に研究を重ねた古代文献から起こした金剛魔石による捕縛陣。簡単には解けないはずだが此れも追加だ」
更に捕まえてあるニュールへ魔力で飛ばし絡ませたのは金剛魔石散りばめた手枷足枷だった。
未知の捕縛陣で捕まえ繋ぎ止め、手枷足枷嵌めて一番魔力を導出しやす手足を封じる。
魔力体術封じ、魔力攻撃封じ、物理攻撃までも…封じる。
『確かに少しは損傷を受けるかもしれないな…』
それでも余裕の表情で佇む。
だが、ニュールの中で余裕…とは少し違う、自身を裁いてしまいたくなる心の誘惑が沸き上がっていた。
全て避けようと思えば避けられた稚拙な攻撃や罠…敢えて受け入れたのは自身の欲からだった。
王の所有していた金剛魔石は、1つだけ王宮に残して後は市場で売り捌かれた。黄の塔の攻撃資金や、フレイリアルの捕縛依頼資金になってしまった。
ここに存在する金剛魔石は、それを入手した白の将軍が画策したニュールに対するもう1つの対策だった。
内部の不満抱える者たちを焚き付けるために敢えて買い戻し、金剛魔石を見せつけ誘惑した。プラーデラで王殺しをしたニュールを恨む一派を煽り、ニュールを片付ける方策。
『王を亡き者にした憎き不心得者へ王の力使い鉄槌を!』
言葉巧みに扇動し内部に入り込んだ。
金剛魔石を使った古代の結界陣と手枷足枷でニュールの手足を拘束する中、もう一つ用意されていた金剛魔石による攻撃魔力が収束してていく。
「そんなに攻撃したいのなら勝手にするが良い。受けて立ってやるぞ」
挑まれた戦いに立ち向かう高ぶりと、自罰的に受け入れてしまいたいと言う甘美な誘惑。ニュールは自分の中にある、相反する2つの欲に従い動いた。
先ほどディアスティスとのニュールの睦まじく見える様子に、モモハルムアは動揺しなかったわけでも嫉妬しなかったわけでもない。
自分が持っていない、違和感なく寄り添える均衡のとれた関係に憧れとともに悔しさを持っていた。
だからと言って諦められるような思いでは無かった。
『私は、何としてもあの方の心を手に入れて見せる』
その思いはモモハルムア自身を強くする。
新たに思い強めつつ、見送ってからも暫くその場所に佇んでいた。
そして、見送った先からざわめきが伝わってくる。
「前国王一派がニュールニア様を襲っている!」
その言葉を耳にした瞬間、モモハルムアは無意識に駆け出していた。
駆け付けた場所には逃げ惑う人々は消え、ニュールとニュールを襲う者達のみが居た。
そして高めている魔力が、あの日エリミアで体感した金剛魔石によるものであることが感じられた。
高められた金剛魔石の力は今や射出される寸前であった。
自分の結界では守り切れないと解っていても、攻撃されるニュールを見捨てる気は更々無かった。
反射結界を築き、かつてエリミアでニュールが守ってくれたように金剛魔石の攻撃弾くべく立ちはだかる。
「やめろ! 退け!!」
ニュールの叫びと同時にその攻撃はモモハルムアとニュールの方へ向かう。そしてモモハルムアが築く結界はソレを捉えた。
だが、弾き軌道を変えはしたが、完全に弾き返す力を持てなかったため、はじいた攻撃はモモハルムアの肩を穿つ。
モモハルムアの着ていた衣裳が鮮やかな紅色の花を咲かせる。
それは急速に大きくなる。
陣の解析が終わり、手枷足枷などに妨げられる事無く鮮やかに捕縛陣を解除したニュールは怒りの感情のまま、攻撃してきた者たちに報復の攻撃加え一瞬で個体から液体に変え…終わらせる。
「お前が被害を被り、オレを庇わねばならぬ意味がわからんぞ!」
「ニュールが…感じてなくても、ニュールの心が…痛いのは嫌…なん…です」
「!!!」
「たとえ…貴方…が別人の様なニュールであっても、貴方はニュールであり私の…」
意識失う。
出血量から考えても損傷は大きいのが分かった。
モーイやミーティに施した治療では間に合わないのがわかる。
「くそっ! どうすりゃ…!!」
『これ以上決して捲き込みたくなかった…なのに何故不利益被ると分かって…』
こうなる事を危惧して避けていた。だけど完全に斥けるには惜しくて強行しなかった。何処までもニュールの中にある本質見極め近付いてくれるモモハルムアの気持ちが温かく心地よかったのだ。
魔物を内包するニュールを包み込むおおらかさ、そして畏怖や羨望で恭順するのではない、横に並び立てる喜びを求める心。
モモハルムアがニュールへの思い持ち、目の前に立っている事がニュールにとっての希望と癒しになっていたのだ。
魔物なニュールであっても融合している以上、それはニュールである。
魔物の習性として理解出来ない心はあるし、人間の理性には理解およばない行動もある。
だが本能のような思いは双方から理解できた。
『此れは亡くしたくない者なんだ』
自分の持てる力全てを使って助けたい者であった。
融合する前から双方の目で見て惹かれる存在。
表層から意識の全てを巡るような思い込め、心の中で叫ぶ。
『何をすれば!!』
『ニュール落ち着くんだ! そうすれば求める回答が見えるはずだよ』
あの時から消えていたニュロが帰ってきた。
「帰れ」
ヴェステで国王に捕まり、フレイリアルが転位で逃し送り届けてくれたプラーデラ。
だが、会えることを切に望んだ者は冷ややかに…歓迎することなくモモハルムアを拒否した。
その冷えた体温持たぬ様な瞳はモモハルムアを映すことなく本人が望むことだけに専念し、必要な時以外は常にいる周りの者さえ見ることが無かった。
厳しく冷たい部分も持つが、全てを飲み込み包み込んでくれるおおらかな心広い温かさ持つニュールはそこには存在しなかった。
興味持つことを楽しむ姿などは見かけたし、余裕もあった。だが、決して隙見せることなく獣や魔物の様に警戒し、簡単に近寄らせない姿があった。
今まで見たことのないニュールだが、ニュールの本質含む行動であるのも理解できた。
そしてモーイの瞳は人形特有の硝子目玉をしていた。
ゆっくりと近づき手を伸ばす。
全く反応が無い。
涙しながらモーイを抱きしめると、抱きしめ返してくれる。その暖かな感触は以前と変わらないのに、その行動は反射でしかないと言われる。
2人とも氷の世界に入ってしまい出て来られなくなってしまったようだった。
「びっくりしちゃうよな…」
ミーティがモモハルムアに朗らかに声を掛けてくる。
「オレやモーイが下手を打っちまって…だからニュールがあんな感じになっちまってスマンな!」
言葉は軽いが、心からの謝罪と後悔の気持ちが入ってるのが表情から分かった。
ニュールとモーイの変化同様驚いたのが、ニュールが王を名乗っていたことだ。
本人が名乗りたがったのでない事は明白である。
それでも側近のように横に付く2人とプラーデラの先を憂える大臣達が、本気でニュールを王として担ぎ上げ、その存在を敬い指示を仰ぎ従い動いているのも分かった。
ニュールも肝心なことだけはしっかり決定して指示する、正しく国王と言えるような働きぶりをしていた。
「責任感強いのは前と変わらないよな。人には気楽に逃げちまえ…って簡単に言う癖に、自分は絶対に逃げないんだよな…何かズルイよなっ」
モモハルムアにも、ミーティの言う "ズルイ" と言いたくなる気持ちが分かった。
対等を目指し努力するのに気持ちの上でも全くかなわない口惜しさ。
魔物の冷ややかさ持つのに受け入れる寛容さ。
その中でミーティは、来るもの拒まず去る者追わず…の対応をされたのに、モモハルムアは其れさえ許して貰えなかった。
『私の能力が至らないから…』
モモハルムアは自分自身の不甲斐なさに、更なる悔しさ募らせる。
旧来の仲間だけでなく、ニュールの周りに増えていた面々も拒まれなかった者達だと思うと、余計に悲しく悔しい気持ちが増す。
新しく増えた者たちは、エリミアの頃から散々皆して苦しめられた影の《14》で《五》で隠者Ⅸだったピオと言う者。そして、ヴェステ軍の一翼を担っていた赤の将軍ディアスティス・アーキアだった。
強敵とも言えた2人だが、何故かニュールに忠誠近い付き従う。
そして現在プラーデラ王ニュールニア・バタル・ヴェスティアと名乗っている。
正式な戴冠している訳ではないが執務も行い、前国王討たれてからも国は正常に統治されているようである。
反旗翻さぬ大臣たちは、望み進んで仕えているようであった。其所にはモモハルムアの知らないニュールとその新たな仲間の新しい世界が繰り広げられている。
それでもモモハルムアには、ニュールが全てを背負い込んで望まぬ道を進んでいるように見えた。
会えば帰れと言われるがニュールは其れを行動に移すことはなく、モモハルムアが滞在することは許容してくれる。
だが近付くことは許してもらえなかった。
そして言葉でも示された。
「オレに構うな」
ほんの少し近付いただけで言われた言葉。
『短い言葉でもお慕いする方からの言葉は重いですわ…』
心に刺さった言葉を受け止めつつモモハルムアは宣言する。
「帰れと言われ、構うなと言われても、貴方の瞳に含まれる寂しさと虚無感消えるまで私は退きません」
その力強さが魔物なニュールをも折れさせ、強制退去と言う手段を取られずにいる。此処に居るための許可を、実質取り付けているようなものだ。
ニュールはそれ以上の言葉は残さず、その場を後にする。
横に付き見守っていたディアスティスが意味深に微笑み、モモハルムアからよく見える場所でニュールに絡み付き、濃厚な口付けを交わす。
少し離れた…とは言えニュールを見送りながらその一部始終を見ているのに、全く動じないモモハルムアに感心するディアスティス。
「お嬢さんは熱いな! 全く揺らぐ様子がないぞ」
そう言い、後ろのモモハルムアを再度確認すると更に激しく口付け、寝所に誘う様に体に手を這わせ色っぽく煽る姿を見せつける。
『…ぅのあっ!』
それを見て揺らいでいるのは、ディアスティスと共にニュールに付き従っていたミーティだった。
真っ赤になり逆上せ固まっている。
「動じないか…それならばいっそ、あのお嬢さんを寝所にでも連れてって、其処でお前が我とが熱く情熱的に絡む姿でも見てもらうか? 我は吝かではないぞ」
「遠慮する」
無感情に一刀両断で答えるニュールにディアスティスはため息を付き、一旦離れ諦めたようにみえた。
「相変わらずお前はつれないなぁ」
そして飛び切り艶っぽい表情を浮かべると、今度はニュールを全身で捕まえ本気で攻め落とすような濃密で官能的な口付けを捧げる。
その時足元にピオが現れ跪く。
「お楽しみの所申し訳ありませんが、我が君にご報告です」
「ちっ、無粋な奴め」
ディアスティスが思い切りピオに不快感表すが、ニュールは構わず問う。
「何だ?」
「白の将軍の精鋭10名とその手の者が、城内へ転移陣魔石使い入り込んだようです」
「ほぅ、それは面白い。奴の下は意外と面白い者が多いからな…」
ピオの報告にディアスティスが舌舐めずりし反応する。戦闘狂の血が騒ぐ様だ。
「では私とディアスティス様で対処致します。一応、盾としてソレは置いておきます」
「いや、連れて行け。勉強させろ」
「…致し方ありません。では、ソレはこちらの盾として使用します」
ピオは溜息をつきながらもミーティを連れていく。
先ほどまで繰り広げられていた光景に熱く昂ぶり固まっていたミーティは又しても聞いていなかった…事態飲み込めぬまま、いつもの様にピオにひきずられて去って行く。
ニュールは遣り残した塔の資料の確認をするために用意した部屋へ向かう。
その途中の道、叫びをあげ襲い掛かる者が居た。
「我が王を弑し奉りし外道め!」
其処には前国王の周囲に居た…シシアトクスに未来を捧げた近衛達が居た。
「あの様な、理不尽な弑逆による王権の移譲なぞ我々は認めぬ」
憤る思いを熱く語る近衛達。
「認めなくとも、調べが終わり次第去る。その後は好きにしろ」
ニュールはシラッと答える。
「ふざけた事を言うな! 我が国そのものを貶める様な行為、断じて許さん!!」
そして不明となっていた大臣達2名も姿を現し、ニュールを導き入れた場所の足元に隠蔽掛け隠してあった捕縛陣を起動させる。
それは未知の陣だった。
「その陣はシシアトクス様が研究に研究を重ねた古代文献から起こした金剛魔石による捕縛陣。簡単には解けないはずだが此れも追加だ」
更に捕まえてあるニュールへ魔力で飛ばし絡ませたのは金剛魔石散りばめた手枷足枷だった。
未知の捕縛陣で捕まえ繋ぎ止め、手枷足枷嵌めて一番魔力を導出しやす手足を封じる。
魔力体術封じ、魔力攻撃封じ、物理攻撃までも…封じる。
『確かに少しは損傷を受けるかもしれないな…』
それでも余裕の表情で佇む。
だが、ニュールの中で余裕…とは少し違う、自身を裁いてしまいたくなる心の誘惑が沸き上がっていた。
全て避けようと思えば避けられた稚拙な攻撃や罠…敢えて受け入れたのは自身の欲からだった。
王の所有していた金剛魔石は、1つだけ王宮に残して後は市場で売り捌かれた。黄の塔の攻撃資金や、フレイリアルの捕縛依頼資金になってしまった。
ここに存在する金剛魔石は、それを入手した白の将軍が画策したニュールに対するもう1つの対策だった。
内部の不満抱える者たちを焚き付けるために敢えて買い戻し、金剛魔石を見せつけ誘惑した。プラーデラで王殺しをしたニュールを恨む一派を煽り、ニュールを片付ける方策。
『王を亡き者にした憎き不心得者へ王の力使い鉄槌を!』
言葉巧みに扇動し内部に入り込んだ。
金剛魔石を使った古代の結界陣と手枷足枷でニュールの手足を拘束する中、もう一つ用意されていた金剛魔石による攻撃魔力が収束してていく。
「そんなに攻撃したいのなら勝手にするが良い。受けて立ってやるぞ」
挑まれた戦いに立ち向かう高ぶりと、自罰的に受け入れてしまいたいと言う甘美な誘惑。ニュールは自分の中にある、相反する2つの欲に従い動いた。
先ほどディアスティスとのニュールの睦まじく見える様子に、モモハルムアは動揺しなかったわけでも嫉妬しなかったわけでもない。
自分が持っていない、違和感なく寄り添える均衡のとれた関係に憧れとともに悔しさを持っていた。
だからと言って諦められるような思いでは無かった。
『私は、何としてもあの方の心を手に入れて見せる』
その思いはモモハルムア自身を強くする。
新たに思い強めつつ、見送ってからも暫くその場所に佇んでいた。
そして、見送った先からざわめきが伝わってくる。
「前国王一派がニュールニア様を襲っている!」
その言葉を耳にした瞬間、モモハルムアは無意識に駆け出していた。
駆け付けた場所には逃げ惑う人々は消え、ニュールとニュールを襲う者達のみが居た。
そして高めている魔力が、あの日エリミアで体感した金剛魔石によるものであることが感じられた。
高められた金剛魔石の力は今や射出される寸前であった。
自分の結界では守り切れないと解っていても、攻撃されるニュールを見捨てる気は更々無かった。
反射結界を築き、かつてエリミアでニュールが守ってくれたように金剛魔石の攻撃弾くべく立ちはだかる。
「やめろ! 退け!!」
ニュールの叫びと同時にその攻撃はモモハルムアとニュールの方へ向かう。そしてモモハルムアが築く結界はソレを捉えた。
だが、弾き軌道を変えはしたが、完全に弾き返す力を持てなかったため、はじいた攻撃はモモハルムアの肩を穿つ。
モモハルムアの着ていた衣裳が鮮やかな紅色の花を咲かせる。
それは急速に大きくなる。
陣の解析が終わり、手枷足枷などに妨げられる事無く鮮やかに捕縛陣を解除したニュールは怒りの感情のまま、攻撃してきた者たちに報復の攻撃加え一瞬で個体から液体に変え…終わらせる。
「お前が被害を被り、オレを庇わねばならぬ意味がわからんぞ!」
「ニュールが…感じてなくても、ニュールの心が…痛いのは嫌…なん…です」
「!!!」
「たとえ…貴方…が別人の様なニュールであっても、貴方はニュールであり私の…」
意識失う。
出血量から考えても損傷は大きいのが分かった。
モーイやミーティに施した治療では間に合わないのがわかる。
「くそっ! どうすりゃ…!!」
『これ以上決して捲き込みたくなかった…なのに何故不利益被ると分かって…』
こうなる事を危惧して避けていた。だけど完全に斥けるには惜しくて強行しなかった。何処までもニュールの中にある本質見極め近付いてくれるモモハルムアの気持ちが温かく心地よかったのだ。
魔物を内包するニュールを包み込むおおらかさ、そして畏怖や羨望で恭順するのではない、横に並び立てる喜びを求める心。
モモハルムアがニュールへの思い持ち、目の前に立っている事がニュールにとっての希望と癒しになっていたのだ。
魔物なニュールであっても融合している以上、それはニュールである。
魔物の習性として理解出来ない心はあるし、人間の理性には理解およばない行動もある。
だが本能のような思いは双方から理解できた。
『此れは亡くしたくない者なんだ』
自分の持てる力全てを使って助けたい者であった。
融合する前から双方の目で見て惹かれる存在。
表層から意識の全てを巡るような思い込め、心の中で叫ぶ。
『何をすれば!!』
『ニュール落ち着くんだ! そうすれば求める回答が見えるはずだよ』
あの時から消えていたニュロが帰ってきた。
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フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
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フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
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