魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

23.各々動いている

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王立魔石研究所から王宮へ移動する客車の中、対面に座るバルニフィカ公爵がモモハルムアに最近ヴェステで起きた事などを道すがらの話題として語ってくれる。

「最近砂漠に大規模な天輝が降りて、なかなか良質な魔石が大量に採れたそうで市場が賑わっているそうです」

その話題にガッツリ食いつきたい侍女姿でモモハルムアに同行するフレイリアルは、隣のフィーデスに肘でつつかれムズムズする手足を何とか抑え我慢した。

「まぁぁ、僥倖ですわね。エリミアにもその様な機会多くあると良いのですが…」

モモハルムアは普通の話題として流し、バルニフィカ公爵へ次の話題を所望するように話を続ける。

「良質な魔石が豊富に得られたなら、研究所での研究にも役立ちますわね」

「そうですな…貴女様は研究所に留学されていた方でしたな。では、そういった話の方が興味持ち楽しく過ごしていただけるかもしれませんな」

そして、にんまりと笑み少し声を潜め語りだす。

「最近、王宮砦にて密かに実験が行われたと言う噂がありまして…」

バルニフィカ公爵はモモハルムの表情をじっくりと読み取りながら話し始める。

「捕らえた者たちを使って色々と試すのことがあるのはご存じだと思いますが、魔物魔石の相乗効果の実験で惨事が起きたそうなのです」

「惨事…ですか?」

モモハルムアも留学中に何度か魔物魔石の実験を見学することもあったし、色々な研究があると聞いてもいた。魔石研究所が比較的鬼畜な研究を行っているのは知っているし、納得もしていたので動揺するようなことも無かった。

「えぇ…魔物魔石の代を重ねる実験をしていたのも確かご存じですよね」

「はい、私も少し手伝わせて頂きました」

モモハルムアは陣の研究と魔石の研究室に比較的多く顔を出していた。
どちらもエリミアに必要なものであるからだ。魔物魔石の研究を手伝ったのは最近の流行りであった事もあるが、ニュールが内包する魔石が魔物魔石と聞いていたのでとても興味があったのだ。

「危険が及びにくい王城牢の地下3階で、魔力の動きにくい魔物魔石と雑魚魔石の組み合わせでの相乗効果をためしていたそうなのですが…研究を受け持っていた隠者2名が血の海に沈み、被験者となっていた囚われ人が相当な深手を負ったそうです。一時はその日のうちに危うい…と言われていたそうで、1人は人形にするしかなかったそうです」

一瞬、モモハルムアの目が揺蕩う。

「なぜその様な事が起こったのですか?」

「魔物魔石が予想外に進化していた事と、どこかに高位魔石が存在したのでは…と言われています」

フレイリアルから予め聞いていた情報でもあり、モモハルムアは内心の動揺とは裏腹に落ち着き対応する。並び座り聞いていたフレイリアルも手に爪食い込ませつつも、無表情に前だけをみていた。
それでも耳にした内容は陥った状況を想像し得るものであり、その後のニュール達に思いを馳せ心締め付けられ気持ちが沈む。

「随分と乱暴な実験をされるのですね…」

若干批判めいた口調で感想を述べるモモハルムア。

「全くもって管理行き届いていない状態…言い訳しようも御座いませんな」

魔石研究所の監督も任されているバルニフィカ公爵は憂慮している…と言った感じで、魔石研究所の…隠者の不始末を嘆いていた。
だが突然に何事か思い出したように笑み、言葉続ける。

「人は時に予想外の事態に遭遇する…と言う事でもありますな…」

話しているといつの間にか王城入口へ差し掛かり、そこで全員魔石認証による確認を受ける。客車の窓から周囲の景色を眺めると、跳ね橋ある門をくぐり抜けて行く。客車は王宮砦裏・白尾へ外周路から向かう…と説明受けていたのに直進し王宮砦正門・青頭の門を通過する。

「???」

状況に気付くフィーデスが顔をしかめ警戒し、いつでも動けるように体勢を整える。
正門通過時、何やらバルニフィカ公爵が伝言を受け取っているようであった。
その伝言を確認し大きく目を見開き…その後いつも以上に目を三日月にしてバルニフィカ公爵は笑む。
そしてモモハルムアに伝える。

「エリミアの話を聞きたいとのことで、王が直接お話したいそうです」

これは、正しくモモハルムア達にとって予想外の事態への遭遇だった。。



ニュールのやった事は人の道外れた惨殺である。
だが既に心病み王としての役目を果たせない者を排除する、正当な "王殺し" にも見えた。

王を支えていた側近や大臣達、取り巻きにとってニュールは残虐非道な敵でしかない。怨嗟籠る視線送り、歯噛みしつつ仇討つ機会を探している。その悲憤は、自身の運命を儚み命絶つ思いから遠ざけるであろう。
王へ執着持たぬ者達にとっては、周囲を巻き込む狂王の悪行からの解放である。
それは正しく僥倖であった。狂った王に差し出した娘を虐殺された大臣などは、この突然現れた襲撃者達の王殺しで無念の思い晴れたのだ。
国の現状を憂い見守っていた全ての者達が…救国の徒が現れたと思い、感謝の念抱く者までも現れた。
プラーデラ王であったシシアトクスが持ち願った最期の意図。
自身を救うことが出来なくなるまで落ちてしまった者の、王としての最後の行動だった。

「これで、あの狂った王から解放された」

「国として、前を向き進める」

そう言う者が半数以上を占める。
その中には更なる希望を持つ者も現れた。

「力強き者が上に立つのなら国が安定する…」

ニュールが、塔より持ち去られた資料を探すため王宮に留まることで急速にその流れが広がっていった。

「ニュール、王様になるのか?」

「興味ない」

ミーティの問いに素気無く答える。

「王亡き後、混乱させておくのは民のためにはならぬぞ」

ディアスティスが珍しく戦闘以外の事で面白そうに笑みを浮かべ口を出してきた。

「我が君に相応しき場所にするためならば、取りまとめるのも一興」

ピオまで面白がる。

「では資料集めるあいだのみ王を名乗るのも良いのではないか?」

ディアスティスが背中を押す。

「何か面白いな! ニュールの石の下の名は?」

ミーティが尋ねる。

「ニアだ」

生まれた子供に長めの名前を付け、石の下に後半部分の名前を刻み埋める…と言う一般の者の風習があった。
子供の健康と安寧を願う祈りを捧げる儀式。石授けの時に其の名を子供に教え、自身の立場をしっかり守れる程に大成したら取り出し名乗るための名。
実際は長い名前は面倒…と大成したとしてもそのまま忘れてしまうことが多かった。

「じゃあ、ニュールニアだな。もうひとつの名前は何にする?」

「ベスティア…で」

何だかんだニュールもこの遊びに乗っていた。

「ニュールニア・バタル・ベスティア! うんっ、何かそれっぽくて良いな」

ミーティが新しく出来上がった王名を口にする。
そして3人揃ってニュールの前に跪く。

「それでは王よ、我らに何かお命じになることは?」

「資料探しと静かな環境だけだ…3日で済みそうだから。3日だけの王だ…」

この三日王が意外と歴史に残り苦笑せざるを得なくなる未来もあるかもしれない。



「時が満ちたときワシは消えるかもしれんから言っておこうと思ってな…」

「何、ふざけた事言ってるの?」

突然のエレフセリエの戯言の様な言葉に、キミアは顔をしかめる。

「こうして対面しておるから実感は少ないかもしれないが、ワシはしっかりお前の中に存在しとるからな」

タラッサ水の塔・透の間にて、前回大賢者が目覚めてから1の月経たないと言うのに大賢者エレフセリエが再度目覚めた。
そしてキミアに思い込めて言葉伝えるのだが、キミアの耳に言葉として届いても心へは思い届かないようだった。

『それでなくても考えなきゃいけないのに…考えたくない事だらけなのに、何故この人は今、こんな余計な事伝えるのだろう』

キミアはいつもの老人のボヤキだと思い溜息しか出なかった。

『新しく手に入った商会は責任者がエリミアの大賢者様に消されちゃったから面倒になっているし、エリミアまで行ったフレイがどうしてるか知ろうと思ったら、エリミアに入れといたお人形が消えているし…思うように行かない詰まらない事ばかりなのに更に詰まらなくなっている』

「もうすぐ、詰まらない事も吹っ飛ぶぐらいの事態が起きるじゃろ…お前はインゼルに飛べるようにしときなさい」

キミアの心の中の思い汲み取るようにエレフセリエは伝え…そして指示した。

「何であんな中途半端な塔に?」

「必要になるからじゃよ…」

また訳の分からない事を…と言った顔をしているキミアに向かってエレフセリエは真剣に伝える。

「これを乗り越えられないんじゃ再生に回されてしまうからな…まだワシは世界が愛しいんじゃ」

そして笑みを浮かべキミアの背中を優しくポンッと叩く。

「ワシはお前のことが大切じゃよ…大賢者とかそう言うの抜きでな」

「!!!」

唯一生存する大賢者として、記憶の記録の深層まで潜っているであろうエレフセリエ。口にすることで流れが変るのを恐れるが、それでもこの世界が続いていくことを願う。
詳細を伝えられない変わりに思いを伝えた。

「分けわかんない!!」

フイっと顔を背けてしまうキミアだったが、表情の中に小さく小さく嬉しさがあるのが見えるのだった。



「もう、いい加減に行動したいぞ!!!」

アルバシェルはブチ切れる直前と言った感じで、時の巫女リオラリオとタリクを前に憤る。
今、サルトゥス王宮はある程度落ち着いている。
大事件が起きた後…王の交代まで有ったと言うのに安定している。それはリオラリオが能力使い適切な未来が訪れるよう、微妙な判断を必要とするかなりの部分を取り仕切っているからだ。

弑逆を行った皇太子は、完全な継承の儀式行ってはいないが実質の王となっていた。その側近も含めたお人形達は、粛々と執務は行う。
ただ、国王および王位継承者の処分があらかた終了してからの動きは大人しい…と言うか反応が薄い。人形らしい者達に戻りつつあるので、余計にリオラリオが動かざるを得なかったのだ。

「各国それぞれに問題抱え、他国に構っていられる状況じゃないから何とかなっているの。だけど今後を考えるなら…今、安定を得ておく事が大切なのよ!」

リオラリオはイラつきながら説教するようにアルバシェルを説得する。

「思いは大切だけど、それだけじゃ上手くいかないの。状況と機会をしっかり判断する頭が必要なのだから熱くなりすぎるのはお止めなさい!」

「それでも、もどかしいんだ…」

その叱責に、子供のように唇かみしめ動けぬ自身を責めているアルバシェル。
それを見て怒っていたリオラリオが表情和らぐ。

「この先は貴方が導かねばならない事が増えるでしょう…。今まで思うようにならぬ中進んできたと思うけれど、貴方が望むものを得て幸せになる事を願っているのは本当よ…」

その言葉と表情に驚き、冷静にリオラリオへ向き合うアルバシェル。

「姉上?」

「時は動き迫っている。機を逃さず動けるように準備だけはしておきなさい」

そう静かに伝え、アルバシェルを諫め立ち去る。

『私自身の最後の望みを叶える機会も近づいている…』

リオラリオは見えなくなってきた先を必死で探し手繰り寄せ、自身の望む先を得るために動き続ける。
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