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第五章 ヴェステ王国編

22.刻み動く

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そこには空っぽな者がいた。
煌びやかで美しい容貌に切なさを秘め、2つと無いような色合いの宵闇の星映す瞳は憂い、雨降りし空の様に銀の雫の如き髪がそれを哀れみ覆う。
求め追い…失くしてしまったと思い…疲れてしまった者が…そこに存在した。

「終わりにしてしまうのが良いかもしれないな…」

そう呟くと追う者の影消えた王宮の転移の間より賢者の塔へ戻る。
いつもの様に18層に向かう3層にある転移陣に乗り、いつもの上層ではなく下層への路を開く。

辿り着いたその場所は転移陣の青い輝きのみが薄ぼんやりと周囲を照らす、冷え冷えとした闇の世界。
一歩踏み出そうとすると久々に内より語り掛ける者がある。

『良いのですか』

「あぁ、もう良いよ…」

『地下から? それとも上空から?』

「上空からにしよう…綺麗だと思うんだ…」

『塔だけ残す形で宜しいですか?』

「十分でしょ? …何なら全て無に帰しても良いよ」

『その選択は、まず第一選択を行った後の結果となります』

内在する管理するモノと最終確認を行った後、陣から降り広間へ歩み出す。
その真円を描く広間の対面の部屋にある陣へと赴く。
その広間の床は一歩踏み進める毎に、転移陣と同じ青い光を紡ぎだし足元に広がる。
あらゆる種類の青系の魔石施し、空間魔力を高めた領域であった。
目的の部屋に辿り着くと、塔に繋がりし大賢者の権限にて封印用の結界陣を施された扉が存在した。そこに魔力を流し、解除する。
部屋の中に入ると、2人しか乗れない小さな転移陣があった。
それは塔が隠し持つ機能を開放するため、基幹系統の中枢部へ赴くための小さな転移陣であった。
リーシェライルは迷いの無い足取りで陣に乗る。

「ふふっ、ちょっと動かせるのが楽しみでもあるな…」

長い歳月、広間まで確認の為に降りてくることはあった。だが実際に身体を伴いそれ以上進むのは、時満ちて上位空間へ赴くか、決断して地下機構へ行くときにしか使わない。その為、普段は年に何度か問題の有無だけ確認し戻るだけであった。

「そうだよね…ここから登る事もあるんだから、空間魔力満ちていて当然なんだよね」

だが傍らに寄り添っていて良いはずの者はそこに存在せず、ただ一人向かい進むしかない。
そして、登ることも出来たこの塔から地下へ潜る。

「皮肉だな…天へ行かず地へ降りるとは…ここに来るはずでは無かったのだけどな…」

"普通で幸せな生活" …大賢者という囚われの身になったからと言って、リーシェライルが望まなかった訳ではない。
大賢者になって後、元々のリーシェライルの続きの人生を送っている時も細やかな幸せを願い手を伸ばしたことはあった。だが、叶わないどころか周囲全てを巻き込み潰しそうになった。

そして自身で送る人生を諦め、表面から立ち去った。
それでも "自分だけの特別な何か" …それが何処かにあるのではないかと思い、他の者と混在する奥底で探し求め続けていた。

『自身で感じ取った先に見つけた光…今度こそ手に入ると思っていた。それなのに、いつも自由に飛び回り、近付き横をすり抜けて行くだけで何も残らない。幸せは僕の手には乗らずに飛び去ってしまう…』

憔悴見せる灰簾魔石色した空虚な瞳が闇を揺蕩う。

『掴んだつもりでいた何もない手を眺めるのはもう嫌だ』

更なる下層へ向かうため、陣の魔力を動かしながら決意する。

『一緒じゃないなら…それならばもう…』

清々しく前を向き、万物怨む瞳で先へ進む。

『そのための第一歩…』



ヴェステの赤の塔に入った、王と青の将軍とサンティエルゼとサランラキブである隠者Ⅰの4人は、ただただ驚いた。
そこには鮮やかで濃厚な魔力が、重厚で厳然たる暗赤色の空間にひしめくように広がっていたのだ…。

最初は王から言われるがまま向かっただけだった。
半信半疑っと言った風情で王都から10キメル離れた砂漠にある賢者の塔の遺跡…と呼ばれた場所に立っている。

「あの様な俗物が本物を用意できるか疑わしいものですが、確認するだけしてみるのですね…」

ニュールが王に塔の現状告げた数日後、王から召集された面々は塔のことを伝えられた。そして、そのまま連れ立って赴くことになった。
散々、国として取り組み調べ尽くした場所である。
調査当時、転移陣は完全に破壊されて修復不可能と言われていた。尚且つ転移先が不明であるため、復旧させても陣の組み替えが必要であった。
活用する利点少なき場所にある陣、莫大な費用をかけても意味がないと判断され放置されていた。
実際に周囲に街も人も無く、砂に半分埋もれた本当に遺跡のような場所だった。
その中にある王が説明受けたと言う場所へ到達すると、転移陣は修復され輝き放つものとなっていた。

「罠である可能性もありますし、修復が不十分な可能性もありますからまず私が…」

「大丈夫だよ…この前ここまで来た時、陣の先に柘榴魔石の輝きを感じたからね。塔を構成しているのは石榴魔石だとも聞いているよ」

先んじて王は単独で、ここまでは見に来ていたような雰囲気だった。

『だれを伴い??』

単純に問いたくなるが問うてはいけない質問。
少し前より新たな参謀を得たらしいのだが、現在居る側近には一切素性を明かさないようだ。王の信頼を新たに得た何者か、年齢性別全て不明であり怪しいこと甚だしい。
告げない事を問うのは王の決断疑うこと…余程の事以外は黙認するしかない。
この陣の真偽も国王自らが感じ判断した結果であり、サランラキブは異議唱えることは出来なかった。
内心の不服隠しながら、しぶしぶ皆と共に輝く転移陣に乗る。
そして持ってきた蒼玉魔石の塊使い転移魔力を導き出し転移陣へ流す。
皆いつもと同じ転移の感覚を受け、塔の転移陣に到着する。

到着した瞬間、そこは膨大な魔力の循環が起きている塔の中…18層だった。
通常の転移の間ある3層は砂で埋もれているため、ニュールが錠口ポータルから直接18層へ繋ぎ変えていたのだ。

「凄い魔力だよね…だけど今はまだ大賢者と繋がってない状態の塔だから、末端の循環しか改善してないらしいよ。大賢者が塔に繋がってくれたら、さぞ凄いのだろうね…」

そう言って王は微笑む。
そしてスルリと近づいてきて、サランラキブに対してのみ伝わるような声音で吃驚するようなことを言う。

「君は青の塔に…その場所へ生命力吸われ大賢者達と同じように繋がっている存在なんだよね。同じように赤の塔とも繋がれるんじゃないのかい? サンティのために研究してみる価値はあるかもしれないよ…君がヴェステにて大隠者となる日を待っているよ」

甘い言葉で魔物のように囁く。
サランラキブは言葉返す余裕も無く考え込んでいた。
巧みに持ち上げ、その者が真に希望する方向へ話を進めつつ…自身の思う方向へ進むよう操るヴェステ王シュトラ。
そうして意思あるのに思うように踊る傀儡が出来上がる。

踊らされてる本人は自覚ない。全てが自分で望んでいた事であり、自分の意思持ち動いているように感じる。だが真実は、導かれ意図に従い、勝手に踊り動くお人形の様であった。
言葉の巧みさで操作する人身掌握術。
それは古に廃れたという魔術を、王が使ったかのように見えた。

近い未来…目の色変えて邁進するササランラキブの姿が見られるだろう。
現在ある研究の粋を集め、代重ねる魔物魔石から賢者の石になりそうな魔石を作り出す姿…そして喜び勇み大隠者目指し動く姿がありありと思い描けるのだった。


フレイリアルは転位する場所を、元々行くはずだったヴェステ王立魔石研究所の転移の間に設定した。
見知っている場所であり空間の置換もしやすい。
ヴェステではモモハルムアの侍女になりすまし活動する予定だったので、隠蔽魔力使わずフィーデスと共に最初からモモハルムアの背後に控えることにした。

通常の転移と違い、魔法陣を使わないので転移陣が輝かない。違和感生じさせぬ為に魔石で幻想奇術の様に視覚効果生み出し転移陣の輝きも作り出す。
とりあえず転移先の隠者達に疑問を持たれる事は無かったようだ。

だがそこには、王宮からの…白の将軍からの使者が待っていた。

「モモハルムア・フエル・リトス様及びお付きの方々。再びヴェステ王国へいらっしゃいました事、心より歓迎申し上げます」

恭しく迎えたのは、バルニフィカ公爵だった。将軍が直接に使者を依頼したのだ。

「留学して頂いた時、公賓であるにも関わらず此方の不手際で色々ご迷惑お掛けしたことについてお詫びをしたい…とのことで、白の将軍からの招待状をお持ちしました」

「お久しぶりでございます、バルニフィカ公爵。ご健勝そうで何よりでございます」

紫灰の瞳輝く端正な作りの顔で目一杯の笑顔を浮かべ、モモハルムアは美しく挨拶する。フレイリアルとフィーデスはその背後で跪く。
そして挨拶と共にモモハルムアは言葉を続ける。

「勿体無いお言葉恐れ入りますわ。それにあれはお互い様…と言うことで秘した内容だったと思いますが、思い違いでしたでしょうか?」

「いえ、大変申し訳なかったのですが、風の噂により将軍のお耳に届きお叱りを受けてしまいました。その為、改めて私と共に王宮砦の白尾へ御一緒していただきたいのですが…聞き入れて下さいますでしょうか?」

近付き情報を得ようとしていた場所へのお誘い。
モモハルムアは華やかに笑み答える。

「えぇ、ご招待お受け致しますわ」

海千山千の敵がひしめく伏魔殿…とも言える様な場所。どんな魔物的な危険人物が飛び出すかわからない。
それでも受け入れ対峙する覚悟をする。
一番目に遭遇した中位魔物的バルニフィカ公爵が三日月目で笑み深め優雅に手を差し出す。

「では、御一緒に参りましょう」

モモハルムアはその手を取り向かう。
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