魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第五章 ヴェステ王国編

13.敵対し動く

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地下に沈むヴェステの赤き塔にて地輝の襲来をやり過ごした後、再度一通り探りつくし中央の地輝石の元へ戻る。

「一応試しておくか…」

そして白の塔で教えられた切っ掛けを創生するための言葉を呟き魔力を導く。

解放キアダーレ

その言葉と共に止まっていた塔の魔力が動き始める。
そうして地輝が置いていった魔力の残滓を巻き込み纏め、集約し出力高めた魔力を紅の間にある魔輝石へ送る。
渦巻きながら天と地を繋ぎ連携を復活させ、赤の塔に魔力の流れが出来上がる。
此で塔自体は甦った。
甦ったと言っても小循環が回復しているだけである。大循環無くして枯渇なき魔力循環は作り上げられないので、使えば枯渇する。

「この流れを何処へ導きどう使うかは、此処を手に入れた者が決めれば良いこと」

赤の塔での作業は終了した。
此処の塔には文献と呼べるようなモノは存在しなかった。

「ここはヴェステの王に引き渡し、プラーデラの塔へ向かおう」

ヴェステの錠口ポータルへ戻る。
そこには赤の将軍と、その後ろに影の《一》《二》が控えていた。転移完了する前に防御結界築き対峙する。
取り合えずいきなりの攻撃は無かったが不穏な雰囲気醸し出している。

「出迎えにしては随分と物騒な者たちを連れているな…」

ニュールの問いかけに赤の将軍ディアスティス・アーキアがそのままの依頼内容を答える。

「青からの依頼だ…お前の捕縛、若しくは抹殺を願われた」

「青の? …王の了承得た依頼か?」

「いやっ、青の独断だ…」

「青は人形では無いのか?」

青の将軍に近しい者である、赤の将軍に気になっていることを尋ねてみた。
ニュールの手で回路断った記憶のある青の将軍について…。

「瞳はその兆候あるし、別人…と思われるが行動は人間だ」

王の手のひら返しを疑うが、そうでは無かったようだ。最も、この事態を計算に入れている可能性はあるし、青の独断に見せているだけかもしれない。それぐらい食えぬ王なのは確かである。だからこそ生じる違和感。

「独断を許すほど王は甘くなったのか?」

「今の青達は見境が無い。放置すれば均衡が崩れる」

ニュールの問いに返ってきた来た答えが何とでも取れるような…取れないような…微妙なものだった。
そして赤の将軍ディアスティスが、今までの雰囲気と一転した様な恥じらい躊躇うような雰囲気となり、頬を染め目を潤ませ告白するように自分事を呟く。

「それに…私が…お前と…心ゆく迄…手合わせしたかった…」

思わずニュールは鬱陶しさに目線逸らし遠い目になる。

この赤の将軍ディアスティスと言う人は本物の戦闘狂だった。
既に出来上がってしまっているようで、目の色が燃える様な色合いに変化し半分正気を失ったようなヨダレタラシ身悶えするような状態…かなり心の境界線を越えてしまっている感じでニュールの前に立っている。
その欲情しているような姿に騙され、違う手合わせ試みてどれだけの男たちの首がその場で文字通り飛んでいったことか…影であった時に同行し何度も遭遇した場面である。
正しい手合わせに及んだ者たちの姿も何度か見ているが、暫くすると赤の将軍が興ざめ…と言った表情になり落胆する。そして期待とかけ離れた相手程、一方的に惨く手酷く殺られていく結末が待っていた。
未だそのお眼鏡に叶ったものを見たことがない。

どちらにしても回避する手立てはなさそうである。
取り合えず受けて立つしかない。
人数は丁度良く誰がどの者を相手にするか…ニュールは面倒なので考えるのをやめた。

『自己責任だ…』

同意してニュールに付いてきた者達であり心配する謂れはない。
纏わりついてたモーイに離れる事及び、自己防衛を指示する。
ピオは《一》とミーティは《二》と対峙する。
ニュールは勿論、赤の将軍ディアスティスと…。

ディアスティスが今の地位に居るのは由緒正しき家柄以上に実力伴う剣技や魔力体術、そして魔力扱うに相応しき紅玉魔石を内包し隠者にもなれる魔力操作技術を持つ故である。影を統べる任に就いているのも、その実力が大半の影の者を凌駕するからであった。

ディアスティスが好むのは魔力纏いし剣戟。
のっけからネジが飛んだ興奮状態だったディアスティスは、最初の一撃から衝撃波生み出す程の魔力込め切りつけてくる。

「ここまでの力で攻撃されると、こちらも反撃せざるを得ないのだが…」

「望むところ!!」

どんどんディアスティスが一撃に込める魔力量を肥大させ、攻撃が生み出す熱量が増す。

「こんなに楽しい気分になれたのは王と手合わせして以来だぞ」

どうやら赤の将軍は王にも手合わせを願い出て叶っているようだった。
だが、興ざめ…飽きてきたのはニュールの方だった。

「面白い…と言う程ではないし、これ以上は害しかない…」

このまま熱気高まれば、王都へも衝撃波届き災害の様な状態となるだろう。
決断下された時、至近距離まで詰めたニュールがディアスティスを後ろ手に拘束し組み敷く。
拘束に抗い魔力導き出し興奮の坩堝に陥ったようなディアスティスに、横から最後の衝撃的一手として口付けて魔力を抜き取る。昂る魔力は鎮まりつつあるが、昂ぶる思いが生み出されていく様子が明瞭に示された。

「完敗だ…今のお前は…私が従える者ではなく…私が従うべき者だ…」

抗うための力を手放したディアスティスの目に違う興奮の煌めきが宿り、ニュールを捉えていた。
戦い収束したと判断したモーイも其処へ辿り着き、ニュールの両腕には違う色合いの花々が咲く。

『うわっ、此のオヤジ今度は豪奢で妖艶な美女まで手に入れちゃってるぞ!』

ミーティは《ニ》の相手をしながら横目で観察する余裕があった。
《二》はニュールがタラッサ…レグルスリヤの水の塔から出てきた時に攻撃仕掛けてきた者だった。ニュールから気持ち悪い認定を受けた、隠者上がりの影。
影と言う組織には珍しく、実力外の要因で特殊数受けた者である。
決して実力が無いわけでは無かったが、《10》~《20》ぐらいに入れたとしても特殊数背負うほどの実力では無かった。
そして以前のミーティなら、その実力でも確実に首を刈り落とされていたであろう。

だが最近のミーティは死線さまよう事、数回。
何回かニュールの魔物の力での復活…と言う洗礼を受けていた。未知の魔力効果含むその再生は確実にミーティの何かを変えていた。

そしてミーティは樹海の集落の語り部の長であり祖母であるアクテから、一部とは言え記憶の継承も受けていた。
記憶の継承は、彼方を利用して人の力で導き至るモノである。
そして彼方を利用するために、回路を賢者以上に開き強化した大賢者に近づいた者のみが記憶を受け継げるのであった。
つまりミーティは知らぬ内に変化されられ強化されていたのだが、そんな状況知るはずもなく偶々弱い奴に当たったぐらいに思っていた。

影の《二》へ最初持った印象は、手合わせする前から話の長い奴…だった。

「貴方如きの若輩者の相手をするのは不服ですが、思い上がった若者に勉強させてあげるのは先に立つ者の役目でしょう」

「…」

熱さと鬱陶しさに絶句するミーティ。

「さぁ、遠慮せずかかってきなさい! 私が貴方に胸を貸してあげましょう」

そう言うので最初から全力出して向かおうとしたら、余所見を出来るぐらいの相手だった。

『こいつ隠者Ⅸを名乗っていた時のピオぐらい煩い…』

そんなことを考えていたら戦っている相手では無い場所から明らかに狙ったような攻撃が飛んできて、防御結界突き破りそうになる。

「余計な上に失礼な事を考えてそうな顔をしてたので、目を覚まして差し上げました。下種な手を使うのが好きな方なので一応、気を抜かないで下さいね」

ピオからの手痛い贈り物だった。
対峙している敵以上に容赦無い攻撃に実際に目を覚まさせられ、戦いを終結へ導く気になった。
指摘されたような卑しい、騙し打つ気満々な手を何度か見せられウンザリして、もうイイです…と言う気分にもなっていた。

余裕でミーティの戦いに干渉してきたピオも最初からしっかり戦っているように見えた。だが暫し後、大きく溜息をつき述べる。

「はぁ…以前の《一》とは手合わせしたいと思いましたが、貴方とはあまりそう言う気が起きません」

「お前の様なものでも殊勝な事を言うのだな、手を引くのなら楽に殺してやるぞ」

「間違った意味に捉えられているようですので訂正しますが…」

そう言い戦いの水準を切り替え、敵として立つ《一》へ、するりと近づき耳元で囁く。

「お話にならないんです…」

瞬間、結界打ち破る魔力纏いし剣が深々と肩から《一》を刺し貫いていた。
ミーティも、多少遅れたとはいえ《二》に止めを刺す。速さだけとってもミーティは《二》を凌駕していた。

「鼠君から、ここまで成長するとは見事ですね…」

そう言いながらミーティの横を涼しい顔をしてすり抜ける…だがすり抜けざま呟くように言葉を付け足す。

「貴方とは何時か死合いたいと思いますよ」

『全身全霊を掛けてお断りします!』

ミーティは心の中で即答して叫ぶのであった。



ヴェステに獲られたプラーデラのモノであった賢者の塔…と言われている遺跡を、遠方から定期的に偵察する者達。
その半壊している様な賢者の塔らしき建物に堅牢な防御壁を築き、更に防御結界まで念入りに何ヵ所も立ち上げて絶対に手放さないと言う意思を示しているヴェステ王国軍。

「どれ程の魔石を費やし此の塔を守るのか!」

「やはり早々に切り捨てたのは…」

「魔力などと不安定なモノに頼る世界を維持するのが間違いなのだ。我が国の方針は間違ってない! 我が王の判断は懸命ぞ!」

プラーデラの者であろう観察者は心に引っ掛かりを持ちつつも言い切る。

最近の王の行状が怪しく、各所よりご病気の疑いを掛けられている。
エリミアの第六王女と名乗る者が天空の天輝石を見に来た…そして王女に与え契約したと言う。
其処から王の狂気が満ち初めた。
王妃に立てる者は他国の継承権持つ王族と古よりの定…とは言え国力が落ち迎えること叶わなかった所に現れた僥倖だった。そう思っていたがその後の王の奇行を見ると魔物に憑かれたのではないかと思われた。
日に日に心の影濃くなり、夜な夜な瞳の奥に暗い愉悦灯らせ独り闇に落ちている。
お心休まるならば…と王の寝所に送り込んだ娘たちは、見るも無惨な様で生命活動に終止符打たれ返却される。
既に気狂い…の病…と言われても仕方のない有り様だった。
それでも此の王が描く未来に、自国の永遠に先へ続いていく未来が見えた者達は諦める気は無かった。

「早く王が求める姫を与えねば、王のお心が潰れてしまわれる…依頼の報酬を上げてでも手に入れよ…何処の国よりも早く」

大臣達が手を尽くす。
そして王の興味を引く話題を探し、興味を持つものから意識引き戻し正気への切っ掛けを探る。

「最近ヴェステの王宮に血の惨劇起こせし魔物の王が現れたという噂があります」

今一つ興味は湧かないようである。

「ただ、その魔物の王と呼ばれた者の風貌が、かつて影をやっていた者の姿であったと…」

少しだけ興味引かれた様に問う。

「その者はかつて特殊数背負いし者で《三》であった者だと…」

王の目に怪しい光浮かび、反応する事の無かった王からの質問が返る。

「その者は一体何処へ…」

「ヴェステの塔へ赴き、その後はプラーデラが所持していた塔へ向かうのでは無いかと言われてます」

それは王が、今の体制築くには無価値と判断し放棄したに近しき賢者の塔と思われる遺跡。

「そうか…プラーデラへ赴いて下さると言うのか。そうならば、ソレを取り返すのも一興…それで巡り会えよう」

怪しげな光とは言え目に輝き戻り、死の淵から這い上がったかのように活動を始める王。
その姿を確認し、最後の機会であるかのように王の言葉に従うべく国として動き始めるのであった。
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