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第五章 ヴェステ王国編

12.動く状況

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タラッサ連合国所属、タラソ王国。
前宗主国であり王都が港に面し、連合国内随一の巨大な港を持つ港湾都市として栄える王都エイデス。
プラーデラとヴェステに面し陸路海路ともに流通の拠点となる要素持つ国である。
2期程連続で宗主国を務めたため連合憲章条約に従い3期目は選から外されたが、今回その座を譲ったコンキーヤ王国と比べても実質の国家機能としてはタラソ王国の方が上であった。
その分、今回の宗主国決めに異議申し立てる者も多かった。

「なぜタラソが宗主国を明け渡さねばならぬのか」

「あのような田舎に宗都が移っても連合国としての体裁が取れまい」

「最大の商業取引国がヴェステであるのに、あのような場所から如何にして渡り合うのか」

各所からの不満の声が尽きなかった。

「そもそも何故、タラッサ連合国にタラソ王国が入らねばならないのか」

そこから納得してない者も存在した。
タラサ王国の中枢に行けば行く程その考えを持つ者が多く、国を揺るがしかねない状態だった。

そこまで優位ならば抜けてしまえば良いと思う者も多い。
何が抜けるのに問題か…。
それは、神殿…賢者の塔が管理する水と一部地域の気温気象管理機構の維持。
各都市の神殿が末端管理し、レグルスリヤ王国の水の塔により中枢は集中管理しているのだ。ソレを失う覚悟をし対処すれば容易に願い叶うであろう。
だが、甘やかされた環境に馴染んだ者は容易にはその環境を捨てる事は出来ない。

ならばどうすべきか…。

「国として成り立つ其々の国家中枢を奪い、連合国をタラサ王国にしてしまえば良いのです」

爆弾発言をしたのは、ヴェステ王国国務局参事ベサルータであり特務大使として赴き偶々参加した会議での事だった。タラサ王国の重鎮集う中、事も無げに少しだけ意見を述べたまでである。

「まぁ、此は我が君が言いそうな事…として参考までに述べただけですからお許しください」

お許しください程度で許されるのは、ヴェステ高官と言う肩書きがタラサの大臣達よりは立場的に強いこと、そして…その意見は…そこにいる重鎮全てが思い描いた内容であったからだ。

「我が国としても望む所でありますから協力できる部分は協力させて頂きます」

恭しく礼をし退室した。

「この前のインゼルの…クシロスの方より容易い感じですね。順調に事は運びそうなので後の処理はお願い致します」

独り言のように小さく呟き伝えた先は闇に潜む影だった。

「どこもかしこも欲張りな方が多いのですね…まぁ私はお仕事に忠実な奴隷のような者ですから全く関係ありませんがね」

何の感慨もなくまた一件処理が完了するのだった。



時の巫女が部屋から立ち去った後、サルトゥス王宮で特に邪魔が入ることも無く4人は過ごしていた。

キミアとアルバシェルが其々に結界築き上げた空間は途轍もなく安全な空間だ。
初対面の挨拶交わし、其々が結界築き上げる。
最初は其々の結界が干渉しまくり干渉過多による空間の不安定さが生じ、参事になる…のではないかとフレイリアルとタリクはヒヤヒヤしながら見守った。
何とか無事折り合いをつけ安定し、お茶を頂きながら次へ進む道を検討していたが…別な意味で異様に此の空間の空気が重く不安定だ。
タリクだけが着々と業務をこなし、楚々たる風情でアルバシェルの背後に控える。
本物の侍女顔負けの完璧さだ。

「ニュールにも頼まれているし、僕が付いて行くよ。君は国の為に残る方が良い」

キミアが最初からアルバシェルへ、戦線布告の様に自身がフレイリアルの共をすることを主張する。

「私は国からいずれ離れる身、貴殿ほど重き身ではない故、私が行こう」

アルバシェルもキミアが何者か明確に理解し、自身の緩い立場を主張し我こそは…と名乗り出る。だが、キミアも再度押してくる。

「君の国は今、大事変の真っただ中。この様な窮地に陥る祖国を見捨てられる様な情の無い人間がフレイの傍に居るわけがない」

「姉が…時の巫女が言ったように、もうこの国にこれ以上の変化の兆しは無い。それなら私が共に進むべきだ」

結局、大人げなく此の者達が主張しているのは、どちらがフレイリアルと一緒にいるか…だったが、全く折り合いが付かなかった。

「えっ、いいよ2人とも。私は一人でエリミアに行くよ。1度往復している道だし、大丈夫だよ」

フレイリアル的には、こんな状況ではあるが憧れの1人旅…自由に魔石を辿りながらエリミアに向かう機会。この最高の境遇を手に入れる事を期待し、夢見ていた。
タリクは一人この小さな愚かしき競争を、シラッとした目で静観していた。

その時扉が叩かれる音がする。

「アルバシェル様、よろしいでしょうか? タラッサで内紛が起こったと報告が入りました。時の巫女リオラリオ様から皇太子さまの支援に議場へ赴くようにとご指示がありましたので、宜しくお願い致します」

その連絡事項に皆が沈黙する。
そしてキミアが俯き述べる。

「僕も戻らなければいけないようだ…コンキーヤの王宮と賢者の塔がタラサに攻められている…」

そして立ち上がり、フレイリアルに向き合う。
今までに無いぐらいの真剣さだった。

「僕はフレイに一緒に居て欲しいと思っている。今迄みたいに面白いからとか…暇つぶしになる…とかじゃなくて…いつか塔から出られなくなるかもしれないけど…フレイに…一生一緒にいて欲しい」

自身の先々の境遇まで見据え、受け入れている深く重い言葉だった。
その苦し気な独白の様な告白をすると、淡く…本当のキミアが優しく苦し気に微笑み一言残し転移して去っていった。

「また会いに行くから…少しで良いから僕のこと考えてみてね」

そしてアルバシェルも支度整え、急遽起こった事への対応で呼び出され議場へ赴く。その前にフレイリアルの所へ向かう。
そして何も言わず抱きしめる。
変わらぬアルバシェルの行動に何だか笑みが漏れるフレイリアル。

「アルバシェルさんは変わらないね…」

「あぁ、変わらない自分を取り戻させてくれたのはフレイだよ」

見上げると其処には真っ青な晴れ渡り広がる空の瞳をフレイだけに向け、優しく大切に包むように微笑むアルバシェルがいた。

「多分、待っていて…と言っても行くよね…」

既に行動読まれているようであった。だが大きく楽しそうに笑いアルバシェルは宣言する。

「前を向き進んでいても、立ち止まっていても、後ろを向いていても…何処にいて何を思っていても、見つけ出して横に行き共に進むよ」

本当にフレイリアルを思い前向きに進めるよう支えながら、背中を押してくれるような温かさを感じた。
そしてアルバシェルは色々とタリクに指示した後、部屋を出て議場へ向かう。



キミアと共に王宮に忍び込んだ翌日夕には、アルドからムルタシア樹海渓谷を渡りテレノに抜け既に境界壁を越え樹海に入っていた。
マントから顔を出し大叉角羚羊プロングホーンに乗るタリクは無表情である。

またしてもフレイリアルのお供を言付かってしまったタリクは不機嫌の極みであり今回も納得がいかない様子だった。
そもそもタリクを嵌めたキリティアスが御咎めなしでアルバシェルの側近として引き続きその職に残ったことが納得いかなかった。そして、タリクが文句の一言を言う間もなく出発となったのも納得のいかない一因であった。

その不機嫌のとばっちり…かと思うような八つ当たり的管理をフレイリアルは受ける事になる。
重厚感溢れる雰囲気でフレイリアルはタリクに詰問される。

「最近、訓練的な事はされましたか?」

「色々あったからやってないかな…実践が訓練…みたいな??」

軽くごまかし笑いをしながら話題を変えようと思うが、空気が重くて考えが空回り思い浮かばない。

「リオラリオ様がおっしゃっていたように貴女に巫女としての能力あるのなら、早急に鍛えるべきです」

タリクの言葉に、フレイは思わず冷や汗が出てくる。

「…と言われても何をして良いのか…」

大魔物に睨まれた小魔物…と言った感じでそれ以上の言葉も動きも何も出せなかった。

「では道すがら、鍛えさせていただきます」

一応人目を避けての移動のため、アルバシェルが使っていたドリズルの家までは野宿のみで行く予定であった。
おかげで訓練の時間がたっぷり取れそうだ。
翌日から休憩や野宿をする時などの余り時間に訓練が加わった。この修行…一番フレイリアルの苦手とするようなモノであった。

「空間系の陣を使うにしても魔力導くにしても空間把握能力が必要です。感覚的なものでなく、もっと細密な…詳細を把握する努力をして下さい」

そう言って、集中力…と忍耐力? を付けさせられた。
天輝降りやすい、魔石豊富な河原で早めに野宿した時も修行は行われた。

『これは意地悪かもしれない!!』

そう思い唇噛みしめフレイリアルは恨めしそうにタリクを見る。
その訓練は、河原でタリクが石拾いしている中フレイが瞑想するものだった。ムズムズと体動き、薄目を開けタリクが魔石探し出す姿を確認し、思わず叫びそうになるフレイリアル。

『私も魔石を探したい!!!!』

その心の声…と言うか、行動にありありと出ている気持ちを読み取りタリクは言う。

「集中が出来るようならないと、魔石拾いの時間はお預けです。早くしないと此処にある魔石を全て拾ってしまいますよ~」

フレイリアルの我慢の限界を超えそうだった。
無理やり目を瞑って、魔石を思い昂る気持ちを抑えようとするが抑えきれない。
だが、その気持ちが魔石と繋がる。河原にある全ての魔石の所在が刹那で把握出来た。
無数に輝く天輝降り立ての魔石のように、目を瞑る視界の中に一面に魔石煌めき広がる世界が出来上がっていた。
そして滅多に見ない…フレイリアルも聞いたことだけはあった藍方魔石と思われるモノが、見つけて欲しいと言わんばかりに主張しているのを感じた。
感じ取る其れは、晴れ渡り抜けるような空の青…。

『アルバシェルさんの瞳の色だ』

そう思った時には、その魔石が掌の上に存在した。

「???」

タリクがいつの間にか横に来ていた。

「ちゃんと集中出来ましたね。一応、時の巫女からあなたの特性…空…について聞いてきました」

訓練を終わらせ、少し魔石拾いもさせてもらい落着き夕食を摂る時間、周囲に様々な結界張り巡らせタリクは巫女から聞いてきてくれた事を語る。

時の巫女が時を統べるように、空の巫女は空間統べる能力持つものである。
時の巫女は過去と現在、未来の事象を追う能力を持つ。但し、未来は現在の干渉で変動するため選択肢を読み模索し把握するようだ。
空の巫女は空間把握し、存在するモノ全てを掌握する。自他共に空間の移動はもちろん消滅、創造も可能であるとの事だった。

「多分、一歩進めば貴女は全て把握出来ますね…頑張りました」

ニュールの様に頭にポスッと手を置き、髪を撫でてくれるタリクの行動が嬉しかった。

「ありがとう」

フレイリアルは満面の笑みをタリクに向け、礼を言う。
そして珍しく柔らかに対応してくれるタリクとの野宿は、ニュールと旅していた時を思い出させフレイリアルを寛がせる。そのままタリクを枕にして休むぐらい警戒心皆無だった。

「本当に迂闊で愚かですね…私が囚われている巫女の繋がりを忘れないで欲しいのですが…本当に…愛しくて困ります」

休んでいるフレイの唇に軽く口付け優しく抱きしめるのであった。
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