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第五章 ヴェステ王国編

6.動く予感

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目が覚めるとそこには、何かを思うような優しく気遣う瞳があった。
意識戻る気配に気づくとゆっくりと離れていく。

離れていくその感覚が名残惜しい…深く蕩けるような口付けを捧げられミーティは夢見心地だった。
そして声を掛けられる。

「おいっ、大丈夫か!」

「…ニュール…」

「もし初めてだったらスマンナ…まぁ、そう気にする程の事でもないか」

「おっオレ、ニュールに??」

自分の居た場所か布団の上で全裸であることに気づくミーティ。

思わず真っ赤になり口を押さえると甦る心地よさの記憶。

『オレ、ニュールと何処まで何したの???』

「おいっ、大丈夫か? 寝たら脳みそ溶けちまったか?」

言葉は強いが心配そうに見つめるニュール。

『あぁ、ニュールなら…』

ミーティが意味深に見つめる。
何かを理解したニュールがその考えを一刀両断する。

「断じて何も遣っとらん。いやっ、必要に迫られ口付けはしたが、それ以上は何一つ遣っとらん」

誤解は解いたが、今のニュールにとってそれ以上の否定や言い訳は不要で面倒であると感じた。

「お前を回復させるためだ、それ以上が欲しかろうが今は気分じゃない」

そもそも、性別を同じとすることに何時ものニュールなら拒否反応示すのに反応が薄い。

『何かいつものニュールと違う…』

ミーティの直観が色々な意味で警鐘を鳴らす。
雰囲気ひとつ取っても思わず足元に跪きたくなる様な…おもねたくなるような空気感…風格…とでも言うようなモノを漂わせているニュール。
まるで生物としての強者に対している気分にさせる。

「ニュール何か変わった…か?」

その問いにニュールは一応軽く説明をする。
ミーティやモーイを回復させる為に、ニュールは自身の大賢者の持つ記憶の記録…それが纏められた情報礎石から手立てを探した。
自身の中にあった魔物の持つ情報を理解するためには魔物魔石が持つ意思の受け入れが必要であり…隔離してあったインゼルの時に表層に居たモノと融合した…と。

『ニュールがオレ達の為にあの魔物の王の様なモノと一緒になった…』

ニュールにとってそれは納得して覚悟した受け入れであったため、反発すること無く融合は完了した。

「いいや、中身も外見も一緒さ。今の所は良い感じに混ざって自由な気分になったぐらいだ」

そう言って軽く笑む。
見た目は変わらないのに、その姿はミーティの心をザワつかせると同時に、芯から溶かしそうになる。

『オレが変なのか?! 無意識に感じる威圧感でおかしくなってる? それともニュールに身も心も魅了されちゃってるのか? いやっ、女の子の方が好きなはず…』

だけどニュールを見ているとミーティの本能が、跪き従うように指示してくる。
そんな余計な事に捕らわれている中、ふと思い出し気付く。

「オレ…拘束されて…そのまま魔力を受けて…防ぎきれなくて怪我して…死にそうに…」

足元から登り来る膨大な魔力の感覚を思い出す。
鮮烈な魔力は鋭利な刃物の様に内に染み込み、内側から硝子の破片飛び散るようにバラまかれミーティの四肢を内から切り裂き激烈な痛みとその後に無我の境地の様なモノが訪れ意識を失ったのを覚えている。

そして、その眼前に…モーイに魔石付けたまま飛沫をあげながら表裏ひっくり返ったのではないかと思える肉片の塊2つが沼のような赤い海で溺れている景色が出来上がっていく様と、モーイの表情なき表情を…思い出した。


モーイとミーティは神殿から転移陣で王宮に運ばれた後、隠者Ⅸに受けた傷を治療された。
まるで王侯貴族が使うような魔石部屋に入れられた。
本物の魔力活性集約点ホットスポットに築かれたソレは街中に作られたものとは違い確実に傷を癒すのが分かった。

「スゲーな、街のとは違う」

「あぁ、樹海の集落のに似てる…」

ミーティの母の出身である樹海の集落にもあり、やんちゃなミーティは母イラダに抱えられ行くことがあった。鉱山にあるのとは段違いの治癒力持つその場所へとわざわざ赴く様な怪我を良く負ったからだ。
魔力活性集約点は街でも村でもどこにでもあり、簡素なモノだと選ばれた場所に魔石1つ配してあるだけだった。
大概の怪我や病はそれで修復改善され治癒する。
体調整える薬や技術が無いわけでは無いが、手っ取り早く確実な集約点での治療が優先された。
ただ1つ、この場所は力残すものには優しいが尽きる者には残酷に最期を告げる場所である。助かる見込みの薄い大病や大怪我の場合、死期を早めてしまう事が多い。
だが人々は自然の摂理とそれを受け入れていた。

神殿での怪我は2つ時程で完治した。普通に様子みていたなら3の日は絶対安静であったろう怪我だった。
通常より早く完治した事と、賓客対応である緩い警戒。

「やっぱり実行して良いって事だよな」

モーイもミーティも其々で決行する。
以前から旅の仲間で決めていた。

「もし捕縛されても逃げる機会出来たなら各々で実行、仲間を気にするのは逃亡成功してから」

単独行動多い者達でありその方が機会も多かった。
今回もそのつもりだったが、結局示し合わせたかのような同時決行となり連携して逃げる。
しかし王宮は広く迷路のようであった。
脱出が容易ではない事を覚悟していたが、隠者Ⅸに再度捕まえられてしまった。

「そんなに僕に会いたかったのかな~」
 
目線逸らす2人。
手合わせの様に遊ばれ同じことを繰り返す事3回。

「あのさ~僕も一応仕事もあるし、彼女との食事の予定だってあるんだから邪魔しないでよね。君らが僕の恋人役やってくれるんなら考えるけどさ~」

2人して本気で首振り、拒否する。
それでも結局あと、3回ほど逃亡企て…正門砦・青頭の地下3階へ行く事になった。

地下3階での魔力が溢れかえる事になったその時、ミーティはモーイからの目配せで何かが来るのは理解し受け止める覚悟もした。
だが、そんな甘い魔力の導出では無かった。
モーイが導き出した魔力が床を這い足下から伝わり来るとき、自身の体内魔石から必死に魔力導き防御結界を張る。這い上がってくる魔力は、ミーティの築いた結界をあっけなく破壊して内部から切り裂いていく…痛みを超えた衝撃と共に四肢の内が破壊されて行く感触を味わう。
最後の瞬間、力振り絞りもう一度だけ防御結界築き…意識が消えた。
その未だ震えが起きそうな生々しい苦痛が夢だったかの様に、体に残る痕跡は皆無であり今は普通に起き上がっている。

「なんでオレ、手足大丈夫なんだ?」

確実に手足の内側…筋や骨がぐちゃぐちゃになる様な感覚と激痛を覚えているミーティは魔物に化かされているような気分だった。

「だから、オレの血を飲ませた…」

ニュールの説明によると魔物魔石が持つ情報から高位の魔物魔石持つ魔物の血肉から、普遍万能魔力薬と言われる第六精髄セスタ・エッセンチア…と言うモノが作られると言う。
遥か昔の記録だったが確認できたため、精製はできないが試してみたそうだ。
それぐらいミーティの状況が切羽詰まったものであった…と言うことだった。
効果は敏速に表れたが、今後どのような影響出るかは分からない…と言われた。

「ニュール…ごめん…ありがとう」

ニュールが必死に自身の中の魔物の意思を封じるために足掻いていたのを知っているだけに、適切な思いをミーティは言葉にすることが出来なかった。

「オレが望んで至った状態だ。気にするな」

何の気負いもなく心から思っているのが分かったのが救いではあるが…ふと考えが過る。

『今のニュールは…どの…ニュールなのだろうか…』

だが、それを深く考えるより先に気になることがあった。

「モーイは?」

その質問にニュールは無言で立ち上がる。今居る部屋の続き部屋と思われる方へ向かい扉を開ける。
待っていると元気そうにモーイがニュールの所へ来て立つ。

「無事だったんだ…良かった」

だが、その言葉への返事は無かった。
モーイが青い硝子玉の瞳をミーティの方へ向ける…そして疑問に答えたのはニュールだった。

「今は人形だ」

「!!!…何故!」

責める気持ちは無いのに、責める口調で問いを発してしまうミーティ。

「回路が切断寸前だったので此方に繋ぎ直した」

淡々と答えるニュール…そこにある感情が全く読み取れなかった。
そして無表情に…冷淡と思えるぐらいに次の言葉をミーティへ向ける。

「お前は森へ帰れ…送る」

今までのニュールと違った。
その言葉にはミーティに対しての関心が薄れつつあるのが見て取れた。

「此れから先、お前じゃ役に立たん。足手まといだ」

そのままの事実をぶつけられる。
思わずミーティは質問してしまう。

「ニュールは本当にニュール…なのか?」
     
「そうだな…今までの…もう一つ意思を中へ押し留めし頃とは違う。自由になった分は苛烈で冷酷になったように見えるだろうが、今までの気持ちが全く無いわけでもない…少し気持ちに距離が開く感じはあるが、お前らのことは大切だと理解できる…」

そのままの心の中を語ること自体が今までのニュールでは無かった。

「だから、お前が助かった今、そのまま無事でいて欲しいとは思う」

そのまま真っ直ぐミーティを見たまま続ける。

「それと同時に役立つもの以外は、周りに置いておくのが危険な場所であると言う判断は変えられない。これ以上同行するなら自分の身は自分で守れ。オレは関知しない…」

この言葉通り、ニュールが今後のミーティの生き死にへ手を貸すことがないだろう…というのが分かった。

「モーイは?」

ミーティがモーイの事を尋ねる。

「モーイの繋がりはオレに依存している。そして魔物の情報礎石から導き出した方法で彼方との繋がりも維持している。万に一つの可能性ではあるが、繋がり回復すれば元に戻る可能性もある…だから離れて管理出来ない」

「!!」

人間社会に存在した知識以外の知識が、自然と繋がり深い魔物の記憶の記録には刻まれているようであった。

「それでも…ニュールの近くにいるよ…何かの影響なのか奥底からの離れがたさを感じるんだ…離れてはいけない気がする」

「自身の覚悟で行う選択ならオレは止めない」

淡々と処理し、次の行動に移る。

「オレは契約の変更を申し出に王の元へ赴く」
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