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第四章 タラッサ連合国編

28.思う間もなく

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「此処が丁度、透の間から…お爺ちゃんから50メルかな」

フレイに探索魔力で確認してもらった場所はとても不安定な場所だった。
キミアから言われた大賢者様から50メル離れた場所がそこだった…海底から入って直ぐの広間、その天井から釣り下がる灯りの上に2人して乗っている。

「途轍もなく限定的な場所だな…」

キミアが普段どんな出入りをしていたのか想像すると、ニュールは少し笑えるものがあると思った。
大賢者を引き継いだにも関わらず賢者達に密かに疎まれ、それを感じつつも先代様を助ける為に塔への来訪を続ける…十分に思いある行動だとニュールは感じた。


透の間で話をしていた時、途中から大賢者エレフセリエの意識が時々遠くなり始める。

「おい、爺さん大丈夫か?」

「そろそろ時が巡って来たようじゃな、今回は少し短い。すまんな…十分とは言えない情報しか分け与えることが出来なくて…」

「いや、色々教えてもらえて感謝している」

ニュールの謝辞に力無く微笑むエレフセリエ。
そして一瞬ビクリと身体震わせ、その後ゆっくりと新たなる言葉を紡ぐ。

「最後に、あと1つ…今、新しい情報が入ったので…伝えておく」

口開く表情が、真剣で苦しそうなものに変わる。
尋常でない雰囲気を感じ、ニュールとフレイが居住まいを正す。

「サルトゥスの王位が皇太子によって簒奪された…」

「皇太子に?」

フレイはそれが何故問題なのか一瞬理解出来なかった。

「…皇太子は人形になっちまったから、皇太子位を廃す予定だったんだよ…」

ニュールはアルバシェルとモーイから、サルトゥスでニュールが略取された後の話を聞いていた。アルバシェルからは皇太子とその周りが人形にになったその後の話も…。

「サルトゥス…皇太子…人形…」

フレイの顔が青ざめていく。
サルトゥスの夜に起こった事を思い出す。

「…私が皇太子を人形にした…の?…」

茫然とした表情で呟き…真実に自ら辿り着く。
誰かを人形にした事は、フレイもインゼルで捕まった時に聞かされ…精神的な衝撃を受けた。そしてフレイ自身が無気力な…操られるがままの人形のような状態になってしまった…のだとニュールは聞いていた。
だが、未だ誰を人形に導いたのかをフレイは聞いていなかったのだ…。

「…厳密にはお前が呼び込んだ大魔力で魔力暴走を起こした所を、操る者に捕まえられた…と言った所だ」

ニュールは、なるべく衝撃の少ない表現を選ぶ。
だが、サルトゥスの皇太子を…アルバシェルの身内を…人形へと至らしめる切っ掛けを作った事実に変わりはなかった。
サルトゥスの夜、皇太子がアルバシェルへ抱いている憎悪を露わにする姿を目にしたとしても、知り合いの…親しき者の身内を死へ追いやるに等しき所業をフレイリアルは行ったのだ。
それを自覚すれば、受ける衝撃は計り知れないであろう。
フレイリアルの目が闇を彷徨う者となり輝きを失う。

「今思うべきは、終わった事に対してじゃない! 過去を見るんじゃなくて今起こっている現実を見ろ!」

「あっ…アルバシェルさんは!!」

ニュールの言葉に身近な者の安否を確認することを思い出す。
その叫びを受け、エレフセリエが答える。

「サルトゥスの大賢者の意識は…落とされ…内に潜っているようじゃ…な」

「「!!!」」

ニュールとフレイリアルはアルバシェルの予想外の状態を伝えられ言葉を失う。
そしてエレフセリエが他の国の情勢だけでなく他の大賢者の様子まで把握出来ることに…その広範囲な能力に少し驚くのだった。

「…深く…潜れば…大…賢者…の…全ての存在の根元…は…1つ。全て繋が…り、理解し…感じ取れ…る。其は無限……にも繋がり、理にも。知るだけ…な…ら…可能。深ければ…深いほ…ど…戻れなく…な…る。お前さ…助言…も、そこ……」

ニュールの驚きを受け説明してくれていたが、エレフセリエの頭が完全に下を向き、時間が来てしまった事を表していた。
奥から人形と思われる世話をする者が現れ、休ませるため動き始める。

ニュールとフレイはギリギリまで対応してくれたエレフセリエに敬いの礼を捧げる。
運ばれる中で聞こえるか聞こえないかの声でニュール達に大賢者エレフセリエが願う。

「キミ…アを…頼…む…関わっ…ているかも…しれない……それ…でも…」

ほぼ意識消える無表情な瞳から涙一筋ながれるのであった。
目にしたニュールとフレイは口を閉ざし見送り、その言葉を心に留めた。
だが、引っ掛かりを覚える。キミアが関わっている…とは、何に対して関わっているのか不明であり警戒するよりなかった。
そしてエレフセリエから聞いた最新情報にニュールとフレイは顔を見合わせ頷く。

「サルトゥスへ行かなくちゃ!」

「あぁ、行ってやらないとな」

ニュールにもフレイにもアルバシェルを放置する選択は無かった。



「ここなら転移陣を築いても歪まないってことだよな…」

揺れる釣り下がる型の灯りの上は落ち着かないが遣るしかない。
透の間よりこの広間に戻ってきた時、ニュールは塔の賢者を探し聞いてみた。

「この塔の出口は、海の中の扉しか無いのか?」

「潮引く時ならば上層に出口が出来上がります。但し、満ちる現在の時刻は全ての扉が閉じています。祭壇の魔力を導くことは、ここからでは出来ません」

あっさりと希望打ち砕く。そして追い打ちを掛ける。

「天井などに防御結界敷き破壊し脱出しようとするならば、排除設定が作動します。同様に外部の方が転移魔力などを展開されると魔力を感知し、やはり排除設定が働くと思われます」

待てば通常経路で出られるが、今現在は物理的に隔絶された状態と言うこと。
それでも刻々と過ぎる時を待てなかった。決行することに決めキミアの注意を思い出し、今の場所へ至る。

「さぁ、もう少し安全な場所に移動しよう」

そう言うと魔力が高まり、空に陣を築く。ニュールが更に転移用の魔力を込めると陣は2人を塔から飛ばす。魔力が青く輝き、来る時に案内人と出会った岩場への入り口付近へと飛ばし表出する。

転移完了すると供に、鋭い魔力攻撃が飛び来る。
安全な場所とはかけ離れた状態となっていた。
ニュールは一瞬で防御結界立ち上げ、探索魔法繰り広げる。
敵の数は思ったより少なかった。
だが、現れたのは最悪の襲撃者達であった。
ニュールが見掛けた事の無い者も含まれていたが、着ている装束や身に付けている武器が3人とも影であった。

「初めまして…かつて特殊数背負った古き人よ」

見掛けた事の無い男が恭しく礼をつくして話しかけてきた。だが、ちょっと失礼な挨拶だった。

『古き人…って、確かに影に所属したのは昔だ。だからと言って、そこに含まれる「コノオヤジが!」的な含みの蔑みが入ってるのを聞き逃さんぞ! オレは26…いやっもう27か…お前らとトントンだぞ』

そんなニュールの憤る思いにはおかまいなしに、手土産…とばかり魔力攻撃伴い襲いくる。
一応ニュールも、2人分の防御を完璧に仕上げ何時でも攻撃に移ることはできる。だが、あくまでも守りながらの戦い。分が悪い。

「ニュール、大丈夫だよ! この強さの攻撃なら私の結界でも耐えられる」

フレイが自信満々の笑みを浮かべ申し出る。

「大丈夫なのか???」

驚き訝しむニュールにフレイは更に笑みを深め答える。

「だって、インゼルで魔物なニュールの攻撃を受け止めていたのは私の結界だよ」

そう言ってニュールが展開した結界の周りを更に囲む様に結界で覆い、降り注ぎ続ける魔力攻撃を受け止めて見せた。

「そう言えばそうだったんだな…」

その時ニュールは表面から退いていたので、記憶としてその場面を引き出し確認する。確かにニュールの魔力をしっかりと受け止めるフレイと、其を使い巧みに攻撃を仕掛けてくるアルバシェルの姿が思い浮かんだ。

「じゃあ全方向で覆っとけ!」

「了解!」

任され嬉しそうに結界を張り、念のため結界陣まで作っている。
ある意味恐ろしく複雑で頑丈な…空間が壊れてもそこだけ別空間になるんじゃないか…と言う状態の結界施された領域が出来上がる。

「おいっ、ここまで強力な結界だとオレごと閉じ込められて出られんぞ!」

「ニュールは出入り自由だから大丈夫だよ」

恐ろしく強固な上に柔軟であるようだった。

大賢者エレフセリエの説明を受けていて自身の中に時々浮かび上がる補足のような知識があった。多分、自身の中の情報礎石から選び出されたモノであると言う認識だったので流していた知識。
その中に巫女…巫覡についての補足的情報もあった。

この世界のにあるのは2種類の扉となる者。
時と空間。
それぞれを統べる者であると言う情報だった。
ここに展開されている防御結界と陣を、空間を切り取り統べる魔力と考えるのなら、空間支配する巫女ならば最強であって当然であろう。

『時間があるなら相手の力尽きるのを此処で待ちたいぐらいだ…』

そう感じつつ時間が許さない事をニュールは知っていた。

「それじゃあ油断はするなよ!」

「ニュールこそね」

戦いの火蓋は切られた。
ニュールが結界外へ出た途端、強く穿つような攻撃が届く。その攻撃は従来の影が操りだ出す撃魔力の3割増しの威力だった。
影の新《三》が言ってた様に魔物魔石の魔力増強効果を使っているようだった。

「私たちの、私…新生《二》が作り出す、古き時代とは違う美しくも強き力を目の当たりにして驚いているんじゃ無いですか?」

『またコイツ古き時代とか言ってるし…待てよ? コイツ本当に新《二》なのか』
ニュール眉間に皺が寄る。

「古き…を連呼しているが、お前がどれ程現状を理解しているのかお前の上司に確認したい所だ!」

そう言うと今までの動きを捨て去り一瞬だけ本気の動きを見せ新《二》と名乗る男の四肢を穿つ。ニュールしては珍しく、大地に色残すような遣り方だった。
絶妙に加減された魔力で撃ち抜かれた場所からは、その男が吐き出す言葉同様、無意味に派手な演出の様に足元を染める。
直ぐに死へは至らぬが、今後の活動は危ぶまれると言った傷だった…勿論放置すればその限りでは無い。

『こう言う気持ち悪い奴の内側には触りたくない…』

ニュールの嫌悪感から選択された物理的攻撃でもあった。
他の影たちも連携して攻撃していたがその惨状確認し回収し出直す事を選択したようだった。

その時、塔の方向から飛来物が到達し爆発する。
無差別に何発も…。

「魔力攻撃…塔の排除設定か!!」

まだ賢者の塔の支配領域であり、レグルスリヤ国外には至らない位置であるのを思い付く。
塔からの攻撃を受け、この場を立ち去ることを第一の選択をし行動しようとする。
すると、失血で意識飛ばしつつある男が高らかに笑い述べる。

「勝ったと馬鹿にするが良かろう、私は自らの策の為に足止めしたまで。お前は結局我が君の前に跪き願い乞うであろう。真に辛酸舐めし時を持つのはお前だ。神殿に辿り着き驚愕するが良い!!! アハハハハッ!」

高らかに笑い意識失う。

『我が君…って、気持ち悪いと思ったらコイツ隠者関係から来た奴だったのか…』

ニュールは何かに心酔し自身の良識を捨ててしまった者を嫌う。
一瞬寒い気分になるが余計な事は放置して前を向き検討する。

「フレイ、此処で対応したのは間違いだったかもしれない! 急いで戻るぞ」

フレイの防御結界に戻り転移陣の起点を作り出し移動する。
間に合う事を願って。
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