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第四章 タラッサ連合国編
25.気に掛け思う
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フレイとキミアが水の神殿に行ってから2の日と少し。
コンキーヤ王国の王都でありタラッサ連合国の首都にあたるカロッサに入ってから半日…意外と入ってからが長かった。
先に頼まれていた荷物を麓の街にある商会へ納品し高叉角羚羊も返し、徒歩で神殿に赴く。
水の神殿は王城と一緒の山の頂にある。
山と言っても木立ち並ぶ林が広がる中を傾斜ある1本道が続き、その先に海を見渡せる様な丘が広がる。そこに王城と共に神殿があるのだ。
まず街から神殿へ至るのに一苦労する。
街中もそうだったが、林の中にもどう見ても堅気じゃない諜報活動真っ最中の者達が多数潜伏する気配があり、こちらの存在を目立たせずに神殿まで入るのに骨を折る。
神殿に入った後も、一般の参拝する者に紛れて入り込むため周囲にいる神殿関係者は出仕か良くて禰宜だった。
状況理解しているような高位職の者は表には出ていないので、何人か捕まえて素性を伝え取り次いでもらおうとしても却下される。
フレイリアルの事を直接尋ねてみても、そのような方はいらっしゃいませんの一点張りだった。
結局、隠蔽の魔力を纏い密かに神殿の奥つ城…と思われる場所に入り込み、結界厳重に施された空間を探し強制的に侵入したら…居た。
結界内は環境整えられた緑豊かな快適空間だった。そこで目にしたのは、ベッタリとフレイリアルを抱え込んでくっつき座り、庭の様な場所にある四阿で寛ぐキミアの姿だった。
その姿はアルバシェルを彷彿とさせる。
遭遇したニュール達を確認すると、立ち上がり両手広げ微笑み朗らかに声を掛け迎えてくれるキミア。
「やぁ、待ってたよ。みんな無事に辿り着いたんだね」
「待っていると言うのなら、せめて入り口に申し送りぐらいしといてほしかったぞ」
ニュールは少しばかり不満を口にしてみた。
「フレイが面白いことして呼びよせちゃった者達が溢れててね、対応しきれなくなっちゃったんだよ~」
キミアの口調には保護者の教育が行き届いてないんじゃないのかな~的な含みが入っていた。
それを受けてニュールはフレイの方へ向き、冷静だが厳しめに声を掛ける。
「フレイ…何をしたんだ?」
キミアに抱え込まれてたフレイが、ニュールの声に怒気含むのを感じ取る。
気まずそうに視線逸らし、無意識なのだろうがキミアの後ろに若干移動する。
フレイの心の中は、後ろめたさで満たされている様だった。
一応、色々とやらかした事の重大さを理解しての行動であろう。
そんな様子を気にもせず、キミアはフレイの遣ってしまった罪状を並べたてる。
「ヴェステの王様の前で陣解除と魔力吸収と魔力変換と大魔力を示しちゃってくれたよ」
「!!!」
「だから、取り敢えず僕の婚約者にしておいたから」
「??!」
予想外の事態と現状に考えることを放棄したくなるニュール。
「何で色々とそんな事に…」
「ちょっと僕と言い合いをして、煽り煽られちゃった感じかなぁ~」
思いっきりキミアがごまかしに入った。
キミアの言動にも、やましさ山盛りなのがバレバレだ。
2の日チョイで此処までの状況変化…ニュールは気が遠くなりそうであった。
頭がこんがらがりそうな此方の状況は一先ず放置して、ここへ来た目的であるタラッサの大賢者様本人から話を聞く機会…とキミアに向き合うが素気無く断られる。
「あぁ、もうソコらへんの話はフレイにしたからフレイから聞いてよ」
手をひらひらと振りながら、如何にもうんざり…と言った仕草で答えるキミア。
「いやっ、それじゃ話聞けないのと一緒だから」
『ここまで来たことの意味が無くなる!!』
ニュールは危機を感じ食い下がる。
「確かにそれもそうか…」
キミア自身もニュールの言葉に少し納得した様子。
「そうだよ! キミアちゃんと話してよ」
そこで手助け…とばかりにフレイが加勢する。
「分かったよ。でも丁度、お爺が起きる時期だからそっちから聞いてよ…僕、何度も説明するのって好きじゃないんだ。ニュールも、その方が聞きやすいでしょ?」
フレイが加勢した甲斐があってか、ニュールの交渉は良い方へ進む。
だが、フレイは何か釈然としなかった。
ふと気付く。フレイ自身が散々、けなされ落とされていた事に…。
『私だってチャント説明できる様になったもん!』
頬膨らませ、心の中で叫ぶのであった。
フレイは説明できる…と心の中で叫びはしたが、今回の事態を引き起こしている行動への説明責任は果たしたく無かった。
確実に怒られ案件であったからだ。
だが、それが許されるはずもなかった。
「…で、どういうことなんだ?」
先代大賢者様との謁見の段取りをしてくれている間、キミアが皆が休めるようにと貴賓室を用意してくれたので場所を移動した。
そして、そこで尋問が始まったのだ。
フレイにとって頭上がらぬ二大巨頭…ニュールとモーイから問い質しを受ける。
「あの、キミアに覚悟をけなされて…ヴェステの王からの招待があるって言って…天空の天輝石があって…闇石の力が入ってて…不安定で…何か天輝石が怒ってて…一緒に怒ったら力を取り込んじゃって浄化して戻しちゃって…気付いたら陣の解除してて…色々な力が謁見の間でバレちゃった…」
テヘペロ的ごまかし笑いを浮かべながらフレイは目線を逸らす。
ニュールは怒る頭の片隅で、この内容で良くキミアは理解したもんだと関心する。
だが、すぐ思いつく。
キミアも数多くの人形を持っているであろうことを…そして其れを駆使し他国王宮内にも目を入れているであろうと…。
そして、同時に思い至る。
キミアにも無意識下集合記録が持つ人格が潜んでいる可能性ある…と言うことを頭の隅に置いておくべきである事を…。
モーイはこの迂闊で愚かな護衛対象者に怒り心頭である。
それでも頭ごなしに怒ってはいけないと思い、比較的最近酒場で聞いた怒りの制御法を再度ここでも試してみる。
『この前の酒場では効果が無かったが今度こそ有効かもしれない…』
深呼吸しながら六つ数える…怒りは納まる…わけが無かった。
モーイが説教の口火を切る。
「おいっ、何度目の注意だ?」
「はいっ、数えきれない数度目の注意です!」
背筋伸ばしシャキッと真剣に答えるフレイ。回答がふざけていても決して馬鹿にしているわけでも冗談を言っているのでもない。
『あぁ、気が抜ける…また、なし崩し的にお説教が封じられてしまう…』
だがモーイは既に脱力してしまった。
フレイの秘技…" お馬鹿な子 "…で相手の気力を挫く…高次元の精神攻撃の様な技だ。
身近な者には効果覿面だった
ニュールもモーイもフレイの様子を見て肩の力抜け切ってしまった。
モーイは諦め、フレイを優しく抱き締めて言う。
「心配させるな…」
フレイにはこの方が響いた。
「ごめんなさい」
短い言葉にそれぞれの思い籠っていた。十分な説教と反省になった様だ。
フレイの反省を見て取れたニュールも、もう通常運行に戻っていた。
「起こってしまった事は変えられない。だが、これからの事はある程度対処し制御することは可能だ。まずは先代大賢者様との謁見から先々の情報を得よう」
言葉で自身と皆に気合を入れなおした。
タリクは港湾都市ザルビネよりサルトゥスに戻り、着いたその足で転移の間から速攻でアルバシェルの部屋を目指す。
だが、部屋にも…執務室にも…ムルタシア神殿全ての場所にアルバシェルの姿は無かった。
最近は王宮でも仕事を受け持つことが多く、そちらに行っている可能性もあるが、普通とは何かが違う…と言う予感がする。
タリクは大殿司イレーディオの所へも挨拶に向かう。
此方は在室であり、執務室で執務中だった。
「大殿司イレーディオ様、執務中に失礼いたします。祭主アルバシェル様付き小殿司タリク、本日派遣先よりムルタシア闇神殿に戻りましたのでご挨拶に参りました」
部屋の扉を叩き、扉開き外から挨拶を述べ、恭しく礼をする。
執務机から顔を上げたイレーディオは、酷く疲れた表情でタリクを見ると一言告げる。
「入り、報告をせよ」
通常イレーディオは、タリクが派遣先から帰還後は挨拶のみで帰す。そして休んだ翌日に報告に来るよう指示されるのが常だったので違和感を覚える。
部屋に入り執務机の前に立ち礼をとる。
「無事の帰還、何よりだ」
タリクが無事に帰ったことを喜ぶ気持ちが大殿司の言葉と顔に滲み出ていた。
「予定より3の日程長い不在となり申し訳ありませんでした」
元々の予定が7の日程度だったので3の日増えた程度だった。
それでも真面目なタリクは予定の狂いに謝罪する。
いつもならその程度気にするな…と言ってイレーディオは笑うのだが今回は真面目な顔になり言う。
「その3の日…神殿に居て欲しかった」
予想外の言葉だった。
タリクは胸騒ぎがし、帰ってきてから気になっていたアルバシェルの所在をイレーディオに確認する。
「アルバシェル様は何処に居られますか?」
イレーディオの顔が曇り、苦し気に答える。
「アルバシエル様は王宮に居られる…皇太子に乞われてな…」
「何故に!!」
理解の出来ない言葉だった。
皇太子は人形化しているため結界の中に閉じ込められている状態であり、操るものとの接触なければ行動出来ないはずである。そして、アルバシェル自身と皇太子が接触するような機会もなかったはずである…とタリクは理解していた。
「リオラリオ様が動いた…」
「!!!」
「理由は分からない…」
沈痛な表情浮かべ、大殿司イレーディオが起こった事を語ってくれた。
3の日前、アルバシェルと共にイレーディオは王宮に陣で向かった。
神殿業務について王の前に揃って跪き報告する為に。
今までイレーディオは、職務をこなす能力があるのに責務から逃げるいい加減な振る舞いを続けるアルバシェルのことが許せなかった。
だが、ここ数の月のアルバシェルの態度は投げやりになることもなく、真面目に適切に的確に責務を果たしてく状態を続けている。
そこにはイレーディオが望む王族の姿を見ることが出来るようになっていた。
不真面目な態度に隠れていた本来のアルバシェルの姿をイレーディオも目にすることが出来、タリクが敬服し仕える理由も見えるようになる。
人を導き従えるに足る者であるとイレーディオにも納得はできた。
だからと言って、アルバシェルの軽やかさはやはりいい加減さに通じる気がして認めはするが "虫が好かない" …と言った存在だった。
なのでイレーディオのアルバシェルへのぶっきら棒さは変わらない。
「神殿の陣の運用もヴェステ方式にすると採算が合うのではないか?」
「初期投資に見合うものが得られるかが、まだ図りかねます。それよりも闇石の定期的な取り込みを行うほうが、警備予算の縮小などから経済的であると考えられます、負荷も少ないと思われますし…不測の事態も起きにくくなると思いますのでご検討お願い致します」
アルバシェルの提案に事務的に愛想の欠片も無く意見を返す。
「あぁ検討はするが、闇石の状態によって取り込み時期は変化するもの。一律に決めることは出来ない」
アルバシェルも透かさず反論する。
言葉で戦う関係だが、建設的に働くなら寧ろ良好な関係を築けている感じだった。
謁見後も帰途の転移陣へ向かう道すがら、報告内容の再検討について舌戦繰り広げる。
そこへ、時の巫女リオラリオが現れた。
イレーディオは跪き挨拶述べ、時の神殿での現在の陣運用に問題が無いかなどの確認を事務的に行った。
一通りの報告・確認が終わったとき、時の巫女がアルバシェルの前に進み出て肩に手を置く。
「あなた、少し疲れているわね…」
言葉に魔力が乗っている事はイレーディオにも感じ取れ…肩に触れている手にも魔力が高まるのが見えた。
そして、その魔力が決して癒す目的の魔力でないことがイレーディオにも分かる。
「巫女!!」
イレーディオが思わず声をかけた時、アルバシェルが膝を折り額に手を置く。
様子を確認するためアルバシェルに近寄ろうとすると、背後からその行動を制止する声が掛けられた。
「控えよ!」
そこに居たのは軟禁されているはずの皇太子と周囲に仕えてた者達だった。
イレーディオはその場で静止し、片膝付き頭垂れるより他無かった。
そして皇太子が述べる。
「祭主アルバシェルの身柄は王宮で預かる。是非、我が片腕として働いてもらいたいので養生してもらわなければな…」
イレーディオは引き下がり王宮から闇神殿に戻るしかなかった。
一連のイレーディオの話を聞き、王宮に不穏な影差している事をタリクは感じる。
「皇太子様は人形では…」
「人形の様には感じなかった…だが、決して元からの皇太子では無かった」
確かに以前より高慢な質ではあったが、年長者や神殿の者に対しての礼節は重んじてくれていた。
今の皇太子にはそう言った雰囲気は感じられないそうだ。
大殿司としてイレーディオは闇神殿より王宮に赴いたもの達より、内密に聞き取りを行った。
王宮の様子を確かめると聞こえてくる声がある。
皇太子は人間の目をしているが、その奥には人形特有の硝子目玉が存在し一層怪しく光る…と。そして、その皇太子が表に出てきたのは10の日前ほどからであり、導いたのが巫女である…と。
そして今や王宮を自由に動き回り、時の巫女と共にあると報告があった。
逆に、時の巫女の管理下でアルバシェルが療養…軟禁されていると…。
タリクはイレーディオの前を辞すと、即行動に移る。
『我が主を略取したというのなら、たとえ首謀者が時の巫女リオラリオ様であったとしても抗い奪還します』
何にも変えられぬ主を取り戻すためにタリクは暗躍する。
コンキーヤ王国の王都でありタラッサ連合国の首都にあたるカロッサに入ってから半日…意外と入ってからが長かった。
先に頼まれていた荷物を麓の街にある商会へ納品し高叉角羚羊も返し、徒歩で神殿に赴く。
水の神殿は王城と一緒の山の頂にある。
山と言っても木立ち並ぶ林が広がる中を傾斜ある1本道が続き、その先に海を見渡せる様な丘が広がる。そこに王城と共に神殿があるのだ。
まず街から神殿へ至るのに一苦労する。
街中もそうだったが、林の中にもどう見ても堅気じゃない諜報活動真っ最中の者達が多数潜伏する気配があり、こちらの存在を目立たせずに神殿まで入るのに骨を折る。
神殿に入った後も、一般の参拝する者に紛れて入り込むため周囲にいる神殿関係者は出仕か良くて禰宜だった。
状況理解しているような高位職の者は表には出ていないので、何人か捕まえて素性を伝え取り次いでもらおうとしても却下される。
フレイリアルの事を直接尋ねてみても、そのような方はいらっしゃいませんの一点張りだった。
結局、隠蔽の魔力を纏い密かに神殿の奥つ城…と思われる場所に入り込み、結界厳重に施された空間を探し強制的に侵入したら…居た。
結界内は環境整えられた緑豊かな快適空間だった。そこで目にしたのは、ベッタリとフレイリアルを抱え込んでくっつき座り、庭の様な場所にある四阿で寛ぐキミアの姿だった。
その姿はアルバシェルを彷彿とさせる。
遭遇したニュール達を確認すると、立ち上がり両手広げ微笑み朗らかに声を掛け迎えてくれるキミア。
「やぁ、待ってたよ。みんな無事に辿り着いたんだね」
「待っていると言うのなら、せめて入り口に申し送りぐらいしといてほしかったぞ」
ニュールは少しばかり不満を口にしてみた。
「フレイが面白いことして呼びよせちゃった者達が溢れててね、対応しきれなくなっちゃったんだよ~」
キミアの口調には保護者の教育が行き届いてないんじゃないのかな~的な含みが入っていた。
それを受けてニュールはフレイの方へ向き、冷静だが厳しめに声を掛ける。
「フレイ…何をしたんだ?」
キミアに抱え込まれてたフレイが、ニュールの声に怒気含むのを感じ取る。
気まずそうに視線逸らし、無意識なのだろうがキミアの後ろに若干移動する。
フレイの心の中は、後ろめたさで満たされている様だった。
一応、色々とやらかした事の重大さを理解しての行動であろう。
そんな様子を気にもせず、キミアはフレイの遣ってしまった罪状を並べたてる。
「ヴェステの王様の前で陣解除と魔力吸収と魔力変換と大魔力を示しちゃってくれたよ」
「!!!」
「だから、取り敢えず僕の婚約者にしておいたから」
「??!」
予想外の事態と現状に考えることを放棄したくなるニュール。
「何で色々とそんな事に…」
「ちょっと僕と言い合いをして、煽り煽られちゃった感じかなぁ~」
思いっきりキミアがごまかしに入った。
キミアの言動にも、やましさ山盛りなのがバレバレだ。
2の日チョイで此処までの状況変化…ニュールは気が遠くなりそうであった。
頭がこんがらがりそうな此方の状況は一先ず放置して、ここへ来た目的であるタラッサの大賢者様本人から話を聞く機会…とキミアに向き合うが素気無く断られる。
「あぁ、もうソコらへんの話はフレイにしたからフレイから聞いてよ」
手をひらひらと振りながら、如何にもうんざり…と言った仕草で答えるキミア。
「いやっ、それじゃ話聞けないのと一緒だから」
『ここまで来たことの意味が無くなる!!』
ニュールは危機を感じ食い下がる。
「確かにそれもそうか…」
キミア自身もニュールの言葉に少し納得した様子。
「そうだよ! キミアちゃんと話してよ」
そこで手助け…とばかりにフレイが加勢する。
「分かったよ。でも丁度、お爺が起きる時期だからそっちから聞いてよ…僕、何度も説明するのって好きじゃないんだ。ニュールも、その方が聞きやすいでしょ?」
フレイが加勢した甲斐があってか、ニュールの交渉は良い方へ進む。
だが、フレイは何か釈然としなかった。
ふと気付く。フレイ自身が散々、けなされ落とされていた事に…。
『私だってチャント説明できる様になったもん!』
頬膨らませ、心の中で叫ぶのであった。
フレイは説明できる…と心の中で叫びはしたが、今回の事態を引き起こしている行動への説明責任は果たしたく無かった。
確実に怒られ案件であったからだ。
だが、それが許されるはずもなかった。
「…で、どういうことなんだ?」
先代大賢者様との謁見の段取りをしてくれている間、キミアが皆が休めるようにと貴賓室を用意してくれたので場所を移動した。
そして、そこで尋問が始まったのだ。
フレイにとって頭上がらぬ二大巨頭…ニュールとモーイから問い質しを受ける。
「あの、キミアに覚悟をけなされて…ヴェステの王からの招待があるって言って…天空の天輝石があって…闇石の力が入ってて…不安定で…何か天輝石が怒ってて…一緒に怒ったら力を取り込んじゃって浄化して戻しちゃって…気付いたら陣の解除してて…色々な力が謁見の間でバレちゃった…」
テヘペロ的ごまかし笑いを浮かべながらフレイは目線を逸らす。
ニュールは怒る頭の片隅で、この内容で良くキミアは理解したもんだと関心する。
だが、すぐ思いつく。
キミアも数多くの人形を持っているであろうことを…そして其れを駆使し他国王宮内にも目を入れているであろうと…。
そして、同時に思い至る。
キミアにも無意識下集合記録が持つ人格が潜んでいる可能性ある…と言うことを頭の隅に置いておくべきである事を…。
モーイはこの迂闊で愚かな護衛対象者に怒り心頭である。
それでも頭ごなしに怒ってはいけないと思い、比較的最近酒場で聞いた怒りの制御法を再度ここでも試してみる。
『この前の酒場では効果が無かったが今度こそ有効かもしれない…』
深呼吸しながら六つ数える…怒りは納まる…わけが無かった。
モーイが説教の口火を切る。
「おいっ、何度目の注意だ?」
「はいっ、数えきれない数度目の注意です!」
背筋伸ばしシャキッと真剣に答えるフレイ。回答がふざけていても決して馬鹿にしているわけでも冗談を言っているのでもない。
『あぁ、気が抜ける…また、なし崩し的にお説教が封じられてしまう…』
だがモーイは既に脱力してしまった。
フレイの秘技…" お馬鹿な子 "…で相手の気力を挫く…高次元の精神攻撃の様な技だ。
身近な者には効果覿面だった
ニュールもモーイもフレイの様子を見て肩の力抜け切ってしまった。
モーイは諦め、フレイを優しく抱き締めて言う。
「心配させるな…」
フレイにはこの方が響いた。
「ごめんなさい」
短い言葉にそれぞれの思い籠っていた。十分な説教と反省になった様だ。
フレイの反省を見て取れたニュールも、もう通常運行に戻っていた。
「起こってしまった事は変えられない。だが、これからの事はある程度対処し制御することは可能だ。まずは先代大賢者様との謁見から先々の情報を得よう」
言葉で自身と皆に気合を入れなおした。
タリクは港湾都市ザルビネよりサルトゥスに戻り、着いたその足で転移の間から速攻でアルバシェルの部屋を目指す。
だが、部屋にも…執務室にも…ムルタシア神殿全ての場所にアルバシェルの姿は無かった。
最近は王宮でも仕事を受け持つことが多く、そちらに行っている可能性もあるが、普通とは何かが違う…と言う予感がする。
タリクは大殿司イレーディオの所へも挨拶に向かう。
此方は在室であり、執務室で執務中だった。
「大殿司イレーディオ様、執務中に失礼いたします。祭主アルバシェル様付き小殿司タリク、本日派遣先よりムルタシア闇神殿に戻りましたのでご挨拶に参りました」
部屋の扉を叩き、扉開き外から挨拶を述べ、恭しく礼をする。
執務机から顔を上げたイレーディオは、酷く疲れた表情でタリクを見ると一言告げる。
「入り、報告をせよ」
通常イレーディオは、タリクが派遣先から帰還後は挨拶のみで帰す。そして休んだ翌日に報告に来るよう指示されるのが常だったので違和感を覚える。
部屋に入り執務机の前に立ち礼をとる。
「無事の帰還、何よりだ」
タリクが無事に帰ったことを喜ぶ気持ちが大殿司の言葉と顔に滲み出ていた。
「予定より3の日程長い不在となり申し訳ありませんでした」
元々の予定が7の日程度だったので3の日増えた程度だった。
それでも真面目なタリクは予定の狂いに謝罪する。
いつもならその程度気にするな…と言ってイレーディオは笑うのだが今回は真面目な顔になり言う。
「その3の日…神殿に居て欲しかった」
予想外の言葉だった。
タリクは胸騒ぎがし、帰ってきてから気になっていたアルバシェルの所在をイレーディオに確認する。
「アルバシェル様は何処に居られますか?」
イレーディオの顔が曇り、苦し気に答える。
「アルバシエル様は王宮に居られる…皇太子に乞われてな…」
「何故に!!」
理解の出来ない言葉だった。
皇太子は人形化しているため結界の中に閉じ込められている状態であり、操るものとの接触なければ行動出来ないはずである。そして、アルバシェル自身と皇太子が接触するような機会もなかったはずである…とタリクは理解していた。
「リオラリオ様が動いた…」
「!!!」
「理由は分からない…」
沈痛な表情浮かべ、大殿司イレーディオが起こった事を語ってくれた。
3の日前、アルバシェルと共にイレーディオは王宮に陣で向かった。
神殿業務について王の前に揃って跪き報告する為に。
今までイレーディオは、職務をこなす能力があるのに責務から逃げるいい加減な振る舞いを続けるアルバシェルのことが許せなかった。
だが、ここ数の月のアルバシェルの態度は投げやりになることもなく、真面目に適切に的確に責務を果たしてく状態を続けている。
そこにはイレーディオが望む王族の姿を見ることが出来るようになっていた。
不真面目な態度に隠れていた本来のアルバシェルの姿をイレーディオも目にすることが出来、タリクが敬服し仕える理由も見えるようになる。
人を導き従えるに足る者であるとイレーディオにも納得はできた。
だからと言って、アルバシェルの軽やかさはやはりいい加減さに通じる気がして認めはするが "虫が好かない" …と言った存在だった。
なのでイレーディオのアルバシェルへのぶっきら棒さは変わらない。
「神殿の陣の運用もヴェステ方式にすると採算が合うのではないか?」
「初期投資に見合うものが得られるかが、まだ図りかねます。それよりも闇石の定期的な取り込みを行うほうが、警備予算の縮小などから経済的であると考えられます、負荷も少ないと思われますし…不測の事態も起きにくくなると思いますのでご検討お願い致します」
アルバシェルの提案に事務的に愛想の欠片も無く意見を返す。
「あぁ検討はするが、闇石の状態によって取り込み時期は変化するもの。一律に決めることは出来ない」
アルバシェルも透かさず反論する。
言葉で戦う関係だが、建設的に働くなら寧ろ良好な関係を築けている感じだった。
謁見後も帰途の転移陣へ向かう道すがら、報告内容の再検討について舌戦繰り広げる。
そこへ、時の巫女リオラリオが現れた。
イレーディオは跪き挨拶述べ、時の神殿での現在の陣運用に問題が無いかなどの確認を事務的に行った。
一通りの報告・確認が終わったとき、時の巫女がアルバシェルの前に進み出て肩に手を置く。
「あなた、少し疲れているわね…」
言葉に魔力が乗っている事はイレーディオにも感じ取れ…肩に触れている手にも魔力が高まるのが見えた。
そして、その魔力が決して癒す目的の魔力でないことがイレーディオにも分かる。
「巫女!!」
イレーディオが思わず声をかけた時、アルバシェルが膝を折り額に手を置く。
様子を確認するためアルバシェルに近寄ろうとすると、背後からその行動を制止する声が掛けられた。
「控えよ!」
そこに居たのは軟禁されているはずの皇太子と周囲に仕えてた者達だった。
イレーディオはその場で静止し、片膝付き頭垂れるより他無かった。
そして皇太子が述べる。
「祭主アルバシェルの身柄は王宮で預かる。是非、我が片腕として働いてもらいたいので養生してもらわなければな…」
イレーディオは引き下がり王宮から闇神殿に戻るしかなかった。
一連のイレーディオの話を聞き、王宮に不穏な影差している事をタリクは感じる。
「皇太子様は人形では…」
「人形の様には感じなかった…だが、決して元からの皇太子では無かった」
確かに以前より高慢な質ではあったが、年長者や神殿の者に対しての礼節は重んじてくれていた。
今の皇太子にはそう言った雰囲気は感じられないそうだ。
大殿司としてイレーディオは闇神殿より王宮に赴いたもの達より、内密に聞き取りを行った。
王宮の様子を確かめると聞こえてくる声がある。
皇太子は人間の目をしているが、その奥には人形特有の硝子目玉が存在し一層怪しく光る…と。そして、その皇太子が表に出てきたのは10の日前ほどからであり、導いたのが巫女である…と。
そして今や王宮を自由に動き回り、時の巫女と共にあると報告があった。
逆に、時の巫女の管理下でアルバシェルが療養…軟禁されていると…。
タリクはイレーディオの前を辞すと、即行動に移る。
『我が主を略取したというのなら、たとえ首謀者が時の巫女リオラリオ様であったとしても抗い奪還します』
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