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第四章 タラッサ連合国編

24.思う様には行かない

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確認したサージャからの手紙の内容…キミアの真の正体は、ニュール達を混乱させた。だが信用出来る者から保証された素性は、それ以上に皆を安堵させた。

その情報は、休む時間や宿に寄る時間を短縮して最短でコンキーヤの王都でありタラッサ連合国の首都であるカロッサへ向かう…と言う選択をニュール達にさせることになる。

最初この行程を示したとき、モーイは異議を唱えた。

「それならアタシがクリール単騎で行けば、3の日かかる所を1の日と半分に出来るよ!」

モーイは早くフレイを追いたかった。

「フレイの近くに行くだけなら転移陣で飛べば良い。それに連れ去られたとは言え、今の所は焦る状況では無いはずだ」

ニュールは緊急性が低いと判断した。
今までの行動と素性を鑑みても、キミアがフレイを利用することはあっても害することはないと結論付けたのだ。

「神殿の様な公共の建物には必ず結界が展開されているから、転移陣終点として設定しているフレイを明確に捉えられないので危険なんだ。オレ単独なら何とかなるが、集団で飛ぶと安全性を保障できない」

出口なき転移陣は武器となるほどの悲惨な状況を生むことは承知しているので、モーイにも異論はない。
冷静に検討した上で、通常の道を急ぐという選択が一番だと説明された。

「今は色々な場所からの敵が近づいていて、危険であり油断ならない状況だ。流石に影の特殊数が1人でも来たらお前らだけでの対処では厳しい…」

モーイは納得せざるを得なかった。

そして進みを早めるため、交代で魔力で荷車を引くクリールや高叉角羚羊イリンゴの補助をする事になった。
モーイは魔力での補助を行いながら考えてしまう。
未だ戦闘水準が自分の望む所まで達していない自分の情けなさを…悔しさが募る。

『キミアに警戒しなければならないと思っていたのは自分なのに…』

責任を感じていた。

『せめて一緒に…もっと近くにいれば…』

モーイは御者台のニュールの横で、自身の再びの力及ばなさに俯き唇噛みしめていた。
そんな状況の中いきなりモーイの頭の上に、ぽすりっとニュールの手が置かれる。
ニュールはモーイの落ち込みに気付いていたのだ。

「気にしすぎるな! オレだってキミアの怪しさには気づいていたのに油断した…同じだ。お前だけじゃあ無い…」

その言葉と温かい手が、自分自身を追い詰めるモーイを包み込み、心を解きほぐす。そして他の甘い思いを高める。
またもやニュールは忘れ油断していた…モーイがニュールに抱く気持ちを…。

モーイはどんな状況でも攻めの姿勢を失わない。
瞳が春色に染まったモーイが、荷車を操るニュールへと押し寄せていく。
荷車の操作で大きく逃げられないニュールの横にピタリとひっついてから、上目使いで絡み付き耳元で囁く。

「アタシの気持ちを盛り上げるニュールには、ソロソロ責任を取って欲しいなぁ~」

モーイの手が衣服の内へと伸びてくる。

「おいっ、馬鹿、止めろ!」

慌てるニュール。

「あのーイチャツクのはムカツクんで他でお願いします…」

ミーティが荷車の荷物の間から顔出しシラッとした顔で一部始終を見て述べたのだ。
そしてミーティが更に言う。

「ニュールのバ~カ!」

モーイも言う。

「ニュールのバーカ!」

『何故オレが罵られる?』

納得のいかないニュールなのであった。



今後の行程で、ニュールが予想した状況は大方間違いでは無かった。

だが読み違いがあった…読めない行動をする奴が居るということを…敵以上に手怖いのが身内であるという事、それを失念してしまったが故に状況を読み違える。

キミアは積極的にフレイに危害を加えるようなことはしなかったが、本人の選択した危険な行為を止めることもしなかった。
寧ろ煽る。

そしてフレイリアルが予想以上の迂闊さで、キミアと共に神殿に行ったその日の内にヴェステに赴き、王と謁見し、そこで自身の価値を堂々と謳い上げ、人々の関心を奪ってしまった…とニュールが知る由もない。

フレイリアルの行動は怒涛のような状況変化を生み出し、1の日と言う時の流れだけでコンキーヤ王国へと様々な目と手を集める事になったのだ…。


「やはり皆で行動したのは正解だったようだな…」

ニュールはとりあえずの判断が合っていたことに胸を撫でおろす。

やっとコンキーヤ王国の王都でタラッサの首都でもあるカロッサの町はずれに入った。その途端まるで各国諜報機関が国際見本市でも開くのか…と言うぐらい、近隣の国々の中枢から送り込まれている諜報に携わるであろう者達が集まっているのが分かった。

そこには、かつてニュールが接触したことのあるような面々が確実に含まれた。
ニュールが影をやっていた時は、基本仮面を着けて仕事をしていたので面が割れることは無いと思う。それでも敏感な者には、雰囲気と内包魔石の魔力の質と癖でバレてしまうことがある。

余計な時間をかけず無難に通り過ぎるために、暫くモーイとミーティを頼り防御隠蔽魔力の扱いをお願いした。
この賑わいが起こっている原因を知り対処したいが、情報を得るための酒場や食堂に寄り関わる事で起きる危険性を考えるとどちらとも言えない。

「アタシが行ってくるよ」

モーイが申し出る。

「ありがたいが一人だと危険だ。せめてミーティと行け」

「そうしたらニュールの周りの隠蔽が解けるぜ?」


「1の時ぐらい、ごまかせるさ」

心配するミーティに気楽に答えるニュール。


「だったらニュールがアタシと来てよ! アタシが隠蔽かけとくから、ヤバイ奴来た時だけ頼むよ」

そして結局ミーティがお留守番で、モーイとニュールが情報を集める事になった。
モーイはちょっとした密会気分でニュールと腕を組みウキウキして店に入る。
カウンターで酒扱う男に声を掛けようとすると、その前に言われる。

「悪いな宿は満室だ、今日は盛況でな! 場所なら1つ時50ルクルで貸すぜ~」

「いやっ、場所も宿もいらん。昼を食べ損ねたから何か食いもんとエールだな」

「あいよぉ、適当なモンでいいか?」

「あぁ」

そのオヤジの言葉にモーイの頭の中では花が咲いていた。

『時間貸し…って、アタシってばニュールの好い人にちゃんと見えるんだぁ!!!』

散々親子設定の疑いかけられてきたモーイにとっては画期的な事だった。久々に頭に花咲くぐらい別世界に旅立っている。情報集めの手助けにはならなそうだった。
ニュールはカウンター内で飯の準備をする男に淡々と話し掛ける。

「随分景気が良いんだな!」

「昨日まではサッパリだったけどな、神殿に感謝だな」

「神殿に?」

「何でもドッカ珍しい国の姫さんが来ていて、謁見申し込むために色々な国から急遽来訪する人が増えたらしいからなぁ」

「ドッカ珍しい国? 何でそんな国から?」

「大賢者様との婚約のためなんじゃないのか?」

「俺は、大賢者様が他の国の王とその姫様の婚姻を取り持つため…って聞いたぜ」

「水の本神殿の巫女になるって話も聞いたぞ~」

人まばらな時間帯だが、暇つぶしの話題を探していた奴らが集まり色々噂を持ち寄る。
だが、そんな中人知れず動揺し固まるニュール。
モーイも話の内容を聞いて正気に返り衝撃を受けている。

そして2人して同じことを思う。

『『またヤラカシたのか!』』

天を仰ぎ溜息をつくしかなかった。
テーブルへ移動し食事をつまみながらエールを飲みモーイは呟く。

「アイツは何をやらかしたのかなぁ…」

「何にしてもヤバいことしてそうだ。一番厄介な身内を計算に入れてなかったよ…」

文字通り頭を抱えていたニュール。
空のエールを補充しようとモーイはカウンターへ赴く。少しずつ客が増え酔っ払いも増えてきていたようだ。

「可愛いぃ~おねいちゃんん、一緒に飲もうぜ~」

ガタイの良い酔っ払い男がモーイに声掛け無理やり手を掴んできた。

「やめてくれ」

モーイはキッパリ告げるが酔っ払いの荒くれ男は意に介せず、更に引き寄せようとする。

「ヤメテなんて素敵な言葉だなぁ~」

『ヤバイ、苛ついて殺っちまいそうだ』

モーイは、六つ数え我慢し怒りを収め…ようとするが収まらない。

「もう、無理~」

呟きモーイは少し痛い目見てもらおうとした。
その瞬間いきなりモーイの背後に現れたニュールがモーイの肩に手を置き、反対の手でモーイの手を掴む輩のクビを掴む。

「オレの連れに何か用か?」

『何だ! この守られる状態は!! 出会いの状況の再現か!』

腕の中に収められるように抱えられるモーイは、もう他の状況なんてどうでも良くなっていた。
心の中に春風そよぐ。

「嫌…連れ…が居たとはな…」

酔っ払いの荒くれ男は一旦引き下がる…様に見せて、隠し持つナイフでニュールを切りつけようとした。
だがモーイの痛快な蹴りがそいつの脇腹を襲い再起不能にした。

「ありがとうニュール! でもアタシだって何時でもニュールの盾になれるんだぜ!」

清々しい笑顔で微笑むモーイにニュールも笑む。

「あぁ、いつでも助かってるよ。有り難うなモーイ」

モーイは再度ニュールに幸せそうに絡みつく。

『アタシはいつだったこの人の為に命捧げられる』

再度心に浮かび上がる思いだった。




「ねぇ、キミア。キミアって国王様なの?」

神殿に来て何度目かの食事時、既に定位置のようにキミアと同じ椅子に招かれ座らされているフレイが突然に質問する。

「国王には…まだ、なってないかな」

真横のフレイの肩を抱きながら、キミアは甘く微笑み見つめ答える。

「だってレグルスリヤの王って大賢者様なんでしょ? キミアは大賢者なんだよね…」

「そうだよ。でも、対外的にはお爺が国王って事でやってるかな…まぁ、実質僕が姿変えでやってるんだけどね」

「でも、コンキーヤの継承権も持っているんでしょ?」

「流石に国王になった時点で消えるよ、今だって継承権は4位のままだから然して困ることもないよ」

フレイは食事をしながら状況整理をするために、ただ気になったことを無意識で質問しているような状態だった。大して意図は無い質問である。

「フレイは王妃になりたいの?」

「いやっ、なりなくないです!」

力いっぱい答える…が動揺し噛む。

「じゃあ、王子妃で良いね! あぁ、安心したよ。僕、国王にはなりたくないんだ。だからお爺に表面上は国王を続けてもらおうと思っているんだよね。良かったよ~」

「!!!」

予想外の返しに驚くフレイ。

「君がここに滞在しやすいように公表しといたからさ」

更に含みある事を言うキミア。

「君は僕の婚約者だよ。コンキーヤ王国の王子妃にして、レグルスリア王国次代国王妃、現皇太子妃に納まる予定の者としてね」

「はいぃい???」

非公式ではあるが、4件目の婚約申し込みが押し寄せてきた。
キミアを前にし、またもや理解の範疇を超えた事態に叫びをあげるフレイリアルであった。
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