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第四章 タラッサ連合国編

13.勝手に思う

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人形化した魔物と繋がると、その性質を取り込んでしまう可能性があると白の塔に居るときニュールはラビリチェルに注意されていた。

ニュールが持つ魔物人形との繋がりは、普段放置しているときは全く問題ない。
だが、眼を使った後は尋常じゃない食欲などを得ることになる。
内にある魔物の飢餓感が影響及ぼすのであろうが、数日間…3~10日は収まらぬ欲に苦しめられる。

王宮の追撃から逃げ切った後、船上での今後の事や、成り行きで遣ることになった護衛業務について船長と話し合った。
船に乗り込んだとき最初に話した男が船長だったらしい。
この様な事態になっているのも自分たちのせいであるため、若干心苦しいニュール。
だから船長の言葉は心を軽くする。

「何で船が狙われたのかは分からんが、俺らには関係ないこと。助かったって事実があれば満足さ! まぁ、湖の上には滅多に困った魚や魔物が現れることも無いが、航路がいつもと違うから此処から先も警護・警戒業務だけは遣って貰えると助かる。あとは、そんなに気張らず気楽に遣ってくれ。他に客も居ないんだし船室も好きなだけ使って良いからな!」

気軽で楽しい根っからの船乗り気質、気前も気っ風も良い船長だった。
タラッサまで乗せてもらう代わりに、言われた業務を請け負った。

そしてお言葉に甘え、各自一部屋使わせてもらう事にする…此れは未だ魔物の影響残る今のニュールにとっては大変有り難かった。
そして各々昨日1日のアレヤコレヤの疲れを癒したが、夕方には復活していた。
だが珍しくこの日ニュールは中々起きなかった。

「ニュール、食事だよぉ!」 

フレイが呼びに来た。
昨日を無事乗り切ったことを祝い船員も含め夕食は船上で大宴会となったのだが、その食事時…皆が絶句した。
魔物の目を借りた影響が顕著に出てしまったのだ。
ニュールの前に尋常ならざる早さで空になった皿が溜まって行く。

「アンタ、良く食うなぁ~」

船長が食事を運ぶ道すがら、唖然としながらニュールが食べた皿の数に関心する。

「…ニュール、そんなに腹減ってたのか?」

ミーティも恐る恐る問う。

「今までそんなに食べた事あったか?」

モーイも疑問を口にする。

「申し訳ない! 数日は魔物の目を使った影響で欲が増すんだ…良く食うし良く寝てると思う…感情の起伏も激しくなるから、済まないが少し遠巻きにでも見守っててくれ…」

過去に目を使い起こった事を踏まえ、コッソリ仲間内にだけは理由も含め対処法を伝えておく。
それでも止まらぬ欲に支配され、ニュールは黙々と食べ続ける。その人間の限界を超えたような食いっぷりで、船内の備蓄肉は底を突いてしまったようだ。

船上に食料危機が訪れ、自ら食料調達するはめになった。

「ニュールが全~部食べちゃったから、今日からはお肉なしでお魚みたいだよ~!」

フレイが、揶揄う様にチョット口を尖らせて文句を言う。

「申し訳ない…」

ひたすら恐縮するニュールに思わずフレイは笑いながら答える。

「モーイはお魚食べたかったみたいだから喜んでたけどね!」

少なくとも1名は希望叶う事になるようだった。


リネアル汽水湖は大きい。
水に高濃度の塩含まぬ事と、湖の外周を確認した者の記録がなければ海と言われても分からない位の大きさだ。
ここから海際…タラッサにある港まで、おおよそ500キメル。
通常なら5の日あれば余裕で着く。

今回は通常航路よりだいぶ湖の中央部分寄りを航行している上、逃げるため動力へ魔力流すための魔石をかなり消費してしまっているので距離が増えているのに魔石を節約しながらの進まねばならず…時間が掛かる。
下手をすると2の週以上要してしまうかもしれない。
幸い湖は水産資源も豊富であり、漁を行うための戦力も充実している。水も湖から確保できるので問題ない。
航行日数増えても特に問題なく、何かあっても簡単に解決出来そうな戦力もあった。

インゼルの船での嫌な思い出吹き飛ばすべく、今回の船旅は皆で一緒に面白おかしく過ごす。
特に魔力を使っての釣りは皆で気に入り楽しんだ。

タラッサでの漁では魔力を良く使うらしい。
タラッサ連合国は塔と繋がる大賢者が健在であり、魔石も内包者もエリミア同様普通に存在する。天輝も海へと降り注ぐ様だ。

「海に降りてくる天輝に会いたい…そして魔石に会いたい!!」

フレイリアルに取って魔石は、既に人同様の存在のようだ。
相変わらず魔石愛は濃く、魔石に関しては全くブレない。

釣りや漁をするためには何の魔石でも良いが、虎目魔石あたりが水に強く良いらしい。導き出した魔力を糸状…若しくは何人かで網状にして水中行く魚に食わせたり絡めたりして捕まえる。
だが、ニュール、タリク、モーイの3人はそのまま単独で…しかも魔石さえ使っているんだか使って無いんだかの状態で適当に背負い籠一杯、魚を各自捕まえていた。
フレイとミーティとイストアは苦戦していたようであるが途中から上達し、3人で背負い籠1杯になりそうな位捕っていたのだが、側にいたクリールの腹の中へ収まる方が多かったようだ。

日中は皆して馬鹿騒ぎし御機嫌に過ごし、夜は交代で見張る…そんなお気楽な日々を過ごし6の日ほど。
あと4の日もすれば、遠回りはしたがタラッサ連合国に着きそうだった。


ニュールが部屋でタラッサでの行動を考えていると、軽く扉を叩く音と共にモーイが部屋を開ける。

「船長からの差し入れだよ」

「あぁ、有り難う」

何も気にせず受け取り飲み干した。時々船長が酒や珍しい茶等を振る舞ってくれることがあったので気にしていなかったのだ。

「??」

『只の酒にしては刺激感が…』

味に違和感を持ちモーイを見ると何事か目論んだ顔をしていた。

「!!!」

サルトゥスではよく仕掛けられたのだが久々で油断した…モーイの夜の襲撃だった。

「…船長が隠し持っていた紫砂蛇シザントピスの酒、10年モノだそうだ。ちょっ~と泣きついたら分けてくれたんだ!」

「お前! 今はまだ魔物との繋がりのせいで…洒落に…ならないん…だぞ!!」

喋りながら上気し息を切らすニュール。

「…くっ、来るな」

紫砂蛇は魔物蛇であるが闇で良く取引される一品であった。
上質な…色々と元気になる薬として。

自分の主義主張を貫きたいニュールにとっては我慢が必要となる苦悶の時間。
モーイはしてやったりと言う顔をしながら距離を詰めてくる。

「こんな身近な奴から、一服盛られるとはっ…思わなかったっ…ぞ」

「油断は身を滅ぼす…って事だな」

ニュールは後退り追い詰められる…モーイは笑みを浮かべながら其れを更に追い詰める。
布団を盾にして隅に籠るがもちろん意味はないし、もう後がない…完全にモーイに行動を掌握される。
吐息がかかる位置にモーイの顔があり、我慢するがニュールの昂りが止まらない。
ニュールは思わず目をつぶり耐えようとする…が、その隙にそのままモーイに唇を奪われる。

『何でオレは意思に反して奪われることが多いんだろう!』

ミーティが見聞きしたら羨ましくて憤死しそうな内容の心の呟きだった。
柔らかく甘い吐息と温もりがニュールの理性をなし崩しに奪う…。

モーイが手を伸ばし更に深く熱く求めるように口付け、手を伸ばしニュールの頬を包む。
…意思に反して答えてしまうニュール。

そして、ニュールの頬包むモーイの手を不意に掴み押し倒し、そのまま今度はモーイを組み敷く。そして呟く。

「悪い子にはお仕置きが必要だな…」

ニュールは、モーイが望むのとはチョット違うぶち切れ方をした。
モーイは自分から仕掛けて唇までは奪ったが、今度は逆に捕まえられて期待しまくった。
ドキドキと心臓高鳴るモーイとしては、そのままそこで目くるめく時間過ごしニュールに手取り足取り色々ご教授頂く気満々だったのだが…甘くは無かった。

手首を捕まれた後は、見事に…流石専門家と言う手際の良さで素早く手早くモーイは拘束されてしまった。

ニュールの衝動を抑えたのは、勝手に弄ぶように扱った事への怒りだった。
怒りは冷静さを生んだ。薬の効果が落ち着くまで拘束されたモーイは、その後正座させられタリクかと思う様な正論での説教をニュールからされた。

「自分を安く扱うな!」

「それぐらいニュールが欲しいんだよ! 好きなんだ!」

今までおふざけの延長のように仕掛けてきたモーイの直接的な言葉にたじろぐニュール。

「有難い言葉だと思う…だが、オレは他と違う時間の流れる人間になっちまってるんだ…」

暗に一緒の時間は持てないと告げる。
だが、モーイの瞳は今までにない位に真っ直ぐにニュールに向かう。

「アタシはニュールになら命も捧げられる!」

真剣な心からの思いだった…そして更に告げる。

「アタシは諦めない…」

ニュールの方が折れる事になった。

「それでも自分自身を…色々な所へ向かう思いを大切にしてくれ…それでも消えない思いが心の中に残るのなら話ぐらい聞く…」

ニュールが今の時点で、最大に歩み寄って出した答えだった。
そんな説教時間真っ只中の闇時終わりそうな頃、船に衝撃が走る。

そして今日の見張り役のタリクの魔力を感じた。
モーイと共に甲板に向かうと、そこには20メル近い、巨大な…泳ぐ蛇のような生物が船に体当たりをしていた。

「何なんだあの蛇は?」

金剛水龍エヒドリスだ!」

船長が青ざめていた。

「ヤバイ蛇なのか?」

「累代魔物で船壊しと言われている。…奴に出会って戻った者は居ないと言われている」

『戻ったやつが居ないのに噂はあるのか…』

ちょっと突っ込みたいけど我慢する、ニュール。
だが透かさずミーティが突っ込んでいた。

「戻ったやつ居ないのに船壊しって分かるって笑えるなぁ!」

「確かに君の言う通りだねぇ!」

船長もその突っ込みに、ホッホッホッと大らかに笑って応じる。
緩い者同士の会話は、さらに外から突っ込みたくなるぐらい緩い…。

一応、船長の言葉に気を引き締めて全員で当たることにした。
だが…やはり戦力過剰だった様だ。皆で魔力で作った網を広げ、そいつを捕らえる…簡単だった。

暴れまわって進もうとする金剛水龍。

「何か船が客車みたいになってるね!!」

フレイの言葉をそのまま採用し、船を金剛水龍引く客車に見立て目的地まで誘導しながら引っ張らせる。お陰で、プラーデラ出発より8の日でタラッサ連合国、港湾都市ザルビネの港に到着した。

それはリーシェライルがモモハルムアと謁見した日から丁度10日が過ぎた日となる、予想通りの到着であった。

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