魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第四章 タラッサ連合国編

5.思い掛けない話

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闇時1つ。
イストアと待ち合わせた時間、公演会場だった広間にニュールは立つ。
イストアも時間通りに来ていた。
だがイストアは戦闘用の装備を着けていない…ニュールもだった。
ニュールが非武装だったのは、裁かれるべく倒されるため…なされるがまま全てを受け入れるつもりだったからだ。

「時間通り来てくれたんだ…ありがとう」

イストアは何の遺恨もない様にニュールに話しかける。
ニュールもイストアに尋ねる。

「装備は?」

「勝負…と言っても、手合わせをして欲しいだけなんだ…」

殺気も怨みもなくそこに居る。

「素手の格闘。魔力ありでどうかな…闇時終了するまでは此所での魔力使用許可があるみたいだし、この場所自体の使用許可もあるからさ…」

静かに勝負が始まる。
イストアが魔力を纏い攻撃を仕掛けてくる。
機敏な動きと獣相手に鍛えた動物的感を武器に、鋭く内へ入り込み素手にも魔力纏い連打してくる。だがニュールは魔力纏うこともせず打ち込まれた拳を鮮やかに処理していく。

「お願いだ! 攻撃もしてくれ」

そのイストアの願い叶える様に足を払いイストアの体勢を崩し顔の横に拳を打ち込む。ニュールには怪我をさせる様な戦い方をする気は全くないので、正しく指導であった。
そんなニュールに泣き出しそうな表情でイストアは懇願する。

「お願いだから…少しで良いから…本気を見せてくれ!」

その言葉にニュールが動く。
刹那、イストアは何が起こったのか分からなかった。気づいたらうつ伏せに組伏され後ろ手に拘束されていた。
すぐ解除されるが…イストアは泣き崩れた。
ニュールは焦る。

「痛かったか? 怪我しちまったか? 関節壊さないように注意はしたんだが…」

あわてふためき心配するニュールの姿がイストアの心を暖かくする。

「ごめんよ…ニュール…こんな事に付き合わせて」

ニュールの心配そうな目をのぞき込み、しゃがんでいたニュールの横に勝手に寄り添い座る。そして父親であった人でなしの外道男についてイストアは語り始めた。

イストアが生まれて…人の顔が判別出来るようになる頃には、その男はあの家に戻る事は無くなっていたらしい。それでも何故か金だけは代理の者を使ってでも運んできていたようだった。
イストアの記憶にあるのは石授けの頃、1週間だけあの家に滞在し集落の者と揉めまくり出ていった男の姿。
その時、家の中で初めて会った人間と認識したイストアは一応挨拶だけはした。
男は20数える程の間だけイストアに対した。

「こんにちは」

「あぁ…」

明確な返事を返さず、いきなり他の話を振る男。

「お前のはこれだ…」

手に持っていた物をイストアの手に差し出す。

「魔石…?」

「魔力を感じ動かせ」

それ以後、見かけることはあっても面と向かい話すこともなければ、視線を向けられることもなかった。目の前に立っていてもイストアの存在をソイツが意識する事はなかった。
しばらく後、偶々魔石の事を思い出し魔石を握り魔力を動かしたら…掌から溶け込む様に消え、内包する事になった。
ソイツが持ってきたイストアが取り込んだ魔石は橙楔魔石だった。

その1年後ぐらいに風の噂で街ごとソイツは殲滅されたと聞いた。

「悲しくも何ともないし、寧ろこの短い期間旅したあんたらとの方が絆が深いぐらいなんだ…だけど、心のどこかの繋がりが痛くて…だから殲滅者である、あんたに勝負を申し込んだ…何かが踏ん切れるかと思ってさ」

笑顔で此方を向くが、瞳のなかに悲しさが残る。

「滅ぼしちまったオレが言うのも何だが…理由が無くても泣いたって良いんだぞ」

そうしてイストアの頭を撫でてやる。
すると止まっていたイストアの頬を伝う暖かいものがひっきりなしに流れていく。
無言でなぜ泣けるのかさえ分からぬイストアがそこに居た。

「付き合わせて悪いな…」

イストアが前を向いたまま呟くように言う。
ひとしきり降り注いだ涙に濡れた瞳からは、影が消えていた。

「いやっ、こんなことで罪滅ぼしが出来るわけでは無いがオレの気も少し晴れる…」

「ニュール、ヴェステから逃れたから追われてるんだろ…」

「まぁ、大本はソコかもな…」

「さぁ、元気が出たなら部屋に戻るぞ…」

そう言い立ち上がるが、一緒に立ち上がったイストアがニュールに抱きついていた。

「??」

「ニュール…お前、いい奴だな。あたしと…このまま、今晩…外へ出ないか?」

腕の中に納まってしまいそうな場所で、下から見上げるようにしているイストアが涙で潤んだ瞳を向けてくる。そこには艶やかな熱が籠っていてニュールの心に絡みつく。

『ヤッ、ヤバイ!! やめてくれ…クラクラする…逆上せそうだ…』

肩までしか無いがうねる黒髪…そして既に育ちきっている薄い琥珀魔石色の若い滑らかな肌。しかも先ほどの勝負で流した汗で簡素な衣服が体に密着し、豊かな双峰の形を露にしている。
年若いが、後5年もしたらニュールの好みのど真ん中…過去の甘い思い出くすぐる存在となるであろう。

『オレよ! 主義主張はどうした! 耐えよ自分!』

その時、助け船が出される。
皆がその場にするりと現れた。
気づかれないよう隠蔽魔力を発動し潜んでいた。
イストアとニュールのいつもと違う重い雰囲気を気にして、抜け出す2人を追って来たのだ。
気が紛れ昂りが落ち着きホッとするニュール。
モーイだけがジト目で見つめてくるのは、状況を察したからであろう。
毎回無防備に色々な所で誘惑を受けるニュールに、モーイはちょっと呆れ気味なのかもしれない…はたまた自分が攻め込む次なる機会を見計らっているのかもしれない…。
微妙な雰囲気を断ち切るため、ニュールはイストアの頭をグリグリと撫で笑顔で声をかける。

「さあ、しっかりと休まないとな! この国を発つまでに色々と遣ることは有るぞ」



幾つ時か後、時告げの鐘が鳴り朝の時を作り始める。
その鐘が鳴り終わると共に宿屋の主に叩き起こされた。

「お客様方、申し訳ありません。お客様方に国王様よりの召喚状が…使者様の手により届いております。朝早くで申し訳ありませんが対応をお願い致します」

顔を合わせた宿の主は泣きそうな顔をしていた。
支度に半時の半分ほど猶予をもらい、宿の主が使者に対応して用意した部屋へ赴く。
王の代理人である使者を前に跪き恭しく挨拶を述べる。

「この度は我が一座に陛下よりの御使者を迎える事が出来、僥倖であります。しかし天離る鄙行く一座などに一体どの様なご用件がありましょうか」

使者は目を細め答える。

「それは我ごときが推し測る事の出来ぬ勅命。丁寧に迎えるよう指示有るため、支度整い次第ご同行願いたい」

本物の王からの使者なのであろう…しかも実際に王に容易に目通り叶うような立場の者が使者に立っているのかもしれない。
全くニュールの質問に奢り昂ることもなく冷静に応じる。
ニュールの失礼な物言いに憤って一度帰って頂こうと思っていたのだが…造作なく躱されてしまった。
此方の不手際少ない程度の不躾さでは動じること無かった…嫌、余程の酷いことを言ったとしても余裕で流すだろう器の大きそうな使者だった。

もともとフレイリアルや皆との話し合いで一泊増やし王宮の噂を調べる事にはなっていた。
覚悟を決めて向かうしか無い様だ。




時の神殿でのリオラリオとの謁見にて、アルバシェルは巫女の取り扱いに対する注意を何点か受けていた。
リオラリオが指を立てて示す。

「まず1点目。巫女は通常の魔石持つ人間より魔力感応力と魔力親和性が絶大なる強さ持つの…」

神妙に聞いているがアルバシェルは今一つピンと来ないようだ。

「その力に感情も心も引きずられるから注意しなさい」

「??」

未だ戸惑うアルバシェルに、リオラリオの素の言動が荒々しく降り注ぐ。

「察しの悪い子ね。魔力循環を親密に長時間行う者に、身も心も引かれやすいって事よ!」

「はぁ…」

積極的な割には鈍感なアルバシェル。リオラリオは額に手を当てながら説明する。

「意図して行う者が居れば籠絡されやすいと言う事! 新たに現れる他の者の手に落ちると言う事も有るのよ。貴方、鈍い…って言うのは王宮ではでは命に関わるわよ!」

「!!!」

今気付くアルバシェル。

「貴方だって無意識に何度も魔力循環起こしていたのでしょ?」

「…あぁ」

『あの新緑の瞳が、新たに現れた者に熱く向けられるなんて許せない…』

アルバシェルは考えるだけで表情険しくなり、怒りの魔力が立ち上りそうになる。
短絡的に目の前しか見えてないアルバシェルに溜め息つきつつ続ける。

「2点目。巫女の魔力は、対する相手の回路を捕らえ繋がると強制力を持ってしまう事」

理解してなさそうなアルバシェルに例を伝える。

「例えば、意思有るものをそのままお人形のように扱えてしまうわ…」

「……」

その事に絶句するアルバシェル。

「相手の回路を捕えやすい分、制御しなければ何らかの強い思いを抱かれやすくなるの。正負合わせて様々な思いを向けられやすくなる…望む望まずに関わらず…恋情、愛情、劣情…憎悪、怨嗟…」

思い巡らせ考え込むアルバシェルを放置し、リオラリオは言葉を続ける。

「貴方が気を付けた方が良い注意点だと思うのだけど…納得して自分の思いを信じ幸せで居られるのなら…そのままで良いと思うわ」

ちょっと呆れ気味にアルバシェルを見た。
フレイリアルへ思いを寄せる事に幸せを感じているアルバシェルには、関係の無さそうな話であった。
寧ろ他人を無自覚に操る可能性ある力持つ事をフレイリアルが知ったのなら、自身を閉ざしてしまいそうでアルバシェルは心配になった。
リオラリオは更に続ける。

「3点目。此はあの子自身にも伝えてあるけど、高濃度の魔力の中に居ると身体の時が止まるから注意するようになさい」

リオラリオはの言葉にアルバシェルは即座に問う。

「それは、大賢者と同じ時を刻んで過ごせると…」

「そう言うことね…私も同じでしょ」

今まで永劫に続くような気がした独り歩む時間に、恐怖を感じることもあったアルバシェル。続く時の中、傍らを歩んでくれる存在を得られると思うと心軽くなる。

「そうね…共に歩む者があると言うのは、其だけで癒されるのよね…。それでも、失われる可能性が有ることを忘れないようになさい…今生の…この世に生存する血縁者として…心からの忠告を送るわ…」

リオラリオの周りに冷えた闇の空間が出来上がり、無限に続く回廊への扉開きそうな気配がした。
アルバシェルは存在自体を抹消されそうな恐怖を感じた。
巫女は一瞬表出した巣食う影を内にしまうと続ける。

「4点目。あの子は膨大な量の魔力を蓄積できる…巨大な魔石の様なもの。大賢者に至った者の魔石に保有できる魔力の何倍もの量を、あらゆる所から集めて溜め込めるわ。この特性を知るものが居れば利用するために捕縛するでしょう」

アルバシェルの眉間に皺が寄る。
白の塔での戦いの中、フレイが溜めた魔力を譲り受けたアルバシェルは実感したのだ。

「5点目。この話も伝えてあるわ…ただ理解は出来ていないと思うから貴方が注意してあげなさい」

リオラリオがアルバシェルの目を見る。

「あの子に、集めた魔力ではない自分の中にある魔力を呼ばせてが駄目よ。多少なりとは過去にも導き入れた事はあるでしょうが、大量に導いてしまえばあの子にとっては命に関わる。そして世界にとっては消滅を招きかねない力となるでしょう」

予想以上の密度の説明にアルバシェルは完全に口を閉じ、重い表情のまま固まる。
そして目の前の自身の姉…と言う存在に疑問を生じる。

「姉上は…」

その呟きに艶麗で優美な笑みを浮かべ、悠然と佇むリオラリオ。

「私は時の巫女。時を統べる力持つ者。同じ巫女でもあの子とは性質が違うの…同じ縛りは有るけどね」

そして謁見の間にアルバシェルのみを残し退室していった。
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